4-4 真っ黒の場所
翌朝
高校の制服を着たジェシカを見た悠羅は「年上だったの!?」と恐ろしく驚いていた。
昨晩ジェシカの学校の件についてモンファさんにメールしてみたところ、5分と経たずに『明日から通えるよ!』と、返信があった。
確認のためヨキさんに電話をかけてみた。なぜか物凄く忙しそうなヨキさんが電話に出たが、ヨキさんはバタバタしているようで、とても通話ができるような状態ではなかった。
どうやら尋常ではない速さで根回しが行われたようだ。
朝食を済ませ、家を出る。
妹の通う中学とは方向が真逆なので、玄関先で別れ、ジェシカと高校の方角に歩き出す。
昨日中村さんに呼び出されて通った道だ。
僕たちの通う高校は、どこにでもあるような普通の私立高校で、自由な校風と、活発な部活動がウリだ。体育会系の部活動は、毎年なんだかんだで県大会レベルには行っていて、年によっては優勝していたりもするし、吹奏楽部や美術部などの文化系の部活動も、コンクールやコンテストで賞を貰うこともしばしば。部活動を目当てに遠方から通う学生も少なくないため、バスが出ていたりする。
家から学校への距離で一番近いという理由でこの高校にした僕にとっては、到底関係のない話だ。
住宅街を抜け、人通りの多い道に出る。
携帯越しに頭を下げ忙しそうにしているサラリーマンや、地図を見ながらうろうろしている外国人のバックパッカー。僕と同じ制服姿の学生もあちこちにいる。
制服姿の少しやんちゃそうな男子生徒が僕とジェシカを追い越して行く。とくに挨拶などは交わさない。
前にも言ったが、僕は友達が少ない。
けしてコミュニケーション能力が一般人より低いとか、見た目が観覧注意のタグをつけなければいけないほど悪いわけでもない。
ではなぜ友達が少ないのか。
簡単だ。議論する点の根本が違う。
僕は友達を作らないのだ。
昔からそうだった。
クラスメイトとは必要最低限の会話しか交わさないし、遊びに誘われてもその誘いに乗ることは無かった。
そうでもしなければ、やっていけなかった。
『だって僕は、君がいつ死んでしまうか知っているんだから』
あの時の光景がフラッシュバックする。
グルグルと回転する視界。自分の血なのか、あの子の血なのか、フローリングの床に血の水溜まりができていく。あの子の目に既に生気はなく、驚いたような表情でどこか遠くを眺めているようだった。
暗転、真っ黒い海に落とされる。
『お前が余計な事をするから。』
違う。
『お前があの日あの場所にいなければ。』
違う!
『お前があの子を殺したんだ。』
違う!僕はあの子を守ろうとしたんだ!
叫び、真っ黒の海の中でもがき続ける。
しかしどんなにあがいても体が浮くことはなく、海の底に沈んでいく。
『どうして私は、何も知らないの?』
その言葉が聞こえた瞬間、僕の体は沈んでいくことへの抵抗を止めた。
口から出た空気が小さな塊を作って浮上していく。
苦しい。
息ができない。
助けを求める事すら許されない。
それだけのことを、したのだから。
「・・・ぅき!・・・ゆぅ・・・!・・・悠輝!」
刹那、現実に戻される。
ジェシカの声だった。
ここは現実。
真っ黒な海でも、あの場所でもない。
状況を確認した僕は、息があがり、嫌な汗をかいている事に気づく。
今まではこんな事無かったのに、今になってどうしたというんだ。
そんな僕を見つめるルビーの瞳は、ほのかに潤んでいて、僕の瞳のさらに奥を見つめているようだった。
「・・・大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねてくる。
でも今のジェシカにあまり心配をかけたくない。
僕は、ちょっとむせただけだから大丈夫だと言った。
もちろん信じては貰えなかったが、人に知られたくない過去の一つ二つ、誰しもあるものだ。ジェシカはそれを知っている。
だから、それ以上追求されることもなく、僕たちは学校に向かった。




