第17話「目覚めのキスは新たな予感(4)」
再び時間が動き出した瞬間、大きな水飛沫を上げてセツが河に沈んだ。
水面から顔を出して、手をバタつかせるセツ。
「泳げないのです! 内陸部の出身で泳ぎなっ……」
セツの顔が沈んだ。
パニックになるルーファス。
「わっ、えっ、マジ、あっ……うっ!(僕も泳ぎはちょっと)」
しかも、服を着たままなど危険極まりない。布が水分を吸って重くなり身体に張り付き自由を奪う。ルーファスも溺れかねない自殺行為だ。しかも、たっぷりどっしりな布が使われている魔導衣着用。
ならば和服のセツも事態は深刻だ。まったく泳げないとなれば、さらに状況は最悪へと進む。
あれこれ考えている場合ではない。ルーファスは河に飛び込んだ!
「やっ!」
水中で沈み行くセツの姿。眼を大きく見開いて水面に手を伸ばしもがくようすは恐怖だ。
泳ぐと言うよりもがいてルーファスは潜っていく。
セツの口から漏れた大量の泡。大変だ、セツの息が続かない。
ふっと糸が切れた人形のようにセツの動きが止まる。
慌てたルーファスは口を開いてしまい、大量の泡が水面に昇っていった。
「(うっ……苦しい)」
ルーファスの息も続かない。だが、今から水面に戻って呼吸をしていたら、セツを助けられない。今このときも、セツはゆっくりと暗い水底[みなそこ]に落ちていく。
真っ赤な顔をして懸命に潜り続けるルーファス。あと少し――ついにセツの服をつかんで抱き寄せた!
やはりセツは気を失っている。ルーファスも息が限界だ。もう水面に上がる余力などなかった。
真面目な顔をして目をつぶっていたルーファスが、瞳をカッと開いた。
「(そうだ!)」
ルーファスは神経を集中させて、手のひらで魔力を練った。
まるで沸騰するように、手のひらから小さな粟粒がいくつ沸き出す。
急に大きな泡となり、ごぼっと水面へ上昇した。
慌ててルーファスはその泡に噛みついて口に入れようとしたが、口に入ったのはほとんど水。
「(ダメだ、うまく魔力が練れない)」
少量の酸素をつくることはできるが、それを自分だけでなくセツに与えるのは難しい。気絶した相手では、空気を呑み込むこともできず、誤って水を呑んで気道に入ってしまう可能性も否めない。
「もっと大きな泡で身体を包めれば……そうか、エアスクリーンだ!」
再度、魔法を使おうとした。だが、全身から小さな気泡が出たのみ。
「やっぱりダメだ!」
苦しげな表情をするルーファス。
魔法とは唱えるもの。現存する魔導の原型となったライラの別名は〈神の詩〉。意味を持ち、言霊なったとき、最大限の力が引き出すことができる。念じるだけでも魔法の使用は可能だが、それでは力が弱い。
「(神様、僕に力を貸してください)」
ゴボゴボゴボ……と泡の言葉を吐きながら、ルーファスは魔法を唱えた。
しかし――なにも起きなかった。
肺の空気を使い果たしたルーファスはセツを優しく抱きしめたまま、意識が遠くなり白い世界から真っ暗に閉ざされた闇に落ちそうだった。
「(ダメだ……もう死ぬんだ……でもセツだけでも……助けたい!)」
カッと開かれたルーファスの両眼。
片眼が蒼く輝いていた。魔力を帯びた輝きを持つオッドアイ。
刹那、氷結した!
ルーファスたちの水が一瞬にして凍りつき、球状の空間に閉じ込められたのだ。
スノードームのようなその空間に小さな雪の結晶が舞う。
そう、ここには空気があった。
氷の壁が作られ、中には水がない。水系と風系の魔導系統を同時に使用したのだ。
ふたりを乗せたスノードームは水面へと昇っていく。
ルーファスは驚いた表情をしていた。
「……なにが?」
この魔法はいったいだれが発動させたのか?
