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第3話「ドカーンと一発咲かせましょう(3)」

 ――カーシャだった。

 物陰からひょこっと現れたカーシャを見てビビが叫ぶ。

「あ〜っ、アタシを置いて行った薄情者!」

「それは誤解だぞビビ。妾はおまえを置いていったのではなく、捨てたのだ」

 もっと最悪だった。

 途中までビビとカーシャは共に行動していたのだが、いつの間にかカーシャが消えてビビは独りぼっちで彷徨っていたのだ。

 地面で死の境を彷徨っていたルーファスがのそっと立ち上がった。

「あー、質問。じゃあなんで戻ってきたわけ?」

「そんなこと決まっておるだろう。道に迷ったのだ(景色が全部同じに見える)」

 堂々と迷子です発言。

 ここでカーシャ以外が冷や汗たらり。

 ルーファスはクラウスに顔を見合わせた。

「クラウス……道覚えてる?」

「いや、大蛇に襲われた場所までは記憶してたんだが、そのあと必死に逃げたから……」

 不安顔のルーファスは次にビビを見た。

「ビビは?」

「アタシに聞かないでよぉ」

 絶望の顔で最後にルーファスはカーシャを見つめた。

「カーシャは……迷子だよね」

「あはははは」

「きゃははは」

「ふふふふっ」

「あ〜ははは」

 乾いた笑いが木霊した。

 一同遭難。

 ビバ・遭難!!

 周りは危険なアニマルでいっぱい。

 暗くなったらもっと絶望的だ。

 いち早くクラウスが冷静さを取り戻した。

「みんな、大丈夫だ。少し冷静になろう(来た道を戻ればいいだけじゃないか)」

 クラウスは辺りをゆっくりと見回した。

「みんな冷静になれば帰り道がわかるはずだ。帰り道は……あっちだ!」

 一斉に4人で帰り道を指さした。それが見事にバラバラの方向。絶望色が濃くなった。

 こんなことじゃへこたれない。クラウスは冷静さを保った。

「カーシャ先生、箒に乗って上空から現在地を確認してください」

「……箒か……あれならさっき野人に盗まれた(イタズラ好きな野人さん……なんて笑えんぞ……ふふっ)」

 かなり絶望的な展開にルーファスは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「どうしよう、不安でお腹が痛くなってきたぁ……」

 ポンとビビが手を叩いた。

「そうだっ、まだ昼ごはん食べてないよ。お腹すいたぁ、お腹すいたぁ、お腹すいたぁ」

 駄々をこねはじめたビビ。

 横ではカーシャが暗い影を落として、含み笑いで肩を震わせている。

 パーティーメンバーが次々と役立たずになっていく中で、さすが一国の王クラウスは希望を捨てていなかった。

「ルーファスしっかりしろ、魔導学院の遠足に比べたらミズガルワーム湿地帯で遭難なんてたいしたことない。グラーシュ山脈の登山や帰らずの樹海でのサバイバル合宿、他にもゴンゴル火山に飛び込めだなんて無理難題もあったじゃないか!」

 魔導学院で初の課外授業を行なったのがグラーシュ山脈だった。温泉遠足だと騙されて連れて行かれた雪深い極寒の山脈。見事にそこでルーファスは遭難した。

 そして、その遭難時にルーファスはカーシャと初めて出逢ったのだ。いや、遭っちゃったのだ。

 遭難から帰ったルーファスの口から、そのときの詳細は今もなお語られていない。

 たしかに今まで行なってきた魔導学院の、理不尽かつむちゃくちゃな課外授業に比べれば……いつもと同じくらいだ。ただし、いつもと同じでも、いつも同じ絶望感や恐怖などを味わっている。

 今まで乗り越えてきたといえ、絶望は絶望なのだ。

 まあ、しかしこんなところでじっとしていても話は進まない。

 クラウスが別の場所に移動しようと提案しようとした、そのとき!

