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第14話「鉄扇公主はラブハリケーン(2)」

 凍り付きそうになるルーファス。

「か、かーしゃ!?」

 なんとメニューを運んできたのはカーシャだった。べつにここでバイトをしているわけでもなく、普通に私服でメニューを運んできた。なんだか遠くではウェイトレスのひとりが、カーシャに異様なまで怯えている。

 セツが首を傾げてカーシャを見つめた。

「こちらの方はお知り合いなのですか?」

 ルーファスはあまりのプレッシャーに口を開けない。

 そのプレッシャーの塊は、強引にルーファスの横に座った。

「妾はカーシャ、ルーファスの保護者のようなものだ。こいつが結婚すると聞いてな、本来ならそちらから挨拶に来るのがしかるべきだが、こうしてわざわざ妾から出向いてやったのだ」

 ウワサはすでにカーシャまで届いていた。

 ただでさえ手の焼ける問題だったのに、ここでカーシャの介入があったら混乱は必須。

「まあルーファス様の保護者の方ですか。ご挨拶が遅れました、わたくしはルーファス様と婚約したセツ・ヤクシニと申します」

「土産もなしに挨拶とは、いい根性をしておるな(これがドラマでよく見る嫁いびり。ふふっ、なかなかおもしろい)」

 カーシャさんなら、きっと良い姑になれます。そーゆー意味で。

 すぐさまセツはルーファスのケーキをカーシャの前へ。

「どうぞ、つまらないものですが」

「ふむ、本当につまらんものだな(さすがルーファス、この店で一番美味いケーキを注文しておるな)」

 なんだかちょっとカーシャは嬉しそう。

 なんだかちょっとルーファスは悲しそう。

「(僕のケーキが……)」

 セツがケーキをカーシャに渡さなくても、きっとカーシャなら無断でルーファスのケーキに手をつけるだろう。結果は同じだ。

 カーシャはケーキを頬張りながら、二人に視線を向けた。

「で、二人の馴初めを言ってみろ(美味いな、口の中で蕩ける食感が堪らん)」

 食べるか聞くか、どっちかにしなさい。

「お慕いしているルーファス様から、ある日突然に唇を奪われました。我が家では初めて接吻を交わした相手と契りを結ぶと掟で決まっているので、心置きなくルーファス様と結婚できるというわけです」

 嘘ではないが、説明の仕方が極端に寄っているような気がする。

 すぐさまルーファスが口を挟む。

「キスは事故だったんだよ、本当だから。それに結婚なんて、いくらなんでも」

 ギロっとカーシャがルーファスを睨む。

「それでも男かルーファス。男なら責任を取れ!(だがこの場合、どちらに転んだほうが面白いのか。やはり結婚には反対しておくべきか?)」

 つまり面白ければいいってことですね。さすがカーシャさんです。

 このやり取りを店の片隅で覗き見していたビビ。

「(……そーゆーことだったんだ。ルーちゃんがモテるわけないもんね、へっぽこだし)」

 ビビはバレていないつもりだったが、カーシャはその気配に気づいていた。

「(コソコソ尾行なんぞしおって、ここは一発)二人の結婚、妾の権限で認めよう。明日はちょうど休日だ、結婚式は明日で決定でいいな!」

 ブホォォォッ!

