4-8 嫉妬の罪
ここ最近は大罪級悪魔を警戒し、僕とジェシカ、それから途中で中村さんと合流して登校していた。
「悪魔は佐滋くんのことを狙ってるんだよね。だとしたら、どうしてすぐに佐滋くんを捕まえに来ないんだろうね」
「そこが一番不安なところです。大罪級悪魔が本気を出せば私ほどのエクソシストなんか一捻りですからね。なにかすぐに攻めてこられない理由があるはずなのですが…」
謎は深まるばかりだ。
本部の応援が到着するまでに何もなければいいのだが。
教室に入ろうとしたとき、学校中に設置されている放送用のスピーカーから、キーンというハウリングが聞こえてきた。その後聞こえてきた会話から察するに、なにかもめているようだった。
「あーあー。マイクテス、マイクテス。……あん、うるせえよ!ちと黙っとけ!」
男の声が聞こえる。
「えー俺たち、七つの大罪でーす。どっかのクラスの悠輝くんとジェシカちゃんは、至急、職員室まできーてくーださーい」
ざわつく教室。
七つの大罪が動き始めた。
ということは今の放送は七つの大罪の悪魔がやったのか、応援も着いていないというのに一体どうすれば。
「結界を張ります。結界生成時、結界は強制的に周囲の人間を巻き込みます。なんとか人払いをしてください」
人払いって言われても。
そう思っていたら、激しいサイレンが鳴った。火災警報装置のサイレンの音だ。
振り返ると、中村さんが警報装置の《押す》と書かれた薄いプラスチックを破り、その向こうのボタンをしっかりと押し込んでいた。
「一回やってみたかったんだぁ」
さいですか。
サイレンの音を聞いて、教室から生徒が飛び出してくる。
「みんな!理科室で火事があったみたいなの!薬品が爆発するかもしれないから、早く校庭に逃げて!」
呼びかける中村さん。
教室からは、火事の知らせを聞いたカズも飛び出してきた。
「火事って、ホントなのか!?」
さっき先生が知らせに来たから間違いない。
もちろん嘘だけど。
「そうか。じゃあ、俺は3年の教室に行って避難誘導してくる。……お前らさっき呼び出し受けてたけど、火つけたのお前らか?」
まさか。
それにさっきの放送なにか変だったと思わないか?
「まあ、確かに変だったな。疑って悪いな。とりあえずお前らも早く逃げろよ!」
そう言ってカズは階段を駆け上がって行った。
緊急時にこういう行動をとれるのはカズの良いところだ。本当に尊敬している。
程なくして校庭にはほぼ全校生徒が集まりつつあった。状況を飲み込み切れていない職員も、校庭に集まっているようだった。
それを窓から見届けるとジェシカは言った。
「多少残っていても仕方ないです。Fairedelaplace」
瞬間、世界から色が消える。最近見ていなかったが、やはりなんど見ても異様な光景だ。
モノクロの世界に、色のついた僕たち人間。まるでネガフィルムの中に迷い込んだようだ。
校庭に集まっていた生徒たちはいなくなっていた。結界に巻き込まれなかったのだろう。
「とりあえず、職員室に向かいましょう。モンファたちはすぐに来るはずです」
僕と中村さんは小さく頷くと、職員室に向かって走り出した。
☆☆☆
職員室に到着するまでには、生徒や先生は1人も見かけませんでした。避難誘導が上手くいったのですね。悠輝たちの機転にはいつも本当に助かっています。
私は職員室の前に立つと、合図をしたら入るように、と2人に声をかけ、職員室のドアをあけました。
中には誰もおらず、異様なまでに静かでした。
私が初めて職員室に入った時と比べたら、天と地程の差があるでしょう。あの時はうるさすぎたそうですが。
ドアとの距離を離しながらゆっくりと奥に進んで行きますが、それは悪魔の罠でした。
私が気づいた時には既にドアは閉まっていて、頭の高さにはめ込まれたガラスには、何も写っていませんでした。恐らくは、この空間ごと結界から切り離したのでしょう。
そして職員室の最奥には、さっきまではなかったはずの人影が。
「あら、チビエクソシストの方でしたのね。気づきませんでしたわ。」
そう言った人影はゆっくりとこちらを向きます。
水色のエプロンワンピに身を包んだその姿は、物語に登場する《アリス》そのものでした。
「嫉妬の罪、レヴィアタン」
「私の名前ですの?名前というものは、良いものですわね」
この悪魔、いちいち鼻につく喋り方をしますね。
それにこの声、放送をしたのはあなたではありませんね?
「そう、ですけれど……」
どうかしましたか?まあ、どうでもいいですけど。
そういえば、私達がルシファーと呼ぶ悪魔のことを教えて欲しいのですが。
「私を……この私を……無視しましたわね!」
無視はしていませんが。
「いいえ!私の事をさておいて、マモンやルシファーの事を……」
なるほど、放送をしたのはマモンでしたか。
「あなた!まだ私を侮辱する気ですの!?」
別に侮辱しているつもりもないですが。
「許さない……絶対に許しませんわ!」
じゃあ、私からも1つだけ。
「好きでチビなわけじゃないんですからね!」
私は剣を構え、全身に魔力が流れるのを感じました。




