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第14話「鉄扇公主はラブハリケーン(4)」

 ネコミミ&ねこしっぽのローゼンクロイツ見参!

「ふあふあ~」

 寝惚け眼[まなこ]のローゼンクロイツから、大量のねこしゃんが噴出した。

 出たッ! ねこしゃん大行進だ!

 目を開けたままセツ気絶。

 身動き一つしなくなってしまったセツだが、なにやら様子がおかしいぞ?

 セツの体からゆらゆらと煙が立ちのぼり、やがてそれはモクモクと巨大な煙の塊になった。

 巨人だ。

 おそらくは思念体かなにかだろう。

 トラ柄のビキニを着た頭に角が生えた巨大なねーちゃんが出現したのだッ!

 カーシャが見上げながらボソッと。

「鬼だな」

 そう言って、何食わぬ顔でこの場から立ち去ろうとしたのだが、巨大な鉄扇が地面に突き立てられ壁をつくった。

「逃がすか!」

 鬼女はカーシャとやり合うつもりだ。

 振り返り様にカーシャは強烈な吹雪を放つ。

「ブリザード!」

 巨大な鉄扇で鬼女は吹雪を防いだ。

 なぜが笑うカーシャ。

「ふむ、実態はあるようだな」

 セツの体から現れた思念体は、霧のようなものではなく、形あるものということだ。その証拠にカーシャの吹雪を防いでいる。

「ならば凍らせるのみ!」

 マナフレアがカーシャの周りに集まる。

 だが!

 ド~ン!

 この場にはローゼンクロイツもいるのだ。

 カーシャはねこしゃん爆弾の直撃を食らって、ボロボロになりながら地面でへばった。

 イッちゃってるときのローゼンクロイツは無差別攻撃。むしろ攻撃っていう概念ですらないかもしれない。

 そう、今のローゼンクロイツはフリーダムなのだ!

 巻き起こる爆風。

 鬼女もねこしゃん爆弾の総攻撃を食らっていた。

「おんどりゃ、皆殺しにしたる!」

 巨大な鉄扇を振りかざす鬼女。カーシャに視線を向けた。

 が、そこにいたハズのカーシャが、ピンクのウサギのぬいぐるみになっていた。

 ……逃げたのだ。

「皆殺しじゃ皆殺しじゃ!」

 鬼女は怒りで本当に燃え上がって炎に包まれていた。


「……付き合ってられん(が、そのうち復讐してやるから待ってろよ、ふふっ)」

 ボロボロになりながらも、何食わぬ顔でスタスタと歩くカーシャ。

 前方からルーファスがやって来た。

「あっ、カーシャ! どうしたのその格好?」

「クリスちゃんとお前の許嫁にやられたのだ。両方ともお前の関係者なのだから、さっさとカタをつけて来い」

「は? なんで僕が?」

「いいから逝ってこーい!」

 カーシャのスクリューアッパーがルーファスに決まった。

 竹とんぼのように、グルグル回転しながら遥か空にぶっ飛ばされたルーファス。

 そのままルーファスは地面に激突。

「うう……(ひどいよカーシャ)」

 ヒドイのはいつものことです。

 床にへばりながらルーファスが顔を上げると、そこには巨大な影が2つ。

「……なにこの妖怪大戦争」

 ルーファスは見なかったことにして、気絶しているフリをして顔を伏せた。

 巨大な2つの影。

 1つは鬼女なのだが、もうひとつは空色の影。

 巨大化したローゼンクロイツ現る!

 おそらく本人が巨大化するわけがないので、魔力を練ってつくった氣の塊かなにかだろう。

 現状を確かめようと、ルーファスがそ~っと顔を上げようとしたとき、突然目の前に飛び込んできた立て看板!

 ゴフッ!

 工事中の看板に攻撃された。

「この変態、ローゼン様のパンツを見ようなんて1万年早いですよ!」

 この声はユーリだ。

 再び顔を上げようとしたルーファスだったが、後頭部を鷲掴みにされて地面に叩きつけられた。

「うぐっ……痛い」

「そんなにパンツが見たいんですか変態!」

「違うよ! 顔を上げようとしただけじゃないか、それに男のパンツなんか見て何になるんだよ!」

「女のパンツだったら見たいってことじゃないですか、この変態!」

「うぐっ!」

 再びルーファスは後頭部をグッと押された。

 巨大化しているローゼンクロイツ。つまり真下に潜り込めば、パンツが見放題と言うことだ。

 で、ユーリちゃんはここに何しに来たの?

