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第19話「首ちょんぱにっく(3)」

 赤コーナードゥラハン!

 青コーナー挑戦者ルーファス!

 戦いのゴングがカンっと鳴り、ルーファスはそっちを振り向くと、実況のアナウンサーがいた。

「チャンピオン優勢と言われる中、挑戦者はいかに戦うのか。見物ですねぇ」

「挑戦者は今日のために必殺技の特訓を積み重ねてきたらしいからね」

 と、アナウンサーの横には謎の解説者。

 思わずルーファス。

「だれだよっ! 必殺技なんてないしっ!(ツッコミどころ満載過ぎる。本当にここは僕とドゥラハンの剣の精神界?)」

 ルーファスの精神が反映されていないとしたら、ボクサーのシチュエーションはドゥラハンの剣のせいということになる。

「(なんでボクサーなんだろ)」

 悶々と疑問を抱えながら、もうすでにゴングは鳴っている。

 ドゥラハンに抱えられた生首がニヤリと笑った。ルーファスの顔を持ちながら、ルーファスではない表情。すでに首は呪われた剣に囚われてしまっている。

 現実世界で錆びついていた剣は、生々しく血を滴らせていた。

 剣は振り上げられるとともに血のりを散らし、ルーファスに向かって襲い掛かってくる。

 ルーファスはグローブを構え、一瞬だけファイティングポーズを決めた。

「って、すでにボクシングじゃないし!(そもそもボクシングできないし)」

 すぐさま魔法詠唱をはじめる。

「ライトボール!」

 とりあえず悪霊っぽいモノには光あれ!

「うわっ!」

 声をあげたのはルーファスだ。

 魔法を唱えたと同時に目の前に現われたのは、ハゲオヤジ!

「だれだよ!」

 と、ツッこむしかなかった。

 馬のヒヅメが聞こえる。ドゥラハンはすぐそこまで迫っている。

 オヤジになんて構ってられない。さらに詠唱をする。

「フラッシュ!」

 ピカーン!

 ハゲオヤジの頭がまばゆい光りを放った。

 チラッとハゲを視ながらルーファスはシカトを決め込んで、さらに連続して詠唱する。

「ライトボール! ライトボール! ライトボーッズ!」

 ハゲの僧侶が3人あらわれた。

「なんなのこの世界!」

 精神界は混沌としていた。

 ルーファスは眼が合った。

 ニヤリと下品に笑う自分と――。

 ビュュュュッン!

 血塗られた魔剣が風と共にルーファスのないハズの首を斬った。

「ヒィィィィィッ!」


 ガバッ!

 叫びをあげたルーファスが冷や汗を垂らしながベッドから跳ね起きた。

 跳ねたのは生首だ。

 前方に見えるのは自分の後ろ姿。胴体が勝手に部屋を駆け出していく。

 部屋の隅からうめき声が聞こえる。

「……ッ、油断した」

 ファウストだ。なんとファウストが床に尻餅をついて倒れているではないか?

「ルーファスすぐに追え! おまえの胴体は凶暴化しているぞ!」

「えっ、追えって言われましても」

 首だけどうしろと?

 ルーファスは視線を動かしビビを探したが、部屋にいないようだ。

「あのビビは?」

「おまえの胴体が追っているのがビビだ」

「ええっ!? ど、どうしてですか?」

「胴体をくすぐっておちょっくったからだ。奴はかなり怒っているぞ」

「くすぐった……?」

 疑問符が浮かぶ。

 くすぐったかったか?

 感じない。

 くすぐったさだけではなく、今胴体が廊下を走っているであろう感覚も感じなかった。

「あのぉ、ファウスト先生」

「いいから早く追わないか」

「いや、その……胴体の感覚を感じなくなってしまったんですが……」

「まったくか?」

 ファウストは眉をひそめて神妙な面持ちをした。

「はい、まったく」

「危険な状態にあることは間違いない。首と胴体の繋がりが薄くなっているのだ。つまり、早く胴体と首を1つにせねば、別々の存在となるだろう」

「……すごく困ります」

「ならば早く胴体を追え」

 と言われても困る。

 ファウストは手のひらにおでこを乗せて頭を抱えると、そのまま前髪をかき上げて顔をあげた。

「世話の焼ける教え子だ」

 グイッとファウストはルーファスの生首を抱えた。

 そして、そのまま保健室を飛び出した。

 廊下を駆け抜けていると、出くわした生徒がいきなり指を差してきた。

「さっきの!」

 指を差されたのは生首だ。

 すぐにファウストは察した。

「胴体を見たのだな?」

「は、はい」

 生徒はこくりとうなずき、ファウストはさらに尋ねる。

「どこへ向かったのだ?」

「あっちです」

 生徒は階段を指差した。

 そちらへ顔を向けると上のフロアから悲鳴が聞こえた。

「ビビだ!」

 ルーファスが声をあげた。

 すぐさま階段を駆けのぼる。

 いた!

