3-2 可愛すぎるんや
走って病院の敷地からでる。
敷地のなかでは、エクソシスト協会の人と思われる黒いスーツを着た人達が追いかけてきたけど、一般道にでたあたりで気配は無くなった。
病院からそのまま出てきてしまったためにジェシカさんは裸足だったので、コンビニでサンダルを購入し、ジェシカさんにはいてもらった。
公園のトイレでジェシカさんには黒いワンピースに着替えてもらった。
追いかけてくる気配はなかったが、なんとなく人目を避けて歩く。
「で、これからどうするんですか」
一応リュネットを助けるつもりだけどノープランだ、ということを伝えると、ジェシカさんは「ありえない!バカじゃないの!」という顔でこちらを見てきた。セリフは僕の想像だ。
「まさか、一旦家に帰るとか言わないですよね?悠輝さんは膨大な魔力を持っているので、協会に目を付けられています。私が悠輝さんを囮にできたのもそのおかげです。ですので、住所なんかとっくに知られています。家に帰ったら速攻捕まって、記憶消されますよ」
家に帰るつもりだったのは言うまでもない。
協会に住所が知られているのは正直失念していた。
リュネットを助けるつもりで病院を飛び出してきたが、手がかりは全くないといっても過言ではない。
リュネットを探すにしてもこのまま逃げるにしても、着の身着のままでは無理がある。
とりあえず家に帰ろうとおもう。
家が協会の人たちに占拠されていたら、また考えよう。
本当にノープランだな、と自分でも思う。
◇◇◇
辺りがすっかり暗くなったころ、我が家は見えてきた。街灯が照らす閑静な住宅街に我が家はある。ごく普通の一軒家だ。
ジェシカさんはふと思い出したかのように僕に言ってきた。
「そういえば、仮に家に帰れたとして、ご家族にはなんて説明するんですか?捨て猫を拾ってきた訳じゃないですし」
それに関しては全く問題ない。
父親は単身赴任で普段家にいないし、母親は仕事が忙しいらしく家には寝に帰るようなもので、帰ってこない日も少なくない。
妹が1人いるが、基本僕には興味を示さないので、それさえ誤魔化せれば家にあげるくらいのことはできるはずだ。
「そう、ですか」
少し不思議そうな顔をしていたが、納得してくれたようだ。
家の周りを入念に見回したが、協会の構成員と思われる人影は見あたらなかった。
だが安心はできない、辺りを警戒しつつ、家のドアを開ける。
開けた途端に何かあるということはなかったが、玄関の靴が2つ多かった。
黒のパンプスと茶色のローファー、父の靴でも母の靴でもない。だとすれば協会の構成員の靴だろうか。
ジェシカさんを玄関に残し、恐る恐るリビングをのぞいてみる。
テレビに向かって設置してあるソファアには妹がいて、部屋着でスマホをいじっていた。
「ただいま…」
「なにコソコソしてるの?キモイんだけど…ていうかお客さん来てるよ。ほらそこに、ってあれ?」
ソファアとは別の、キッチンに近い方のテーブルにはティーカップが2つ並んでいた。
お客さんてまさか、そう思った矢先だった。
「動かんといてや」
関西なまりの聞いた女性の声で後ろ、つまり玄関の方から制止された。
僕はそのまま動きを止める。
「もし動いたら…こうや!」
「んんっ!ん~っ!」
おそらく口をふさがれているのだろう。ジェシカさんが声にならない悲鳴をあげている。
ていうか僕うごいてないだろ。しかも声から察するにされてることが大したことじゃない気がする。
そう思い僕は振り返る。
「んっ!んんんんんっ!んんんん~っ!」
そこには栗色の髪をショートボブにしたロングスカートの女性がいた。
そしてその女性は口にガムテープの貼られたジェシカさんを押し倒し、そのワンピースの中に手を…
っておいおいおいおい!人の家の玄関でなにやってんだ!
急いで玄関に向かいジェシカさんを引っ張り出す。
「お、お姉ちゃん!?何やってるんですか!?」
その時だった。トイレからまたもや見たことのない人が出てきた。
今度は男性で、僕より年下くらいだろうか。
その少年ははショートカットの女性をお姉ちゃんと呼び、こちらにやってきて、ショートカットの女性を引き剥がし初めた。
「せーので、いきますよ。…せーのっ!」
なぜかいきぴったりで、ジェシカさんと女性を引き剥がすことに成功した。
◇◇◇
「うちの姉がすみませんでした…」
妹には二階にある自分の部屋に行ってもらい、キッチンに近い方のテーブルに僕とジェシカさん、そして見知らぬ2人と一緒に座った。
少年が僕とジェシカさんにへこへこと頭をさげている。
「もういいです。終わったことなので…それより、なんでこんな事してるんですか?私を捕まえに来たんじゃないんですか?」
声がちょっと震えてますよ、ジェシカさん。
というかジェシカさんとこの2人は知り合いなのか。おそらくはエクソシスト仲間といったところだろう。てことはこの状況、結構危ないんじゃないのか?!
「ウチらのことは仲間やと思ってくれてけっこうやで。」
突然現れてジェシカさんを襲った輩を仲間だなんて無理がある。
「仕方ないやろ。ジェシーが可愛すぎるんや。」
だからっていきなり襲うかよ。
少年が繰り返し「すみません。すみません」と頭を下げる。
少年の方がまともそうだ。この状況については少年に聞こう。
「大丈夫です。僕達は本部所属のエクソシストですが本当に仲間です」
この2人との出会いが、リュネットを救い出す大きな手がかりになるのは言うまでもないだろう。でもそれ以上に心配だったのは、ジェシカさんの可愛すぎるという罪だった。




