4-10 強欲の罪
ジェシカを中心として三人称で開始します。
戦闘が始まってどれくらいたっただろうか。きっと30分もたっていないが、1日中戦っていたような感覚になる。
ジェシカは高速で飛んでくる無数のトランプをかわしながら間合いを詰める。
姿勢を低くしたままの状態で、斬り上げる。しかしレヴィアタンを囲む見えない壁のようなものに阻まれ、その一撃が通ることはない。
お互いに一歩引いて間合いを取る。
ジェシカがもう一度攻撃を仕掛けようとしたとき、ジェシカは気づく。自分の足が、トランプでできた鎖よって拘束され、地面と離れないことに。
「あら、やっとかかりましたのね」
「罠、ですか」
「ええ。その通り。私はあなたほどのエクソシスト、一瞬で葬れますわ。でも、あなたの首が私は欲しいのよ。きれいにして、私の部屋に飾らさせていただきますわ」
うっとりとしながらにじりよってくるアリスの姿をしたレヴィアタン。
他人の首を取って飾るなんて、悪趣味にもほどがある。と思いながら、ジェシカは次の一手に考えを巡らせていた。
「最後に言い残すことはない?一緒に飾ってあげますわ。」
レヴィアタンはいつの間にか全身を拘束されていたジェシカの頬に、手を当て、優しく撫でる。
「首を取って飾るなんて、聖書に伝わるサロメみたいですね。」
刹那、レヴィアタンはジェシカの首をはねた。
力無く崩れ落ちる身体。レヴィアタンは落ちたジェシカの首を取って持ち上げた。その顔には、汚い字で『ばーか』と書かれた貼り紙が。
「とことんバカですね」
後ろからジェシカの声が聞こえ、レヴィアタンの首筋にひんやりとした感覚が伝わる。
「なっ……!どうして!?」
五体満足のジェシカは答えるよりも先にその剣を振り落とした。
背中側に大きく傷を入れられたレヴィアタンはその場に倒れ、黒い霧になって消えてしまった。
「逃げられましたか。まあ、しばらくは実体化出来ないでしょう。にしてもこれ……」
ジェシカは落ちていた自分の顔を見つめる。『ばーか』と書かれている。
「これやったの師匠?」
するとボワンと白い煙にジェシカの死体が包まれる。
中から出てきたのは師匠。
ジェシカの死体はどこにも見当たらない。
「まあ、何でもいいけどね。お疲れ様」
ジェシカは師匠を鷲掴みすると、自分の口の中に放り込んだ。
☆☆☆
足下にはいつの間にかラインが引かれていて、これからドッジボールを始めるには申し分ない状態になっていた。
「じゃあ、何人かもらうよ」
「いいよ。早くして。ラジオ体操…ラジオ体操…」
ぶつぶつ呟きながら震えているベルフェゴール。そんなにやりたくないのか、ラジオ体操。
僕はまずカズの肩に触れた。するとカズの姿が一瞬で指定のジャージ姿に変わって、コートの方に歩き出した。その感覚でもう9人ほど肩に触れていく。
「ん…ここは……ぅなんじゃぁこりゃあぁぁぁ!」
コートの中に入ったカズたちは意識を取り戻した。
気持ちは分かるが驚き過ぎではなかろうか。他の生徒たちも慌てふためいている。
「たしか俺はさっきまで避難誘導してたはず……はっ。これは夢か!?」
そうだよ。夢だよ。ついでにいうとドッジボールをする夢だよ。
「なるほど。おいみんな!これはドッジボールをする夢だ!」
カズが声をあげると、他の生徒たちも「なるほど夢か」と納得し、他の生徒と喋ったりして自由にし始めた。
体育会系は頭が悪いのだろうか。
それはそれとして、だ。僕はベルフェゴールに、声をかける。
「こっちはもう準備できてる。ドッジボールを始めようじゃないか」
「後悔させてやるよ」
ベルフェゴールが呟くと、僕が触れなかった生徒たちが相手コートに向かって歩き出す。
「絶対ラジオ体操なんかやらないからな!」
相手も準備が整ったようだ。いつの間にか僕の手の中にはボールがあった。
どこからかホイッスルの音が聞こえ、ゲームの開始を伝えた。
◇◇◇
主にカズのおかげで、相手を1人、また1人と当てていき、相手は残り2人となった。
こちらも1人当たってしまったが、大勢に影響はない。
「あと2人ぃ!!」
カズが叫びながらボールを投擲する。
豪速球が相手の生徒の肩に当たると、ボールは大きく跳ね上がり、そのまま地面に落ちて、ラインギリギリのところで止まった。
残った生徒がボールを拾い上げ、僕を向いて振りかぶった。
今までの感じなら簡単に避けることができるだろう。
僕はベルフェゴールに目をやった。ベルフェゴールは鳥籠の上であくびをしていた。
何かおかしい。そう思ったときには遅かった。
「佐滋くん!その人なんか変だよ!」
中村さんの叫びと同時にボールが放たれる。放たれたボールはなぜか黒い障気を纏っていて、今までのどの投擲よりも速かった。
「危ない!」
目の前にボールが迫ったとき、聞いたことのある関西弁で僕は横に押し倒される。
激しく何かが壊れる音がしたあとに、何か柔らかい物が落ちる音がした。
何が起きたのかわからなかったが、状況は思ったよりも単純だった。
壊れたのは僕たちの後ろ側の壁。
落ちたのは女性の腕。
「危ないところやったな。喰らってたら死んでたで……」
モンファさんだった。
そしてモンファさんは右腕を押さえるようにしていたが、押さえるべき右腕はそこになく、体育館の床に落ちているのだった。
やったのは、相手の残った1人。
「チィ、外したか」
聞いたことのある声だった。
この声は、たしか放送をしていた声だ。
「ああ?そうだよ。俺があれやったの。なかなかうまいだろう?」
お前は誰だ!
「俺はマモン。エクソシスト連中からは、そう呼ばれてる。」
マモン。七つの大罪の《強欲》に対応する悪魔だ。
「ねぇねぇ。君のチーム、みんな逃げちゃってるよねぇ。ラインオーバーってことで僕の勝ちかな?」
ベルフェゴールの言うとおり、コートには僕とモンファさん以外誰もいなかった。
「悠輝!」
「あれ、チビエクソシスト生きてたんだぁ。でも遅かったね。それ以上近づいたら、この人間、穴だらけになっちゃうかもよぉ?」
駆けつけたのはジェシカだった。
体育館の入り口で荒い息をしている。
「それからそこのでっかいのとちっこいのもだよ!」
壊された壁の両奥から、小次郎さんとヨキさんが出てきた。後ろには逃げ出したはずの生徒たちがいて、罪人を連れて行く警察官のような役割をしていた。
中にはカズもいたが、既に意識を乗っ取られているようだった。
「お前たちはこの人間が穴だらけになるのを指くわえて見てるんだな!」
マモンが叫ぶと中村さんの入った鳥籠の内側に無数の棘が現れ、中村さんに向かってゆっくりと伸びていった。
「いや、いやぁ……」
棘に怯える中村さん。
しかしこの状況では誰も手出し出来ない。それはこの状況の当事者である僕たちも、悪魔もわかっている事だった。
ただ一人、僕を除いては。




