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エクソシストは死神の夢を見るかforZERO  作者: サトウイツキ
彼女の影を追いかけて
24/82

3-1 思い出

ゆっくりと目を開ける。


僕は病室の扉に寄りかかるようにして眠っていたようだ。少し首が痛い。


目の前ではジェシカさんがベッドに腰掛けて足をパタパタさせていた。

窓の外はもう茜色に染まっていて、焼けたような日差しが病室に差し込んでいた。

僕が病院に着いたのはお昼過ぎくらいだったから、結構長い時間眠っていたことになる。


ジェシカさんは僕が起きたのに気がつくと、ばつの悪そうに言った。


「えっと、すみません。取り乱しました」


僕はジェシカさんの過去を見ていたのだろうか。


両親の死、今まで信頼していた人が抱えていた闇、力の代償に成長しない身体。

そして、親友の死。


その小さく、抱き締めれば折れてしまいそうな身体で、いくつもの悲しみを乗り越えて来たのだ。いや、もしかしたら乗り越えられていないのかもしれない。だからこそ敵討ちという行為に及んだのだろう。

過去を見せてくれたのは、僕を囮にしたことに対するせめてもの償いだったのかもしれない。


「自分の辛い過去なんて、なんで僕に見せたんだ?自分の中にしまっておいたほうが楽なんじゃないのか?」


「何もかも失敗したんです。あの悪魔は倒しましたけど、おそらくリュネットに手をかけたのは別の悪魔です。それも協会にバレて、この通り、祓力ふつりょく剥奪を待つのみです。それに、この件に関わった以上悠輝さんのこの件に関する記憶は全て消されるでしょうし」


一つ気になることがあった。

ジェシカさんは、僕に過去を見せる前「どうせ記憶消されちゃいますからね」と言っていた。


それは悪魔のことが世間に知れて混乱するのを防ぐためだろうということはわかる。

だとすれば、祓力を剥奪されて普通の人になったジェシカさんも、協会としては危ないんじゃないのか?


「そうですね。祓力を持たない人間が悪魔に関する知識を持っているのは危ないですからね。同様に記憶を消されますよ。でなければこんな身の上話、しませんよ」


悪魔に関する記憶を消されるということは、全て普通の記憶に書き換えられるのか。


「本来はそうです。ですが私の場合、生まれた時から悪魔に関わってきたので、ところどころ抜けてしまうかもしれませんね」


少なくとも僕が夢で見た過去のジェシカさんは辛い思い出だけじゃなかったはずだ。

リュネットやジェシカさんのお兄さん、リュフワ家の当主との、楽しい思い出があったはずだ。

辛い記憶だけ消えてなくなるならそれでいいのかもしれない。でも、そうじゃない。

忘れちゃいけない記憶だってある。


それに、一つ引っかかっている事がある。


リュネットは本当に殺されてしまったのか、ということだ。


同じ場所にいたはずのジェシカさんが手当てをした人は殺されてそのまま放置されていた。

それなのにリュネットはそこにいなかった。つまり、連れ去られたのではないだろうか。

ジェシカさんの言うとおり、リュネットに手をかけたのがジェシカさんが倒した悪魔でないのなら、なおさらそういったことが考えられる。


なら、やることは一つ。


僕はテレビの置かれた台の引き出しを開けた。

中には黒いワンピースなど着替えが入っていた。

それを持ってきていたリュックに無造作に詰める。


「ちょ、何してるんですか!?」


「2つ聞きます。まず一つ目、記憶を消す時、物理的な接触は必要ですか?」


「え、いきなりなんですか!?えっと、必要なはずですけど…」


「もう一つ。リュネットが生きていたとして、助けられるなら、助けたいですか」


ジェシカさんは、着替えをリュックに詰める僕を妨害していたのだが、その動きは僕の言葉によって止まった。


「リュネットは死んだんです!!もう、受け入れようとしていたのに、どうしてそういうこと言うんですか!?そんなの、助けられるなら、助けたいに、決まってるじゃないですか…」


途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

うつむいていてもわかる。ジェシカさんは泣いている。

両手を握りしめて全身をこわばらせるように、必死に涙をこらえているようだった。


「どうして僕に過去を見せた?どうせ記憶を消されてしまうから腹いせに?違う。助けて欲しかったんじゃないのか?!辛くて、悲しくて、苦しくて、忘れたくても忘れられないことは、生きているなら山ほどある。でも、それ以上に、楽しくて、嬉しくて、忘れたくない思い出だって山ほどあるだろ!それが、それが…っ!」


しまった、思いっきり怒鳴ってしまった。しかし気づいたときにはもう遅い。

ジェシカさんはポカンとして僕を見ていた。

言いたいことを言い切るころにはなぜか僕の息はあがっていて、心なしか汗もかいていた。

僕はいつの間にかポケットにあったはずのキーホルダーを握りしめていた。


僕はそれをもう一度ポケットにしまうと、ジェシカさんに言った。


「とりあえず、逃げます」


まず、窓を全開にした。

戸惑うジェシカさんをお姫様抱っこしてその向こう側にジャンプする。


ちなみにここは、4階。


「きゃあああぁぁぁぁっっ!!」


ジェシカさんが悲鳴をあげるが気にしない。

幸い、下に低木の垣根があったので、僕が右膝をひねった以外特に怪我はなかった。


悲鳴を聞きつけたスーツの女の人が、病室に入ってくる。

そして窓からこちらを見ている。


軽く手をふった。


驚いたような怒ったような顔をしていたのだが、無視して、ジェシカさんの手を引き走り出す。


ジェシカさんは驚いていたが、僕がチラッとジェシカさんを見たとき一瞬笑みがこぼれたような気がした。多分本当に気のせいだろう。


なぜこんなことをしたのか、説明しろと言われたら僕は迷わず答える。



リュネットは絶対に生きているから、と。

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