 ビビは思わず口からアップルティーを噴き出した。

「だ、大丈夫ですかお客さん!」

 ウェイトレスが慌てたことによって、店内の視線がビビに向けられた。

 ルーファスたちに気づかれまいと、ビビはササッとテーブルの下に身を隠して、鼻を摘んで口を開いた。

「だ、だいじょーぶ!」

 そんな鼻声だけを遠くの先から聞いたルーファスは、

「(あのひと風邪なのかな)」

 と、ぜんぜんビビに気づいていない様子。

 カーシャはひとつ咳払い。

「コホン、とにかーく! 式は明日だ、会場と招待状は妾が手配してやろう(祝儀の8割は懐に入れるとして、祝儀成金も夢ではないな、ふふっ)」

 お金に目が眩んでいるカーシャ。

 ルーファスは席を立ってテーブルを叩いた。

「冗談じゃないよ!」

「冗談で結婚はできん、つまりこれはマジ結婚だ」

「茶化せないでカーシャ! とにかく、結婚なんて考えたこともないし、まだ僕は学生で16歳なんだよ! 結婚なんてできるわけないじゃないか!」

 セツはルーファスの手を握って瞳を輝かせた。

「ご心配ありませんわ。わたくしも昨日まで結婚のケの字も考えておりませんでしたから。それに15歳のわたくしができると言っているのですから、1歳も年上のルーファス様にやってできないことはありません!」

 相変わらず一歩も引かないどころか押してくる。

 このままでは結婚の流れで進んでしまう。

 ルーファス逃亡!

「やっぱり結婚なんてできないよ!」

 店を飛び出してしまったルーファス。

 すぐにカーシャが立ち上がった。

「おのれルーファスめッ! 食い逃げし追って許るさんぞ!」

 いやルーファスは食ってない。ルーファスのケーキを食ったのはカーシャだ。

 カーシャはセツの腕を掴んで店を飛びだそうとした。

 が、ここで店員が待ったを掛ける。

「お客さんお金!」

「金ならあいつが払う!」

 カーシャはビシッとバシッと、店の隅にいたビビを指差した。そして、店を出て行ったのだった。

 残されたビビはショックを受ける。

「バ、バレてた(……しかもなんでアタシがみんなの分まで)」

 ビビはお財布を開けて溜息を落とした。


 どーにか、こーにか、セツたちを巻いたルーファスは自宅に帰ってきた。

「はぁ、疲れた(とりあえず飲み物飲み物っと)」

 キッチンに向かったルーファスは、そこで半裸のリファリスに遭遇。日が昇ってるうちからビール片手に上機嫌だ。

「また姉さんお酒ばっかり飲んで(太んないのが不思議だよ)」

「よォ色男!」

「はいはい、お酒もほどほどにね」

「いいじゃないのさ、なんたってあんたの結婚祝いの酒なんだから」

 ちゅど~ん!

「はぁ~~~っ!?」

 思わずルーファスは大声を上げてしまった。

 ウワサはすでにここまで広まっているらしい。

 リファリスはルーファスの肩を抱いた。

「自分の弟にこんなこと言うのもなんだけど、世界が滅びるほうが先だと思ってたからね」

「(それはこっちのセリフだよ)」

「しかも相手が幼なじみのローゼンクロイツだなんて」

 ちゅど~ん!

「はぁ~~~っ!?」

「あんたが幸せなら姉ちゃんはなに言わないよ、たとえ相手がオカマだろうとね。違うか、そういうのびーえるとかいうんだろ、ローザが前に教えてくれたよ」

「ぼ、僕がローゼンクロイツと結婚なんてするわけないだろ!(てゆーか、ローザ姉さんの口からなんでBLなんて言葉が……」

「違うのかい?」

 きょとんとしたリファリスは少し考え、ポンと拳を手のひらの上に叩いた。

「ならビビちゃんか」

「違うよ!」

「カーシャと結婚したら一生尻に敷かれるぞ」

「違うってば!」

「そうかそうか、小さいころよくエルザに付きまとってたな」

「それは子供のころの話だろ!」

「ほかにだれか……」

 二人の間にタケノコのように人影が生えてきた。

「わたくしですお姉様!」

 不法侵入セツ登場!

 驚いたルーファスは一歩後退った。

「どこから入ってきたの!?」

「もちろん玄関からに決まっているではありませんか、泥棒じゃあるまいし」

 まったく悪びれていない。

 リファリスはセツのつま先から頭のてっぺんまで、じっくりと舐めるように見定めた。

「ふ~ん、なかなかのべっぴんじゃないか、ルーファスにはもったいないくらいだ。見たところワコクの出身みたいだけど、クソ親父が見たら反対されるだろうね、異文化を認めない頑固親父だから」

