☆1-5 黒髪の彼女
いつもの通学路、前方にカズの姿を見つけて、小走りで駆け寄って声をかけた。
「なあカズ、昨日の女の子、あの後どうした?」
「あー中村さんね。お前が行った後、すぐ目覚ましたから、適当に説明しといた」
僕の数少ない友人カズこと鳴上一茂。
同級生で、かれこれ小学校からの付き合いになる。
スポーツ万能で、今向かっている高校にも、スポーツ推薦で入った。一応卓球部だが、サッカー、野球、バスケ、バレー、などなど、とにかく様々な部に助っ人に呼ばれてたりする。
黒髪の彼女。中村さんて言うのか。
適当に説明しといた。そこが一番怖いな。ちなみになんて説明した?
「えーっとね。不良に絡まれてるところをお前が助けたんだけど、何かの拍子で中村さんが転んで頭打った。お前は不良を追いかけて祭りの喧騒へ消えた・・・。っていう感じ?」
ていう感じ?じゃないだろ。はぁ、厄介なことになりそう。
あれをそのまま説明する奴があるだろうか。少し考えたら分かるだろうに。
「なに、嘘なん」
「いや、違う、けど、今は、話せない」
「今は、ね。まあ、なんかあったら連絡くれや。お前は流されやすいところあるから、そこだけは気をつけろな」
昨日あったことを素直に話す訳にはいかない。それに、素直に言ったところで信じては貰えないだろう。
あの後、ジェシカさんは本部長から呼び出しがあった。
もう少し詳しい話をするつもりだったらしいが、急ぎの用事だったらしい。
ジェシカさんは、「悪魔かな?と思ったらこの紐をひいてください。」と言って防犯ブザーのような代物を渡してきた。悪魔かな?なんて思ったこと一回もないので、正直使いどころに迷うけど、色々聞く前にジェシカさんはどこかへ消えてしまっていた。
「てかお前ほんとに友達いないんだな」
直接そういうことを言うの良くないと思う。
「いや、うん。改めて実感したというか」
自分でも分かっているし、今更どうとも思わないけど、良くないと思う。うん。
◇◇◇
別に嫌われてる訳じゃない、と思っている。ただ、こちらから話しかけないうえに、話しかけられてもあまり中身のある返事をしないから、僕の周りにはあまり人が寄り付かない。
それでよかった。
いつものように、無言で教室のドアを開ける。ざわついた教室中の視線が一瞬僕に集まり、またすぐに散る。
はずだった。
今日は一つだけ、散らない視線があった。
こちらをジッと見つめていたのは、黒髪の彼女、もとい中村さんだった。
同じクラスだったのか。
◇◇◇
「昨日はありがとう!差滋くん…だったよね!鳴上君から話は聞いたよ!私を助けてくれたんだよね。大丈夫?!怪我はない?!」
中村さんは、ホームルームが終わると同時に僕の机に駆け寄ってきた。
あと、ちょっと顔が近いというか、えっと、落ち着いて。
「あ、ごめんごめん。私、中村弥生っていうの!一応同じクラスだけど、知らなかったでしょ?ほら、差滋君目立たないからさー…あ!別に今のは悪い意味じゃなくてね!」
悪い意味じゃなくてなんだというんだ。
まあ別に今更気にすることでもないが。
「えっと、それでね?私を助けてくれた差滋君にお礼がしたいので、今日どっかでお茶しない?」
なんて大胆な人であろうか。しかしまたとない好機である。
二つ返事でオッケーした。