 ビビの身体に細い蔓が巻きついた。

 先ほどの蔓がまだ近くに潜んでいたのだ。

 遭難した絶望感で、そんな蔓のことなどすっかりさっぱり忘れていた。

「きゃぁ!」

 蔓に捕らえられたビビの後ろには巨大な影がそびえていた。

 2メートルもありそうな花弁。グロイというか、毒々しく赤い花。強烈に甘い臭いがあたりに立ち込めはじめた。

 何本もの蔓を足のように使い、巨大な花がこちらに向かってやってくる。

「ルーちゃん助けて!」

 ビビの叫びを聞いてルーファスが立ち上がる。

「ビビ!」

 気持ちの切り替えも早く、ルーファスは風の刃を放った。

 ビビを拘束していた蔓が切り裂かれる。

 自由になったビビはルーファスに駆け寄り抱きかかえられた。

 その間にクラウスが両手から炎の玉を放つ。

 炎の玉は巨大な花に見事命中。だが、花に穴を開け焦がしただけだった。

 カーシャは冷静に花を見つめていた。

「湿地帯は湿気が多い、炎は不利だ。加えて水分量の多い敵は燃やすことはできない」

「そんなこと言われなくてもわかってますよ先生。咄嗟だったので得意な炎が出ただけです」

 クラウスの守護精霊は炎を司るサラマンダー。ちなみに今日の曜日はサラマンダーだ。つまりクラウスの魔力が普段よりも上昇している。

 再びクラウスは構えて魔法を放った。

「喰らえ!」

 また炎の塊だ。しかし、今度は違った。

 炎の塊は花にぶつかった瞬間、大爆発を起こして木っ端微塵に標的を吹っ飛ばした。

 爆発系の魔法を放ったのだ。

 感心したようにカーシャは頷いた。

「見事だ。申し分ない破壊力だな」

 巨大な花は跡形もなかった。

 ビビもおおはしゃぎだ。

「クラウスかっこいい! ルーちゃんとは大違い」

 と、ボソッと最後に付け加えた。

「私もいちようビビのこと助けたんだけど?」

 恨めしそうにルーファスは目を細めていた。

 たしかにルーファスも風の刃で蔦を切ってビビを救出した。けれど、クラウスのほうが目立っちゃったのだ。仕方ない。

 とりあえず一件落着だ。

 カーシャは目を細めて何かに振り向いた。

「捕まえろ!」

 カーシャの声で3人はその方向を見た。

 箒を持った野人が立っている。それ以上の説明はいらない。あれこそ希望の光だ。

 必死こいて4人は野人に向かって飛び掛ったのだった。


 カーシャがボソッと呟く。

「なぜ4人もいて見失う」

 見事なまでに野人を見失ってしまった。

 追跡時間は十数分だったが、ルーファスはもうすでに息を切らしてゼーハーしている。

「ムリ、あの猿自由に動きすぎだよ」

「だな、この樹海じゃあいつの方が有利だ」

 と、クラウスは言いながら、前方から目を離していなかった。

 カーシャもビビも、クラウスと同じモノを見上げていた。

 両膝から手をあげたルーファスも顔を上げ、その巨大な塔を見上げたのだった。

「帰ってきたっていいたいところだけど、あの塔じゃないね」

 ワープ装置ではじめにやってきた塔ではなかった。また別の塔がそこには立っていたのだ。

 カーシャはさっさと塔に向かって歩きはじめた。

「別のワープ機関があるかもしれん」

 ナイス推測。

 カーシャに続いて3人も塔に向かって歩き出した。

 塔の周りには草木が生い茂っていたが、何者かが強引に通ったような伐採跡がある。木の断面が新しいことから、もしかしたらファウストたちかもしれない。

 塔に入ったカーシャは渋い顔をする。

 そこは小さな個室だった。塔の外観から考えて、三メートル四方しかない部屋はおかしい。しかし、ここには先に続く道がないのだ。

 ビビが天井を指差した。

「見て、天井に穴あいてるよ」

 人為的に切り取られたであろう四角い穴。先に進む道はそこしかなさそうだ。

 ビビはジャンプをして穴に手を伸ばそうとするが、到底届きそうもない距離だ。肩車をしても無理だろう。