ルーファス自身に自覚はなく、セツは気絶したままだ。
直前に起きたルーファスの変化は、すでに何事もなかったように消えている。
「はっ……セツっ!!」
慌ててルーファスは状況を思い出しセツの様態を確かめる。
口元に耳をそっと近づけると、呼吸の音が聞こえなかった。
「うそ……だよね?」
真っ白になりかける頭。
腕から脈を取る。
「うまく測れなかった」
自分自身の乱れている呼吸のせいでセツの脈をうまく測れなかった。
太い血管を探して、今度は首から脈を測ろうとした。
「うそ……だよね?」
同じ言葉しか出なかった。
ルーファスはセツの顔を覗き込むと、紫に染まった唇を見た。
すぐに人工呼吸が脳裏に浮かんだが煩悩も同時に沸き上がった。
「(キスなんて……でもやらなきゃ!)」
こうしている間にも1分1秒と時間は過ぎ去り、セツの様態は深刻さを増していく。
ルーファスは目をつぶった。
そして、息を大きく吸いこむと、勢いよくセツの唇にぶつかっていった。
冷たい口づけ。
自分から他人に、ましてや女性にキスする日が来るなんて夢にも思っていなかった。だが、今はそんなことを考えている場合ではない。セツの鼻をつまんで、漏れることなく息が肺の底まで届くように吹き込んだ。
――――。
口を離し、すぐに声をかける。
「セツ!」
返事はない。
もうキスをしたときに覚悟を決めている。ルーファスは臆することなくセツの鳩尾[みぞおち]あたりに平手を置いた。柔らかな胸の感触が伝わってくる。どうやらセツは着やせするタイプだったらしい。
覚悟は決めていたとはいえ、実際に感触が伝わってくると、動揺して顔をが赤くなってしまった。
それを振り払うように、ルーファスは魔法を放った。
ドン!
風系の衝撃で心臓マッサージを行ったのだ。
そのまま立て続けに、繊細に注意を払いながら、幾度かマッサージをして、再び人工呼吸をした。
「お願いだから!」
のどがはち切れんばかりに叫びながら、再び心臓マッサージをする。
心臓マッサージなんて今までしたことはない。切羽詰まった状況で見よう見まねだ。リスクもあるだろうが、死はすぐそこに迫っている。
ルーファスの頭によぎる。
「(電撃で……いや、危険すぎる)」
不可能ではないが、ルーファスの技量では奇跡が起きない限りムリだ。
ルーファスは今、自分にできることを精一杯した。
再び心臓マッサージをして、人工呼吸をする。
口づけをして息を吹き込んだ次の瞬間、セツが急に咳き込んだ。
思わず叫ぶルーファス。
「セツ!」
朦朧とする意識の中で名を呼ばれ、重たいまぶたで何度かまばたきをして、セツは静かに口を開く。
「ルーファス……さま?」
自分の置かれている状況を理解できずにいる。目に入った者の名を呼んだに過ぎない。
無意識にルーファスはセツの肩を力強く握った。
「セツ! セツ! セツッ! 生きてるんだよねセツッ!」
鼻水を垂らしながら、ルーファスは顔をグシャグシャにして、大粒の涙を撒き散らした。
セツは自分の身体が濡れていて、酷く凍えることに気づいた。けれど、1ヶ所だけは、ほのかに温かかった。そっと指先を伸ばしてセツは自らの唇に触れた。
そのようすを見ていたルーファスはハッとして沸騰する思いだった。
「違うんだ、誤解だから、その、うん、だから、人工呼吸と心臓マッサージをしただけで、やましいことなんで一切してないから!!」
「わたくし……?」
「溺れて、その、なんでか、えっと……」
「ルーファス様が助けてくださったのですよね?」
「そう、そうなんだけど……へっくしょーん!」
壮大なくしゃみをしてブルブルと震えた。まだときおり夏の暑さが尾を引く陽気もあるが、寒さも確実に近づいてきている秋だ。水に濡れた身体は冷えて体力を奪う。
