3-6 白に猫
ジェシカさんは裂け目から現れたその人に向かって言った。
「一応聞きますけど、何しに来たんですか『トゥインキィ小次郎』さん。」
「あらイヤねぇ、わかっているんでしょう?まあでも、教えてあげるわぁ。あなた達を捕まえに、き・た・の・よ♡」
そう言って投げキッスをする「トゥインキィ小次郎」さん。
何故だかとてつもない寒気を感じた。
身震いする僕にジェシカさんは説明してくれた。
「あのオカマは通称『トゥインキィ小次郎』日系ロシア人で本部所属のエクソシストです。トゥインキィというのはロシア語でオカマを意味します。私も本名は知りませんが、本名が格好良すぎるからそう呼ばれているそうです。」
なんて可哀想なニックネームだろう。本人の了解の上とは思えない。
しかし問題はそこではない。
小次郎さんが本部所属のエクソシストで、僕たちの味方ではないということが一番の問題だ。
睨みつけるジェシカさんに対して、小次郎さんは余裕そうに体をクネクネさせている。
そのとき、僕と中村さんの上空に巨大な檻が現れた。素材は金属のようで、鳥籠のような形をしていた。そしてそれは重力に従い僕達のいる場所に向かって一直線に落下する。
「危ない!」
中村さんは僕を突き飛ばした。
落下を続ける鳥籠は軽い音をたてて中村さんに重なる。
「どういうつもりですか!」
ジェシカさんが声を上げる。
「あら言ったでしょう?捕まえに来たって。でもねぇ、あなたは協会でも指折りのエクソシスト。普通にやったら私なんか勝てないわ。だからね、ゲームをしようと思ったの。あなた達の学校の屋上まで来ることがあなた達の勝ち、今回は見逃すし、この娘も返してアゲル。でももし出来なかったら大人しく捕まってもらうわぁ。バーイ♡」
そう言って、自分が出て来た裂け目に戻っていく。それを追うように鳥籠も動き始める。
「佐滋君、助けて・・・」
中村さんが言い切るかどうか、鳥籠は裂け目の向こうに消えていった。
取り残された僕とジェシカさんは一言も会話を交わすことなく、学校に向かって走り出した。
◇◇◇
先行して走る僕に後ろからジェシカさんが説明してくれた。
「あの人は優秀な罠師です。向かう途中には罠があるはずです。気をつけてどうなるものでも無いですが、気をつけて下さ・・・っ!?」
途中で声が途切れた。まさか罠にかかったのか?そう思って振り返ろうとした。
「こっち見ないで!・・・下さい。」
思わず体の動きを止める。
「自分、で、なんとか、なります、から。」
高いところから飛び降りたような、タタンという音がした。
いつの間に高いところにいたのだろうか。
「・・・問題無いですから。」
スカートを軽くはたきながら僕を追い越していくジェシカさん。
顔が赤かった気がするが、何かあったのだろうか。聞くより先にさっさと行ってしまった。
「やっぱり罠があるみたいです。気をつけて下さ・・・みゅ!?」
ジェシカさんはビクっとしたかと思うと変な声を出して立ち止まった。
よく見ると、右足にロープが巻きついていて、その先は地面突き立てられた長い棒の先についていた。その棒は弓なりにしなっていて、先についたロープを上方向に引っ張っていた。
「むむむむ・・・!」
ジェシカさんは引っ張られまいと踏ん張っていた。さっきまではこんなもの見えなかったから、小次郎さんの罠だろう。見た感じ古典的な罠だから、僕でもなんとかなるだろう。
助けようと思い近づいていく。
「来たちゃだめっ・・・です。」
踏ん張っているせいなのか、普段より女の子らしい声で制止された。
「さっきと、同じ罠ですから、自分で、解けます・・・」
でも2人でやれば簡単に解けるだろう。ロープのついた棒に手をかけたそのときだった。
「あ、ちょっと!・・・いやぁっ!」
しなっていた棒が元の形に戻ろうとして、ロープのついた部分を思いっきり持ち上げた。ロープの先のジェシカさんの足も思いっきり持ち上がった。ジェシカさんは足をとられて宙ぶらりんの状態になる。
ジェシカさんはいつもの黒いワンピースなのでもちろんスカートもひっくり返っているわけで。
「バカ!こっち見んな!バカ!自分で解けるって言ったでしょ!?バカ!バカぁ・・・」
慌てて後ろを向く。
最後のほうは僕への嫌悪より恥ずかしさが勝ってしまい、懇願のようになっていたが、もの凄い勢いで罵られてしまった。普段妹に言われ慣れていなかったら何かに目覚めていたかもしれない。
程なくして「もういいですよ。」という声が聞こえたので、罠のあった方に向き直る。
罠はもう無くなっていて、ジェシカさんだけが立っていた。どうやら解除と同時に消えてなくなるらしい。
「見ましたか?」
・・・見てない。
「怪しいですね。ホントに見てないですか。」
ずいずい近寄ってくるジェシカさん。
僕の目を見て本当かどうか見極めているようだ。
「ホントに見てないんですね。」
・・・見てない。
しばらく目が合っていたが、そのうち諦めたのかそっぽを向いて言った。
「怪しいですけどもういいです。それと、バカとか言ってごめんなさい。取り乱してました。」
別にいいよ、当然の反応だよと伝えると、少しほっとしたようだった。
その後すぐに真剣な表情に戻ると、僕の方に向き直った。
「もとはといえばあのオカマが悪いんです。さっさと行って、一発ぶん殴ります。」
学校の屋上に向かって、走り出した。




