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第9話「角笛を吹き鳴らせ(1)」

「ただいまー」

 自宅に帰ってきたルーファスは、久しぶりに『ただいま』のセリフを言った。

 リビングに向かうと、ソファに立て膝をついて座って、陽が落ちる前から飲んだくれている誰かさんがいた。

「おかえりルーファス」

 ビール片手にあいさつをしたリファリスだった。

 下着姿同然で目のやり場に困る。

「リファリス姉さん、服着てよ」

「ん? 着てるつもりだけど?」

「そうじゃなくて、もっと厚着してよ」

「いいじゃん別に家の中なんだし」

「だからさ……(これ以上言ってもムダかも)」

 ルーファスは溜息を吐いて口を結んだ。

 久しぶりに故郷へ帰ってきたリファリスは、昨日からルーファスの借家に同居中。はじめはルーファスも反対したが、母と姉は修道院暮らし、父親のいる本宅なんかには行きたくない、かと言って宿屋に泊まるのもお金がもったいない。そんなこんなで、強引に押しかけられてしまった。

 飲んだくれているリファリスの周りには空き瓶が転がっている。かなりの散らかりようだが、はじめから部屋が汚かったので、あまり目立っていない。ルーファスと同じでリファリスも片付けなどが苦手らしい。

 リファリスのせいで腐海の侵蝕が2倍のスピードだ!

 だが、ルーファスは空き瓶を片付けはじめた。

「ゴミくらいちゃんと片付けてよ」

 人が散らかすのは気になるらしい。

「そんなこと言うなら、ちょっとは部屋片付けろよ」

「うっ(痛いとこ突くなぁ)」

 たしかの片付けられない人間が、片付けられない人間に説教しても説得力がない。

 ルーファス敗北!

 まあ、ルーファスがどんなに正しくたって、リファリスは力押しで勝つだろうが。

 玄関のドアが開く音がした。

「ルーちゃん元気!」

 今日も元気なビビだった。てゆか、ルーファスとさっき別れたばかりだ。

 勝手に家に上がり込んでリビングまで来たビビが凍り付く。

 ソファで飲んでくれている謎のお色気美女。

「……ルーちゃんのえっち!」

 ビビのパンチが炸裂!

「ふぼッ!」

 無実の罪でぶっ飛ぶルーファス。

 ビビは鼻血ブーしているルーファスに詰め寄った。

「ルーちゃんだれあの人! お酒飲まして泥水したところを襲おうなんて変態のすることだよ!」

「ちょちょちょ、ちょっと!」

「ルーちゃんがそんな人だとは思わなかった。もう幻滅だよ」

「誤解だってば!」

「あれのどこが誤解なの!」

 ビビはビシッとバシッとリファリスを指差した。

 のんきにリファリスはあくびなんかしちゃってる。それを見たビビはさらなる妄想。

「もしかして一夜過ごしちゃったの! 昨日の夜は朝まで寝かせないよっとか言って、この人今起きたんでしょ!」

「だーかーら!」

 ルーファスはリファリスの横に立って顔と顔を寄せた。そっくり度を示すつもりだったが、完全に裏目。だって似てないもん。

「女に近付いちゃって、もう親密な仲ってことなの!(そんなのアタシにわざわざ見せつけるなんてホントサイテーだよ)」

「違うって、僕ら姉弟なんだよ!」

「ウソばっかり、ぜんぜん似てないじゃん!」

「似てるよ! 僕とリファリス姉さんは父さんになんだよ!」

 このルーファスの一言がさらなる戦いの火ぶたを切ってしまった。

 リーファリスがルーファスの胸ぐらをつかんだ。

「誰と誰が似てるって? もう一度はっきりと言ってごらん?」

 目が座っている。

 急接近したルーファスとリファリスの顔を見たビビが目を丸くした。

「キスするつもりなの!!(しかも女からなんて積極的!!)」

 ビビの勘違いは止まらなかった。

 リファリスはルーファスの胸ぐらを押し飛ばし、ズカズカとビビの目の前に立った。

「あんたもギャーギャーうるさいねぇ」

 そして、事件は起きた!

 ブチュー!

 リファリスがビビの唇を奪ったのだ!!

 凍り付くビビ。

 唇を離して舌なめずりをしたリファリス。

「キスしてやったんだから黙ってな」

 だれもキスしてくれだなんて言ってないのですが?

 ここでルーファスがボソッと。

「ごめん、言い忘れたけど、リファリス姉さんは男でも女でもイケる人だから」

 両刀遣い!

 ビビちゃんショーック!!

