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第13話「パンツに願いを(3)」

 とりあえずカーシャから逃れられたが、これからどーしたものかと迷うルーファス。

「やっぱり妖精探したほうがいいのかなぁ」

 追試不合格。プラス悪魔の契約書発動。

「カーシャにバレないようにすれば……バレてもお菓子とか差し入れれば」

 ぶつくさ呟きながら歩いていると、廊下の向こうからぷかぷかと人影が飛んできた。

 ララだ!

 後ろから追ってくる生徒たちはいない。

 ルーファスにチャンス到来だ!

「お、お尻触らせてください!」

 頭を下げて懸命に頼むルーファス。

 どう見ても変態です。

 ララはルーファスを完全に見下していた。

「キモイ~」

「お願いします、お願いします!」

「触りたいなら触れば~?」

「ホントにいいの!?」

「痴漢で訴えるけど」

「…………」

 ダメじゃん!

 余裕でララはその場からぷかぷか飛んでいく。

「ばっかじゃないの、きゃははは」

 ルーファスを小馬鹿にしてララは消えてしまった。

 床に両手両膝をついてルーファスショック。

「触れなかった……」

 こんな調子じゃ、ルーファスはいつまで経っても触れないだろう。

 ルーファスよ、変態になるのだ!

 女の子に襲い掛かってお尻を触る変態になるのだ!

 心を変態にして挑まなければ、この難局は乗り切れないぞルーファス!

 変態に目覚めるのだ!

 ルーファスはイメージトレーニングを試みた。

 スカートの中に手を突っ込んで、その先のいちごパンツを触る!

 ブホワッ!

 鼻血が噴き出た。

 イメトレだけで鼻血を噴き出すとは、どんだけ耐性がないんだルーファス。

 情けないぞルーファス。

「……思い出しちゃった(ビビのお尻の感触がまだ手に残ってる気がする)」

 ララのお尻を触るイメトレをしていたのに、いつの間にかビビのお尻の感触を思い出してしまったのだ。

 そこへ丁度やって来た桃髪のツインテールをフリフリさせる少女。

「ルーちゃ~ん!」

「ぶはっ!」

 ルーファスは噴き出しそうになった鼻血を堪えようと、鼻を押さえた。

「だいじょぶルーちゃん? 鼻から血が出てるよっ!?」

「あ……だ、大丈夫だよ、ちょっと壁に顔面ぶつけちゃって」

「ルーちゃんったらドジだなぁ」

「あははー(本当に理由は絶対言えない)」

 愛想笑いをするルーファスにはあまり余裕がなかった。

 ビビの顔を見るとある方程式が頭に浮かんでしまうのだ。

 ビビ=お尻の感触

 頭から振り払おうとすればするほど逆効果。

 ぷにぷにっとしたお尻の感触が思い出されてしまう。

 悶々とするルーファスにビビが不思議そうな顔を向けた。

「どうしたのルーちゃん?」

「えっ、なに、お尻がどうしたって?」

「はぁ?」

「ご、ごめん、お尻のことで頭がいっぱいで。じゃなくて、妖精のお尻を触って追試合格しなきゃいけないことで、頭がいっぱいなんだ!」

 ルーファスの頭の中はお尻のことでいっぱいです。

 ツーッとルーファスの鼻から鼻血が垂れた。

「ルーちゃん、また鼻から血が出てるよ?」

「だ、大丈夫だから!」

「ティッシュあげるね」

 ビビはポケットティッシュを出して、容赦なくルーファスの鼻にぶっ込んだ。

 ブスッ!