「ちょっと眼を離した隙にローゼン様を見失ってしまって。でもこうやってスカートの中が覗けるなんてツイてる!(嗚呼、お兄様……ユーリはしかとローゼン様のパンツを目に焼き付けると誓います、どうか見守っていてください)」

 って、パンツ目当てじゃないか!

 ユーリは勢いよく顔を上げた。

「…………」

 ユーリ硬直。

 そ~っとルーファスも顔を上げた。

 なんてことはない、スカートの中身はズロースだった。

 ズロースとは、つまりいわゆるカボチャパンツの下着版のようなものである。

「こんな物、ぜんぜんエロくもなんともないじゃないですかーっ! ぐわーん!(ううっ、お兄様……世の中って無情なのですね。でもアタシはめげません!)」

 ショックを受けたユーリは、両膝をついてその場から動こうとしない。

 さっさとルーファスは逃げることにした。

 サササッ、ササササッ、虫のようにルーファスは地面を這って逃げようとした。

 が、途中で鬼女と目が合った。

「お主、セツの婿殿じゃな?」

「違います、違いです。こう見えても妻子持ちの、子供なんて3人いますから。長男は今年幼稚園に入学したばかりでして……」

 ウソすぎる!

 鬼女は憤怒した。

「おんどれ、見え透いた嘘で逃げようとしおって!」

 巨大な手が伸び、ルーファスの体を軽々と掴んで持ち上げた。

 すっぽりと鬼女の手に収まってしまっているルーファス。比較対象があると、いかに鬼女が巨大なのかわかる。そして、目の前のローゼンクロイツも。

 ブゥゥゥンッ!

 ローゼンクロイツのしっぽが振られた。

 電流を帯びた伸縮自在のしっぽ――しっぽふにふにが繰り出された。

 ねこしゃん大行進もヒドイが、このしっぽふにふにも負けず劣らず無差別攻撃だ。

 しかも、最悪なことに今のローゼンクロイツは巨大化している。

 ズザザザザザザァァァッ!

 近隣の建物が無残なまでに薙ぎ払われた。

 このまで強大すぎる力はもはや神。今やローゼンクロイツは破壊神なのだ!

 ローゼンクロイツが破壊神なら、こっちは鬼神だ。

「物騒なもん振り回すなアホ!」

 鬼女は巨大な鉄扇をひと扇ぎした。

 ふあふあっとローゼンクロイツは竜巻をかわした。

 ブォォオォォォォッッッ!

 巨大竜巻は近隣の建物を巻き上げて、晴れときどき瓦礫の山を降らせた。

 顔面蒼白のルーファス。

「最悪だ」

 このままでが王都アステアが一夜にして滅びる。

 あしたの朝には死の荒野。地図の書き換えが必用になってしまう。

 近隣住民の避難、遠くから見えてくる軍隊。魔剣連隊を引き連れるエルザの姿を見えた。

「王都と脅かす化け物め、成敗してくれるわ!」

 エルザが切っ先を向けたのは鬼女だけ。

「(見えない見えない、私にはローゼンクロイツなんて見えないぞ)」

 現実逃避の真っ最中だった。

 一斉砲撃!

 飛んでくる砲弾をもろともせず、鬼女は鉄扇をひと扇ぎしてすべて送り返した。

 魔剣連隊は一斉に防御魔法で壁をつくり砲弾を防いだ。

 防御魔法が解かれ、エルザは冷や汗を拭った。

「危なかった……ッ!?」

 砲弾を防いだのも束の間、巨大なしっぽが連隊を薙ぎ払った。

 ルーファスが惨状から目を背けた。

「最悪だ」

 悪夢であって欲しい。

 鬼女の笑い声が木霊した。

「婿殿を奪おうとするからじゃ!」

 そういう展開なの!?

 いつの間にかルーファスをめぐる戦いになってるの!?

 人質=ルーファス=元凶。

 が~ん!

 ルーファスショック!

「僕のせいなのこれ!?(マズイよ、絶対にマズイよ。どうにかしなきゃ)」

 これがもしルーファスをめぐる戦いだったとしてら、少なくとも鬼女にとってそうなのであれば、解決方法はあれしかあるまい!

