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番外編「恥ずかしげな林檎(上)」

 学生でもないのに、何気ない顔をしてクラウス魔導学院の廊下を歩くセツ。

「侵入するのは意外に楽でしたけれど(ルーファス様はいずこ?)」

 楽と言いつつも、すでに放課後。朝からルーファスの追っかけをしたにもかかわらず。

 放課後になってしまったことで、教室にいた生徒たちが溢れ出してくる。この中でルーファスが探すのは難しいだろう。見つける前に帰宅されてしまう可能性もある。

 セツが目を配りながら歩いていると、ピンクのツインテールをスキップしながら近づいてきた。

 鉢合わせする前に――と、セツが隠れる前に見つかってしまった。

「あーっ、セツ!」

「セツですが何か?」

「なにかじゃないよ、なんでガッコーの中にいるの!?」

「いちゃ悪いですか?」

「悪いに決まってるよぉ。そーゆーのふほーしんにゅーってゆーんだよ」

「では、そういうことで」

 冷たい態度でサラッと回れ右。セツは足早にこの場を立ち去ろうとした。

 が、その目に飛び込んできたルーファス。

 慌ててセツは物陰に隠れた。なぜかビビを引っ張って。

「なんであたしまで隠れなきゃならないの?」

「少し黙っていてください」

「もぉ(自分勝手なんだから)」

 ぷいっとそっぽを向いたビビだが、すぐに気になってセツと同じ方向を見た。

 ルーファスだけなら、隠れたり、気になったりはせず、さっさと本人の前に顔を出していただろう。

 なんと!

 ルーファスが女の子といっしょなのだ!!

 あっ……違った。オカマといっしょだった。

 ルーファスとユーリがなにやら話をしている。

 内容までは聞こえてこないが、怒ってるユーリにルーファスがビビっているのはわかる。

 急にユーリが笑顔になった。

 ルーファスがユーリになんかを渡した瞬間だ。

 いったいなにを渡したのだろうか?

 気になるセツ。

「今の見ましたか? ルーファス様が女の子にプレゼントを渡しましたよ、わたくし以外の女の子に」

「ルーちゃん最近あの娘[こ]と仲いいみたい」

 二人ともユーリが男子だということを知らない。ちなみにルーファスも知らない。

 ユーリとルーファスが別れた。

 何も言わずセツはユーリを追った。ルーファスではなく、ユーリのあとを追ったのだ。

 ふと、セツが横を見るとビビがいた。

「なぜついてくるのですか?」

「あたしの勝手じゃん」

「ふん」

 プイッとセツはそっぽを向き、ビビもプイッとそっぽを向いた。

 中庭までやって来た。

 噴水の見えるベンチに座ってメモを見ているユーリの姿。

「ウソかよっ!」

 突然、ユーリが大声を出して、ハッとした顔をして慌てて周りを見回した。

 びっくりドッキリしたセツとビビは、噴水の周りにある彫刻のフリをして硬直した。

 気を取り直した様子のユーリが再びメモを読み出したようだ。

 メモにはいったい何か書かれているのか?

 さらにセツとビビはユーリに接近。

 気づかれないように、気づかれないように、噴水の音よりも静かに気配を消して、そ~っと近づく。

 急にユーリが立ち上がった!

