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第6話「未知との遭遇(3)」

 エロダコは王都アステアを東に向かって進行中。その大きさはいつの間にか、3階建ての家ほどの体に育っていた。きっと育ち盛りに違いない!

 王都アステアの東には運河が流れている。エロダコはそっち方面に向かっているものの、その目的はよくわからない。

 町中を爆進するエロダコの前に、兵士たちのバリケードが立ちはだかった。そのバリケードを率いているのは、白銀の軽鎧を着たブロンドの女魔導騎士エルザ。

 エルザはルーファスも通っているクラウス魔導学院を首席で卒業したエリート中のエリート、最近また功績を上げて魔剣連隊の全権を任されるようになったらしい。

 そんなお偉いさんのエルザだが、彼女は常に最前線での戦いを好み、なにか大きな事件を起こるたびに真っ先に王宮から現場に駆けつける。

 今回エルザが出撃した理由は他にもある。それはエロダコが向かっている方向に問題があった。

 王都の人口増加のため、川を挟んだ向こう側に新都市を建設中なのだ。基礎工事は終わり、川の近くには続々と建物が建ちはじめている。そんな場所でエロダコに暴れまわられたら、堪ったもんじゃない。

 壊されてしまった建物は仕方がない。だが、これ以上被害を広めるわけにはいかなかった。

 エルザは剣を抜いた。

「攻撃は必要最低限に止め生け捕りにしろ!」

 先頭を切ってエロダコに立ち向かおうとしたエルザだったが、その足が不意に止められてしまった。

 エルザの前に現れたのはホウキから下りてきたカーシャ。

「チッ……エルザか(騒ぎが大きくなって王宮から派遣されてきたか)」

「カーシャ先生?(女狐め、どうしてこんなところにいるのだ)」

 2人の女の視線の間で火花がバチバチ散っていた。

 実はこの2人、犬猿の仲なのだ。てゆーか、カーシャはいろんなところに敵作りすぎ。

 生徒と教師の関係だった期間は長くなかったが、因縁はアステアで大人気のアイスクリームチェーン店のバニラよりも濃密だ。ちなみにオススメはバニラよりも、ペパーミントだ。

 エルザの剣はカーシャに向けられていた。チャンスがあれば斬る気満々。

「部外者は早々に立ち去ってもらえませんか?(トラブルメーカーに居座られたら任務遂行に支障が出る)」

「退避命令に逆らった時の罰則はこの国にはない(エルザがいるとなれば、とことん邪魔してくれるわ)」

「公務執行妨害を適応しますが宜しいですか?」

「職権乱用で訴えてやる」

 2人の間の火花はどんどん大きくなっていく。

 エルザがカーシャを構っている間にも、部下たちが一生懸命エロダコに立ち向かっていく。だが、エロダコは強かった。

 ウニョウニョした身体は魔法を弾き、剣を突き立てようしても滑ってしまうのだ。

 まさか……エロダコ最強伝説!?

 王都アステカは1匹のエロイタコのせいで、儚くも滅びてしまうのか……。やはり煩悩は活力の源、生物に偉大なパワーを授けてくれるものなのだ。実際、このエロダコが本当にエロイ思考を持っているかはわからないのだが――。

 エロダコはカーシャが勝手に命名した名前だ。ちなみに過去を振り返ってみると、ビビはイカタッコン星人と名づけた。正式名称は未だ不明である。

 三大魔導大国の精鋭たちが、次々と空を飛んでいく。そんなことも気付かずに、エルザはカーシャと言い争いを続けている。

「いい加減にしないと斬るぞ?」

 ついにエルザが切っ先をカーシャの首元に突きつけた。

「ふふっ、斬れるものなら斬ってみろ。正当防衛を盾に返り討ちにしてくれるわ」

 カーシャも鉄扇を構えて戦闘態勢に入った。

 もうエロダコなんてそっちのけだ。

 そんな状況下の中に遅れてルーファス&ビビが駆けつけた。

 が、いきなりビビが触手に捕まった。早っ!

