5-3 クマと雫のキーホルダー
誕生日会に呼ばれたは、悠羅を含む同じクラスの友達2人と、僕だった。
黒いモヤのついている千尋ちゃんを比較的避けていた僕が、なぜ招待されたのか謎だったが、妹が「来なきゃだめ!」と言って聞かないものだから、どうしようもなく参加する事になった。
ちなみに、もう一人のクラスメートは相葉智花ちゃんと言う子で、物静かそうな見た目だったが、持ってきていた小さめのリュックには、妹や千尋ちゃんの靴にデザインされているのと同じキャラクターが描かれていた。趣味が合うのだ。
かくして、5月某日、誕生日会は開催された。
◇◇◇
四人掛けのテーブルに僕と妹、反対側に千尋ちゃんと智花ちゃんが座り、会が始まった。
「じゃあ、改めてまして、お誕生日、おめでとう!」
「おめでとう」
「おめでとう~」
「えへへ。みんなありがとう」
会は妹が仕切っていて、どうやら主催も妹だということも今判明した。
なるほど。それで僕も呼ばれたのか。
コップを両手で持って、オレンジジュースを飲む千尋ちゃん。相変わらず黒いモヤを纏っている。
「えーっと……お誕生日会って何するんだっけ?」
知らないで会を主催したのか。
それを聞いて、智花ちゃんからふふっと笑みがこぼれる。
「みんなで遊んだり、プレゼントあげたりするんじゃないかなぁ」
「ほぉ!なるほど!」
妹はポンと手を叩くと、鞄から大きめの箱を取り出す。
箱には、ピンクのチェックの紙でラッピングが施されていて、赤いリボンが結ばれていた。
妹はそれを千尋ちゃんに向けて差し出すと言った。
「はい!プレゼント!」
「わ!おっきい箱。ありがとう!」
妹の行動を見て、智花ちゃんも慌てて鞄から小包を取り出す。
「これ。プレゼント」
「わー!ありがとう!えへへ」
2つのプレゼントを受け取った千尋ちゃんは「これ開けていい?」と、妹たちに承諾を得ると、妹のプレゼントのラッピングを剥がし始めた。
「クマのお人形だー!」
「私とお兄ちゃんからだよ!」
千尋ちゃんは目を輝かせたままこちらを見てくる。
クマのお人形の代金のうち8割を僕が出したことは、内緒にしたほうが良いだろうな。
「お、おめでとう」
精一杯の笑顔で答えた。と思う。
僕の声を聞いた千尋ちゃんは一瞬目を反らすと、キチンと座り直した。そして、智花ちゃんから貰った小包を開けている。
僕の笑顔は失敗したのか?
「わーキレイ!」
僕がそう思っているうちに、千尋ちゃんは小包を開け終えて、中に入っていたキーホルダーを取り出していた。
キーホルダーは透明で雫の形をしていて、中に星やハートの形をしたラメが入っていた。
「手作り…なんだけど…」
「うそ?!ホントに?!」
「すごい。売り物みたい!」
妹たちが感嘆の声をあげる。僕の目から見ても手作りとは思えないクオリティだ。
「あのね、結構簡単につくれるの」
そう言って智花ちゃんは鞄から様々なキットを取り出す。
「好きな型にね、この液を入れるの。そしたら、星とか好きなものをこの中に入れるでしょ。それで、この機械に入れておくと、固まって、こういうふうになるの」
妹と千尋ちゃんは、智花ちゃんの側に行って、ふむふむと興味深そう聞いていた。
「それでね。みんなでやろうと思って、材料とかいろいろ持ってきたの」
「わーい!やるやる!」
妹も千尋ちゃんも、透明のキーホルダー作りを始める。
僕はテーブルの反対側でそれを見ていたのだが、千尋ちゃんがこっちを見て近づいてくる。
「お、お兄さんも、一緒にやろう?」
モジモジしながら聞いてくる。
興味がないわけではないが、小学生の女児3人と誕生日会をやっていること事態がなんだかいけないことをしている気分になっているというのに、さらに一緒にキーホルダー作りなんかしたら、僕のメンタルがどうにかなりそうだ。
「僕はいいよ。気にしないで」
「……そっか」
そんな顔されたら尚更悪いことをしているようじゃないか。
「いや、やっぱりやる。キーホルダー作る。突然興味が湧いてきたぞー。」
「ホント!?えへへ。えーっとね、まずはね、これをね…」
テーブルに戻ると、今さっき手に入れた情報を懸命に教えようとしてくれる。
しかし、黒いモヤは身体についたままだ。
ここで1つ、思いついた事がある。
千尋ちゃんは死なない。死なさせない。たとえその瞬間になったとしても、僕が守る。
一体何が原因で死んでしまうのかはわからないが、カウントが0になるその瞬間に、僕がそれを阻止して見せる。
できるかはわからない。でも、やる。絶対に成功させる。
「でね、これをね……お兄さん?」
「ああ、ごめん。もっかい最初からお願い」
「もぉ。今度はちゃんと聞いててね?」
頬を膨らませるも、すぐに笑顔になって最初から説明してくれる。
僕は、この少女の、千尋ちゃんの笑顔を絶対に守る。
ーーこの時の僕は、そう思っていた。