「……アタシ……今……女の人にキス……されたよね?」

 魂離脱寸前、放心状態。

 理解不能な衝撃的なことが起きたとき、冷静になろうと人はとにかく理由付けをする。

「(きっと今のキスはカモフラージュなんだ)ルーちゃんと付き合ってることを隠すためにアタシとキスしたんだー!」

 パニック状態の時の理由付けは、だいたいツッコミどころがあるものだ。

 ルーファス&リファリス。

「「は?」」

 きょとんとされてしまった。

 それでもビビはとまらないのだ。

「絶対にアタシは騙されないからー!」

 なにを?

 とツッコミたいところだが、ビビの中では成立している。

 突っ走るビビについていけないリファリスは溜息を吐いた。

「はいはい、わっちはそろそろ出掛けるから、あとは二人で解決しろよー、ルーファス?」

「僕が!?」

 二人っきりにされたら、ルーファスが押されて話がこじれそうだ。三人でも十分こじれるが。

 そこら辺に脱ぎ捨ててあった服に着替え、玄関に向かおうとリファリスが歩き出した。

 だが、両手を広げて立ちふさがったビビ!

「逃げるなんてズルイ!(とことん追求してやるんだから!)」

「わっちは今から大好きな酒を飲みに行くんだ。止まるんだったら承知しないよ」

 リファリスは牝豹の表情でビビを舐めるように見た。

 再び凍り付くビビ。

「うっ……(またキスされる)」

 ササッとビビは身を引いた。そして、ルーファスの後ろに隠れ、

「出掛けるんだったら、ルーちゃんとアタシも手を繋いでついて行くから!」

「は?」

 っと言ったのはルーファスだった。

「私とビビがどうして手を繋がなきゃいけないの?」

「もしも本当に付き合ってるんだったら、ほかの女と手を繋いでるの見せつけられたらイヤでしょ? ルーちゃんと手を繋がせてくれたら二人が間違いを起こしてないって信じてあげるよ!」

 って言われても。

 うんざり状態のリファリス。

「手を繋ぐだけなんてぬるいね。ヤルとこまでヤッちまえばいいだろルーファスと」

 この過激な発言にルーファス放心

「…………」

 ビビは顔を真っ赤にした。

「ヤルって、そんな……ヤルだなんて不潔な言い方しないで!(結婚する人としかそういうことしちゃいけないんだよ!)」

 いちよう皇女様なので、そういうところは固い。

 爆弾発言だけ残してリファリスはさっさと立ち去ろうとしていた。

「んじゃ、わっちは祭りで思う存分酒を浴びてくるから」

 祭り?

 それを聞いたビビが気持ちを一変させた。

「お祭りってどこどこぉ?」

 なんかもうさっきのことなんか、なかったことにされてるくらいの食い付きだった。

 目を輝かせるビビに見つめられたリファリスは、ニヤリとして答える。

「祭り好きなんてわっちと気が合いそうだねぇ。どうやら知らないみたいだから教えてやるけど、この国最大の祭りが建国記念日の明日やるんだよ。今日はその前夜祭ってわけさ」

「そうなの!?(だから明日学校休みだったんだ)」

 まだこの国に来て間もないビビは、かなりこっちの情報にうとい。

 ビビは目を輝かせたままルーファスを見つけた。

「早く行こうよルーちゃん!」

「え?(さっきの勘違いとかはもういいの?)」

「早く早くぅ!」

 ビビはルーファスの腕をつかんで、リファリスを押しのけて玄関を出て行った。


 国内最大級の建国記念祭――の前夜祭。

 前夜祭と言ってもその盛り上がりは異常なほど盛り上がっている。

 この国の人々は年明けの夜もドンチャン騒ぎをするが、それと同じような盛り上がり方をしている。

 まだ少し陽は高いが、出店は賑わって混み合っている。

「次は金魚すくいやろうよ!」

 ルーファスの腕をグイグイ引っ張るビビ。

「生き物とかは飼うのめんどくさいよ」

「だったらカメすくいでいいよぉ」

 ほっぺを膨らませてビビはすねて見せた。

「金魚もカメも生物だよね? 私の言ってたこと聞いてた?」

「べつにアタシが飼うんじゃないしー」

「じゃあ誰が飼うの?」

「そんなのルーちゃんに決まってんじゃん!」

 勝手に決められた。

 リファリスが『フフン』と鼻を鳴らした。

「わっちを差し置いて金魚すくいをやろうなんざ良い度胸だね。金魚すくいゲーム荒しと言われたわっちと勝負するかい?」

 ビビちゃんは『フフン』と鼻を鳴らした。

「その勝負受けるよ、ルーちゃんが!」

「はっ? なんで私なの!?(金魚すくいとか一匹も取れたことなんだけど)」

 勝負をルーファスに託したと言うことは、きっとビビも金魚すくいが苦手なのだろう。

 ヤル気まんまんのビビとリファリス――の犠牲者になって引きずられていくルーファス。

 が、ここでビビがある物を発見!

「リンゴ飴だ!」

 さらにリファリスもある物を発見!