ふっと寄りかかるようにセツはルーファスに抱きついた。
「服を着たままでは余計に冷え込んでしまいますから……脱いで抱き合ったほうが……」
「いやっ! それは、ダメだから、うん。あれだよ、とにかく外に出よう、ここが寒いんだよ」
氷の入れ物はすでに水面でぷかぷかと浮いている状態で、薄白い氷の壁の向こうに景色がぼやけていた。
「えっと、まずは氷を割って外のようすを……」
ルーファスは少しセツに離れてもらおうと、肩を押そうとしたが、そのときに気づいた。
「セツ?(息が苦しそうだ)」
苦しげで顔に力の入った表情で、セツは弱いながらも荒い呼吸をしていた。
ルーファスはセツの身体を片腕で抱きながら、残った腕を天井に伸ばして氷の壁を確かめるように叩いた。
その程度ではビクともしない。2.5ティート(3センチ)くらいの厚さがありそうだ。
氷と言えば対極にある属性は炎だ。
「(けど、条件が悪い)」
魔法は万能ではない。
すべての魔力の源となる素は、究極的には1つのものであると魔導学では習う。が、だからと言って常にどんな条件でも好きな魔法が使えるわけではない。それは理論上は可能であっても、それを行えるのは神話の登場人物ですら一握りだ。
「エアプッシュ!」
ルーファスは得意の風魔法で氷を割ろうとしたが、気体である風はこの手の作業には不向きである。強度もなく、放出時は圧縮されていても、すぐに拡散してしまう。
ならばとルーファスは現状で好条件に使える魔法を放つことにした。
「アイスニードル!」
強度もあり、尖った先端は衝撃には弱いが、瞬間的な破壊力はある。
放たれた腕ほどのツララは、氷の壁を打ち抜き8ティート(9・6センチ)ほど貫いた。
一度、穴さえ空いてしまえば、そこから脆くなる。ツララと氷壁の密接面を狙って、ルーファスは続けて魔法を放つことにした。
「アイスニードル!」
先ほどよりも大きなツララは氷壁にヒビを走らせた。
「待っててセツ、外に出たらすぐに……(どうしたらいいんだろう)」
外への道が開かれても、ここは大河の真ん中、このスノードームから出るなんて自殺行為だ。
ルーファスはアイスニードを幾度も放ち、頭が通る程度の穴を天井に開けた。そこから腕を出し、
「(外と繋がればいける)」
天に向けた手のひらに魔力を集める。
「ヒート!」
一瞬にして、スノードーム内が暖かい空気に満たされた。静かに溶けはじめる氷壁。急速に溶けているわけではないが、氷壁がぬらりとしている。
ルーファスはセツを抱きしめた。身体から熱を発し続けている。
「(セツを温めないと、でもあまりやりすぎるとここが保たない)」
この場でこまねいていてもセツの様態は悪くなるばかりで、お互い助かるかどうかもわからない。
どのくらい流されたのだろうか?
まだ街や港に近ければ、人や船などが近くにいるかもしれない。
パチパチっと弾ける音がした。
「サンダーシュート!」
天に向かって放たれた稲妻が昇る。ルーファスは救難信号の代わりとしたのだ。
すぐにルーファスは穴から首を出す。
「おーい、だれか!」
辺りを見回しながら叫ぶと、遠くに小型船が見えた。
歓喜に沸き立つルーファスの表情が明るくなる。
頭を引っ込めた代わりに腕を出し、再び稲妻を放つ。今度は小型船がいる上空を狙うことにした。
「サンダーシュート!」
すぐにルーファスは外のようすを確かめるため首を出す。
「おーい!(気づいて!)」
が、その数秒後、小型船が魔弾砲を撃ってきたのだ。
魔弾砲はいくつかのバリエーションがあり、こちらにグングン向かってくるのは炎の玉だ。はじめは豆粒程度だったが、すぐに野球ボール、バレーボール、バスケットボールほどになった!