 階段をのぼり切って、右手の廊下に目を向けると、ビビが首なし胴体が振るう魔剣を必死に跳んで跳ねてしゃがんで避けているところだった。

 ビビがこちらに顔を向けた。

「助けて!」

 ファウストは魔法を唱えようとする。

「シャドウソーイング!」

 足止め魔法だ。相手の影を拘束することにより本体も拘束する。

 しかし、まさかの事態が起きた。

 首なし胴体が魔剣を振るった。その刃が向けられたのは己の影。なんと物質である剣が影を切ったのだ。

 そう、影縫いの影貼りを斬り飛ばし、拘束を解いたのだった。

 ファウストが苦々しい顔をした。

「(やはりルーファスだとは思わんほうがいいらしい)」

 首なし胴体はルーファスの能力値を上回っている。もはやブンブンではなく魔剣士なのだ。

 無断のない動き。力強い剛剣の刃がファウストに襲い掛かる。ビビよりも先に始末する相手だと認識されたのだ。

 と、ファウスト対[バーサス]ドゥラハンの本格的な戦いがはじまろうとしている中、抱きかかえられたままのルーファス。

「先生ちょっと!」

 叫んだルーファスの鼻先を刃が掠めた。

 冷や汗たらり。

 再び魔剣が斬りかかってくる。

 生首を抱きかかえたままでは不利だ。

「受け取れ!」

 投げた。

 ファウストがビビに向かって生首を投げた。

「ぎゃああああっ!」

 叫ぶルーファス。

「えっ、ちょ……ムリ!」

 慌てて右往左往ステップを踏むビビ。

「……あ」

 と、小さく蒸らしたビビの頭上を生首が飛んでった。

「うわぁぁっ、だれか受け止めて!」

 叫んだルーファスの目に飛び込んでくる廊下。落ちたら痛そうっていうか、頭蓋骨が陥没しそうだ。

 もうダメだ!

 っと思ったとき、どこからとも無く手が差し伸べられた。

 スッと生首と廊下の間に差し伸べられた手。

 ちょうど通りかかった女子バレー部員だった。

 そうだ、バレー部なら床スレスレのボールだって拾える。

 生首に手が触れ――跳んだ!

 生首がまるでバレーボールのように跳ばされた!

 バレーはボールを床に落としてもイケナイ。そして、キャッチしてもイケナイのだ。つまりいつもの習性で、ボールに見立てた生首をポーンと上へ跳ばしてしまったのだ。

 近くにいた別のバレー部員が空かさず動いた。ルーファスの真下だ、ここなら確実にキャッチできる。

「トス!」

 ポーンと生首が打ち上げられた。

 だよね、ですよね、ボールが来たらトスするよね。だってバレー部員だもの。

 となれば、オチは決まっている。

 第3のバレー部員が颯爽と駆ける。

 ぞしてッ!

 華麗に高くジャンプしたかと思うと、反るほどに振り上げた腕を振り下ろす!

 レシーーーッブ!!

「フゴォォォッ!」

 無残な悲鳴をあげて生首がぶっ飛ぶ。

 鼻血、鼻水が入り乱れる展開!

 生首が飛んでった場所は首なし胴体だ。

 魔剣が構えられる。

 なんとバッターの構えだ!

 カッキーン!

 剣の腹でハエを叩くように生首が打ち返された。

「ヌベッ」

 気を失っている生首から異世界の言語が短く発せられた。

 生首が飛んでった先は壁だ。硬そうな壁だ。魔導学院の対攻撃魔法でもそこそこ踏ん張れる壁だ。

 今度こそ絶体絶命か!?

 と、そこへちょうど通りかかったのは、泥だらけのユニホームを着た男子生徒。

 その男子生徒が生首に気づいて構えた。

 両手を広げ、鬼神が立ちふさがるかのごとく気迫を発するその構えは、そうだ守護神だ、砦を守るゴールキーパーだ!

 彼なら受け止めてくれる。ゴールキーパーの彼なら、ここまでたくみにパスを繋いできたボールですら、絶対に止めてくれるハズだ。

 そう、思い起こせば長かった。

 はじまりはなんだっただろうか……?

 そうだ、彼女が放った――ビビが放ったシュートだった。

 あの時点で思わずボール扱いされちゃって、アレやコレやあったりなかったり、ここまでみんなが繋いだパスは無駄にはしない!

 今こそ実を結ぶトキだ。

 ゴールキーパーの額から珠の汗が流れた。

 あの守護神が、この守護神が、まさかプレッシャーを感じているだとぉっ!?

 鬼気迫る生首。

 血みどろ鼻水パニック。長髪を結うゴムひもが切れ、髪の毛がザンバラバンバンッバン。その姿はまるで、ボールの軌道を炎で描いているようだ。

 ゴールキーパーの下半身にグッと力がこもった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!

