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第4話「空色ドレスにご用心(4)」

 森の入る前から、島の中心に高い丘がるのが見えていた。

 そこへローゼンクロイツは向かうのだと言う。

「なんで?」

 と、ルーファスは尋ねた。

「あっちに何かあるような気がする(あふあふ)」

 漠然としない答えが帰ってきた。

 『何か』とはいったい何か?

 無人島の定番といえば、海賊の隠した財宝やそれを守る怪物?

 ふと、アインは昔読んだ小説を思い出した。

「昔『宝島』という小説読んだことありますよー」

 その話にルーファスは乗った。

「知ってる知ってる、洞窟に隠された財宝をドラゴン守ってる話でしょ。財宝に取り付かれた人間が欲のあまりドラゴンになったとか?」

「違いますよ」

 アイン否定。ルーファスは話に乗れなかった。

「ドラゴンなんて出てきませんし、財宝は丘の上にあるんですよ」

「そうだっけ?(あれ〜、だったら欲深いドラゴンが出てくるのなんだっけ?)」

 ルーファスの悩みはローゼンクロイツが解消した。

「ルーファス、それ小説じゃなくて伝承ふあふあ。ファブニルという猛毒を持ったドラゴンの話だよ(ふにふに)」

「あーそれそれ、たぶんそれ(のような気がする)」

 なんて雑談に花を咲かせようとしたていとき、3人の足が急に止まった。

 ドドドドドドッと走ってくる音が後方から聞こえる。

 振り返るとノッポとチビの2人組みがこっちに近づいてきた。

 ノッポは羽こそ見えないが、どう見ても首から上がニワトリだ。もう片方のチビはシャツから飛び出た出べそを覗かせ、巨体をゆっさゆっさ揺らし、首から上は控えめに見てもブタだった。

 ルーファスたちに追いついてきたニワトリマンは、ビシッと白い羽に覆われた手で指さした。

「おまえら、オレたちの財宝を横取りする気だな!」

 ブヒブヒ息を切らせたブタマンも追いついてきた。

「アニキの言うとおりだ。おまえら、ポクたちの財宝を横取りする気だろ!」

 ルーファスは呆気に取られ口をポカーン。

「はぁ? 財宝ってなに?」

 ルーファスが不思議な顔で尋ねると、ニワトリマンがトサカを立てて詰め寄ってきた。

「財宝っていったら、丘の上にある財宝に決まってるじゃねえか!」

「アニキの言うとおりだ!」

 ブタマンが言った。

 そんなこと言われても、別に財宝を探しに来たわけでもなく、ローゼンクロイツがなんとなく歩くほうにみんなで歩いてただけだ。

 が、すでにアインの目は輝いていた。

「財宝って本当ですか? ローゼンクロイツ様財宝ですって聞きましたか!?」

「……興味ない(ふあふあ)」

 さらっとローゼンクロイツは流した。

 だが、ニワトリマンとブタマンは信用してない。

「はは〜ん、オレたちをそうやって油断させる気だな?」

「だなー!」

 させる気もなにも、最初から財宝目当てではない。

 だが、ニワトリマンとブタマンは疑いを深める。

「オレたちクック&ロビンを出し抜こうなんて甘いぜ」

「甘いぜ!」

 威勢良く決めたところで、アインが質問。

「あの、お2人は何なんですか?」

 この質問にクック&ロビンはショック!

「オレたちクック&ロビンを知らないだと?」

「知らないだとー!」

「オレたちは世界を股に掛けるとトレジャーハンターだ」

「だー!」

 トレジャーハンターとは、簡単にいうと宝探しを生業にしている人たちのことだ。

 宝探し――それは男の夢とロマン!

