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第9話「角笛を吹き鳴らせ(2)」

 零時までの待機時間、クラウスは聖リューイ大聖堂の中で過ごすことになる。

 聖堂内を歩き回ることはできるが、もちろん護衛や付き人と行動を共にしなければならないし、はじめて来た場所でもないので見て回る気も起きない。

 長い時間を過ごす待機室は警護が厳重だったが、クラウスは人払いをして部屋にルーファスとビビだけを残した。

「城の者がいると口うるさくてね。会話一つにも目を光らせてきて、リラックスもできないよ」

 クラウスは若い王でありながら、すでに手腕を発揮して国を大きく繁栄させてきた。そうは言っても、若さ故に王として縛られることに窮屈さを感じているようだった。

 なんだかビビはクラウスを感心しているようだった。

「クラウスも大変だよねぇ。お祭りで遊びたいのに、こんなところに閉じ込められちゃって」

「君も大変だろう? 君も皇女で、父君は皇帝なのだから」

「アタシはべつに将来国のトップになるわけじゃないし、パパは好き勝手やってるだけだし(それにアタシは逃げ出してここにいるんだし……)」

 皇女という地位に縛られるのがイヤで逃げ出したビビは、クラウスの姿を見ていると罪悪感に囚われてしまう。

 しゅんとしているビビを見取ってか、クラウスは爽やかに微笑んだ。

「角笛を見せてあげるんだったね。そこの箱の中に入っているから、ちょっと待っていてね」

「うん♪」

 ビビは笑顔で答えた。

 さっそくクラウスは箱の中から角笛を取り出す。

 箱には魔導錠が掛けられており、クラウス――王家の魔力に反応して開くようになっている。

 取り出された角笛を白く磨かれ、ドラゴンのシルエットが描かれていた。魔力を感じることのできる者であれば、それがただの角笛でないことがわかるが、そこら辺の土産屋に売っていそうでもある。実際、簡単な作りなのでレプリカが大量に土産として出回っている。

 クラウスが持ってきた角笛に興味津々のビビ。

「へぇ、意外に質素なんだ」

「ガッカリした?」

「ううん、アタシ楽器とかそーゆーの興味あるから、見せてくれてありがと」

「いえいえ」

 見せ終わってすぐにクラウスは箱に戻そうとしたが、ビビは後ろ髪を引かれていた。

「ええ〜っ、もう閉まっちゃうのぉ? もし良かったらちょっと吹いてみてもいい?」

 大事な国の宝だ。そう易々と吹かせてくれるわけが――

「いいよ」

 あっさりクラウスOK。

「ホントにありがと!」

 喜ぶビビの横でルーファスは不安そうだった。

「その角笛が大事な物だってことを国民だったら誰でも知ってるよ。それを異国の、しかもビビに触らせていいの?」

「『しかも』ってどーゆーことー?」

 じとーっとした瞳でビビはルーファスを睨み付けた。

「もしもビビが壊したら国際問題だよ。私が壊したって絶対に打ち首獄門……もしかしたら生きたまま拷問されるかも」

 言いながらルーファスは青い顔をした。

 クラウスは笑って見せる。

「あはは、大丈夫だよ。角笛は固い角で出来ているのだから、そう壊れたりはしないさ」

 そう言ってクラウスはビビに角笛を手渡した。

「ありがとクラウスー! ルーちゃんと違ってやさしいー!」

「私と違っては余計だと思うけど」

「ふん、だってルーちゃんイジワルなこと言うんだもん」

「別にそんなつもりで言ったんじゃないよ」

「べーっだ。ルーちゃんには吹かせてあげないも〜ん」

 舌を出したビビはそっぽを向いてから角笛に口を当てた。

 ふーっ!

 ほっぺいっぱいの空気を吹き込んだ。

 ふぅーっ!

 さらに息を吹き込んだが――鳴らない。

 顔を真っ赤にするビビ。

 ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ!