 慌てたセツとビビは地面に伏せた。ユーリとの距離はすぐそこ。二人はユーリがいるベンチの真後ろに伏せていた。

「ビビちゃんと仲直りしなくちゃ!」

「んっ!?」

 驚いて声を出そうとしたビビの口をセツが手で押さえた。

 ユーリには気づかれなかったようだ。

 瞳を丸くしたビビはセツと顔を見合わせた。

「(どういうこと?)」

「(こっち見られてもわかりませんよ)」

「(仲直りって、なんかあったっけ?)」

「(ビビとこの子は仲が悪い。ということは敵の敵は味方と言いたいところだけれど、この子とルーファス様の関係も気になる。う~ん)」

「(思い出せないぃ~っ)」

「(悩ましいぃ~っ)」

 顔を見合わせながら、二人はう○こしてるような苦しそうな表情をした。

 それを掻き消すように漂ってきた香水の匂い。

 気配ゼロで空色ドレスの麗人がユーリの前に立っていた。

 ユーリが瞳をキラキラさせる。

「あ、ローゼンクロイツ様」

「そうだよ、ボクはローゼンクロイツだよ(ふにふに)」

「そういう意味でお名前を呼んだのではなく……まあいいです。ところで、メルティラブでの一件のあと、ローゼンクロイツ様はどうなされたのですか?」

「なにそれ?(ふにゅ)」

 がーん!

 ユーリだけでなく、ビビもショック!

 現場で散々な目に遭わされたビビショック!

 という詳細は『マ界少年ユーリ・第2話ドリームin夢フフ』を読んでね!

 魔導士ルーファスの15話ともリンクしてるよ!

 慌ててユーリが話し出す。

「ええっと、あのお店で一緒にスイーツを食べながら、アタシとビビちゃんとお話したのは覚えていらっしゃいますよね?」

「……忘れた(ふあふあ)」

 ユーリちゃんショック!

「あはは、そ……そうですか。え、でも、〈猫還り〉をしてお店を破壊したのは知っていますよね?」

「……らしいね(ふぅ)」

 〈猫還り〉したローゼンクロイツは、その間の記憶がぷっつり途切れる。酒飲んで、暴れて、覚えてないパターンと同じだ。

「キミたちが外に出されたあと、ヤツの秘書が現れて事態を収拾したらしいよ。お店もヤツがお金を出して立て直すらしい……ヤツに借りを作るなんて苦笑ふっ

 本当に嫌そうな顔をしてローゼンクロイツは口元を歪めた。

 慌ててユーリは話を逸らそうとする。

「ところで、こんなところでなにをなさっていたのですか? まさか、アタシを見つけてわざわざ声を掛けに来てくださったとか?」

「……迷った(ふあふあ)」

「はい?」

「家に帰りたいのに学院から出られない(ふぅ)」

「……あはは、迷子になられていたのですね。だったら、アタシが送りましょうか?」

「別にいいよ、明日も授業あるから(ふあふあ)」

「……あはは、そうですよね。明日も授業ありますもんね!」

 ローゼンクロイツはふあふあ歩き出した。

 そんな後ろ姿を見ながらユーリは誓う。

「もうアタシは止めません。貴方は貴方の信じる我が道を突き進んでください」

 そして、ユーリもこの場から駆け出していった。

 ひらり♪

 メモが地面に落ちた。ユーリの落とし物だ。

 緊張を解いたセツは息を吐いてメモを拾い上げた。

「いつ見つかるのか冷や冷やしました」

 同じくドッと息を吐いたビビ。

「ふぅ。でもローゼンには見つかってた気がするけど(チラ見された気がするし)」

「ところで、あのローゼンクロイツとかいうひとは、本当に男なのですよね?」

「うん、ルーちゃんの幼なじみの男の子」

「あんな格好をしているということは、恋愛対象はやはり殿方……なのでは」

「う~ん、ローゼンって恋愛とかそういうのないと思うけど。ひとを好きになるってあるのかぁ(でも……ローゼンも人並みに恋とかしたら)」

 このとき、ビビとセツの頭の中には同じカップリングが浮かんでいた。

 ビビが髪の毛をかき乱す。

「うわぁ~っ、ないな~い!」

「わたくしはアリかと。ローゼンクロイツさんに恋愛感情がなければの話ですが」

「BL好きなの?」

「女装っ娘[こ]との絡みはBLなのでしょうか?」

「あたしに聞かないでよ!」

 ビビは顔を真っ赤に染めた。

 そして、話を変えようとした。

「さっきのメモは、メモ! あのメモなんだったの?」

「そうでした(まさかラブレター、なんてことはわたくしのルーファス様に限ってないと思いますが)」

 セツはメモを開いた。

 ビビが首を伸ばして覗き込む。

 ――カーシャちゃんドキドキわくわく媚薬の使い方講座♪

 どうやらカーシャの手書きメモらしい。というか、イマドキこんな丸文字使うひといないぞ。しかもいい歳なのに。

 セツは難しい顔をして眉を眉間に寄せた。

「媚薬って惚れ薬ということですが」

 ――この媚薬の使い方は居たって簡単、注射器で相手のケツにブチ込め!