「きゃん! 助けてルーちゃん!」

「なんでいきなり捕まってるの!(だって今横に立ってたじゃん)」

 逆さ釣りではなかったが、ルーファスの位置からビビのパンツ丸見え。けどパンチラくらいじゃ、さすがに鼻血は出ない。が、恥ずかしくてそっちの方向を見れない。

 ルーファスは地面から目を離せなくなった。

「今助けるから待ってて!」

 とは言ったが、エロダコを見ていなかったために、触手がすぐそこまで迫っていたことに気付いていなかった。

 ビビが叫ぶ。

「ルーちゃん危ない!」

「えっ?」

 振り向いた瞬間にルーファスは触手に叩かれて空を飛んでいた。

 なんだか今日はいろいろと空をよく飛ぶ日である。特技に『お星様になる』を加えてもいいくらいだ。あと鼻血もついでに加えてもいいと思う。

 ルーファスが石畳の上でへばっている間も、ビビはヌメヌメのゲチョゲチョでウニョウニョの触手に弄ばれていた。

 タイツを破られ、上着を剥ぎ取られ、脇やお腹に触手が這う。

「きゃははは、やめっ……きゃは、あははは……くすぐったい……きゃん!」

 ヌルヌルの触手が身体中を這う。これは立派な拷問だ。このままではビビが笑い死にしてしまう!

 なのにルーファスは地面に倒れたまま動かない。

 なのにカーシャとエルザは言い争いの真っ最中だったり。

 なのに精鋭の魔導騎士たちじゃエロダコに歯が立たないし。

「きゃははは、ちぬ……笑い……ちぬ……ぎゃははは」

 ビビは笑いすぎて窒息しそうだ。笑顔で死ねるなんてラッキーだね、なんてジョーダンも言えない状態だ。

 そしてついには、カーシャばかりに気を取られていたエルザまでもが、触手の餌食になってしまった。

 それを見てカーシャがボソッと。

「ざまを見ろ、ふふっ」

 なんて余裕ぶっこいていたのも束の間、カーシャも触手に巻かれて宙吊りにされてしまった。

「妾としたことが……笑えん、ふふっ……うふふふ……ぷぷぷっ」

 笑えない状態に陥ってしまったが、そこら中から笑い声が響いてくる。漫才ショーなら大盛況だ。

 誰もエロダコの暴虐を食い止めることはできないのか!

 そんなとき、空色ドレスの何者かがエロダコに喰らい付いた!!

「うん、なかなか美味しいよこれ(ふあふあ)」

 触手を噛み切ったのはローゼンクロイツだった。てゆーか、よくそんなグロイ触手を食べれるますね!

 くすぐられながらカーシャが聞く。

「ふふふっ、なぜ……クリスちゃんが……ぷぷっ……ここに?」

「ふにゃ? なぜって魚介類好きのボクとしては、謎のタコに似た軟体動物がいると聞いては、見に来ないわけにいかないからね(ふにふに)」

 ただの野次馬かよ!

 しかし、ローゼンクロイツはアステア王国でもハイクラスの魔導士だ。もしかしたらこの状況を打開してくれるかもしれない。

「やっぱり王道のタコヤキかな(ふあふあ)。それともタコのから揚げなんかも乙だよね(ふにふに)」

 ぜんぜんみんなを助ける気ゼロ。その代わり喰う気満々。

 触手がローゼンクロイツに襲い掛かる。それも確実に叩く気で襲ってきている。やっぱり『女の子』じゃないからだろうか。

 羽毛が舞うように軽やかにローゼンクロイツは触手を避けた。さすがはローゼンクロイツ。空色ドレスでふあふあしているように見えて、実は運動神経抜群で勉強までできる嫌味な奴だ。

