3-11 堕天の王
ゲートまでは容易にたどり着くことができた。
モンファさんのおかげか、道中襲ってくる悪魔はほとんど居なく、一度だけ襲ってきた数体の悪魔もジェシカさんが瞬殺していた。
「そこのビルを右に曲がればゲートです!」
ビルを右に曲がると、我が校の体育館くらいの巨大な交差点がある。そして僕たちとは反対方向の道路の向こうに、ゲートはあった。
ゲートというのは、勝手に裂け目のようなものだと思っていたがそうではなく、野球のボールくらいの輝く光の玉のようなものが、僕の目の高さくらいにプカプカと浮いていた。
しかしジェシカさんはそれ以上足を進めなかった。
ゲートの前にアンティークな椅子を置き、それに誰かが座っていたからだ。
その人物は男性のようだったが、天使のような、しかし漆黒の翼と、尖った耳があり、一目で普通の人間ではないことがわかる。
「あなたは何者ですか。」
ジェシカさんが遠くから声を投げかける。
「とくに名前とかはねぇンだけどよオ。あんたのお友達からは、《ルシファー》って呼ばれてるぜェ。」
怪しがっていたジェシカさんの顔が驚愕の表情に変わる。
「なにしに来たんですか・・・」
「そうだなァ、試験運転ってヤツ?それよか、俺は名乗ったんだ。テメェの名前を教えろよ。」
2人がやりとりしている間、中村さんが「ルシファーってあのルシファーかな。」と耳打ちしてきた。
ルシファーっていうと、ゲームやなんかによく出てくるあれか。
罪を犯し、天界から追放された、《堕天の王》
「悪魔に名乗るのは初めてです。ジェシカ、そう名乗っておきましょう。」
「ジェシカ?テメェジェシカっていうのか。ククク、おもしれェ!いいもん見せてやるよ!」
ルシファーと名乗る悪魔は座ったまま軽く指を鳴らした。
目の前に黒く腐敗したような巨木が現れる。
その巨木には、ゆるくウェーブのかかった金髪の少女が、巨木に取り込まれるような形で捕らえられていた。
「リュネット!」
ジェシカさんが叫ぶ。しかしその少女に反応はない。
駆け寄り触れようとするが、ジェシカさんの小さな手は、虚しく巨木を貫通してしまった。
「ククク!やっぱり知り合いか!」
「リュネットに何をしたんですか!」
「あの雑魚悪魔、見ただろう?ソイツらなア、この人間の魔力で作ったんだよ。ふとこっちに来てみたら、ちょうどいい人間みっけたからよォ。試しにやってみたってワケ。ちなみにそれ、幻影だから。」
乾いた指を鳴らす音が辺りに響くと、その幻影も消えて無くなった。
幻影のあった場所に手を伸ばしたまま怒りと絶望にうち震えるジェシカさん。
ジェシカさんは奥歯を噛み締め、クラウチングスタートのような体勢をとる。
両手には二本の剣が生成され、白かった髪は一瞬にして銀色に変わった。吸血鬼狩りの力だ。ルシファーは「なんだ?」と不思議そうに椅子から立ち上がろうとするが、立ち上がるのが速いか、目の前にジェシカさんが現れ、ルシファーに向かって剣が放たれる。
しかしその刃はルシファーの人差し指と中指で止められていた。
「軽いな。」
ルシファーはつまらなさそうに呟くと、ジェシカさんの腹部に蹴りを入れた。
大きな動作でもないのに、ジェシカさんは大きく吹き飛ばされ、僕たちのいた場所の近くのビルの高層階にぶつかり、クレーターのような窪みを作った。
ルシファーは僕に視線を定めると言った。
「ん?テメェもいいもんもってやがんな。」
ゆっくりとこっちに近づいてくる。
しかし、ちょうど交差点の中央に来たとき、何かがルシファーに向かって弾丸のように突進してきた。ジェシカさんだった。
直後、目にも留まらぬ速さでジェシカさんの剣戟が炸裂する。
しかしどの攻撃も、ルシファーにダメージを与えているような手応えは無く、それどころか、攻撃をする度にジェシカさんがダメージを受けているようだった。
ルシファーからの攻撃ではない。だとすれば、悪魔祓いと吸血鬼狩りの力を同時に行使しているせいで、身体への負荷があるのだろう。
腕や足から血が出ているのに、ジェシカさんは攻撃の手を緩めない。
ジェシカさんが回転するように攻撃を仕掛けると、金属と金属のぶつかり合う音が4つ連続で鳴り響く。・・・4つ?
ジェシカさんは水泳のターンのようにルシファーを蹴り飛ばし、一旦距離をとった。
動きが止まり、僕や中村さんの目にもジェシカさんの姿をはっきりと見て取れるようになる。
銀色のツインテールにはそれぞれに剣が握られ、重力に逆らってルシファーの方に向けられていた。




