4-11 死神
この力はもう使いたくない。使わないと決めた。
でも。
できることがある。それなのにやらなくて、何が人間だ。
「かぐや」
僕は右腕を突き出す。
手の先に小さな黒い炎が現れ、次第に大きくなっていき、やがて黒い巨大な鎌に姿を変えて僕の手の中に収まる。大きさの割に軽く、手になじむ。
「久々に呼び出したのに相手がこんなので悪いな」
僕が黒く光る鎌に語りかけると、鎌は返事をくれる。
「案ずるな。妾もずっと見ておったからの。面白いことになってきたわい」
口調に似合わず幼い声だった。
僕はペンを回すような感覚で鎌を振るうと、中村さんの入った鳥籠が粉々に砕けて散った。
この鎌は間合いを無視できる。
「な、なんだよこの殺気!」
ベルフェゴールは生徒たちに指示を出す。操られている生徒たちは、従順にそれに従い、僕に襲いかかってくる。
「銃」
「承知」
鎌は形を変えて、戦国時代の火縄銃のような姿になる。
僕はそれを構えて人数分の弾丸を放つ。
放たれた弾丸は狙わずとも命中し、生徒たちは気を失ったようにその場に倒れ込む。
「かぐや、あれをやる」
「ほう。あの娘のことはもう良いのか?」
「良くはない。でも、今はあれしかない」
銃はしばらく黙ったが、次に聞こえてきたのは笑い声だった。
「ククク。これだから人間は面白いのじゃ。承知した」
銃は再び炎に包まれ、その炎は消えて無くなった。
僕は両手をマモンとベルフェゴールに向けて突き出す。
「な、何をするつもりだ!」
叫ぶマモン。しかし彼は動かない。動けない。
僕の姿に少女の影が重なる。
短く切りそろえられた黒髪に、百人一首に出てくるような豪華な着物。幼い見た目ながら着物を少しはだけさせ肩を出している。
僕は突き出した両手をゆっくりと握っていく。
さすがに2人同時は重いな。
しかしその両手はゆっくりと、しかし確実に握られていく。
「ぐぁぁ……お前……まさか……!!」
言い切る前に僕の両手は完全に握られた。
その瞬間悪魔はその場に倒れ、数秒もしないうちに黒い霧となって消えた。
「死んだ……」
驚いたような声をあげるモンファさん。まあ無理もないか。
そんなモンファさんにヨキさんが駆け寄り、応急手当てをしていた。
小次郎さんは中村さんに駆け寄り、あれこれと質問していた。恐らく問診のようなものだろう。
そしてジェシカは、僕の方にやってきた。
「あなたは、一体……」
こんなことをしてしまった以上隠してはおけないか。
「僕は、死神連盟本部、松崎コミュニティー所属、一級死神、佐滋悠輝。」
「死神……」
ジェシカは一歩後ずさり、そのままこけて尻餅をついてしまった。手が震えている。
僕に怯えているのだろうか。
「…え…あ…こんなはずじゃ……」
ジェシカは自分の手を見て、震えを抑えようとする。
なぜだか涙があふれてくる。
「こんなこと、わかっておったろうに」
僕の中のかぐやが僕に語りかける。
僕はそうだねと心の中で返事をすると、少し強めに地面を踏み込んだ。すると目の前に洋風の扉が現れる。
「じゃあ、さよなら」
僕は誰にいうでもなく別れを告げると、扉の向こうに走り出した。
何も聞こえない。何も見えない。何も考えたくない。
僕はただ、走っていた。
あの時と何も変わらないじゃないか。




