3-4 お話ししたいことがあるので
モンファさんはヨキさんにこっぴどく叱られていた。
モンファさんは「ジェシーが可愛すぎるから仕方ないんや」と特に悪びれる様子もなく僕の部屋を見回していた。
勉強机とベッド、それから本棚があるくらいの殺風景な部屋だけど、特に変なものは置いてない。置いてない……はず。
モンファさんはジェシカさんの寝起きを襲いにきただけらしく、すぐにヨキさんに連れられて窓から出て行ってしまった。
ジェシカさんには部屋で待っていてもらい、一階に降りて朝食を作る。
トーストやスクランブルエッグなど大したものではないが、妹は文句を言わずに食べてくれた。
妹はトーストを小鳥がついばむように食べる癖があるのだが、見ているとなんとなく癒される。
「何見てるの?キモいんだけど」
しかし見つかるとこうなる。
とはいえ聞いておきたいことがあったので、話題をふった。
「なあ悠羅、たとえ話なんだが、突然外国人で小学生くらいの女の子が家にやってきて、今日からうちの子ですってなったらどうする?」
「なに突然、キモいんだけど。……あーでも、お兄ちゃんがついにそっちに目覚めて、誘拐して洗脳したのかなーという憶測をたて、通報する」
言い終わるとまたトーストをついばみ始めた。
妹の名前は悠羅。少し茶色めの長い髪をいつも耳の下辺りで二つ結びにしていて、おでこでピョンとはねたアホ毛がチャームポイント。感情によって動くという噂があるが、僕はまだ見たことがない。
妹は中学1年生にしては小柄なほうで、おそらくジェシカさんと背比べしても勝てるかどうか怪しいだろう。ちなみに水泳部。
実は、あることがきっかけで妹自身昔のことはあまり覚えていない。
それには僕の行動が大きく関わっていた。
かつての自分の愚行をまた思い出しそうになったとき、ポケットでスマホが振動した。
『突然ごめんなさい!お話ししたいことがあるので、学校まで来てください!』
中村さんからだった。
お話ししたいこと、か。悪魔にとりつかれている時に意識があるのかわからないが、意識があったにせよ、なかったにせよ、今回の一件に関する記憶は消されてしまっているだろう。
中村さんの家に上がったことや、校内で起きた窃盗事件に僕が関与していたことを第三者から聞いて、真実を確かめたい、というのが内容だろう。
朝食をさっさと済ませ、身支度を整えた。
ジェシカさんには留守番していてもらうことも考えたが、妹にバレるのが不安だったのと、なんとなく1人にしておくのが心配だったので、こっそり連れて行くことにした。
妹にお昼には戻ると伝え、家の外にでる。
僕が自室の窓に向かって手をふると、窓が開き、ジェシカさんが軽いステップでこちらにおりてきた。まるで忍者みたいだった。
ジェシカさんの提案で、人目の多い道を選んで歩いた。
一般人の目のあるところなら、協会も下手に手出しできないだろうという寸法だ。
普段登下校でしか使ったことのない道を歩いていく。
日曜日、つまり休日なので、人は思っていたよりも多かった。
渋谷や秋葉原なんかに比べると、オシャレなアパレル系のお店や1人では入りづらいカフェなんかの数は少ないけど、それなりに賑わっている。
外国人の観光客もいなくはない、という程度にいたので、ジェシカさん1人が浮いてしまうということもなかった。
ジェシカさんと歩いていると、妹と歩いているような気分になる。
たとえばこれが中村さんだったら、心臓が破裂していたかもしれない。
◇◇◇
もう少しで学校につく頃だというところで、後ろから声をかけられた。
「佐滋君、だよね。えーっと、そっちは、ジェシカさん、でいいのかな」
名前を呼ばれ、ビクッとして振り返ると、中村さんがいた。
白いシャツに青いハイウェストのスカート。それにカーディガンを羽織り、少し肌寒くなってきた今日くらいの時期にはちょうど良さそうな格好だった。
後ろから声をかけられたために、ジェシカさんを隠すことができなかった。
でもその必要はなかったし、むしろジェシカさんが隣にいてくれた方が円滑に話は進んだ。
中村さんは、僕のこともジェシカさんのことも、しっかりと覚えていたからだ。