 だが鳴らない。

「ゼーハーゼーハー(なんで鳴らないのぉ〜!?)」

 酸欠になりそうになって、ビビは肩で息を切った。

 ルーファスがビビから角笛を奪おうとする。

「私にもやらせてよ」

「ルーちゃんには吹かせてあげないって言ったじゃん」

「少しくらいいいでしょ」

「ダーメ、絶対にダ〜メ」

「ケチ」

「ケチじゃないもん、ルーちゃん絶対に壊すもん」

「壊さないってば、だから貸してよ!」

 ルーファスは角笛をつかみ、無理矢理ビビから奪い取ろうとした。

 ビビも取られまいと必死に抵抗する。

 そこへクラウスが割って入ろうとしたとき、ビビとルーファスの手がすべった。

 ――ガン。

 床に落ちた角笛。

 凍り付くルーファスとビビ。

 クラウスは冷静に角笛を拾い上げた。

「大丈夫、壊れていないよ。(実は僕も前に落としたことがあるからね)このくらいでは壊れないさ。さあ、ルーファスも吹いてごらん」

 角笛はクラウスの手からルーファスに渡った。ビビは不満そうな顔だ。

 さっそくルーファスはお腹の底まで空気を吸い込み、角笛に口をつけると一気に噴き出した。

 ふぉーっ!

 空気が抜ける音しか聞こえない。

 それを見てクラウスは笑っていた。

「ごめんごめん、実は王家の者しか音を出すことができないのさ」

 だから吹かせてくれたのだ。

 この角笛はヴァッファートを呼ぶための物。もしも音が出てしまったら、用もないのにヴァッファートを呼び出してしまう。

 でもルーファスは意地になって再トライ。

 ふぉーっ!

 顔を真っ赤にしてほおがはち切れんばかりに膨らませる。

 まるでタコだ。

 ふぉーっ!

 王家の者しか吹けないのであれば、音が出るわけがない。

 ぶふーっ!

 限界まで空気を吹き込んだときだった。

 角笛が真っ赤に輝き、3人は目を丸くした。

 ドーン!!

 角笛が大爆発してしまった。

 吹き飛ばされて腰を抜かしたルーファスは言葉も出ない。

 言葉を出ないのはルーファスだけじゃない。

 クラウスは唖然と口を開けたまま。

 ――やっちまった。

 さすがへっぽこ魔導士ルーファス。

 期待を裏切らない。

 そう、期待を裏切らないと言うことをクラウスは考慮するべきだった。

「嗚呼、僕のせいだ。大切な友だからと言って、国宝を見せるのみならず、触らせて、さらには吹かせるなんて……僕の責任だ」

 頭を抱えてしまったクラウスをすかさずビビちゃんがフォロー。

「そんなことないって、壊したのルーちゃんなんだし! クラウスはぜんぜん悪くないって」

 その言葉がグザっとルーファスの胸に刺さった。

 ルーファスはその場にしゃがみ込み、頭を抱え込んでしまった。

「打ち首だ、絶対死刑だよ、市中引き回しで公開死刑だよ。明日の建国記念祭は公開死刑祭りだよ」

 こっちもビビちゃんがフォロー。

「そんな死刑なんて大げさだよ。ねえクラウス?」

 と話を振ったのだが、クラウスはかなり重い表情をしていた。

「あながちそうとも限らない。頭の固い保守派は、絶対に死刑を望んでくるだろう。加えてルーファスの父であるルーベルの失脚を狙っている奴らにもまたとないチャンスだ」

 ガーン!

 さらにクラウスの言葉で追い込まれたルーファス。

「そうだよ父さんにまで迷惑かけるんだ。うわぁ、生まれて来て本当にごめんなさい」

 さよならルーファス!