「おっ、ビールと肉が売ってるじゃないか」

 二人とも金魚のことなど忘れて店に向かって走り出す。

 ビビに腕をつかまれてたルーファスが引きずられる。今日はなんだか振り回されっぱなしだ。あ、いつもか。

 リンゴ飴をおっちゃんから受け取ったビビはルーファスの顔を見て、

「ルーちゃんお金」

「はいはい(月末は苦しいのになぁ)」

 しぶしぶ財布からお金を出すルーファス。

 家出少女のビビは、あまりお金を持っていないので、いつも周りの支援者に助けられて生活をしています。

 お返しはとびっきりの笑顔。

「ルーちゃんありがとー♪」

 八重歯がとってもチャーミングだ。

 リンゴ飴を買ってもらったビビはスキップをして歩き出したのだが――ドン!

 人とぶつかってリンゴ飴を落としてしまった。

「アタシのリンゴ飴ーっ!」

 ビビちゃんショック!

 ぶつかった人物はフードを目深に被って顔を隠していた。それに腹を立てるビビ。

「ちょっと顔見せてよ!(その顔絶対忘れないんだから)」

 食べ物のうらみは怖い。

 フードの男は首を横に振った。

「ごめん、あまり人の多いところでは顔を出したくないんだ」

「何様のつもりー!!」

「本当にごめんよビビちゃん。ちゃんと弁償するから許しておくれ」

「……え?(なんでアタシの名前知ってるの???)」

 男は少しだけフードを上げて見せた。そこにあったのはクラスメートで、しかもこの国のいっちばんエライ人の顔。

 思わずビビは叫ぶ。

「あっ、クラウス!」

 名を呼ばれたクラウスは唇の前で人差し指を立てた。

「しーっ、いちようお忍びなんだ」

 そう言ってクラウスは新しいリンゴ飴を買って、それをビビに手渡した。そして、この場から逃げるように、ルーファスたちと歩き出した。

 出店を楽しそうに見つめながらクラウスは話しはじめた。

「まだ零時まで時間があるだろう。ヒマで仕方なくてね、コッソリ抜け出して来ちゃったよ」

 それを聞いてルーファスは心配そうな顔をした。

「コッソリはマズイんじゃなの?」

「城の者は大騒ぎだろうね(特にエルザは怒り心頭かな)。でも零時まで軟禁状態で、すぐ目と鼻の先でお祭りの音や匂いを嗅がなきゃいけない僕の身にもなっておくれよ」

 この祭りの風習を知っている者なら引っかからない言葉だが、当然ビビは気になった。

「零時までって?」

 クラウスはニッコリ笑った。

「そうかビビちゃんは知らないんだね。明日が建国記念日なのは知ってるかな?」

「うん、今日よりすっごいお祭りやるんでしょ?(わくわくするー)」

「その建国記念祭のはじまりを合図を国王である僕がやらなくてはいけなくて、少しでも合図が遅れては行けないと言って、あそこに見える塔に僕を軟禁するんだよ役人たちがね」

 前夜祭のメイン会場は聖リューイ大聖堂が見下ろすアンダル広場。その聖リューイ大聖堂には、今は使われていない鐘楼があり、そこから国王が零時ちょうどに合図をすることになっている。

 ビビは大きく何度かうなずいた。

「ふ〜ん、それで合図ってどうやるの?」

「角笛を吹くんだ。これは建国時から伝わる王家の家宝で、その音色は遠くグラーシュ山脈の山頂まで届く。と言っても実際に音が届くのせいぜい塔の下くらいまでで、山頂まで届くのは魔力の波長なのだけれどね。それによってヴァッファートが街の上空までやって来て、建国記念祭がはじまるんだよ」

「ヴァッファート?」

「この国の守護神である白いドラゴンだよ」

「へぇ〜っ(そう言えば、この国の国旗ってドラゴンだったような気がする、ような気がする)」

 アステア王国の国旗は白銀の霊竜ヴァッファートである。

 いつの間にか3人は聖リューイ大聖堂に近くまで来ていた。

 ここでクラウスは別れを告げる。

「僕はそろそろ戻るよ。あまり留守にしていると、騒ぎを多くなってしまうからね。では、またね」

 立ち去ろうとするクラウスの腕をビビがつかんだ。

「ちょっと待って!」

「ん?」

「角笛見せて! だってすっごいお宝なんでしょ、興味あるもん」

「う〜ん(どうせヒマだしな)。可愛いビビちゃんの頼みなら仕方がないね」

 ここでルーファスがボソッと。

「クラウスはいつも女の子に甘いなぁ」

 そして、ルーファスがいつも女性軍に振り回される。

 こんなわけで、ルーファスとビビは角笛を見せてもらえることになった。

 一方、別の場所でリファリスはというと、もちろん酒を浴びるように飲んで暴れ回っていた。

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