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第3話「ドカーンと一発咲かせましょう(4)」

 塔から転げ落ち、下の湿地帯に飛び込み、どうにか無事でびしょ濡れのルーファス。

 やっと塔の頂上にたどり着いたときには、なぜか4人があーでもないこーでもないと戦闘を広げていた。

 氷系魔導を得意とするカーシャの攻撃は、同じ氷系を得意とするロスに防御され、カーシャが苦手とする炎系魔導でオルが攻撃を繰り出し、それを同じく炎系を得意とするクラウスが防御し、クラウスは氷系を得意とするロスに攻撃すると、それをオルが防いで、オルはカーシャに……。

 とにかく!

 赤い光と青い光があっちに来たり、こっちに来たりを繰り返していた。

 ビビの姿はない。とっくに階段を下りていってしまったらしい。

 ルーファスに気付いたカーシャが声をあげる。

「ルーファス、1匹任せた!」

「はぁ?」

 と、理解できないルーファスが、もっと理解できないことにカーシャに投石ならぬ投人された。

 人間ミサイル発射!

 投げられたルーファスはオルに向かってぶっ飛ぶ。

 オルはロッドをバットのように構えて、カキーンとルーファスを打った。

 さよならホームラン!!

 さよならルーファス。

 ルーファスはお星様になったのだった……じゃなくて、またもや塔の下にまっ逆さま。今度は高さ的に危ないかもしれない。ご冥福をお祈りいたしますルーファス。

 塔の上に残った4人が黙祷。

 カーシャが嘘泣きで涙を拭う。

「ルーファス、お前の意思は妾が……」

「勝手に殺さないでよ!!」

 塔の淵からルーファスの声が聞こえた。よく見るとかろうじてルーファスの手が見える。

 井戸から這い上がってくる死者のような形相で、ルーファスは必死に塔の側面をよじ登った。

「……まだ死んでないから」

 生き絶え絶えのルーファスを見ながらカーシャは舌打ち。

「チッ(香典は妾の懐に入る予定だったのに)」

 ルーファスの葬儀で集めたお香典を懐に入れる気だったのか!!

 そんなサイドストリーが繰り広げられる中、クラウスの不意打ち攻撃発射!

 エナジーチェーンと呼ばれる拘束魔導。湿地帯でルーファスを引っ張ろうとしたときに放ったモノと同一だ。この魔導は世界でもポピュラーなもので、治安官などが犯人を捕らえるときにも使用される。

 そんなわけで、あっさりと捕らえられたオル&ロス。

「クソっ、クラウス早く解け!」

「解かないとあとで仕返しするぞ!」

 赤と青のどっちがオルでロスなのか、そんなのはどうでもいい話で、とにかく2人は喚いた。

 しかし、そんな2人組みはシカトでクラウスは話を進める。

「先を急ぎましょう、カーシャ先生」

「うむ、ファウストを探すのが先決だ」

 走る二人の背中に、オル&ロスが罵声を投げる。

「「チェーン解け!」」

 やっぱり見事なシンクロだ。

 ルーファスもこっそり2人を素通りしようとした。

 が、やっぱり呼び止められる。

「「ルーファス!」」

「は、はい!(この2人苦手なんだよねぇ)」

 ビクッと身体を震わせルーファスは足を止めた。

 オルがまず最初に話す。

「チェーンを解けとお前に言ってもムダなのはわかってる」

 エナジーチェーンは基本的に術者しか解くことができない。だが、今の言い方はルーファスが無能で役立たずのへっぽこだから解けないと言ってるようにも聞こえる。あくまで解釈の範囲で聞こえる。

 次にロスが話す。

「だが、せめてこの場所から移動させてくれないか?」

「どういうこと?」

 ルーファスが尋ねると、オル&ロスが同時に話しはじめた。

「「あれを見ろ」」

 と、2人同時で顎をしゃくって示したのは、塔の頂上に存在する謎の池。

「「ファウスト先生の話によると、あれは砲台でいう口に位置する場所だそうだ」」

「つまり、この塔そのものが砲台ってこと?」

「「そうだ」」

 通常の2倍で公定。

 てゆーか、こんな場所でクズクズしてたらルーファスも危ない?