 キミが最後までへっぽこだったことは忘れない。

 魔導士ルーファス――完。

 なんてことにならないように、クラウスが小さな声でしゃべり出す。

「誰にも気づかれないように直そう。直せなくても、とにかく誤魔化そう」

 王様ならぬ発言。これはルーファスの友人としてのクラウス個人の発言だ。

 ビビもそれに賛成した。

「そうそう、バレなきゃいんだよ、バレなきゃ!」

 だが、ルーファスはしゃがんだまま頭を抱えて動かない。

「直すって言っても時間がないじゃないか」

 残念なことに角笛は木端微塵。接着剤でどうにかなるってレベルじゃない。

 しかし、クラウスは揺るぎない表情で、

「大丈夫だ。もしも直らなくても、レプリカで代用すれば人の目くらいは誤魔化せる。問題はヴァッファートを呼ぶことだけど、今から直接ヴァッファートに会いに行って、角笛が鳴らなくても零時に来てくれるように頼もう」

 それには問題があった。

 ネガティブ思考のルーファスは、悪い点がすぐに気づいてしまう。

「それは無理だよ。ヴァッファートはグラーシュ山脈の奥の奥にいるんだよ、今からじゃ到底会いに行けないよ」

 極寒の地グラーシュ山脈。

 猛吹雪に覆われるその地は、未開拓の地が多く存在しており、確立されているルートですら、死と隣り合わせというような場所だ。

 そんな場所で毎年、クラウス魔導学院の1年生は遠足をしているわけだが……。

 本来学生、ましてや山のプロですら易々と足を踏み入れていい場所ではないのだ。

 それでもあの場所で取れる特殊な鉱石や、あの場所にしか生息しない珍獣を目当てで山に入る者をも多い。そして、多くの命が犠牲になるのだ。

 そんな場所で毎年、クラウス魔導学院の1年生は遠足をしているわけだが……。

 しかし、実はへっぽこ魔導士と言われているルーファスが、グラーシュ山脈登頂という偉業を成し遂げていた。

 ふと、ここでルーファスはあることを思い出した。

「そうだカーシャに頼めばすぐにヴァッファートに会いに行けるかも」

 ほかの者は知らないが、ルーファスはあの場所にカーシャの城があり、山頂やほかの場所に通ずるワープ装置があることを知っていた。

 ただここで問題が1つ発生した。

 ボソッとルーファスが囁く。

「カーシャどこにいるんだろう」

「ルーちゃんカーシャさんの連絡先知らないの?」

「私もカーシャもケータイ持ってないし。そもそもカーシャの家すら知らないし」

「クラウスは?」

「僕はケータイを持っているし、カーシャ先生もケータイを持っているはずだけど?

 思わずルーファスは、

「えっ?」

 ぶっちゃけクラウスよりもルーファスのほうが、断然カーシャと付き合いがあるハズなのに。実はルーファス嫌われてるんじゃ?

 なんだかルーファスショック!

 クラウスはケータイを出しながら話をする。

「教職員の連絡先は必ず届け出てもらうことになってるんだ。だからカーシャ先生の自宅とケータイの番号が僕のケータイにも登録されていて――もしもし、カーシャ先生ですか? クラウス・アステアです」

《なぜ妾のケータイ番号を知っておるのだ!?》

「教職員の連絡先を学院に提出してもらっている筈ですが? あそこはクラウス魔導学院ですから、僕が知っている可能性があるのもご理解いただけるかと思います」

《職権濫用までして妾にかけて来るとは、まさか愛の告白でもする気じゃあるまいな?》

「急ぎの用なのでルーファスと変わります」

 あっさりスルーして、クラウスはルーファスに通話を変わった。

「もしもしカーシャ?」

 ルーファスは口元に手を当てて、クラウスとビビから遠ざかって部屋の隅まで移動した。

「頼み事があるんだけど?」

《ほう、妾に頼み事とは良い度胸だな。もちろんそれなりの報酬はあるのだろうな?》

「いやっ、それは……あとで考えるとして、とにかくグラーシュ山脈に行ってヴァッファートに会わなきゃいけないんだけど」

《それはおもしろい(さてはルーファスめ、また事件を起こしたな、ふふ)》

 心が躍るカーシャさん。

「別におもしろくないんだけど。国宝の〈誓いの角笛〉を壊しちゃって、とにかくヴァッファートに会わなきゃいけないんだ。それでカーシャならヴァッファートのところへ早く行ける方法を知ってるんじゃないかと思って。ワープ装置とかあるよね?」