「お姉様、つまらないものですが」

 セツは隠し持っていたビール樽を出した。

 それを見た途端、リファリスはセツを抱き寄せて上機嫌になった。

「今日からあんたはわっちの妹だよ、あっはは! クソ親父なんぞガツンと言って結婚に賛成させてやるさ!」

 酒で落ちた。

 リファリスはルーファスを置いて、セツをリビングに案内した。

「まずは妹のローザと母さんを仲間に引き入れるんだ。そうすりゃ、クソ親父もウンというだろうさ。クソ親父もあの二人だけには弱いからね」

「お二人の好きな物はなんでしょうか?」

「そうさねぇ」

 答える前にルーファスが二人の間に割って入った。

「ちょっと勝手に話進めないでよ!」

「ルーファスは黙ってな!」

 リファリスの手に顔をグゥ~っと押されてルーファス沈没。

 ピンポ~ン♪

 家のチャイムが鳴った。

 リファリスはセツと話し込んで出る気配がない。仕方なくルーファスが玄関に向かった。

「どなたですか?」

 ドアを開けると、そこに立っていたのはクラウスだった。

「水くさいじゃないかルーファス」

「私は結婚――」

「するそうじゃないか!」

「しないってば!」

「そうなのか? だがもう祝いの品を持ってきてしまったぞ?」

 言われてルーファスが玄関の外を見ると、道に山住にされたお宝の山と高級食材の数々。

「こ、困るよ、あんな物もらったら! そもそも結婚の話はデマなんだし!」

 ウワサが広まり、騒ぎが大きくなると、誤解でしたじゃ済まされなくなる。それをルーファスは悟った。

 お付きで来ていたエルザは兵士たちに撤収をかける。

「これより運んできた物を再び城に持ち帰る!」

「いや、待て」

 と、リファリスはエルザの肩を叩いて続ける。

「せっかくだ、酒くらいは置いてけ」

「久しぶりだなリっちゃん。お前が帰ってきていたことは知っていたが、忙しくてな」

「再会を祝して飲むぞ!」

「いや、私は酒は……」

「そうかエルりんは下戸だったな。そんなことはいいとして、いっしょに飲むぞ!」

 よくないだろ。飲めない相手を飲ますな飲ますな。

 エルザがリファリスに拉致され、ルーファスが大量の祝いの品の前で頭を抱えている中、セツはクラウスにご挨拶をしていた。

「この度、ルーファス様を婚約いたしましたセツと申します」

「僕はルーファスの古くからの友人のクラウス。この国の王をやっている者だ」

「まあ王様なのですか。ルーファス様の交友関係は広いのですね」

「君のような美しいひとがルーファスと結婚してくれるなんて、僕は友人として嬉しく思うよ」

 道の向こうから、なにやら大勢が押し寄せてくる。

「ルーファス結婚おめでとう!」

「ふざけんなルーファス!」

「俺より先に結婚しやがって!」

「うらやましくなんてないからな!」

「パンツ見せてくれませんか!」

「呪ってやる!」

 結婚のウワサを聞きつけて、知人友人が駆けつけたらしい。しかもほとんどがお祝いじゃなくて、呪いをぶつけに来たらしい。

 こんな状況なら、誤解でしたでみんな喜ぶんじゃないだろうか?

 ルーファスは一歩前へ出て息を大きく吸い込んだ。

「みんなよく聞いて欲しいんだけど、結婚の話は――」

「順調に進んでおります。ぜひ、みなさま明日の結婚式に来てくださいまし」

 と、セツが途中で割り込んできた。

 負けじとルーファスは一歩前へ。

「結婚なんて絶対に」

「します!」

 またもセツが!

 だが、ルーファスは負けない。

「しません!」

「そう、離婚は絶対にしません、幸せになります!」

 セツも譲らなかった。

 このままではラチが開かない。

 こういうときはお決まりの――ルーファス逃亡!

 だれかが叫ぶ。

「ルーファスが逃げたぞ!」

「あれがウワサのマリッジブルーかっ!」

「パンツの色教えてくれないとイタズラしちゃうぞ!」

「花嫁が花婿を追いかけはじめたぞ!」

 とにかく逃げるルーファス。

 しかし!

