4-5 知り合いアピール
この学校で一番偉い人。つまり理事長のところに挨拶を済ませた僕たちは、クラスの確認のため職員室に向かっていた。
今は部活の朝練の時間のため校内にあまり人はおらず廊下ですれ違う人もまばらだった。
朝日の差し込む廊下を歩き、職員室に入ると、いくつもの電話が激しく鳴り響いていた。
僕も何度かは職員室に入ったことはあるのだが、不祥事を起こした会社のクレーム対策室のようになっているのは初めて見た。
恐らく、ジェシカを学校に入れるための根回しの影響だろう。
電話に出たり、何かをメモしたりと忙しそうな僕の担任教師、沢園喜美代先生のデスクに歩いていく。ちなみに、29歳独身。彼氏なし。
沢園先生は僕たちを発見すると、駆け寄ってきて言った。
「ジェシカさんよね?って悠輝君と知り合いだったの?なら、話が早いわ。ちょっと今立て込んでるから、ジェシカさんは隣の応接室で待っててね。悠輝君は教室に行っててオッケーよ。それじゃ!」
沢園先生は自分のデスクに戻ると書類を確認しながらまたどこかに電話をかけ始めた。
ここにいても仕方ないので、一礼して職員室から出る。
「知り合いアピールって、したほうがいいんでしょうか?」
ジェシカが口を開く。
知り合いアピールとは?
「私と悠輝が知り合いだってアピールするんです。そうすれば、他の生徒に学校案内するよ!とか教科書見せてあげるよ!とか言われなくて済みそうです。悠輝にしてもらえばいいので、悠輝とずっと一緒にいられます。」
言い終わった後、ハッとしたように僕の顔を見た。
「違うんですよ!別に今のはそういうことじゃなくてですね!言葉のあやというかそのですね・・・」
何のことだかさっぱり。
「あ・・・あぁ・・・じゃあ、いいです。」
ジェシカはそっぽを向いてしまった。
また怒らせてしまったのだろうか。向こうを向かれてしまうと表情がまったくわからないので、
対応に困る。
隣の応接室でジェシカに別れを告げると、僕は自分の教室へと足を運ぶ。
◇◇◇
窓側の一番後ろという素晴らしいポジションから、僕は教室を眺める。
教室は、朝練が終わったとたんに生徒で溢れ、賑やかになる。
生徒会の仕事を終えたであろう中村さんもその一人だ。
何かしらのスポーツ用品が詰められているであろうバックを担いでシャツ姿のカズも帰ってくる。朝練のあと備え付けのシャワーを使ったのだろう。首からタオルをかけ、ツンツンした髪の毛は水に濡れていた。
今日は何をしてきたんだ?
「バスケとバレー。あ、途中で柔道もやった。」
相変わらず忙しいな。
「まあな。てかお前、なんかあった?晴れやかな顔してる。」
先週はジェシカや中村さんのことで気が気でなかったからな。
この週末で、それがなんとなく無くなった気がする。いや、無くなったというのは間違いで、別のものに変わったというのが正しいだろう。むしろ増えたかもしれない。
ただ今の僕は、ジェシカの希望でありたい。
できるだけ人と関わらないようにしてきた今までとは違う。モンファさんやヨキさん、小次郎さんや中村さんの力を借りて、リュネットを助けたい。それがジェシカの希望になりうるのだ。
僕になにができる?
ふと頭をよぎった疑問。
あの時の僕は助けようとして助けられなかった。でも今は違う。絶対に救ってみせる。リュネットも、ジェシカも。
そのとき、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
全員が急いで席につくと、ガラガラと音を立てて黒板側の扉が開き、沢園先生が入ってくる。
その瞬間僕は気づいた。
僕の隣に机が1つ増えている。
「えー今日は、転校生を紹介します。入ってきてー」
その少女が教室に入ってきた瞬間、教室中がざわついた。
この学校の制服を着た少女は、高校生にしては幼かった。
床につきそうな長く白く髪を黒いリボンでツインテールにまとめ、澄んだ紅い瞳は、まばたきをするたびに世界で一番高価な宝石を思わせた。
小学校高学年くらいのその少女は黒板の前に立ち、簡単に自己紹介をした。
「シュバリエ・ジェシカ・ド・リュフワです。気軽にジェシカさんとお呼び下さい。」
首を傾げ、わざとらしい笑顔を見せるジェシカ。
その自己紹介気に入っているのか?さんついてたら気軽じゃないとおもうのだが。
しかし教室にいた生徒たちはそんなこと思わなかったようだ。あのわざとらしい笑顔にやられてしまっている。
そのうち、女子の一人が挙手してジェシカに質問を投げかける。
「はいはーい。質問いいですかー?海外の人だと思うんだけど、どこの人ー?あと、どこに住んでるのー?」
教室中から「気になるー」といった声が聞こえ、ジェシカは待ってましたとばかりにその質問に答える。
「フランスとアメリカのハーフです。それから・・・」
ジェシカは不適な笑みを浮かべ言った。
「このクラスの、佐滋悠輝君と、同居しています。」
僕を指差し、ふふっと笑うジェシカ。
教室中が石とかし、しーんと静まる。もちろん比喩だ。
知り合いアピールって、そういうことなの?
先生まで驚いた顔をして石化してしまっている。もちろん比喩だ。
苦笑する中村さん。
「ああ、あの子か。」納得している様子のカズ。
まあ別に、間違ったことを言っている訳じゃないんだが、うーん。どうしたものか。
「悠輝とは、夜を共に過ごす間柄です・・・」
なんでそういうこと言うの?!
わかった。さっきのこと怒っているんだね?
謝る。謝るから。
「じゃ、じゃあ、ジェシカさんは、悠輝さんの、隣の席で・・・」
なんだって先生まで震えているんだ。って中村さんまで、怒ってる?怒ってるの?
おいカズ、ニヤニヤするんじゃない。
ホームルームの終了と僕の人生の終了を告げるチャイムが、軽やかに鳴り響いていた。