 ぶっ飛んできた生首が腹で抱きかかえるように受け止められた。

 ゴールーキーパーが苦悶の表情を浮かべている。

 ガッシリと受け止めたハズだ。

 しかし、戦いはまだはじまったばかりだった。

 押されている。

 生首を抱きかかえたまま、ジリジリとゴールキーパーが後ろへ引きずられるように押されている。

 すごいパワーだ。受け止められてもなお、その勢いを殺すことなく、守護神の身体を押しているのだ。

「フレーっ、フレーっ、クラ学!」

 どこからともなくチアリーダーが応援に駆けつけた。

 ちなみに『クラ学』は『クラウス魔導学院』の略である。

 攻防を続けている生首とゴールキーパー戦い。

 ゴールキーパーが眼を剥いた瞬間、ふっと足が浮いた。

 それはまるで堤防が崩れたような瞬間だった。

 瞬き1つしない間にゴールキーパーが後ろへ吹っ飛ばされた。

 ドゴッ!

 激しく背中を壁に打ちつける音。

 負けたのだ。

 いや、勝ったのだ。

 みんなが繋げたボールが見事ゴールを決めた瞬間だった!

 うなだれるキーパーの手元からボールが力なく滑り落ちる。

 ゴン。

 ボールではなく生首だったので、ちょっと生々しい音が廊下に響き渡った。

 …………。

 熱狂から一変して静まり返った放課後の廊下。

 …………。

 そして、みんな正気に戻った。

 おのおのにハッとした表情を浮かべる。

 自分たちはいったいなにをしていたのか?

 今さらバレー部員が生首を見て叫ぶ。

「きゃーーーっ!」

 もっとも生首と触れ合っていたゴールキーパーもギョッとしている。

 さっきまでの異様なテンションはなんだったのか?

 解説しよう!

「このドゥラハンの生い立ちに関係がありそうだ」

 と、話を切り出したのはファウストだった。

「ドゥラハンとは首なし騎士の総称で各地に存在しているのだが、このドゥラハンは本人が残した手記によると、スポーツ万能で将来を有望視されていた若者らしい。彼はどんなプロスポーツ選手にでもなれる才能を持っていた。しかし、戦争が起きてしまい彼も戦地に赴き……そんな彼の怨念が彼をドゥラハンにし、その持ち主の怨念が剣に宿りおまえたちに幻術をかけていたのだろう」

 緊急スクープ!

 ドゥラハンはただのスポーツ好きだった!

 悲しいんだか悲しくないんだか、ドゥラハン誕生秘話を聞いたビビが、なにかを思い付いたようにポンと手を叩いた。

「じゃあ思う存分みんなでスポーツすれば呪いも解けるんじゃない?」

 それはグッドアイディアだねっ!

 と、廊下の片隅では血だらけで瀕死状態の生首。

 どう考えたってグットなわけあるかいっ!

 ノリツッコミを終えたところで、ファウストが生首を拾い上げた。

「回復魔法はまったく使えんのだが……」

 さてさてどうしたものか?

「生きてるのぉ?」

 とビビが生首を覗き込んだ。

 意識を失って痙攣している。かな~りヤバそうだ。

 そこへ颯爽と現われたユニホーム姿。横から身体をスッと入れてきて、ファウストから生首を奪った。男子バスケ部だ!

 バスケ部員はすぐにドリブルをしようとした。

 ドゴ。

 生々しい打撃音。

 予想通り弾まない。

 ボールじゃないもん、生首だもん!

 落としたボールを拾い上げ、ピボットピボットピボット――では前に進めない。片足を軸にその場をグルグル回るだけだ。

 バスケ部員はパスの構えをした。

 しかし、パスを受ける者はいないようだ。

 ファウストがツカツカと歩いてバスケ部員から生首を奪おうとした。

「この程度の魔力に当てられて惑わされるとは、ウチの生徒の質も落ちたものだ」

 スッと手を伸した。

 すると、ボールもスッと引かれた。

 ファウストは相手を睨み、サッと手を出す。

 するとサッと引かれた。

 素早くササッと手を出すとササッと引かれ、サササッと出すとサササッと引かれた。

 イラッとした表情でファウストが右往左往に腕を動かし奪おうと躍起になる。

 それを針の孔に糸を通すがごとく、そして細やかに縫うかのごとく、ボールは逃げ回る。

 ダメだ、ボールが奪えない。

 間違えた、生首だ。

 しかし、バスケ部員はボールだと思って死守しているのだ。

 敵にボールは渡さない。

 かといって、パスする味方もいない。

 バスケ部員、絶体絶命のピンチ!

 果たしてこの難局をバスケ部員はいかにして乗り切るのか!

「フレー、フレー、クラ学!」

 そして、チアリーダーはまた幻術に取り憑かれていた。

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