2-2 師匠とリュネット
ある日、ジェシカとリュネットは森に遊びに行った。
別に目的があるわけではないが、
「今日は森に行ってみようよ!」
「ちょっと危ないんじゃないかな…」
「私がいるから大丈夫だよ!」
「…うん!」
という会話があったことだけが確かだった。
ジェシカとリュネットはどんどん森に入っていく。
リュフワ家の敷地内なので、迷子になる。なんてことはない。
はずだった。
「じぇしかちゃん・・・さっきもここに来た気がするんだけど…」
「え?そうかなー?」
まだ時間が早いので、迷ったからどうなる、という訳ではないのだが、『なんとなく迷ったかもしれない。』という意識が、リュネットを不安にさせた。
つまり、ジェシカはなんとも思っていなかった。
「まだお昼前だからへーきへーき!それにこの森には果物のなる木だってたくさんあるじゃない!」
「大丈夫かなぁ?」
ジェシカとリュネットは、どんどん奥に進んでいく。
◇◇◇
澄んだ小川を見つけた。
覗き込むと、自分の顔が映っている。「鏡みたい!」とジェシカが言った瞬間、(ジェシカ達にとっては)大きい魚が跳ねた。
それによって発生した水しぶきは、ジェシカの顔を直撃したので、リュネットはすかさずハンカチを取り出し、顔を拭いてあげた。
巨大な岩を見つけた。
それは、ジェシカ達の3倍はあろうかという大きさで、苔がびっしりとついていた。
森の中のはずなのに、岩のある場所だけ妙に開けていて、どこか神秘的だった。
「おっきいなー…」
「ねえ、じぇしかちゃん」
純粋に感想を述べるジェシカに、リュネットは問うた。
「私達、これからも一緒にいられるかな」
リュネットは、なぜだかこれが最後の思い出になってしまうような気がしたのだ。
岩の大きさに圧倒されてしまったのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
とにかく、聞かずにはいられなかったのだ。
ジェシカは、一瞬ポカンとしてから、リュネットの方を向いて言った。
「当然だよ!」
屈託のない笑顔だった。
心の隅っこにあった不安とかいう感情は、ジェシカの笑顔で吹き飛んでしまった。
涙がこぼれてくる。なぜだろう。なぜこんなに嬉しいんだろう。嬉しいはずなのに、涙がでてくる。自分の感情がよくわからなくなってしまった。
そんなリュネットをよそに、ジェシカは岩の裏で何かを見つけてきた。
「見て見て!りゅねっと、これさっき岩の裏で…え!?なんで泣いてるの!?どこか痛いの!?えーとえーと…あ、そうだ!いたいのいたいのとんでけー!…どう?痛くない?」
岩の裏で見つけた何かを握りしめたまま、ジェシカはあたふたしている。
そんな様子を見て、りゅねっとからふっと笑いがこぼれる。
「うん、もう大丈夫。ありがとね」
「よかったぁ~」
そのときだった。ジェシカが握りしめているものから、キュウ、という音がした。
それは確かに握りしめているそれから発せられたものであり、何かの鳴き声のようでもあった。
2人はびっくりして、ジェシカの手の中にあるそれを、ゆっくりと見つめた。
黒い球体だった。
それは本当にただの球体だったが、石のような硬さは無く、ゴムボールのような感触だった。
気のせいかー、と思ったのも束の間。黒い球体は、その目を開いた。
勢い良くジェシカの手から飛び出すと、空中でパタパタと羽ばたいてこちらを見つめていた。
一つ目のコウモリ、というよりは、眼球にコウモリの翼がついているという表現が適切だろう。リュネットは驚いてそのまま固まってしまったが、ジェシカは黒い球体を眺めていた。
「…かわいい。」
「え?」
硬直が解けたらしいリュネットは、ジェシカの言葉をもう一度訪ねてみた。
「…かわいい!かわいいから飼う!」
ジェシカは、言ったら聞かない子だったので、リュネットは諦めていた。
「むふふー名前何にしようかなー?」
それに加え、この得体の知れない生物もジェシカのことを気に入っているようだったから、今更やめた方がいいなんて言うのは違う気がした。
リュネットからしてみれば、少し不気味だったけど、ジェシカとそれが仲良くしている姿を見ると、ちょっとだけかわいく見えなくもないので、一応賛成。ということにした。
ところがここで一つ問題があった。
太陽が高いところにいた。
つまり、お昼である。
「おなかすいたーもう動けない…」
ジェシカがこんなことを言い出すものだから、リュネットはどうしようかと悩んだ挙げ句、その辺の木の実をかじってみることにした。
しかしこの作戦は失敗に終わった。
一つ目に食べた木の実があまりにも苦く、心が折れてしまったのだ。
ところが、ジェシカが飼うと言った謎の生物が、背中に同じ果物を載せて飛んできた。
同じくらいの大きさなので、ちょっと大変そうだった。
「なにー?くれるの?わーい…」
木の実はジェシカの手に渡り、ジェシカはそれを一口かじった。
「あっ、じぇしかちゃんそれ…」
止めようと思ったけど、ちょっと遅かった。
「おいしい!」
「え、うそ」
「ホントだよ!食べてみて!」
苦いはずなんだけどな、とおもいつつ、リュネットは一口かじってみた。
「ほんとだ…甘い!」
しゃりっとしていて、みずみずしかった。
疲れた体と空っぽのお腹に染み渡っていくようだった。
よく見ると謎の生物が持ってきた果物は、リュネットが最初にかじったものよりも、色が濃かった。つまり、熟れていたのである。
「すごいわ!色が濃いのが熟れているって、知ってたのね!」
リュネットは素直に褒めた。
するとジェシカはなにかを思いついたといううように、謎の生物を両手でつかんで持ち上げた。
「決めた!この子の名前は師匠!なんでも知ってそうだから!」
かくして、師匠とジェシカは出逢ったのであった。