 お祭騒ぎに誘われて、いつの間にかカーシャが戻ってきていた。

「責任を取ってセツと結婚しろルーファス!」

 でも冷静に考えて、本当にそれで事態が収拾するのか?

 だってローゼンクロイツはセツとルーファスの流れに関係なく、フリーダムに暴れてるだけだし!

 それはそうなのだが、この緊迫した流れに押されて、ルーファスの思考は80パーセント低下していた。

「やっぱり僕が結婚するしかないのか……」

 妙に納得しちゃったルーファス。

 空が輝いた。

 半透明のドーム。

 周辺一帯がいつの間にか防御結界に封じ込められていた。妖怪大戦争が手に負えないと悟った魔剣連隊が、とりあえず隔離処置をしたのだ。

 エルザがボソッと。

「色恋沙汰に国は介入せず」

 防御結界の中で思う存分やれということだ。

「なんで妾まで、ホワイトブレス!」

 結界を壊そうと躍起になっているカーシャ。いっしょに閉じ込められたのだ。本人の口ぶりでは無関係だと思っているらしいが、原因の一端は明らかにカーシャにもある。

 カーシャも巻き込まれて当然だ!

 逃げ場のない結界内はサバイバルでバトルロワイアル。

 ねこしゃん大行進!

 この状況で最悪災狂の技が発動されてしまった。

 しかも、今回のねこしゃんはいつもより巨大。

 爆発の連鎖。

 巻き起こった爆煙が爆風に掻き消された矢先から、次の煙が辺りを覆う。

 ねこしゃんの突進爆発を食らった鬼女がよろめいた。

「くっ……」

 揺るんだ鬼女の手からルーファスが落ちた。

 ひゅ~ん、ドスッ!

 高い場所から落ちた当然の結果がルーファスを待っていた。

 瀕死のルーファスは地面を這って逃げようとした。

 そこに運悪く無差別攻撃の電撃しっぽ!

「ギャアアアアアッ!」

 しっぽふにふに吹っ飛ばされ、再びルーファスは地面に叩きつけられた。

「死ぬ……もう死ぬ」

 周りにはねこしゃんたちも自由気ままに走り回っている。

「婿殿はどこじゃ!」

 鬼女の声が響き渡った。

 見つかったら大変だ。

 瓦礫の山に隠れながらルーファスは地面を這った。

 いったいこの妖怪大戦争はどうやったら決着はつくのか?

 瓦礫の頂上に立ったカーシャ。その腕には何者かが抱かれている。

「ええい、静まれ! この娘がどうなってもいいのか!」

 カーシャに抱かれているのは気を失っているセツだった。

 鬼女の動きが止まった。

「おのれ、人質を取るとはおんどれは鬼か!」

 ここで鬼女の顔面にねこしゃん爆弾が直撃。

 ド~ン!

 さすがローゼンクロイツ。フリーダムに流れをぶっ壊しくれる。

 鬼女のこめかみに血管が浮かび、鋭い牙が剥かれた。

「おんどりゃー!」

 キレた鬼女が炎を纏った扇を振り回した。

 ビキニ姿の鬼女が踊り狂う。

 炎舞によって辺りは刹那に火の海だ。

 窮地に追いやられたカーシャはセツを放り出して構えた。とてつもない量のマナフレアが発生した。

「メギ・ホワイトブレス!」

 世界を一瞬にして凍てつく死の大地に変貌させる吹雪。

 魔法に冠されたメギは、最大級を意味する言葉だ。

 走るルーファス。逃げているのではない。逃げるならもっとコッソリ逃げる。

 放物線を描いて落下するセツ。

「セツ!」

 落下地点に滑り込んだルーファス!

 ドスッ!