 クック&ロビンは3人組みを追い抜いて走り出した。

「宝はオレたちがいたたくぜ、あばよ!」

「あばよー!」

 後姿がどんどん小さくなって見えなくなった。

 ルーファスがボソッと。

「なにあれ?(変な人たち)」

 トレジャーハンターだ。ニワトリ人間とブタ人間のコンビの。

 アインは目を輝かせていた。

「この島に財宝があるんですね! きっと大海賊の船長が『処刑の瞬間に、オレの財宝を見つけられるもんなら見つけてみな!』なんて遺言を残した財宝に違いありませんよ!」

 あくまでアインのモーソー。

「あたしたちも早く行きましょう!(金銀パール、もしかしたらもっとスゴイものかも!)」

 財宝を探したくてウズウズ。

 でも、ルーファスとローゼンクロイツは探す気なし。

「あの2人の言ってたこと信用できないよ(ノリからして胡散臭い)」

「……興味ない(ふぅ)」

 でも、アインはめげない子。

「宝探しは男のロマンなんじゃないんですか!」

 うぇ〜ん、と大粒の涙をこぼしながらアインは走って行ってしまった。

 ルーファスはローゼンクロイツと顔を見合わせた。

「どうする?」

「なにが?(ふあふあ)」

「なにって、アイン行っちゃったよ」

「うん、知ってる(ふあふあ)」

「知ってるじゃなくて、1人で行かせていいの?」

「知らない(ふあふあ)」

「知らないとかじゃなくてさー」

「じゃ、知ってる(ふあふあ)」

 絶対考えて返答してない。

 スタスタとローゼンクロイツは歩きはじめた。アインが泣きながら走って行った方向だ。だが、アインを追うためではなく、はじめからそっちに進んでた方向だからだ。


 男のロマンを男にわかってもらえず、13歳の乙女アインは泣きながら走っていた。

 森を抜け、小高い丘を猛ダッシュで駆け上る。足腰が丈夫なアインだった。

 そうしてしばらく走るうちに、丘の頂上に到着してしまった。

 丘の上には大きな湖があり、巨大な影と2人組みがいた。

 クック&ロビンを発見!

 しかも、2人はドラゴンに襲われていた。

 トカゲを大きくしたような地竜が暴れ回っていた。

 身長の高いクックよりもドラゴンの頭は上にあり、全長はクックの3倍以上もありそうだ。

 アインは見てみないフリをした。

「あたしはなにも見てません、ごめんなさい!」

 そして、ドラゴンに襲われている2人を見捨てて逃亡。

 丘を全速力で駆け下りた。昇るときの1.5倍のスピードだ。

 3分の2くらい下ったところで、アインは2人を発見した。ルーファスとローゼンクロイツだ。

「助けてくださいピンチです!」

 大声をあげてアインは駆け寄る。

「なにかあったの?」

 首をかしげてルーファスが応じた。

「クック&ロビンさんがドラゴンに襲われてます!」

 それを聞いたルーファスは凍った。顔が青くなってしまっている。

 少しして解凍したルーファスは無言で丘を下りはじめた。のを、ローゼンクロイツが袖をグイと引っ張って止める。

「行くよ、ルーファス(ふあふあ)」

「ウソだろ、なんで行かなきゃいけないんだよ」

「用事があるからに決まってるだろう(ふあふあ)」

「じゃあ私はここで待ってるから、頑張ってよ」

 自ら危険な場所に飛び込みたくない。けれどローゼンクロイツはルーファスの裾を放さない。

「行くよ(ふあふあ)」

「ヤダ」

「行くよ(ふーっ)」

「絶対イヤだ」

「行くよ(ふーっ!)」

「絶対にヤダからね!」

 ついにルーファスは地べたに座り込んだ。

 ローゼンクロイツはそれを無言で見つめ、突然魔導を放った。

 放たれたのは白銀に輝く魔導のチェーン。拘束魔導のエナジーチェーンだ。

 エナジーチェーンはルーファスの首に巻かれた。

「行くよ、ポチ(ふあふあ)」

「ポチじゃないし!」

 ペット扱いされたルーファスは怒りを露にするが、首を引っ張られて息を詰まらせた。

「うっ!(苦しい)」

「行くよ、タロウ(ふあふあ)」

 名前変わってるし!

 ぶっちゃけ、なんでもいいのだろう。

 ローゼンクロイツに引きずられるルーファスを見ながら、アインはニヤニヤしていた。

「ご主人様とペット……萌え〜」

 趣味が怪しい路線に入っている。

 抵抗しても首が絞まるだけなので、ルーファスは仕方なく鎖を引かれた。

 丘をどんどん登り、頂上がそこまで迫ってくると、不気味な悲鳴が聴こえた。

「コケコッコー!」

 かなり不気味な悲鳴だ。誰の悲鳴なのかは見なくてもわかった。

 続けて悲鳴第2弾

「ブヒーッ!」

 こっちも誰の悲鳴かすぐにわかった。

 まるで動物鳴き声当てクイズだ。

 クック&ロビンの悲鳴を聴いて、アインは内心ホッとした。

「(よかった、まだ生きてた。死んでなければ見捨てたことにならない、あたしルール)」

 頂上に3人が到着すると、クック&ロビンは湖の周りをドラゴンと追いかけっこしていた。

 ドラゴンは四つの足で走り、口からは炎を吐いていた。

 ニワトリとブタの丸焼きは目前だ!