「ぐほっ!」

「ごめんねルーちゃん!」

「だ、大丈夫だよ……ありがとう(ビビって見た目は少女なんだけど、人間よりも力があるんだよね)」

 悪気がないところも、仔悪魔として大事な要素です。

 わざとやっていても、それはそれで仔悪魔っぽいです。

 鼻血も落ち着いてきて、ルーファスは気を取り直そうとした。

「ところでビビ、もうどっちかの妖精の……その……アレに触れた?」

 口に出してしまうと、また頭を過ぎってしまうので、本人的には伏せたのだが、逆にアレとかいうほうが健全じゃない。

「ぜんぜんだめ、見失っちゃうし、だれかもう願い事叶えてもらったひといるのかなぁ?」

「願い事を1つ叶えると、すぐに姿を消しちゃうらしいよ。今さっき女の子のほうの妖精を見たから、まだだれも叶えてもらってないと思うけど」

「そうなんだ、なら早く見つけなきゃ!」

「ところでビビはどんなお願いするの?」

「えっ!?」

 ビビはひどく驚いて瞳をまん丸にした。

 すぐにビビは取り乱した様子で口を開いた。

「べ、べつに大したお願いじゃないんだから!」

「だからどんなお願い?」

「本当に大したお願いじゃないから、本当なんだから!」

「なにムキになってるの?」

「ムキなんかなってない!」

「(ムキになってると思うけど)大したお願いじゃないなら、ビビも私の追試が合格できるようにお願いしてくれないかな?」

「それは……」

「そうだよね、みんな自分のお願いをしたいよね。自力でがんばるよ」

「……ルーちゃん」

 なんだか哀しそうな顔をするビビ。

 どうしてそんな顔をされるのかルーファスはまったくわからなかった。

「どうしたの?」

「なんでもないよ! じゃあルーちゃんとあたしライバルだね。早い者勝ちだからね、恨みっこなしだよ?」

「わかってるよ」

「うん、よかった♪」

 哀しい顔から一変して元気な笑顔。

 ビビの表情の変化を見ながらルーファスは余計に首を傾げた。

 ドドドドドドド!

 廊下に響き渡る地鳴り。

 来る!

 逃げるリリが大群を引き連れてやって来る。

 なんだか生徒の数がどんどん増えているような気がする。

 ここでボーッとしていたら、また生徒たちに踏みつぶされてしまう。

 ビビが俄然ヤル気で群れの中に飛び込もうとしているが、ルーファスが取った行動とは?

 逃げる!

 リリに背を向けて走り出すルーファス。

 思わぬルーファスの行動にビビは目を丸くした。

「ルーちゃんどこ行くの!?」

「そこにいたら押しつぶされちゃうよ!」

 追いかけるべき妖精から逃げる構図になってしまっているルーファス。

 こんなことやってたら、願い事を叶えるとかそりゃ一生無理ですよ。

 ビビがリリに飛び掛かった。

 しかし、リリの後ろからは生徒の大群が押し寄せている。このままではビビが呑み込まれる!

 ひらりとビビを交わすビビ。赤いふんどしがチラリン!

 すぐに生徒たちもリリに飛び掛かり、怒濤の中にビビが呑み込まれそうになった。

「ビビ!」

 ルーファスが叫ぶ。

「きゃっ!」

 大群の中から聞こえてきた少女の叫び声。

 山積みになった生徒たちが土砂のように崩れる。

 ビビはあの山に埋まってしまっている。

 果たしてビビは無事なのか!?

 生徒の山が崩れると、その下からドーム状のバリアが顔を覗かせた。

 ビビだ!

 バリアに守れているビビ。

 そして、バリアの中にはもうひとり、ビビを守った者がいた。

 その者はビビを抱きしめながら顔を見合わせた。

「大丈夫かい?」

「クラウス!? 助けてくれたのありがと!」

「大丈夫なようだね」

 爽やか笑顔を浮かべたクラウス。

 周りから生徒たちがはけると、クラウスはバリアを解いた。

「まったく、節度のある行動を心掛けるようにと校内放送があった筈なんだが……情けないなうちの生徒たちは」

 なんでも願い事が叶う。

 それによって目の色を変えてしまった生徒たち。

 わからなくもないが、廊下でへたる生徒たちを見てリリはあざ笑っていた。

「あははは、ばかな奴ら。だれもオレのケツ触れねぇでやんの!」

 欲望に駆られた生徒を弄んで愉しんでいるのだ。

 クラウスがビシッとバシッとリリを指差した。

「騒ぎの張本人は君だな!」

「そうさ、オレは妖精ケツタッチンのリリ。オレと双子のララのケツを触れたら、どんな願い事でも叶えてやるぜ」

「その話も本当かどうか怪しいところだ。ありもしない餌をちらつかせて、僕らを弄んでいるように思えてならないな」

「弄んでるのは認めるけど、願い事はホントだぜ。ウソかどうか、アンタがオレらのケツ触ってみろよ?」

「ならば世界平和でも願ってみるか。というわけだから生徒諸君、争いはやめて僕に願いを譲って――」

 クラウスが言い終わる前に、生徒たちがリリに飛び掛かった。

「願いを叶えるのは俺だ!」

「世界一の魔導士になるのは私よ!」

 ドドドドドドド!

