表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いきつけのばっちいラーメン屋さん

作者: 鬼丸

あるところにタケシ君という小学3年生の男の子がいました。

タケシ君は誰とでも仲良くなれる子でたくさん友達がいました。

その中でも特にタケシ君が大好きなのは「ばっちいラーメン屋さん」でした。

ばっちいラーメン屋さんは、タケシ君が住んでいる町の端っこに立っているばっちいラーメン屋のおじさんです。

タケシ君は毎月のお小遣いをもらうたびにばっちいラーメン屋さんに行きました。

ばっちいラーメン屋さんはばっちいせいか大人のお客さんしかいません。

そこにタケシ君が一人で行って一人でラーメンを頼んで一人で食べる。

そうすると大人になれたような気がするので、タケシ君はばっちいラーメン屋さんが好きだったのです。

そんなある日、タケシ君が家に帰るとなぜかお母さんが泣いていました。

「お母さん、どうしたの?どうして泣いているの?」とタケシ君が聞くとお母さんは言いました。

「お父さんが病気になって入院しちゃったの、それが悲しくて泣いていたの」

大変だ、とタケシ君は思いました。

お父さんがいつ戻ってきてくれるかわからない。

お母さんが忙しくなるから自分も色々と手伝ってあげないといけない。

お金も無くなるだろうからお小遣いももらえなくなるかもしれない。

タケシ君の心は不安で一杯になりました。

でも、タケシ君は男の子だったのでお母さんをなぐさめてあげないといけませんでした。

「お母さん、僕が色々手伝うからもう泣かないでよ。がんばろうよ」

それを聞いたお母さんは「そうだね、がんばろう」と言ってくれました。

それからタケシ君の生活は色々変わりました。

家のことを手伝ったり、家に帰っても誰もいなかったり、小遣いが減ったりしました。

どれも大変でしたが一番嫌だったのはばっちいラーメン屋さん行けなくなったことでした。

お小遣いが減ったのでラーメンが食べれなくなったのです。

最初はガマンしようとしていましたがガマンできなくなったタケシ君はばっちいラーメン屋さんに行くことにしました。

いつもと同じように店に入って、いつもと同じように席に座りました。

でも、いつもとは違って緊張しまくっていました。

今日のタケシ君は2百円しか持ってないからラーメンを食べることはできません。

もしも、それが分かったらものすごく怒られてしまうかも……。

そう考えたら怖くて怖くて仕方なくなってきました。

タケシ君がそうやっていたらばっちいラーメン屋さんのおじさんが言いました。

「どうした?いつものラーメンでいいのかい?」

もうだめだ、と思ったタケシ君は泣き出してしまいました。

「ご、ごめんなさい、きょ、今日は2百円しか持ってなくて、でも、どうしても来たくて、それで来て、でも、すぐに帰るから、許してください」

泣きながらあやまるタケシ君を見ておじさんは言いました。

「あー……実はその、なんだ、今日はたまたま子供だけは2百円でラーメンが食べれる日なんだわ」

「え」

タケシ君は驚きました、そんな日があるなんて聞いたこともなかったのに。

「もしかして……安くしてくれるの?でも、いいの?」

「違うって、たまたま、たまたま子供にサービスする日になってたの!」

「でも……」

「いいから!もう作っちまったからさっさと食べろ!いいな!」

「うん……ありがとう、おじさん……」

それはタケシ君が今まで食べた中で一番美味しいラーメンでした。

タケシ君は前よりずっとずっとラーメンとおじさんが好きになりました。

それからもタケシ君はばっちいラーメン屋さんに行きました。

タケシ君が行く日はいつも「子供だけラーメン2百円の日」でした。

それから何年もたちました。

あれからお父さんの病気は治りましたが、大きくなったタケシ君は遠くの学校に通うようになっていたのでばっちいラーメン屋さんには行けなくなっていました。

さらに何年も過ぎてタケシ君は大人になりました。

大人になったタケシ君は町に戻ってきました、町で働くためです。

タケシ君はすぐにばっちいラーメン屋さんに行きました。

おじさんは前と同じようにラーメンを作っていました。

「おじさん!またラーメン食べに来たよ!もうサービスしてくれなくても大丈夫だからね!」

「当たり前だ、大人にサービスする日は無いからな。ちゃんと払ってもらう」

怒っているようだけど喜んでいるようにも見える、そんな顔をおじさんはしていました。

ラーメンが出来るのを待っていると、横に男の子がいるのに気がつきました。

昔の自分と同じように、テーブルの上に2百円置いています。

「おじさん、もしかして今日は……?」

「今日はたまたま子供だけサービスの日でな、いや、本当にたまたまだぞ?」

タケシ君はおじさんが変わっていないのが分かって嬉しくなりました。

そこでタケシ君は1000円出しておじさんに言いました。

「今日は俺、子供におごる日になってたんだよ。だからこの子の分も俺が払うよ」

「……まぁ、お前がそうしたいならそうしな」

「そうする」

タケシ君がその子といっしょにラーメンを食べながら話をすると、やっぱり昔のタケシ君と似たような話でした。

タケシ君は言いました。

「がんばるんだよ?この店のおじさんはいつでも美味しいラーメン作って待っててくれるからがんばるんだよ?」

それを聞いた男の子は泣きながら何回も何回もお礼を言ってから帰って行きました。

「俺も、もっともっとおじさんのように子供にやさしくしてあげていかないとな」

「たまたまだ、たまたま子供にサービスする日だったんだ、別にやさしくなんてしてない」

「はいはい、わかりました」

その後、ばっちいラーメン屋さんのお客さんの間で新しい決まりができました。

「大人のお客さんは子供のお客さんをできるだけ助けてあげること」

「子供のお客さんは助けてもらった分だけ色々とがんばること」

こういう助け合いの決まりでした。

その話はすぐに広がってお客さんが前よりも増えました。

そんなばっちいラーメン屋さんには今日もたくさんの笑顔とたくさんのお客さんがあふれています。

もし、あなたがばっちいラーメン屋さんを見かけたらぜひ食べていってあげてください。

タケシ君やおじさんが笑顔で待っているはずですから。

おしまい





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