 でも、二足歩行するニワトリとブタは食べるのに気が引ける。ニワトリは元々二足歩行だけれど。

 空に逃げれば助かるだろうに、かわいそうなことにクックはニワトリ人間だった。

 飛べない鳥の代表ニワトリ。

 ドラゴンの吐いた炎がロビンの尻を撫でた。

「ブヒーッ!」

 おいしそうな匂いが辺りに漂う。

 ジュルっとアインはヨダレを拭った。

「美味しそう(お肉最近食べてない)」

 バイトで授業費を稼ぐアインの私生活が垣間見れた。

 見ているだけで自分たちを助けようとしない3人組にクックが叫んだ。

「助けろコンチキショー!」

 いつもならここでロビンが続くのだが、鼻息ブーブー息絶え絶えでそれどこじゃなかった。

 助けろと言われた3人組は動こうとしなかった。

 ルーファスは、

「危ないし」

 ローゼンクロイツは、

「……関係ない(ふにふに)」

 アインは、

「(早く焼けないかなぁ)」

 食う気満々だった。

 クック&ロビンがルーファスに向かって来る!

 当然、ドラゴンも向かってくる!

 ルーファス逃げる!

「助けて! 助けてローゼンクロイツ!」

 助けてくれるかは別として、メンバーの中では実力ナンバーワンだ。

「仕方ないなぁ(ふあふあ)」

 ローゼンクロイツは日傘を剣のように構えた。

「ライララライラ、宿れ光よ!(ふにふに)」

 古代呪文ライラによって、日傘に聖なる光が宿った。

 ルーファスの真横を抜ける蒼い風。

 疾風はクック&ロビンの横も抜け、ドラゴンの真後ろに回った。

 振り下ろされる光の剣。

 閃光は連続して放たれて、輪切りにされたドラゴンの尾が山積みされた。

 華麗なる包丁さばき……じゃなかった。剣さばきだ。

 ローゼンクロイツが肉弾戦で戦う姿を見て、アインはちょー感動していた。

「萌え〜っ!! ローゼンクロイツ様って足も速かったんですね!」

 まさに瞬く間に駆けたローゼンクロイツは、一瞬にしてドラゴンの尾を輪切りにした。

 ルーファスは別に驚くわけもなかった。

「そうだよ、ローゼンクロイツは私の逃げ足より早いよ」

「だってローゼンクロイツ様が徒競走で堂々と歩くのは伝説じゃないですか!(しかも聞いた話によると日傘まで差してたとか)」

 ローゼンクロイツ伝説のひとつだった。

 大地を揺らし、炎を吐くドラゴン。尾を斬られてかなり激怒している。

 が、ローゼンクロイツはそんなことなど気にせず、黙々と次の攻撃の準備をしていた。

 日傘をバットのように構え、振りかぶった!

 積み重ねられてダルマ落とし状になった輪切り肉を打つ!

 打つ!

 打つ!

 そして、また打つ!

 ぶっ飛んだ輪切り肉はドラゴンの顔面に連続ヒット。

 よろめいたドラゴンが後ろ足を引いた瞬間、ドラゴンが冷や汗たらり。後ろ足は宙に浮いていた。

 切り立った崖からドラゴン転落。

 雪が積もってたら、雪だまになっちゃうよくらいの勢いで、崖を転がって落ちていった。

 さようならドラゴンさん。ご冥福お祈りいたします。

 ドラゴン退治完了。ローゼンクロイツは強かった。

 そんなこんなでクック&ロビンは財宝を手に入れようと湖に近づいていた。

「アニキ、ついに財宝がポクたちの手に!」

 お尻が焦げているのも忘れ、ロビンは鼻息荒く気合が入っていた。

 もちろんクックも気合十分だ。

「おうよ、湖の底に沈んでる財宝を湖の精に頼んで貰おうぜ!」

 そんな話そっちのけで、ローゼンクロイツは湖の周りに生息している草木を見ていた。

「……見っけ(ふにふに)」

 七色をした小さな木の実。それはまさしく薬草全集に載っていたレインボーマタタビだった。

 アインはローゼンクロイツの後ろから、レインボーマタタビを覗き込んだ。

「それを何に使うんですか?(図鑑には猫の霊をとか書いてあったような気がするけど?)」

「この実を分析しゅて、逆の効果を得る薬を作るんだよーよーよー(ふあふあ)」

 突然、ローゼンクロイツは顔を真っ赤にしてフラフラしはじめた。

 マタタビに酔ったのだ。

「ひっく!(ふにゃ)」

 しゃっくりみたいに肩を上下させ、ローゼンクロイツは顔面から地面にダイブ!

