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番外編「アイーダ海の白い悪魔(3)」

 巨大船の前に回り込み、相手側もカーシャたちの姿に気づいて甲板に出てきた。

 ヴィーングたちを前にしてカーシャは言葉を風に乗せた。その言葉はまるで拡声器を使ったように響く。

「今からその船はアタイのもんよ、さっさと武器を捨てて降伏なさい!」

 いきなりの宣戦布告だった。

 ヴィーングたちがざわめきたち、声がいくつも上がった。

「『アイーダ海の白い魔女』だ!」

 その声を合図にヴィーングたちは戦闘体制を整えた。

 積まれていた全ての魔弾砲の照準がカーシャたちに向けられる。到底避けきれる数ではなかった。

 だが、その程度のことで臆していては『悪魔』などと呼ばれるハズもない。

「魔弾砲ごときでアタイに敵うと思ってるの?」

 その吐息だけで船を沈めるとまで云われる『アイーダ海の白い悪魔』。

 生きた伝説をフェリシアは目の当たりにすることになった。

 魔弾砲から高エネルギーは発射され、一直線にカーシャたちに向かってきた。

 突き出されたカーシャの手のひらに蒼いマナフレアが集まる。

 巨大なエネルギーがカーシャたちを呑み込もうとしていた。

 猛烈な風が吹き、銀髪がなびき、氷の結晶が大気に舞う。

 魔弾砲を吸収するカーシャの手のひら、次の瞬間!

「アイシングミスト!」

 ダイアモンドダスト状の氷の結晶が、烈風に乗って巨大な船を呑み込んだ。

 吸収した魔弾砲のエネルギーを増幅させて撃ち放ったのだ。

 アイシングミストは甲板にいたヴィーングたちを全員凍りづけにしてしまった。

 その威力を目の当たりにしてフェリシアは息を呑んだ。

「(この力があればたった独りで国を滅ぼすことも……)『アイーダ海の白い悪魔』……貴女はいったい何者なんだ?」

 その問いにカーシャは不気味に微笑むだけで答えなかった。

 代わりに答えたのはマーブルだった。

「何千年も生きてる婆さんだにゃ」

 その言葉を聞いてカーシャの目がキラーン!

「あぁン、なんつった? アタイがババアだって? くたばりやがれ欠陥魔導生物がっ!」

 カーシャはマーブルの首根っこを掴んで、そのまま全力で投球!

 この日、マーブルは夜空のお星様になったのでした。

 さよならマーブル!

 マーブルがぶっ飛び、換わりに魔弾砲がぶっ飛んできた。

 ついに全勢力仕掛けてきたヴィーング。

 すべての魔弾砲がいっせいにカーシャに向けて撃たれた。

 カーシャはホウキを走らせた。

 魔弾の雨を躱しつつ、カーシャはそのマナエネルギーを吸収していた。

 魔導を放つために必要なマナを供給する方法は、自らのエネルギーを使うか、自然などの他からエネルギーを借りるか、カーシャは強大な魔弾砲のエネルギーを我がものにしていた。

 カーシャは船の先端に降り立った。この場所に立っていれば魔弾砲を使うこともできない。

「この船は壊さないであげる。だってアタイのもんだから」

 ホウキを構えるカーシャ。

 船底から次々から出てきたヴィーングたちが武器を構える。

 カーシャたちの背中には海が広がっている。目の前には大勢のヴィーングども。まるで追い詰められたようだ。

 しかし、カーシャの顔に恐れも焦りもない。

 巨大な船を沈めることなどカーシャにとって造作もないことだった。けれど、目的は船の制圧。

 カーシャは肉弾戦を仕掛けた。

 大剣や大斧で向かってくる敵にカーシャはホウキ一本で受けて立つ。

 重く鋭い刃が振り下ろされる。それを受け止めたのは見た目にはただの木の棒だった。

 剣を受け止められたヴィーングは驚きを隠せない。たがか細い木の棒で剣を受け止められるハズがない。

 カーシャは笑う。

「ただのホウキじゃないのよ。この世でもっとも硬度が高く、魔導にも優れたウーラティアに生える樹齢1万年以上の大木から作ったものなの」

 カーシャが力を込めると、剣が折れて刃が宙に飛んだ。

 ホウキを武器にして次々とヴィーングたちを倒していくカーシャ。その戦闘力は魔導だけでなく、肉弾戦にも優れていたのだ。

 気絶させられて海に投げ込まれるヴィーングたち。

 ヴィーングの束を相手にするカーシャの目に映るフェリシアの姿。ヴィーングたちがフェリシアに襲いかかろうとしていた。

「逃げろフェリシア!」

 カーシャの心配は無用だった。

 少女とは思えない俊敏な動きでフェリシアは敵の攻撃を躱し、殴り倒した男から剣を奪って構えた。

 剣を持ったフェリシアは実に生き生きしていた。

 華麗な剣の舞で次々と大の男を倒していく。

 カーシャはそのフェリシアの姿を見ながら思い出していた。

「(ランバードは剣術が優れていたんだったわ)」

 聖戦で七英雄のひとりとして戦ったフェリシアの先祖は、聖剣を振るい大魔王と戦った。それ以来、ランバードは剣術を主戦力に置いて技術を磨き、魔導隊にも劣らない騎士団を保有する剣術の国として知られるようになった。