 逃げるリリ。

 追いかけていく生徒たち。

 残されたクラウス。

「…………」

 だれもクラウスの話なんて聞いちゃいなかった。

 クラウス挫折。

 床に両手と両膝をついてしまった。

「学院では普通の生徒として扱ってくれって言ってるけど……言ってるけど……これでも一国の王なのに!」

 王の権威もなにもなかった。

 ポンとルーファスがクラウスの肩を叩いた。

「王様扱いされないのはいいことじゃないか。みんなクラウスのことを仲間だと思ってる証拠だよ!」

「……そ、そうなのか(単純に願い事に目が眩んで無視されたように感じたが)」

 クラウスの思っているとおり!

 辺りを見回したクラウス。

「ところでビビの姿が見えないようだが?」

「ビビならもうとっくに妖精追っかけて行っちゃったよ」

「……そ、そうか(恩を売るつもりはないが、この扱いは……ショックだ)」

 助けたビビにまで軽く扱われ、ちょっぴり傷心のクラウス。

 だが、一国の王として、この程度のことでいつまでも落ち込んではいられない。

 アステア王国の繁栄を担う王として、クラウスは攻めの姿勢を表意した。

「僕もみんなの輪に入って妖精を捕まえてやる。それで願いを叶えてもらえば、だれも文句を言わないだろう。僕は行くぞ、だれにも負けない、僕は妖精のお尻を触ってみせる!」

 お尻を触って見せる、お尻を触って見せる、お尻を触って……。

 クラウスの言葉が廊下にエコーした。

 ただの変態発言にしか聞こえない。

 一国の王が『お尻を触る』なんて、政治問題に発展しそうだ。

 熱く燃え上がるクラウスに感化されて、ルーファスの闘志にも火がついた。

「私だってお尻を触ってみせる。クラウスにだって負けないよ!」

「望むところだルーファス!」

 漢[おとこ]と漢は互いの手をガッシリと握り合った。

 勇気!

 友情!

 その先にあるのは勝利!

 果たして勝利の栄冠をつかむのはルーファスかクラウスかッ!?

 クラウスはルーファスの瞳を見つめた。

「行くぞルーファス!」

「おう!」

 ルーファスならぬ男らしい返事。

 今のルーファスはいつもとひと味もふた味も違うぜ!

 廊下を駆け出すルーファス。

 が、それをすぐにクラウスが止めた。

「待てルーファス!」

「なに?」

「廊下は走っては駄目だ!」

「……そ、そうだね」

「僕は生徒たちの模範にならなくてはいけないからね」

 優雅に廊下を歩き出すクラウス。

 せっかく燃え上がってたルーファスの心が、急速に冷えていく。

「(クラウス……本気で妖精捕まえる気あるの?)」

 あるにはあるだろうが、こんな調子で歩いていて、捕まえられるかどうかは不安だ。

 ルーファスはクラウスとは別の道を進むことにした。

「私はあっちの廊下を探すよ」

「健闘を祈る!」

「あ、うん、クラウスもがんばって(なんだかなぁ)」

 クラウスと別れたルーファスは、妖精を探して歩き回った。

 いったい妖精たちはどこにいるのか?

 それはね、クラウスが歩いて行った方向です!

 リリが飛んで行った方向にクラウスは歩いて行ったのだ。

 ついついルーファスはクラウスと別れてしまったが、自ら妖精の手がかりを手放しのだ。

 まあ、あのままクラウスと一緒にいても、歩いて妖精を捕まえられるかどうかは怪しいかったが。

 今からリリのほうに行って、途中でクラウスに会ってしまうのも気まずいし、ルーファスは道を変えずに進むことにした。

 騒ぎはどんどん大きくなっているようなので、きっとすぐにララのほうも見つかるだろう。

 ドドドドドドド!