 見事ルーファスは背中でセツをキャッチした。

 目を覚ましたセツ。

「ルーファス様……わたくしの尻に敷かれて、さてはドMなのですわね!」

「違うよ! 落ちてきた君を助けたんだよ」

「っ!? ルーファス様……(こんなにボロボロになってまで、わたくしのことを守ってくださるなんて)」

 ボロボロなのはセツを守ったせいだけじゃありませんけど。

 頬を赤らめたセツはルーファスに抱きついた。

「やはりわたくしは一生ルーファス様をお慕い申します」

「ちょっとそれは……」

「2度もこうして命を救っていただき、わたくしの身も心も命さえもルーファス様のものです!」

「2度? 1度目は?」

 ルーファスは首を傾げた。

 そして、ハッとルーファスは気づいた。

 セツはあの時のことを語り出す。

「上空でマシントラブルに見舞われたわたくしは、為す術もなく地面に叩きつけられて死ぬのだと覚悟いたしました。しかし、奇跡は起きたのです。ルーファス様がわたくしを受け止めてくださり、しかも接吻まで……思い出すだけで胸が熱くなってしまいます」

「(たまたま通りかかって、空から落ちてきた君に押し潰されただけなんだけど。キスはぶつかった弾みの事故だし)そ、それはね」

「命を張ってわたくしを助けてくださったルーファス様に、わたくしはすべてを捧げると決めたのです!」

 なんという美談!

 ――にセツの脳内では変換されていた。

 ただここで1つハッキリしたことがある。遊びや酔狂でルーファスに言い寄っていたのではなく、掟というのもたしかにあったかもしれないがそれだけではなく、マジでほの字だったということだ!

 モッテモテだねルーファス!

「こ、困るよやっぱり結婚なんて!」

「掟ですから」

 やっぱり掟は絶対なのだ。

 掟プラスほの字。最強タッグにルーファスは追い詰められているのだ。

 恋心と掟、どちらが優るのか?

 婚約を破棄する三箇条を思い出してみよう。

 其の一、自分より強い者と結婚してはならない。

 其の二、婚約者が新たに他の者と接吻した場合は無効とする。

 其の三、同性には掟そのものが適応されない。

 3番目は論外なので、残るは2つ。

「(セツに手を上げるなんて。かと言ってほかの女の子とキスなんてできないし)どうしたらいいんだ!」

「わたくしと結婚なさればいいのです!」

 それで一件落着だ。

 頭を抱えて悩むルーファス。

 聞こえてくる爆発音。まるで近くで戦争をやっているようだ。でもそんな騒ぎなんて今のルーファスには関係ない。

 結婚するのか、しないのか!

 悩み続けるルーファスの耳に、微かな声が届いた。

 女の子の声だ。

 この場にいる女の子?

 近隣住民は避難して、防御結界の中にいるのは……。

「助…て……だれか……」

 その声を聞いてルーファスは力強く立ち上がった。

「ビビ!?」

 紛れもなくビビの声だ。

 よくよく思い出して見ると、騒ぎがここまで大きくなる前、たしかビビは電磁フィールドに感電して、そうだ気絶したのだ!

 ということは――ビビもいっしょに防御結界に閉じ込められた!

 しかも最悪なことに、ビビは炎の海に囲まれて身動きができなくなっていた。

「ビビ!」

 ルーファスはセツの体を振り払って走り出した。

「待ってルーファス様! わたくしを置いていく気ですか!」

「ごめん!」

 ルーファスはセツに顔を向けることなく走った。

 燃え広がる炎の海。

「ビビ! そっち側にいるんでしょビビ!」

「ルーちゃん、ルーちゃんなの!? 炎の壁が立ちふさがって……あついっ!」

「大丈夫、今助けに行くから!」

 二人を隔てる炎の壁。

 ルーファスの周りにマナフレアが発生する。だが、安定感に欠け、現れては消える。

「ブリザード!」

 ルーファスの放った吹雪が炎を呑み込んだ!

 しかし、駄目だ。炎の勢いが強すぎて、呑み込んだ矢先から呑み返される。

「マギ・ウォータービーム!」

 水を出そうとしたが、安定せずに蒸気と化して消えてしまった。

 焦るルーファス。

 焦れば焦るほど安定した魔法は使えない。

「げほっ、げほげほっ、ルーちゃん!」

 ビビの悲鳴が聞こえてくる。

 ルーファスは歯を食いしばった。

 マナフレアが安定する。

「マギ・ウォータービーム!」

 滝のような水がルーファスの手から噴射された!

 これならいけるか!