 いつの間にかフェリシアは独りでヴィーングの相手をしていた。

 もう手を貸すこともないと、カーシャは船の縁に寄りかかってワインを瓶のまま飲んでいた。

「女にしておくにはもったいない剣の腕。さすがは七英雄の末裔ってとこね」

 一気に飲み干した空き瓶をカーシャは勢いよく投げた。

 飛んでいった瓶はフェリシアの背後に迫っていた男の頭部にヒットして、そのまま男は気を失って倒れてしまった。

 礼を言うようにフェリシアはカーシャに向かって微笑んだ。

 微笑まれたカーシャは『そんなんじゃないわよ』って感じでそっぽを向いた。

 カーシャのアイシングミストで倒した敵と、船に降りてから倒した敵、もうほとんどのヴィーングがたった二人によって倒されていた。

 そして、ついにヴィーングの親玉が姿を見せた。

 フェリシアの3倍はありそうな巨大な影。超巨大な斧を持って襲いかかってきた。

 そんな光景を他人事のように観戦するカーシャ。2本目のワインを開けていた。

 カーシャは横にいたずぶ濡れの人形に訊いた。

「アタイはフェリシアが勝つ方に金貨十枚賭けるけど、アンタいくら賭ける?」

「賭なんかしてないで助けてあげるにゃー」

 そこに立っていたのは海の底から生還したマーブルだった。海水吸って塩味になっている。

 カーシャは3本目のワインを開けた。

「大丈夫よ、あの子強いもの」

 フェリシアの実力は山積みにされたヴィーングを見ればわかる。

 超巨大な斧の攻撃を剣で受けることは難しいだろう。優れた剣術を持っていても、少女のフェリシアには筋力の限界がある。フェリシアの武器は軽やかな瞬発力。

 床板を蹴り上げフェリシアは剣を振り上げた。

 斧の刃がフェリシアの胸をかすめた。

 だが、フェリシアのほうが早い。

 刃が振り下ろされ、巨大な胸板が血を噴いた。

 攻撃の手を休めずにフェリシアは切っ先を敵の心臓に突き刺した。

 巨大な身体が音を立てて倒れた。

 フェリシアの持つ剣は肉から引き抜かれ、鮮血を滴らせていた。

 カーシャの蒼眼は立ちつくしているフェリシアだけを映していた。

「……少女が血みどろの戦いをするなんてイヤな時代だわ」

 それが『アイーダ海の白い悪魔』の発した言葉なのか?

 カーシャは多くの歴史を見てきた。時代は流れ、世界の中心は変わっても、争いのない時代はなかった。いつの世も血を血で洗い流す戦いが繰り広げられている。

 4本目の空き瓶をカーシャは投げつけた。それに当たって倒れるヴィーング。親玉を倒してもまだヴィーングは沸いて出る。

 ヴィーングは船にいるだけではなかった。近くのアジトから、続々とヴィーングが船に乗り込んでくる。

 フェリシアだけに任せていたら日が暮れる。再びカーシャが戦闘態勢に入ろうと動いたとき、頭上から矢が降ってきた。

 すぐにカーシャは崖を見上げた。

 降り注ぐ矢の雨。それはカーシャたちを狙ったものではなかった。

 ヴィーングたちが次々と矢に倒れていく。

「新手?」

 呟くカーシャ。

 崖の上から大きな声が聞こえる。

「その船は俺たちカーラック武装船団が貰う!」

 新手のヴィーングたちだった。

 どこに隠れていたのか、新手のヴィーングたちが次々と現れ、そこら中で戦いがはじまってしまった。

 カーシャはヴィーングをホウキで殴り飛ばしながら、フェリシアのもとに駆け寄った。

「なんかめんどくさいことになったわね」

「敵の数が増えただけだ」

 フェリシアは淡々と言った。

 情勢はカーラック武装船団が優勢。制圧は時間の問題だろう。

 カーラック武装船団のヴィーングは船の上にまで攻め込んできていた。

 立派な角の生えた兜かかぶったヴィーングがカーシャたちの前に立った。その目はカーシャよりもフェリシアを見ている。

「まさかこんなところでランバードの皇女に会えるとは!」

「俺がランバードの皇女だってよくわかったな」

「お前を誘拐する計画があったんだが、どうやら失敗したらしくってな。ここで会えたのは幸運だったぜ」

「まさか……あいつらの仲間か?