「大丈夫ですか!!」

 慌ててアインがローゼンクロイツを抱き起こそうとしたが、その手が不意に固まる。

 ピンチなのはわかっているのに……。

「ネコミミ萌え〜!」

 アインは叫んだ。

 ローゼンクロイツの頭に生えたネコミミ。

 今回はクシャミなしで、マタタビパワーによって変身。

 むくっとローゼンクロイツは立ち上がった。

 足取りが明らかに怪しく、顔は真っ赤に酔っている。耳やしっぽの先までほんのり赤い。猫返り酔拳モードだ!

 いつもよりもクネクネ動く『しっぽふにふに』と、顔を真っ赤にして千鳥足のねこのぬいぐるみよる『ねこしゃん大行進』の豪華2本立て。

 しっぽふにふにの電流を喰らって、クック&ロビンが感電しながら湖に落ちた。

 その瞬間、湖から水飛沫を上げて薄着の女性が飛び出してきた。

「ぎゃー!」

 女性は身体をビリビリさせながら、丘を駆け下りていった。

 その女性が湖に住む精霊なんて、誰も知る由もなかった。

 自由気ままに、しかも今日はいつも以上に予想できない動きをするねこしゃんとしっぽ。

 しっぽがねこしゃんを叩き、爆発を次から次へと起こしていく。

 そして、全てのねこしゃんに飛び火。

 ドーン!!

 丘の頂上が大爆発して噴火したように水飛沫が上がった。

 その水飛沫の間から、キラキラ光る黄金の輝きが?

 まさか、あれが財宝!

 それがルーファスの最後に見た映像だった。


 机の上で伏せていたルーファスがビクッと目を覚ました。

「……夢っ!?」

 追試試験の予習をしようと、机に向かっているうちに、いつの間にやら寝ていたらしい。

「なんかリアルな夢だったなぁ」

 加えて、なぜか全身が痛い。

 あれは本当にただの夢だったのだろうか?

 その頃ちょうど、魔導学院の医務室でアインは目を覚ました。

「ローゼンクロイツ様!?」

 ベッドから上半身を起こし、アインは首をかしげた。

「ローゼンクロイツ様の夢見ちゃった……えへへ」

 下校のとき、ローゼンクロイツにビシッとされて気を失ったアイン。そのまま魔導学院の医務室に運ばれ、今までずっとベッドで寝かされていたのだ。

 聖カッサンドラ修道院の宿舎では、ローゼンクロイツが頭を抱えながらベッドから起きていた。

「……気持ち悪い(ふにゃー)」

 二日目じゃないのに、二日酔いだった。

 ローゼンクロイツはしっかりと握っている拳を開いた。

 掌に乗るレインボーな木の実。それはまさしくレインボーマタタビ。ちゃ〜んと夢の世界から持ち帰ったのだ。

 でも、二日酔い。

 ひどい吐き気と頭痛に襲われながら、ローゼンクロイツは再びベッドに潜った。

「……死にそう(ふぎゃー)」

 作った顔ばっかりするローゼンクロイツが、この時ばかりは本当に死にそうな顔をしていた。

 冒険を共にしたルーファスも全身の痛みで死にそうな顔をしていた。

 ニヤニヤ嬉しそうな顔をしているのはアインひとりだった。


 第4話_空色ドレスにご用心 おしまい

カーシャさん日記

「資格マニアめがっ」997/09/21(ハリュク)

今日はじめて聞いたのだが、クリスちゃんが弁護士の資格を取ったらしい。

あいつはこれまでにも色々な資格を持っていて、危険物から重機、調理師の免許も取得しているらしい。

こないだ妾が「卒業後はどうするのだ?」と訊ねたら、老後は水族館の館長がいいとか抜かしておった。

そういえば、クリスちゃんは今日もストーキングされていたな。

あのストーカー眼鏡はクリスのちゃんのファンサイトまでやっていて、たまに妾もBBSに書き込みをしている。

なぜかいつも削除されるがなっ!

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