 愕然とするルーファス。

 水は炎に触れることも叶わず、刹那にして水蒸気を化した。

 膝を付いてうなだれるルーファスの傍に、セツが現れた。

「これは普通の炎ではありません。並大抵の魔法では消すことは不可能。これを消すことのできる芭蕉扇がここにあります」

 それはセツが武器として使っていた鉄扇だった。

「すぐに貸して!」

 ルーファスは手を伸ばしたが、セツは鉄扇をすっと引いた。

「貸して差し上げるのには条件があります」

「いいから早くかして、そうしないとビビが!」

「わたくしと結婚してください。そうすれば、この芭蕉扇を貸して差し上げます」

「…………」

 ルーファスは真剣な顔をしたまま、身動きを止めた。

 そして――。

「わかった、結婚するよ」

「男に二言はございませんね?」

「それでビビを助けられるなら!」

「(そこまでしてあのおなごを……)」

 複雑な表情したセツ。

 炎の海はビビだけでなく、ルーファスたちも呑み込もうとしている。

 もう一刻の猶予も残されていない。

 ルーファスはセツから芭蕉扇を奪うように取った。

「これで扇げばいいんだよね!」

 体をねじり、ルーファスはフルスイングで鉄扇を振るった。

 巻き起こるタイフーン!

 これまでセツが起こしてきた風よるも強い。

 すべてを薙ぎ払う風。

 炎の海が風の波に呑み込まれ消えていく。

 ルーファスを中心に巻き起こった風はすべてを吹き飛ばす。

 ここでひとつ問題が起きた。

 風の中心にいるルーファスはいわゆる、台風の眼の中にいるようなもので安全なのだが、外にあるものはすべて暴風に見舞われる。

「きゃあああっ、助けてルーちゃん!」

 空に舞い上がって竜巻に巻き込まれているビビ。炎は免れたがこのままでは!

 ビビが竜巻の外に放り出された。

 このままでは加速するビビは地面に叩きつけられてしまう。

「ビビ!」

 鉄扇を投げ捨てルーファスが走った。

「(絶対に絶対にビビを受け止めるんだ!)」

 駄目だ、ルーファスの足では間に合わない。

 そのときだった!

 鉄扇を拾い上げたセツがルーファスに向かって風を起こす。

「追い風!」

 風によって背中を押されたルーファスが加速する!

 ビビが地面と激突する!

 ――世界が静まり返った。

「ルー……ちゃん」

「ビビ……」

「ルーちゃ~ん!」

 ビビは涙を流しながら自分を抱きかかえているルーファスに抱きついた。

 間一髪、ルーファスはビビを受け止めたのだ。

 へっぽこ魔導士と呼ばれる(主にカーシャが言い広めている)ルーファスが、ここぞという場面で決めたのだ。

 でも、そんなルーファスは長続きしなかったりする。

 空から空色の物体が飛来してくる。

 元の大きさに戻ったローゼンクロイツだ。

 ガツン!

 落ちてきたローゼンクロイツがルーファスにナイス跳び蹴り!

 倒れたルーファス。

 そして、覆い被さったローゼンクロイツ。

 一瞬して辺りの空気が凍り付いた。

 接吻!

 見事なまでに決まった男同士のキッス!

 慌ててルーファスは気絶しているローゼンクロイツを退かして立ち上がった。

「事故だよ事故に決まってるじゃないか、みんなだって見てたでしょ!」

「ルーちゃんの変態!」

 ビビのビンタがルーファスを打ちのめした。

 そして、セツもショックを受けていた。

「ルーファス様との婚約が破棄……」

 其の二、婚約者が新たに他の者と接吻した場合は無効とする。

 ルーファスは女の子としないとイケナイと思っていたが、どうやら同性でもよかったらしい。

 ローゼンクロイツの発作も治まり、鬼女の姿もいつの間にか消えていた。

 これで一件落着――というわけにはいかなかった。

「ルーファス様、もう一度わたくしと接吻を!」

「えっ……もう婚約なんてこりごりだよ!」

 逃げるルーファス。

 追うセツ。

 結局、なにも解決していなかった。


 おしまい

カーシャさん日記

「モテ期」997/10/07(ハリュク)

妾はいつもモテモテなので、モテ期などない。

そうだ、ルーファスの話だ。

たしかに何もしなきゃ顔はいいが、中身がへっぽこだからな。

それでも最近なんだかモテ期っぽいのだ。

今日もセツに求婚されていた。

妾も昔は何度も求婚されたことくらいあるのだぞ。

本当だぞ?

だから別に羨ましくなんかないぞ。

妾は結婚なんぞに興味もないしな。

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