1) 私の1日
注意!!
この話には擬人化要素があります。
擬人化が苦手な方はUターンしましょう。
目を覚ますと、見なれた天井が映る。
「...うー...ん、」
時刻は日の出の少し前。ぬくぬくとして快適な部屋から何とか這い出て、外の気を吸い込む。
「...うん、おはよう。」
今日も、1日が始まる。
ここ、秋亀荘にいる人々の中には仕事を持つ者もいるが、私にはこれといった仕事が無い。自分の部屋でごろごろダラダラして1日を過ごすこともあるが、今日は日光を浴びたい気分なので、外に出ることにする。
広い屋上に出て、大きめのベンチに横になる。暖かな日差しが、私を包む。
どこまでも青い空には、雲が1つ、2つ。数えているうちに、私はまどろむ。
と
「一澄、何してるの?」
声とともに、私の視界が遮られた。
「!?」
慌てて飛び起きると、相手も目をパチクリさせた。
「わわ、何か邪魔した?」
「え、いや...あ、なんだ、環奈ですか」
逆光になってて分からなかったが、親友の環奈だった。
「一澄はここで何してたの?」
「え?...日光浴してただけですけど...そっちこそどうしました?」
「いや、真紀が外に遊びに行きたいって言いだしたからさ、一澄も一緒に来るかなって」
「真紀が、ですか...」
わーい外だー、とはしゃぐ真紀の顔を思い浮かべる。
「断ったら後で何か言われそうですね...」
ため息をつくと、環奈が目を輝かせる。
「じゃあ行く?」
「ん...まあ、やることありませんし」
「そう来なくっちゃ!! ささ、行こ!!」
いつになくハイテンションな環奈に手を引かれ、私は屋上を後にした。
「お待たせ、真紀」
「遅いよ環奈、何してたの?」
案の定、門の前では真紀が怒っていた。
「ごめんごめん、一澄連行してきた」
「え、私ってそういう扱い...」
「わーい一澄だぁーーー!!」
私の顔を見た瞬間、真紀は飛び付いてきた。さっきの不機嫌はどこへやら。
「良かった良かった、ところで真紀はどこに行きたいの?」
「待って良くない」
「えーとね、お花見行きたい!!」
「真紀、お花見は今度皆で行くから我慢して下さいね。それからちょっと離れて下さい、苦しいです」
「あーそっかー...」
とても残念そうだが、とりあえず私からは離れてくれた。
「どうしますか環奈、この人お花見しか考えてませんよ」
「うーん...あんまりお金がかかるところは行けないし...動物園にでも行く?」
「動物園?」
あ、真紀が反応した。
「真紀、動物園行く?」
「...うん」
真紀はまだお花見に未練があるようだが、小さく頷いた。
「よし、行き先も決まったことだし、行きますか!!」
「わーい外だー!!」
「何がいるでしょうか...」
私達は目の前の門をくぐる。その先は、真っ白。
次の瞬間、目の前には動物園があった。環奈の手を引いて走り出す真紀。私はそっと振り返る。くぐってきたはずの門は、そこには無い。
大丈夫。帰りたくなったらまた門は現れる。ただし、私達に与えられている時間は、1日の4分の1。それを過ぎれば、私達は2度と、秋亀荘には戻れない。
「私だけでも覚えておかなくては」
ひとり呟いて、私は2人の後を追いかけた。
「思ってたより疲れるね...」
私達は、売店で買ったアイスを食べながら、ベンチで休憩していた。
「敷地広すぎですって...もっと運動しておけばよかった...」
「あー、アイス美味しいね...本当に美味しい...」
「ねぇ一澄、環奈、あれ乗ろ!!」
いつの間にアイスを完食した真紀が指さす先には、観覧車があった。
「何で動物園に観覧車が...」
「お、楽しそう。乗っちゃう?」
「やったー、環奈わかってるー!!」
「よし、じゃあ私と一澄がアイス食べ終わったら行こうか」
「わーい!!」
なんか私も乗る流れになってる気がする。
「わー、綺麗ー!!」
真紀は窓にべったりくっついて、外の景色を見ている。
「...楽しい?」
私の向かいに座った環奈が、不意に聞いてくる。
「......そうですね、普段は中々経験しないことなので」
そう答えると、環奈は笑った。
「...それはよかった」
観覧車はゆっくり廻る。私も窓の外に目をやった。動物園を囲む森の向こうに街が見える。その更に向こうは一面の海だった。
「......綺麗」
思わず口をついて感嘆がこぼれた。
「...一澄、水が好きだもんね」
変な角度から返ってきたと思ったら、声の主は真紀だった。
「真紀...やっと大人なこと言えたね」
「ちょ、それどういうことー!?」
何か変なことを言いだした環奈に、真紀は頬を膨らませた。
「あー楽しかったねー!!」
お土産の入った紙袋を振り回して、真紀はご満悦のようだ。
「今度は百合乃たちも連れていきたいね」
「そうですかね...私は疲れました」
足が痛い。この場で寝てしまいたい位だ。
でもそれはいけない。
「それじゃ、環奈、真紀、帰りましょう」
「うん、帰ろう」
「オッケー!!」
すると、目の前に秋亀荘の門が現れる。
3人でそれをくぐれば、もうそこは秋亀荘の敷地内だ。
「...ただいま」
「お土産だよー!!」と叫びながら玄関に駆け込んでいった真紀を見ながら、小さく呟いた。
自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込む。
ここは、他の人は入れない、私だけの部屋。
「疲れた...」
私は、今日見てきた動物達や、観覧車から見えた海を想い起こして、笑った。
「今日も楽しかった」
ここ秋亀荘に来て、どれくらい経っただろう。ここに来てから、毎日が発見だ。この世界は面白い。太陽が輝き、地球はその光を受けて生命を育む。終焉を迎えた生命は再び地球へと還るのだ。
私は、この世界に存在し、かつ、この世界を知らなかった。
ここに来て、「人」となるまでは。
第1話、読んでいただきありがとうございます。
どうだったでしょうか。こういう場に小説を投稿するのは、これが初めてなので...見辛いなどあれば、是非教えてください。待ってます。
まだ3人しか登場しておりませんが、だんだん増えてくるのでお楽しみに(名前だけならもう1人出てますし)。