 ドーンと発射されたら、ルーファスたちも余波でドーンだ。

 冷や汗の出たルーファスは急いで二人を移動させ――ようとしたが動かない。

 身体をグルグル巻きにされた人を運ぶのは容易ではない。

 1人ぐらいなら担げばいいが、相手は双子。2人が重なってグルグル巻きだった。

「……ムリ」

 ルーファス断念。 

「「オイ!」」

 ツッコミ2倍。

 赤いオルが犬のように咆える。

「ここにオレたちを置いてったら、次に会ったときにギタギタにしてやる! なあロス?」

「そうだ、半殺しじゃ済まないからな!」

 2人に咆えられ、ルーファスは重いため息を付いた。

「はぁ……なんとかするよ……」

 と、見せかけてルーファス逃亡。

「やっぱりごめん、運べない!」

 背中を見せてルーファスは逃げた。

 オルとロス兄弟の喚き声が塔の屋上に響いたのだった。


 古文書を片手にファウストは扉の前に立っていた。

 その耳に届く足音。

 ファウストは振り向いた。

「たしか……ビビと言ったかな?」

「フルネームはシェリル・B・B・アズラエルだよぉん」

「どうしてここにいるのだ?」

「楽しそうだから決まってるジャン!」

 わかりやすい行動動機だ。

 いや、しかし、ファウストが聞きたかったのはそんなことではなくて。

 ビビの後を追ってカーシャとクラウスも駆けつけてきた。

「やはり来ましたね……カーシャ先生、ククッ」

「当たり前だ、お前に古代兵器を渡してなるものか」

 もちろん我が物とするためにだ。

 でなきゃ、こんな湿地帯の奥まで来るはずがない。どこまでいってもカーシャは利己的な女だった。

 いつの間にか、カーシャとファウストの間には火花が散り、バーサスの構図がわか〜りやすくできてしまった。毎回毎回、こんな調子で2人とも疲れないのだろうか。

 カーシャはファウストの真後ろにある扉に目をやった。

「その奥に制御室があるのだな?」

「確かめるには私を倒さねばなりませんよ?」

「望むところだファウスト!」

「ククッ、お相手いたしましょう」

 魔導学院に伝わる暗黙のルール。

 カーシャとファウストのケンカは犬も食わない。

 つまり、2人のケンカは放置するのが一番だ。

 正義感をかざして渦中に飛び込んだらケガをする。

 ファウストは一枚の契約書を取り出した。そこにサインされたカーシャの印。1000ラウルの借用書だった。

 しかし、これはただの借用書ではない。

 悪魔の契約書レッツ封解!

 契約書が風もないのに揺れ、どこからともなく餓えた野獣の呻きが聴こえた。

「出でよスライム!」

 ファウストの掛け声と同時に、緑色の物体が契約書から吐き出された。

 流動するネバネバの生き物がカーシャの身体に張り付いた。

「クッ……小癪な!」

 しかし、振り払おうにも振り払えない。スライムはカーシャの手足を包み、身動きを封じてしまったのだ。

 それを見てファウストは満足そうだった。

「今日は無駄な小競り合いなどしていられないのでな。カーシャ、そこでじっとしていたまえ(今は一刻も早く魔導実験をしなくては)」

 カーシャの動きを封じ、扉の前に立ったファウストはさっそく古文書の解読をはじめた。

 扉はなにかの力で封印されている。それを解くのにファウストは神経を使っていた。

 いつものパターンなら、ノリノリで挑んでくるファウストに裏切られ、カーシャは思いも寄らないショックを受けていた。

「ファウスト、この卑怯者めが! 男なら正々堂々と戦え!」

「卑怯はカーシャの十八番でしょう。貴女にそんなことを言われる筋合いはありませんよ」

「自分の卑怯など知るか、今はお前の話をしておるのだ!」

「少し黙っていてくれませんか、集中できないのだよ!」

 少し語尾をあげてキレ気味のファウスト。魔導のこととなると、視野が狭くなると魔導学院でも有名だ。

 今回の事件もそんな感じだ。

 魔導学院の地下書庫に安置されていた古文書を発見。それを持ち出して授業をほったらかし、勝手にクラスの生徒を数人引き連れてこの場所に来た。もちろん途中で脱落した生徒は放置だ。今もきっと湿地帯では救出劇が繰り広げられている。

 超古代兵器があるらしいとファウストは睨んでいるが、それをどうこうして戦争をしようとか、誰かを脅そうとか、そんな考えは持っていない。

 あくまでそーゆーものを実際に見て、なんとなく使ってみたいだけ。

 本人を前にして誰も言わないが、ファウストは魔導学院でこう言われている――魔導具オタク。

 まだファウストは扉の封印に神経を削いでいる。

 カーシャはなんとか逃げ出そうと踏ん張って頑張っていた。その視線に入る2人組み。しかも、その2人ったら床に座ってトランプをしていた。

「ビビならともかく、クラウスまでなにをやっておるのだ! 遊んでないでファウストをどうにかせんか!(クラウスまで……あれも仔悪魔の魔性か?)」

 クラウスは済まなそうに頭を下げた。でも手にはトランプを握ったまま。

「すまない。ビビがどうしてもババ抜きをしたいっていうから……(レディの誘いは断れないからな)」

「カーシャもやる?」

 ニッコリ笑顔でババ抜きのお誘い。

「お前らアホか……2人でババ抜きをしてなにが楽しいのだ。ではなくて、手が使えないからお前らにどうにかしろといっておるのだ。トランプができるくらいの余裕があるなら、妾がファウストをとめておるわ!!」

 そんなこんなをしているうちに、いざファウスト扉を開かん!

