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エクソシストは死神の夢を見るかforZERO  作者: サトウイツキ
僕が見た夢、少女が見た世界
23/82

2-10 夜の帳を血の色に

庁舎に着いたジェシカは、呼吸を整え、宙に手をかざした。


ouvertウーヴェルト


ジェシカが言うと、かざした手を中心に、色が消えていった。


「なに、これ…」


リュネットが驚いたように呟く。


「うーん、世俗的な言い方をすれば、『結界』というやつよ。よほどのことがない限り、現実に影響はないわ」


しかし、リュネットが唖然としたのは、結界のことではなかった。

ジェシカも、リュネットと同じものを見て、言葉を失った。


庁舎はレトロな造りで、三階建ての大きな建物だった。日本の『明治』という時代の建物をイメージして設計されたらしい。その割に洋風な造りの庁舎の中を、たくさんのエクソシストが忙しそうに歩き回っている、はずだった。


しかし庁舎は、二階と三階の部分がなくなっていた。


激しい戦闘が行われたのであろう。

しかし中から闘ってはいるような音は聞こえず、辺りは異様なくらいに静かだった。


「ここで待ってて。何かあったら大きな声をだすの、いい?」


まれにみる真剣な面持ちのジェシカに、リュネットはコクコクと頷いた。


かろうじて残っている庁舎の扉を、ゆっくりと押す。

ちょうどジェシカが入ることのできるくらい扉が開いたとき、壁と扉をくっつけていた頑丈そうな金属が壊れた。

大きな音をたてて扉が床に倒れたのだが、瞬間、ジェシカの鼻を嫌な臭いがついた。


一つは瓦礫などからでたであろう土や埃の臭い。

もう一つは、鉄のような臭い。しかし金属にしては生々しく、むせかえるような臭いだった。


警戒しながら庁舎のロビーを進んでいく。

ロビーの中央には二階と三階に上がるための大きな階段があるのだが、その階段にもたれるように座り込んでいる人がいた。

ジェシカは駆け寄り、状況の確認入る。


「いったい何があったんですか」


「あぁ…助けにきてくれたのかい…でも見ての通り、壊滅状態さ…ギリギリのところで結界を張ったんだが、僕もこの通り、長くは持たない…」


その人をよく見ると、右肩から大量の出血があって、その肩から先がなくなっていた。


「そんな…すみません、私に治癒能力はありません。とりあえず止血しますから…」


そう言ってジェシカは袖から包帯を取り出して、傷口に手際よく巻き始めた。

これはメイド時代に培ったものだ。


そんなジェシカを、今にも消えそうな声で制止する。


「僕なんかに構ってないで、現状を本部に知らせてくれ…それに君、『キャトルのジェシカ』だろう?本部の人間なら、わかるんじゃないかな…?」


「もう喋らないで下さい。死にたいんですか。それに、本部にならとっくに連絡してあります。もうすぐ応援が到着するはずです」


「そうか…流石は、といったところだね…ありがとう。もうひとりで歩けるよ。それより、他の仲間を助けてやってくれ…」


ジェシカは声なくうなずくと、その場を離れた。



◇◇◇



何人か構成員をみつけたが、そのほとんどは息がなかった。

ただ共通していたのは、皆、身体のどこかしらに何かが食い込んだような傷があることだった。


さっきの人が結界を張ったとき、悪魔を巻き込めていたとすれば悪魔はまだ、『こちら側』にいることになる。


だとすれば、魔力の多いリュネットは狙われる。


その時だった。

ジェシカは周囲に色が戻り始めていることに気がついた。つまり、結界が解かれつつあるのだ。


結界を張った人、つまりあの人が解除したか、あるいは…

嫌な予感が頭をよぎる。


ジェシカはリュネットの元に走った。



◇◇◇



壊れて倒れた玄関の扉を踏み越えて、庁舎の外に出るとその人はいた。ジェシカが応急手当てを施したあの人だ。


しかしその人は、関節という関節が本来曲がるべきではない方向に曲げられていて、投げ捨てられた人形のようになっていた。

当然息はなく、辺りに飛び散った血液が、その凄惨さを物語っていた。


そしてそこにリュネットはいなかった。


何度も呼びかけてみるものの、返事はない。


必死に呼びかけるジェシカの足元に、何かが当たる。


それは、赤い血の色に染められた、リュネットのキャップだった。


それを拾い上げたとき、ジェシカの中で何かが壊れたような気がした。


「リュネット…リュネット…っ!」


地面にペタンと座り込み、泣きじゃくるジェシカ。

血に染められたキャップを抱いて、最愛の人の名を呼びながらただ泣いていた。



夜の帳を照らす三日月だけが、ジェシカを優しく照らしていた。

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