「タコヤキだと何個くらい焼けるかな(ふあふあ)」

 考え事しているローゼンクロイツは避けるばかりで攻撃しようとしなかった。攻撃はメニューが決まってからだ。

 ローゼンクロイツはエロダコの気を惹いている間に、この場には黒い医師が率いる白い医師団が来ていた。

 ディーがルーファスに駆け寄る。

「大丈夫かねルーファス君?」

 その声を聞いてゾッとしたルーファスが飛び起きた。

「はい、大丈夫です!」

 今まで気絶していた人とは思えないハツラツぶりだ。

 ディーはルーファスを舐め回すように見ている。

「かすり傷を負っているようだね。すぐに私が舐めて――」

「お断りします!(死んでも嫌だ)」

 キッパリハッキリ言い切った。

 本当に残念そうな顔をするディー。

「君が言うなら仕方あるまい(……しかし)」

 そのままディーの視線はエロダコに向けられ、彼は話を続けた。

「ルーファス君を傷つけるなど、絶対に私が許さん(切り裂いて殺してやる!)」

 サングラスの奥でディーの眼が紅く光った。

 ディーの手にはいつの間にかメスが握られていた。しかも二刀流だ。

 静かに地面を駆けてディーがエロダコに襲い掛かった。

 音もなく静かに、輝線だけを走らせて、触手が次々とメスによって切り刻まれていく。

 剣では歯が立たなかったというのに、なんというメス切れ味だろうか。その巧みの業、切り込む角度、そしてタイミング。心技一体のハーモニーが、触手切断を可能したのだ。

 細切れにされていく触手の中でビビが解放され、カーシャやエルザも笑い地獄から解放された。

 横から乱入してきたディーを見て、ローゼンクロイツがワザとらしい嫌な顔をした。

「このタコ、ボクの夕食だよ(ふに〜)」

「喰うのは好きにしろ。ただし、こいつは私が殺す」

「料理は捌くところからやらなきゃいけないんだ(ふにふに)」

「この街で魚を捌かせたら私の右に出る者はおらんよ。私の華麗なメス捌きを魅せてやろう!」

 ……まさか、この展開は?

 魔導士ルーファス料理対決がはじまってしまうのかッ!

 ついに幕を開けた魔導士ルーファス料理対決。

 そして、カーシャまでもがこの戦いに乱入してきた。

「食を制する者は世界を制す!」

 カーシャの口から放たれた意味不明なひと言。

 立ち尽くしながらも、呆れた眼を向ける仔悪魔ビビ。ばっかじゃないの、いつものやつがはじまりましたね。カーシャの思いつきに振り回されるほど、アタシは子供じゃない。

 だが、薄笑いを浮かべて動じないカーシャ。

 おまえたちはいつものように、黙って妾の言うことに従っていればいい。しょせんお前たちは遊び道具でしかないのだから。ビビたちを見つめるカーシャの眼は、そう語っているかのようだ。

 だがこのあと、意外な人物の口から誰もが予想しえなかった言葉が!

 呆れ顔のビビを嘲笑うかのように、次々と名乗りをあげる挑戦者たち。

 魔導医ディーは呟く。

「……ククッ、望むところだ料理対決」

 私を舐めるなよ、魚を捌かせたら王国一の腕前だ。悪魔の手を持つディーのメス捌きが今日も冴えるのか!

 挑発的なカーシャの眼がローゼンクロイツに向けられる。

「魚介類マニアとして、この勝負、負けられないのではないか?」

「いいよ、この勝負受けて立つよ(ふあふあ)」

 いいでしょう、ここはあんたの言葉に乗せられましょう。でもね、その代わりボクがやるのは真剣勝負。死人が出ても知りませんよ。そう言いたげなローゼンクロイツの不敵な笑み。

 次にカーシャが目線を向けたのはエルザだ。

「いいのか? 王宮のエリート魔導騎士として、この状況を放って置く気か?」

「わかった。そういうことなら私もやろう」

 しぶしぶ重い腰を上げる高級官僚エルザ。勘違いするな、私は王宮に仕える身として放っておけないだけ。見え透いた挑発に乗るほど馬鹿じゃない。

 再びカーシャの視線がビビを見据える。

「もう一度聞こう、どうするビビ?」

「やるってば、やればいいんでしょ!」

 みんながやるならアタシだって黙っていられない。けどね、本気になったアタシをあんたたちは止められるのかい? 乗り気じゃなかった仔悪魔ビビまでもが、闘志を剥き出しにして食って掛かる。

 そしてこのあと、黙して語らなかったあの人物から信じられない言葉が!

「あ、あのさぁ……なんで料理対決なの?」

 この状況を呆然と見ていたルーファスの的を得た正論!

 大波乱を迎えた魔導士ルーファス料理対決、いったいどうなってしまうのかッ!

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