《ふふふ……(ウケるー。さすがルーファスだな。このままだとギロチン確実だ、ふふ)。妾ならたしかに知っておる》

「お願い力を貸して!」

《だが……クラウスは知らんのか?》

「なにを?」

《ヴァッファートの巣への近道だ。とにかくクラウスに替われ》

 ルーファスは二人の元へ戻り、クラウスにケータイを返した。

「カーシャがクラウスに替われって」

 ケータイを受け取ったクラウスはすぐに、

「もしもし替わりました」

《おまえ本当に知らんのかヴァッファートの巣への近道を?》

「近道なんてあるのですか?」

《そうか……王家の者でも知らんのか。王都アステアには建国時に作られたヴァッファートの巣に繋がるワープ装置があるのだ》

「本当ですかっ!?」

 心底驚いている様子だった。

《元々、王がヴァッファートに会いに行くために作られたものなのだが。きっといつの間にか使われなくなったのだな》

「なぜ現国王である僕よりもどうして詳しいのですか?」

《妾が初代国王にくれてやったからに決まっておるだろう》

「…………(それが万が一本当だとして)カーシャ先生っておいくつですか?」

《レディに歳を聞くでない(自分でも正確な歳は覚えておらんのだが。そもそも1年に1つ歳を取る言う算出方法がおかしいのだ)》

 カーシャが何者であるのか?

 実はルーファスですらわかっていない謎。

 クラウスは通話越しに頭を下げた。

「申し訳ないカーシャ先生。僕としたことが女性に配慮が足りませんでした」

《わかればいいのだ》

「それでワープ装置の場所はどこにあるのですか?」

《ふむ、建国時はまだ城も建っていなかった。小さな集落があったくらいなものだ。そこで目印となる物の近くにワープ装置は作られたのだ。今はその目印はなくなってしまったが、その上に建っておるのがリューイ大聖堂だ》

 なんと近道は目と鼻の先にあったのだ。

 さらにカーシャは話を続けた。

《ワープ装置は静寂の間にある隠し部屋から行くことができる》

「静寂の間は……今いる場所なのですが?」

 ミラクルだ!

 すでに名君と呼び声高いクラウスは、きっと運も備わっているのだろう。英雄[ヒーロー]とはここぞというところで、幸運に恵まれるものなのだ。

 だが、そんな運を不運に変える存在がここにはいた。

 ここでカーシャがなぜかうなった。

《う〜ん、隠し部屋の入り口はその部屋のどこにあったのか……覚えとらん》

 絶対ルーファスのせいだ!

 クラウスは今聞いたことをみんなに伝える。

「この部屋から繋がる隠し部屋があって、そこにヴァッファートの元へ行けるワープ装置があるらしい。けれど、隠し部屋の入り口を覚えてないらしいんだ」

 ここで疑問に思ったルーファスが通話を替わる。

「もしもしカーシャ。あのさ、別の方法ないの?」

《どういう意味だ?》

「ほかのワープ装置。あの城経由で行く方法あるよね?」

《アホか。妾の城のことは他言無用だと言っておろう。おまえだけでヴァッファートに会いに行くと言うのなら、自由に使うがよかろう。だがな、ヴァッファートと対面し、角笛の話をするとなるとクラウスは必用だろう》

 とかルーファスとカーシャが話しているうちに、ビビが声をあげた。

「見つけたよ、隠し部屋!」

 たまたまビビが寄りかかった壁が、スイッチになっており、ラッキーにも隠し部屋を見つけたのだ。

 ルーファスが動くとロクなことがないのに……。

「あ、カーシャ。見つかったって隠し部屋」

《つまらん、もう見つかったのか。妾は宴会の途中だから切るぞ》

 と、言って切れるまでのほんの少しの時間、通話の向こうから女の声が聞こえてきた。

《カーシャどこ行った! わっちの酒が飲めないってのかい!!》

 ――ブチっと通話が終了した。

 明らかに聞き覚えのある声だった。

 ルーファスは聞かなかったことにして、隠し部屋に急いだ。

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