 続きを読んで二人とも唖然。

 ケツにぶち込める状況ってどんな状況だよ。かなりの強攻策じゃないか。

 ――というのはウソで。

「「ウソかよっ!」」

 ビビとセツは仲良くハモってしまった。同じセリフをユーリも言ってた気がする。

 メモには裏面があった。

 ――この惚れ薬はまだ完成していない。完成させるためにはお前の体液が必要だ。この薬とお前の体液を混ぜ、それを相手に飲ませることにより効果が発生する。ちなみに混ぜる体液によって効果の度合いが変わってくるので注意しろ。妾のおすすめの体液はピーとかピーとか、ピーだな。

 怪しむような顔をするセツ。

「ピーってなんですか、ピーって。伏せ字にすると卑猥ですし、ここが重要な点ではないのですか?」

「体液って3つもあったっけ?」

「汗、唾液……ってなにを言わすんですか!」

 セツはなぜか顔を真っ赤に染めて、頭のてっぺんから蒸気を噴き出した。

 瞳を丸くしたビビは首を傾げてきょとんとした。

「3つ目ってなに?」

「そんなこと自分で考えればいいでしょう」

「教えてよぉ~、イジワルぅ」

 腕に抱きついてきたビビを振り払おうとセツが腕を振る。

「ちょっと離れなさい。馴れ馴れしくしないでください」

「いいじゃん、あたしたちトモダチでしょ~」

「いつから友達になったんですか、わたくしには覚えがありませんが」

「え? 違ったの?」

 ビビの表情は真顔だった。

 そんな顔を見てセツも真顔で少し驚いた顔をした。

「え?(そんな目で見られても)」

「あたしはトモダチだと思ってたのになぁ(ちょっぴりショックだなぁ)」

「本気で言っているのですか?」

「一度会ったらみんなトモダチだよっ」

「あ、あぁ、そうなのですか……(本気なのかわからない)」

 心の声が聞こえればいいが、疑心を持った者は考えれば考えるほど、疑いの心は強くなる。

 セツにとってルーファス様に近づくの女は、ぜ~んぶ変な虫。そういう目で見ている限り、セツは相手の心がよく見えないかもしれない。

 セツが持っていたメモをビビに奪われた。

「なにを!」

「カーシャのとこにレッツゴー!」

 駆け出すビビ。

 髪の毛をかき上げながら溜息を吐いたセツは、ふと笑ってビビを追いかけた。


 カーシャは学院内にある自室にいた。

 ドアを開けて元気よくビビが飛び込んできた。

「カーシャさん遊びに来たよぉ~♪」

「勝手に遊んでろ、妾は忙しい」

 赤ペンを持ったカーシャは答案の採点をしているらしい。

 ビビがボソッと。

「教師っぽい」

 カーシャっぽくない!

