1-12 黒いスーツは突然に
「よお。同業者」
空から現れたその人は、黒いスーツを着た男の人で、金髪だった。スーツも着崩していて、全体的にチャラチャラしていた。
会社員、というよりは、ホストを思わせるような姿だった。
そして、右手に身の丈ほどある巨大な鎌を持っていた。
「まったく。めんどうばかりかけさせやがって」
ゆっくりと地面に着地すると、その辺に鎌を投げ捨てた。投げられた鎌は空中で燃えるように消えて無くなった。
ホストみたいなその人は、ジェシカさんを見て呆れたような顔をしたあと、
お姫様抱っこした。
唖然とする僕に「お前は自分で歩け」という視線を送って来たので、とりあえず立ち上がった。
その人が地面を強く踏むと、扉が現れ、開いた。その向こう側は真っ暗闇だった。
「来い」
色々聞きたい事はあるけど、今はこの人についていくしか無さそうだ。
◇◇◇
病院に呼び出されたのは、それから一週間以上後の事だった。
ぼくは、貧血で倒れて病院に搬送された。ということになっていた。
肩にあったはずの傷はきれいさっぱりなくなっていて、黒い物体も無かった。
ただの貧血なので、その日のうちに帰してもらえたが、この一週間気が気でなかった。
ジェシカさんやエクソシスト協会からの連絡は一切なかったし、中村さんも学校に来ていなかったからだ。
よくない想像が僕の頭をよぎる中、メールがあった。
「お話したいことがあります」
たったこれだけだったけど、すぐにわかった。
僕が貧血で運び込まれた病院に向かうと、あのときとは違うしっかりとスーツを着た、秘書風の女の人が今回の件について詳しく教えてくれた。最初から最後まで、およそすべてを。
本人と話がしたい。そう言った僕を女の人は病室に連れて行ってくれた。
◇◇◇
病室は個室で、奥に窓があった。
大きなベッドと、それに連結できるように設計されたテーブル。部屋の隅には小さなテレビが置かれた台があるだけの、殺風景な部屋だった。
ジェシカさんは、そこにいた。
「どこまで、聞いたんですか」
「たぶん全部」
ジェシカさんは髪を下ろしていた。無造作に散らばった白い髪は、シーツの白に溶けるようにして垂れていた。
「全部聞いた。でもちゃんと、ジェシカさんの口から説明してほしい」
気づけば言葉になっていた。本人の口から聞いたって、なにか変わる訳でもないのに。
「そうですね。きちんと私の口から説明します
最初から、あなたを利用してたんですよ。差滋悠輝さん」