 恐ろしいことに、恐ろしいことに、恐ろしいほど体力のないルーファス。

「ゼーハーゼーハー」

 息切れして立ち止まっていた。

 そこへちょうどやってくる暴れ馬。

「馬!?」

 ど~ん!

 狙っていたように馬に跳ね飛ばされたルーファス。

 すぐさま犯人が馬から下りてきて倒れるルーファスに駆け寄った。

「大丈夫ルーファス!?」

 どうやらルーファスの知り合いらしい。

 朦朧とする意識でルーファスは顔を上げ、その人物を見た。

「ローザ……姉さん……」

「ローゼンクロイツと結婚するって本当なの!」

「は?」

「お姉ちゃん、それはそれでアリだと思うの」

 瞳をキラキラ輝かせているローザ。

 瀕死だったルーファスがビシッと立ち上がった。

「ローセンクロイツと結婚するわけないでしょ!」

「はい、わたくしと結婚します」

 いつの間にかセツ登場。

 すかさずセツはローザを連れてルーファスに背を向けると、とある本を手渡した。

「お姉さまがお好きだと聞いて、どうぞつまらない物ですが」

「まあ、すごい!」

「気に入っていただけましたか?」

「ええ、すごいモノをお持ちで」

 いったい何の本をプレゼントしたんだッ!?

 ちょっと顔を赤らめたローザが、スタスタっとルーファスの前までやって来た。

「修道女として、なにより姉として、ルーファスの結婚を心から祝福します。この二人に幸あれ!」

 ローザまでもセツの味方に!

 どんどんルーファスが四面楚歌(四方を敵に囲まれて孤立無援なこと)になっていく感じだ。

「だ~か~ら~、僕は結婚なんてしないって」

「で、式場はどこがいいと思うルーファス?」

「ぎゃっ、カーシャ!?(いつも神出鬼没)」

 式場のパンフレットを持ってきたカーシャが突然現れた。

「妾としては学院で式を挙げるというのもいいと思うぞ(タダで使えるな)」

「だから僕は結婚なんて」

「するだろう?」

 鋭い眼光でカーシャがルーファスを睨む。

 ここでNOなんて言おうものなら、そりゃー大変なことになる。が、YESなんて言えばそれはそれで大変だ。

 答えが出せないときは――ルーファス逃走!

 ドテッ!

 走り出した瞬間にルーファスがコケた!

「二度も逃がすか、たわけ」

 ロープを握っているカーシャ。そのロープの先はルーファスの足首に結ばれていた。

 セツはカーシャの前で瞳を輝かせた。

「ありがとうございます、夫を捕まえてくださって」

「ふむ、保護者のようなものとして当然だ」

 ここでボソッとルーファスが口をはさむ。

「まだ夫じゃないし」

 だが、それも時間の問題に思えてくる。

 逃走を封じられた今、ルーファスに残された技はあの究極奥義。

 土下座!

「お願いだから婚約破棄して!」

 おでこをしっかりと地面に付ける華麗なる土下座スタイル。

 決死の土下座を見せつけられたセツ。

「男が土下座など、こんな無様な姿を見せられてしまっては――」

 婚約破棄か?

「わたくしが結婚してあげなければ、婿のもらい手がありませんわ!」

 逆効果!

 冴える裏目!

 リバースアイ!(そんな単語ありません)

 うなだれるルーファス。

「本当に婚約破棄できないの?」

「掟ですから」

 と、セツがキッパリ。

 突然、カーシャは折りたたまれた紙を読みはじめた。

「ふむふむ、其の一、自分より強い者と結婚してはならない。其の二、婚約者が新たに他の者と接吻した場合は無効とする。其の三、同性には掟そのものが適応されない」

 それを聞いていたセツがハッとした。

「婚約破棄の方法を記した秘伝書がどうして!?」

 さっきまで本を読みふけっていたローサが答える。

「本の間に挟まっていたの」

 ついに婚約破棄の方法が見つかった!

 しかし、果たしてルーファスにそれが実行できるのか!?

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