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エクソシストは死神の夢を見るかforZERO  作者: サトウイツキ
僕が見た夢、少女が見た世界
20/82

2-7 ローストビーフが美味しいうちに

「私の両親を殺したのも、おじさまを殺したのも、ご主人様、あなたですよね?」


ジェシカの紅い瞳には、十字架は宿っていなかった。悪魔祓い(エクソシスト)の力を手に入れたときになくなったらしい。

しかし今はそんなこと関係ない。紅い瞳は、ただ自分の主人を見据えていた。


「ご主人様は、この家を自分ひとりのものにするつもりでしたね。ですから、自分の夫であるおじさまや、娘のリュネット。それから私とお兄ちゃ・・・兄が邪魔だったんですよね。だから、殺した」


「な、何を根拠にそんなことっ!」


声を荒げるおばさま。勢い良く立ち上がったせいでナイフとフォークがカチャリと音をたてる。

ジェシカは構わず続けた。


「まずおじさま。重い病気だった、というのは嘘ですね。おじさまが亡くなる前日までは、お兄ちゃ・・・兄に剣の稽古をつけることができるくらい元気でしたから。それにおじさまは、リュネットのことが大好きでした。苦しむことなく死んでゆく病気だったとしても、リュネットに最期の挨拶もないのはおかしいですよね」


リュネットは驚きを隠せなかった。ただ、不安げにジェシカを見つめているだけだった。


「それからパパとママ。私が両親の訃報を聞いた日、屋敷の使用人が、こんな会話を聞いています。ゴシップ好きの方だったので、録音していたそうです」


ジェシカは、古いモデルの携帯電話を取り出すと、音量を最大にして、決定キーを押した。


『よくやったわ・・・ええ。報酬は例の講座に振り込んでおいたわ・・・』


静かな空間に、おばさまの声が響く。


「わかりやすい会話でよかったです。おそらく、空港のえらい人たちにお金を積んで、パイロットに遅効性の睡眠薬を盛り、飛行機を墜落させたのでしょう」


「そんなのあなたの想像でしかないじゃないの!!」


「まあ、そうですね、ですがもう一つ。先日の悪魔の一件です。あの悪魔は、歩いているだけで屋敷中の窓や壺を壊してしまうような大きさでした。それがどうやってリュネットの部屋に侵入したんでしょうか?協会の人達から聞いた話ですが、悪魔のよりしろとなってしまった狼には、鞭などで叩かれた傷が多くあったそうです。ご主人様が狼を調教して、リュネットの部屋に放ったんじゃないですか?悪魔が取り憑いたのは、計算外だったと思います。屋敷がめちゃくちゃですからね」


おばさまは、爪を噛み、ジェシカを睨みつけていた。


リュネットは目を見張り、自分の母親の言葉を待った。

否定してほしかった。私はそんなことしてない、真犯人は別にいる、と。

あまり好きにはなれなかったし、貰った愛の数だって、父親に比べたら少ないだろう。でも、それでも、自分の母親なのだから。


そんなリュネットの期待を裏切るようにおばさまは言い放った。


「そうよ!全部、全部私がやったのよ!あなたの母親とはね、昔ちょっと遊んだことがあったのだけどねぇ!たったそれだけで友達だと思っちゃって、格が違うのよ!あなたさえ、あなたさえ、いなければ!」


憎悪の籠もった声だった。

おばさまは、服の袖から黒い鞭を取り出した。鞭の先には赤い汚れがついていて、狼の無念が籠もっているようだった。服の袖にしまって持ち歩いていたことを考えると、狼を叩いただけの汚れではないかもしれない。


おばさまはそのままジェシカに歩み寄ると、鞭を振り上げた。


ジェシカは避けることはなく、ただ右手に持った『それ』を強く強く握りしめた。


リュネットは目を反らしたが、思っていたような音は聞こえなかった。


恐る恐るジェシカ達の方を見ると、ジェシカと、母親と、もう一人。

その人は、今にも振り下ろされそうな鞭を掴んで止めていた。


その人は金髪のオールバックで、デニムのズボンに白いシャツ。スッキリしている割には全体的にチャラチャラした雰囲気だったけど、その目はしっかりとジェシカを捉えていた。


「大丈夫か?」


「お、お前…!」


おばさまが動揺するのも無理はない。

その人は、事故の真相を追う為に6年前、この家を出て行った少年。


「お、お兄ちゃん!?」


ライアンだった。


「まあ、大丈夫そうだな。とりあえず、それを置け」


ハッと我に返る。少し気まずそうな顔をして、ジェシカは右手に握りしめていた『それ』をテーブルに置いた。

それは、ローストビーフを食べやすい大きさに切るための道具。ナイフだった。


「他にもあるだろ」


「なんでわかるのよ…」


ジェシカは文句を言いながら、スカートの裾を少し持ち上げて揺らした。

すると中から、拳銃、ナイフ、スタンガンなど物騒なものが落ちてきた。それも一つや二つではなく、ひとりで抱えて持ち運ぶのは難しいくらいの量だった。


「まだあるだろ」


ライアンは言う。


ジェシカは諦めて、履いていたブーツの底からナイフを二本、ゆったりしたアームカバーから小型の機銃を二丁と手榴弾が一つ出てきた。


「こんなもの一体どこにあったんだよ…」


「クローゼットの奥に隠しておいたの。今日のために。この離れ、前に戦争があったときに負傷した軍隊を迎えたって話を聞いたから、探してみたら、意外と簡単にみつかったの」


ライアンは呆れてものもいえなかったが、今度はおばさまの方を向いて言った。


「ババァは俺と一緒にきてもらうからな!」


おばさまはライアンの手を払おうとしたが、思っていたより力が強く、払えなかった。

しばらく悔しそうな顔をしていたが、そのうち堪忍したのか、「私の負けよ・・・」と呟いて力無くうなだれた。


ローストビーフは放置され美味しくなくなっていたのだが、誰も気づかなかった。

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