「違うんだ!」
叫びながらすぐさまルーファスはスノードームに身を隠した。
氷壁を這うように広がった炎が目に飛び込んできた。
「あの距離から当ててくるなんて!」
炎はすぐに消えたので、瞬間的な熱ならこのスノードームで耐えられる。が、いつかは溶けてしまうだろう。すでに危機が迫っているのは、炎を当てられた箇所ではなく、水に浸かっている部分、とくに足下の氷が薄くなっている気がする。
ガタンッ!
急にルーファスたちの身体が浮いた。
「また撃たれた!?」
と思ったが、その衝撃ではなかった。
塀だ。整備された沿岸の塀ということは、街や港はすぐそこだ。
ゴン、ゴン、ゴンっと流されつつ塀に何度も衝突する。
その振動が響いたのか、足下の氷にヒビが入り、そこから少しずつ浸水してきたではないか。
ルーファスは天井を力一杯叩いた。
「割れろ!」
魔法を使うことも忘れ、無我夢中で殴り飛ばす。
水の滴りとともに紅い雫が落ちた。
やっと思い出したように魔法を使う。
「エアダッシュ!」
通常、この魔法は風の力を借りて、ほんの2,3歩を瞬時に移動するものだが、ルーファスは天井に向かって体当たりをした。
「ううっ、わっ!」
苦しげに声をあげてルーファスは一瞬だけうずくまったが、すぐに天井を確認した。ひとが通れるほどの穴が開いている。
「今だしてあげるからね!」
セツを背中に背負ってスノードームから出ようとした。が、思いのほか塀が高くて、手を伸ばして届きそうになく、セツを背負っていたらなおさら無理だ。
「セツ、ちょっと無理させちゃうけど動ける? 僕の身体をよじ登って上に!」
強引にルーファスはセツを押して塀を登らせようとする。
「ルー……ファ……さま……」
苦しげにつぶやくセツ。
登る体力もないが、ルーファスを残していけないと、セツは積極的には登ろうとしていない。
ルーファスは踏ん張ってセツを持ち上げ、お尻を押して塀の上へと放るように乗せた。
「はぁ……はぁ……」
力尽きたルーファスはへたり込んだ。
塀の上で横たわりながら、セツは顔と腕を出してルーファスに伸ばした。
ルーファスは手を伸ばした。
しかし、その手はセツの手を握る寸前のところで拳を握った。
パキパキとヒビの入る音がした刹那、割れた足下の氷とともにルーファスが河に沈んだ。
「……っ!」
息を呑むセツ。
ルーファスの手を取れなかった。
わかっていた。あそこで手を取っても引き上げる力はなかった。最悪、ふたりで河に沈んでいただろう。
「ルーファス……さま……」
その名を呼び切は気を失いぐったりとした。
閉じられた瞳から流れた一筋の涙。
こちらに向かって魔弾砲を撃ってきた小型船が近づいてくる。船首で仁王立ちしている女の長い赤髪が風に靡く。
「酒の邪魔しやがったクソ野郎はどこのだれだい!」
リファリスだった。まだ沈んだのが自分の弟だと気づいていない。
埠頭に目をやったリファリスは気を失って横たわっているセツに気づいた。
「あの子はたしか……そんなまさかねぇ?」
イヤな予感がする。
リファリスの背後で図太い男の声がした。
「姐さん、クソッタレは見つかりましたかい?」
「それが……ひとりはそこで、もうひとりは河に沈んだっぽいんだけど……もしかしたら、わっちの愚弟だったかも、なんてなっ!」
「そりゃ大変ですぜ、今すぐおいどんが!」
目をつぶりながら、静かに落ちていく感覚に包まれた。
「(もう死ぬんだ。あはは、ツイてない人生だったな。セツは助かったかな。ローゼンクロイツに借りたゲーム返してないや。カーシャには酷い目に遭わされっぱなしだたけど、あのひとはあれはあれで……やっぱり酷いひとだったなぁ、あはは。クラウスは今以上に立派な王様になって欲しいな。そうだ、ビビとなんか約束してた気がするけど、なんだったっけな。僕が死んだら母さんもローザ姉さんも悲しむだろうなぁ。リファリス姐さんには怒られそうだ)」
まさかそのリファリスに沈められたとはルーファスは夢にも思っていない。
「(父さんは……どんな反応するんだろう)」
ルーファスは瞳を開けた。最後に光が見たかった。水面の光はまだ見えるだろうか?