 重く閉ざされていた扉が歯軋りのような音を立て、ゆっくりとその口を開きはじめた。

 ファウスト拍子抜け。

 カーシャ唖然。

 残りはトランプに夢中。

 なんと、扉の先にはまた扉があった。2重扉だったのだ。

 再びファウストは黙々と扉の封印解除をはじめた。

 カーシャも再びスライムから抜け出そうと頑張った。けど飽きた。

「さすがにもう疲れたし飽きたな。おいファウスト、この塔にはどんな兵器が隠されておるのだ?」

 ファウストの眼がキラリーンと輝いた。

「よくぞ訊いてくれたカーシャ。まだ私もはっきりとわからんのだが、空に輝きを放つ砲台があると比喩されている。つまりだな、私が考えるにそれは魔導砲の一種ではないかと思うのだが、カーシャはどうかね?」

 水を得た魚のように熱弁を振るうファウスト。魔導具の類が大好きなのだ。説明を求められたら答えずにいられない。

「ふむ、魔導砲とな? しかし、それにしては砲台など屋上にはなかったぞ?(あったのは黒い水溜りだけだ)」

「塔の頂上にあるエネルギー蓄積装置を見たかね? あれは月の光をエネルギーとして蓄積し、あの場所から放出する砲台の口なのだよ」

「天に撃っても標的には当たらんと思うが?」

「それは作動してみなくてはなんとも言えませんねぇ。搭自体が傾くのやもしれません」

「……なるほど」

 搭が傾くなんて、んなアホな!

 なんてこともなく、カーシャの常識では納得してしまった。

 そんなこんなをしているうちに2番目の扉も開いてしまった。

 こんなことをしてる場合じゃないとカーシャ焦る。

「お前ら、さっさとファウストを追わんか!」

 と、カーシャが向けた視線には3人の仲むつまじい人影が……ひとり増えてる!?

 ルーファスだった。

 トランプのメンバーにルーファスが追加されていた。ちなみに今ババを持っているのはルーファスだ。

 じゃなくって!

「ルーファス! さっさとファウストを追え!」

 カーシャの叱咤を受けて反射的にルーファスは動いた。まさに脊髄反射の域に達している。

「は、はい!」

 トランプをぶちまけてルーファス出動。勝負はおじゃんで、ババを持っていたルーファスは大助かり。将棋で大手をかけられたときに駒がぶっ飛ぶのと同じだ。

 ファウストを追ってルーファスが走り、そのあとを釣られてクラウスとビビが追う。が、クラウスはカーシャに呼び止められる。

「おまえは妾からスライムを引き剥がせ!」

「はい!」

 一国の国王に私情で命令できるのは、この国広しと言えどカーシャだけかもしれない。

 ファウストは石碑の前で立ち止まり窪みを見た。そこに古文書と同時に見つけた『鍵』を差し込んだ。鍵と言っても、それは石のような形をしていた。

 搭全体が動くような音がした。

 天井からは何百年、何千年もの間に積もった埃が落ち、長い間、起動されることなかったロストテクノロジーが動き出す。

 もし、この力が暴走したら、どこかの国が滅びるかもしれない……。

 ルーファスがファウストに飛び込む。

「ダメだファウスト先生!」

 ファウストの身体を押し倒し、ルーファスの手が……ポチッとな。

 発射スイッチオン!!

「ルーちゃんの……ばか」

 ビビの呟きを掻き消すように、唸り声をあげた搭が、その頂上から七色の輝きを放った。

 その光景はルーファスたちがいる制御室でも、3Dホログラムでモニターされていた。

 ドジッ子ルーファスのせいで、世界は未曾有の恐怖に……。

 と、思ったら天高く昇った輝きは、パーンと弾けて辺りに綺麗な華を咲かせた。

 一同沈黙。

 これってまさか?

 ここでビビちゃんが笑顔で掛け声。

「たっまやーん!!」

 綺麗な花火が昼間の空を彩った。

 クラウスは俯いて肩を震わせていた。

「くくっ、はは、あははは! なんだ花火じゃないか」

 横にいたカーシャも残念そうに。

「そのようだ(チッ、古代兵器ではないのか)」

 そんな軽いオチで包まれるこの場で、たたひとりルーファスだけが顔面蒼白だった。

 自分がスイッチを押してしまった罪悪感で、その瞬間に気を失って倒れてしまっていたのだ。

「ルーちゃん、カッコ悪」

 呆れたようにビビはため息を落とした。

 こうして今回の騒動は呆気なく幕を閉じたのだった。


 ちなみに、この事件で大火傷を追ったオル&ロス兄弟に、ルーファスが追っかけられるのは後日談である。


 第3話_ドカーンと一発咲かせましょう おしまい

カーシャさん日記

「花火」997/09/20(サラマンダー)

ふふふっ、またファウストが減給させられたぞ。

いくら奴が金に困っても借りた金は返してやらん。

それにしても花火は綺麗だったな。

ふむ、先月の花火大会も楽しかったな。

だが、花火と言えば聖都アークの納涼大花火大会が世界1だな。

そうだ、湿地帯で変な石を拾ったのだが?

あの石どこにいったんだ?

なにやら魔力のこもった石だったのだが……。

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