 ほらさっそく見つかった。

 パンチラしながら逃げるララ。

 先頭を走ってララを追っているのはユーリだ!

「待ちやがれボケッ!」

 ちょっと素が出てますよユーリちゃん。

 ここでボーッとしてたり、逃げてしまったら、さっきと同じ結果になってしまう。

 ルーファスは妖精ララを捕まえなければならない!

 ――と言っても、ルーファスにはなんの作戦もなかった。

 ルーファスが戸惑っている間にも、ララと生徒の大群が押し寄せてくる。

 ララはもう目の前だ。

「メガネ退け!」

「えっ、私のこと?」

 ララに言われても、自分ことだと理解するのにルーファスは時間を要した。まだメガネに慣れていないのだ。でも名前じゃなくてメガネ呼ばわりされるってことは、すっかりメガネキャラの仲間入りだねルーファス♪

 ルーファスの瞳に映ったいちごパンツのドアップ。

 次の瞬間、ルーファスの顔面が踏みつけられた。

「ごべっ!」

 ララに踏んづけられたルーファス撃沈。

 そこへユーリも突進してきた。

「邪魔邪魔退いてーっ、きゃっ!」

 可愛らしく悲鳴を上げたユーリとルーファスが激突。

 後続の生徒たちも倒れたルーファスたちにつまづいて、将棋倒しになってしまった。

 ユーリはすぐに起き上がろうとしたのだが――。

「きゃっ、だれアタシのお尻触ってるの!?」

 ユーリの目の前にはルーファスの顔。

 ぷにぷに。

 ユーリを抱きしめながら倒れていたルーファスの手は、小振りなヒップを鷲掴みにしていた。

「……わ、わざとじゃないんだ!」

 ぷにぷに。

「死ね!」

 顔を真っ赤にしたユーリちゃんがグーパンチを放った。

「ぶへっ!」

 思いっきり顔面を殴られたルーファス。

 虫の息のルーファスは鼻血を出しながら床にへばってしまった。

「ビンタじゃなくてグーって……ひどいよ(ぐすん)」

 しかも女の子じゃなくて、じつは男のグーパンチという……可哀想なルーファス。

 さらにユーリも生徒もララを追っかけてすでに行ってしまった。

 鼻血の海に沈みながら、ルーファスは力尽きたのだった。

 ドドドドドドド!

 そこへまたも地響きが聞こえてきた。

 逃げるリリがこっちへ向かってくるではないか!?

 先頭で追いかけているのはカーシャとファウストだ。

「邪魔だファウスト!」

「カーシャ先生こそもう一匹の妖精を追いかければよいでしょう!」

「あいつに先に目を付けたのは妾だ!」

「私は召喚されたときから目を付けていたのですよ!」

 妖精を捕まえるとか、願い事を叶えてもらうとか、そんなことじゃなくて、張り合うことがメインになってる二人だった。

 ルーファスはこの場から立ち上がれなかった。

 うさぎさんのパンツが見えた!

 ベゴッ!

「ふぎゃ!」

 カーシャはルーファスを踏んだが眼中にない!

 さらに後続の生徒たちもルーファスを踏んづけて行く。

 ドドドドドドド!

 瀕死状態のルーファスを遅れてやって来たピンクのストライプパンツが踏んづけた。

「うげっ」

 もう声というか、空気の変な音だった。

「ルーちゃんごめん!」

 最後にルーファスを踏んづけたのはビビだった。

 意識が朦朧とするルーファス。

 瞳に映るのは真上にあるパンツ。

「お尻を……お尻を触り……た……かった」

 ガグッ。

 力尽きたルーファス。

「ルーちゃーん!」

 ビビの叫びが木霊した。

 涙の粒を零すビビは誓った。

「ルーちゃんの犠牲は無駄にしないから!」

 心を燃やして走り去るビビ。

 だが、まだルーファスはちょっとだけ意識があった。

「犠牲とかいいから……保健室に……連れって……て……」

 ガグッ。

 今度こそ、ホントにホントに力尽きたルーファス。

 ここでルーファスはリタイアしてしまうのかっ!?

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