「(寂しいな。天国ってどんなところだろう。みんなが来るのはだいぶ先だろうからなぁ、ともだちできるかな……やだな、死にたくないな)」
水面の光が揺れていた。
「(ん?)」
少し驚くルーファス。
人影らしきものがグングンと潜って近づいてくる。
「ゴボボボボッボッ!?(魚人!?)」
残る空気を全部吐き出してルーファスは眼を剥いた。
筋肉モリモリでヒゲモジャのほぼ全裸のおっさんが、赤いふんどしをなびかせて泳いでくる。
逞しき漁夫の姿がそこにはあった!
というのが、ルーファスが目に焼き付けた最後の光景だった。
病室のドアがババ~ンと開けられた。
「お見舞いにきたよぉ~ん♪」
ピンクのフリフリツインテールが凍りつくように止まった。
ベッドに横たわる患者に顔を近づけ妖しげな行動をしている人影。
ビビは力なく手に持っていたお見舞いの定番高級フルーツのピンクボムを床に落とした。
黒衣の医師が気を失っている患者にキスする寸前だった!
男が男にキスしようとしてたのだっ!
ビビが叫びながら部屋を出て行く。
「へんたーい!」
その声が届いたのか、ルーファスが目を覚ました。
「ぎゃあああああっ!」
いきなり目の前にあった妖しげな色香を放つディー院長に驚いた。
さっと顔を離したディーは舌打ちをする。
「チッ」
未遂だ。未遂でよかった。
ルーファスの脳裏になにかモヤのかかった光景がフラッシュバックする。
そこへ新たな見舞い人が尋ねてきた。
「よぉ、ルーファス元気にしてるかい?」
リファリスだった。その背後からクマのような男が顔を見せた。
イエス、ふんどし!
「ぎゃああああああっ!」
ルーファスの叫び声が病室に木霊した。
かかっていた頭のモヤが一気に晴れた。
「僕は……(覚えてる、覚えてる、朦朧とする意識の中で魚人に濃厚なキスをされたのを……)うぇええええっ」
吐き気がして、自分の身体をブルブル震わせながら抱きしめた。
「ルーファス……はぁはぁ……様、だいじょうぶですか!」
息を切らせながら、よろめくセツがドアにもたれながら姿を現した。
見る見るうちにルーファスの顔色がよくなり晴れていく。
「セツ!」
思わずルーファスが両手を広げていた。
駆け寄ったセツがルーファスに抱きつく寸前、ディーが首根っこを掴んで制止させた。
「ルーファス君は絶対安静だ。それに君も患者なら患者らしくベッドで安静にしてくれたまえ。休んでいられないというなら、強制的に休めるようにベッドに縛り付けておくしかないな」
氷のように冷たい言葉。マジでやる気だ。
セツは笑った。
「それで構いません」
と前置いて、ルーファスに抱きついた。
「ありがとうございましたルーファス様! あなたに救われたこの命、もはや身も心もルーファス様のものです!」
それを聞いたルーファス――の傍らに立っていたディーが口を半開きにした。
ハッと我に返るディー。
「ルーファス君とはどのような関係なのだね! 返答によっては緊急オペを行うぞ!」
「妻です!」
セツはキッパリと答えた。
荒れる病室。
そのようすをこっそりのぞき見していた影が去る。寂しげにツインテールを揺らしながら。
病室からは廊下には、セツの明るさと自信にあふれた笑い声が、いつまでも木霊していたのだった。
おしまい
カーシャさん日記
「今夜はカレー」997/10/11(シルフ)
の予定だったのだが、タマネギとニンジンが死亡。
ルーも買い忘れてしまった。
料理するのもめんどくさくなり、へっぽこのウチに行ったら、だれもおらん!
仕方がないのでヤツのウチにあったレトルトカレーを食べた。
そしたらなんと辛口ではないかっ!
あんな辛いものを妾に食わせおって、覚えてろよルーファス!