 フェリシアは自分を誘拐したヴィーングたちのことを思い出していた。

 話を聞いていたカーシャは笑っていた。

「……連帯責任じゃボケども」

 その言葉を理解できたのはマーブルだけだった。ちなみにマーブルはカーシャのフードに隠れている。

「まだ根に持っていたのかにゃ」

 はじまりはワインの空き瓶だった。それがいつの間にかこんな展開になっていたのだ。

 蒼いマナフレアがカーシャの周りを飛び交う。

 危険を感じたマーブルが叫ぶ。

「フェリシアちゃん伏せるにゃ!」

 なんで伏せなきゃいけないかは肌が感じていた。危険な空気が辺りに立ちこめている。

 カーシャは円を描くようにホウキを振り回した。

 極寒の北風が吹き荒れた。

 凍える空気、止まる刻、死せる心臓の鼓動。

 ヴィーングたちが一瞬にして凍りづけにされ、ヒビが入って砕け散った。

 カーシャはホウキにまたがり、フェリシアの腕を掴んで強引にホウキに乗せた。

「作戦変更よ。もうこんな船なんかいらないわ」

 フェリシアを乗せてカーシャのホウキが上空高く舞い上がった。

 崖の上から放たれる矢の雨。

 カーシャは冷たい吐息を吐いた。

 飛んできた矢が凍り付いて砕け散る。吐息で船を沈めたというのは、あながちウソではないかもしれない。

 さらに吐息は崖に上にいた弓使いを凍りづけにした。

 巨大な船の上ではヴィーングたちが争いを続けている。

 その戦いにカーシャは終止符を打とうとしていた。

「神々の母にして我が母ウラクァよ、その冷徹なる心に吹雪く極寒の風……」

 それは古代魔導ライラの詠唱だった。

 『アイーダ海の白い悪魔』のライラ――その威力の壮絶さは見なくとも予想できた。

 しかし、そのことよりもフェリシアの心に抱かれたのは……。

「(我が母……まさか『アイーダ海の白い悪魔』は女神の……)」

 神々の母にして、氷の女神ウラクァ。

 長い詩を読み終えたカーシャが高らかに唱える。

「ウーラティカアイス!」

 巨大な氷の塊が隕石のように次々と降り注ぐ。

 氷塊は船を壊すだけでなく、海面に落ちて上がった飛沫をも凍らせ、辺りを一瞬にして銀世界へと変貌させた。

 破壊された巨大船は沈むことなく、凍った海に閉じこめられた。

 涼しい顔しているカーシャ。これで実力を出し切ったとは思えない。

 フェリシアは『悪魔』の意味を知った。

「(国を滅ぼすどころじゃない。この力があれば世界だって滅ぼすことができる。これじゃまるで破壊神だ)」

 地上から生が消えた。まるでそこは死の大地と呼ばれるウーラティア大陸のようだ。

 カーシャは崖の上に降り立った。

 降ろされたフェリシアは強ばった表情で地面にあぐらをかいた。

 そんなフェリシアにワインを勧めるカーシャ。5本目を隠し持っていたのだ。いったいどこに?

「戦いのあとにはワインに限るわよね。アンタも飲むでしょ?」

「未成年にアルコールを勧めちゃダメだにゃ」

 すかさずマーブルのツッコミ。

「別にいいじゃない、誰も見てないし」

 ここにいるのは3人と1匹、それと凍りづけにされている弓使いたちだけのハズだった。

 その気配に気づいたときには、カーシャの首に短剣が突きつけられていた。

「動くな『アイーダ海の白い悪魔』」

 静かで淡々とした声。

 辺りは黒装束の部隊によっていつの間にか囲まれていた。

 フェリシアが声をあげた。

「ランバードの忍者部隊かっ!」

 黒装束の男がフェリシアの前に膝をついた。

「ご無事でなによりですフェリシア皇女。皇女を誘拐したあの女は我が部隊の手中です」

 それを首に短剣を突きつけられたカーシャのことをだった。

「違う、彼女は俺を……」

 誤解を解こうとフェリシアがしゃべろうとするが、途中でカーシャが口を挟んで最後まで言わせなかった。

「まっ、世の中こんなもんよね」

 疾風のような素早さでカーシャは自分の真後ろにした男の脇腹に肘を入れ、首から短剣が離された隙をついて崖から飛び降りた。

 フェリシアが声をあげる。

「あっ!」

 次の瞬間、ホウキに跨ったカーシャが崖の下から現れた。

「さよなら皇女様、今日は楽しかったわ」

 軽やかに手を振ってカーシャは広い海の向こうに消えた。

 こうして『アイーダ海の白い悪魔』の悪行のひとつに、ランバード皇女誘拐が付け加えられたのだった。

 歴史は真実を語るものではない。

 ちなみにマーブルは崖の上に残され、忍者部隊に囲まれながら人形フリでやり過ごしたのだった。

カーシャさん日記

「皇女様とダチになったわ」229/2/18(シルフ)

今日も楽しい1日だったわね。

ランバードの皇女とダチになれたし、収穫も多かったわ。

あの国は血気盛んな国だけど、皇女様まであんなだったとはね。

愛想はないけど、可愛い子だったわね。

そういえば、あの子ちゃんと王様に話してくれたかしら?

あんな感じじゃ無理かしらね。

これからより一層ランバード海軍に追われそうね、サイテーだわ。

あ、そういえばマーブルまだ帰ってきてないわ。

ったく、どこで遊んでんだか。

それとあの店で大暴れしちゃったけど大丈夫かしら。

店は営業停止でしょうけど、町まで入れなくなるのは痛いわ。

まあ、ダイジョブっしょ。

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