 セツは感心したようにうまずいていた。

「この方、本当に教師だったのですね」

 なんかカーシャが真面目に教師やってると、地震雷火事親父でも来るんじゃないかと思う。

 激しい地鳴り。

 稲妻のように部屋に飛び込んできた謎の影。

 息を切らせ頭から湯気が出ている姿は、まるで家事のようだ。

「カーシャせんせーッ!」

 ハゲオヤジが叫んだ。

 うんざりした感じでカーシャは採点の手を止めた。

「今度はだれだ……ん、マッスルか(相変わらず油臭い。こやつが出て行ったらファブらなければ)」

 ハゲオヤジこと魔武闘教師マックス。ハゲ頭の下はブーメランパンツ一丁のマッチョボディ。いつもなぜかテカっている。特に頭が。

「カーシャ先生大変です!」

「大声出さんでも聞こえてるわ。で、なにが大変なのだ?」

「部外者が学院のセキュリティを破って侵入したそうですよ! 連絡の電話入れたのに、カーシャ先生まったく出ないから、私に探して来いって言われて来たもんで!」

「部外者……か(こいつだな)」

 と、カーシャはセツに顔を向けた。

 冷や汗を流しながらセツはササッとビビの後ろに隠れる。

「(困りましたわ。このままでは突き出されて、これ以上この国で問題を起こすことは避けなければ。しかし、どうやって?)」

 困り考えを巡らせているセツに、カーシャは意地悪そうに笑いかけた。

 そして、マックスに向き直す。

「用件はそれだけか? わかったらもう帰れ、部外者を見つけたら報告してやる」

「頼みましたよー、カーシャ先生はいつもテキトーなんですからー」

「わかった、わかった。シッシ」

 虫でも払うようにカーシャはマックスをあしらった。

 不安そうな顔をしてマックスが出て行ってすぐ、カーシャはセツに顔を向けた。

「妾の命令を1つ聞くか、それとも金を出すか、交渉に応じようではないか」

「条件によっては学院に侵入したことを黙っていてくれると?」

 セツは真顔で尋ねた。

「だれが黙ってやると言った?」

「はい?」

 悪意を込めてセツは聞き返した。

「黙ってやるのではない。正式な手続きを踏んで、お前をこの学院で自由に行動させてやってもいいと言っているのだ。なんなら入学手続きをしてやってもいいぞ?」

「この学院の教師と言えど、教師は教師。他国にも知れ渡る魔導の名門クラウス魔導学院に容易く入学などできるわけないではありませんか。わたくしをバカにしているのですか?」

 と、横で聞いていたビビが、

「実は~、ちょっとした特別なはからいであたし留学生扱いで編入して来たんだけど、あっさりと(のちのち知ったんだけど、やっぱり実家の力が働いてたみたいだけど)」

 マジマジとセツはビビを見つめた。

「たしかに、魔族は元々魔力が強いとはいえ、あなたがこの学院に入学できるとはとても思えませんものね」

「うっ(言い返したいけど、言い返せない)」

 ビビちゃんちょっぴりショック。

 髪の毛をかき上げながらカーシャはウサギのマグカップを手に取った。

「ビビの編入は妾が通したわけではないが、最近ではユーリという小童[こわっぱ]を妾の力で編入させたやったぞ。ふふっ、これでもなんども屋カーシャ先生と呼ばれ、生徒たちが困ったときに最後に訪れるのは妾のもとなのだ」

「ですが、カーシャさんから個人的に条件が出されると言うことは、正式な手続きではないということですよね?」

「書類は正式だ」

 裏口入学!

 セツは少し考え込み、口を開いた。

「わたくしにはわたくしの学業がありますから、編入の必用ありませんが、学院を自由に歩けるようにしてもらいたいのですが?」

「キャッシュで2000ラウル。等価値であれば、他国の金でよいぞ。それとも別の条件にするか?」

 条件を出されてセツはすぐにサイフから1000ラウル紙幣を2枚出した。

「これでよろしいですか?」

「うむ、ならばこれを事務局に持って行け」

 カーシャは机の引き出しから書類を出し、そこに指先を走らせ、魔法のサインを書いた。魔力によって書かれた文字や図形は、筆跡鑑定、そして魔力がDNAのように個人特定できるため、有効な署名となる。

 飛び込んできた事態の解決に目処を付けると、セツは本題に入ることにした。

「もう1つ用件があるのですが」

「金さえ出せばなんでも聞いてやるぞ」

「これについてお聞きしたのですが?」

 セツはカーシャの目の前にメモを突き出した。

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