 腕組みをしてルーファスが唸った。

「う〜ん、他に入り口があるのかな」

「この部屋に仕掛けがあるのかもしれないな」

 そう言って、クラウスは仕掛けを探しはじめた。

 それに続いてカーシャも部屋を隈なく探しはじめる。

「ファウストが先にこの塔に来ていると仮定すると、最近になってついた痕跡が残ってるやもしれんな」

 塔の周りの草木が伐採されていたように、真新しい痕跡がこの部屋にも残っている可能性がある。

 ビビは壁に出っ張りを見つけた。

「ここに出っ張りがあるよ」

 とりあえず押してみる。

 別の部屋から物音が聞こえたと思った瞬間、ルーファスの眼前を矢が横切った。

 目を丸くしたままルーファスフリーズ。

 満面の笑みを浮かべるビビ。

「きゃは、失敗失敗♪(危うくルーちゃん殺すとこだった)」

「私のこと殺す気?」

 目を細めて自分を見るルーファスに、ビビは首を大きく横に振った。

「そんなわけないじゃん、アタシがルーちゃんの魂を貰うのは契約のときだけだよ」

「だってさっきお腹すいたって喚いてたじゃん」

「あ、そういえば……お腹空いたぁ」

 ぐぅ〜っと、ビビのお腹が鳴いた。

 クラウスは袖をまくり、魔導式腕時計で時間を確かめようとした。外部から魔導を遮断する最新モデルだ。これで外部の魔導や磁場から狂わされることがない。

「もう2時過ぎだ」

 今から学院に戻っても放課後になってることは間違いない。なんだかんだで、1日丸まるサボってしまった。ちなみにビビは初学食を食べ損ねた。

 また別の部屋から物音が聞こえた。

 矢が飛んでくるのかとルーファスは身構えたが、それは上から落ちてきた。

「ぎゃっ!?」

 ルーファスは間一髪で飛び退いた。

 上から落ちてきたのはハシゴだった。

 あの四角い穴からハシゴが降りてきたのだ。

「うむ、こちらが正解だったようだな」」

 出っ張った石を押し終えたカーシャが呟いた。

 カーシャはじーっとルーファスとクラウスを睨んでいる。先に登れの合図だ。

 そんなのヤダよぉ〜っとルーファスが首を振る。

 ならば僕が行こうとクラウスがハシゴを登りはじめた。

 続いてビビがハシゴを登ろうとした。

「次アタシ登るねっ!」

 少し登ったところでビビは下からの熱い視線を感じた。

 ……パンツ見られた!?

 ルーファスは上を見ていた顔をすぐに下に向けた。

「見てない、見てない!(本当は見たけど)」

「ルーちゃんのエッチ!」

 ビビちゃんキック炸裂!

「ぐはっ!」

 顔面に蹴り喰らってルーファスは床に沈んだ。

 そんなルーファスなど放置プレイで、さっさとカーシャもハシゴを登っていってしまった。

 いち早くハシゴを登ったクラウスは辺りを見回した。

 また同じような大きさの部屋だ。けれど、今度は出口がすぐそこにあった。出口は塔の外に続いている。

 先走った気持ちを抑えられず、クラウスはすぐに出口を飛び出した。

 塔の側面に沿って続く螺旋回廊。

 緩やかな傾斜の廊下が、塔の周りを何周もしながら頂上まで続いている。

 横幅はひと2人が通れるほどだが、壁がなく足を滑らせれば塔の下にまっ逆さまだ。

 塔を登るクラウスの耳に誰かの叫び声が届いた。

「ぎゃぁぁぁ!!」

 塔の下を見るとルーファスが落ちていくのが見えた。

 さよならルーファス、君のことは忘れない。

 クラウスは再び走りはじめた。

 なぜルーファスが落ちたのか、はたしてルーファスは無事なのか、その話は完全に素通りだった。

 ついでにクラウスをカーシャが素通りで通り越した。

 何気にカーシャ足速い。

 そのままカーシャは1位で頂上に到着。と、いきたいところだったが、頂上には先客がいた。

 2人の人影を見てカーシャは呟く。

「オル&ロスか……(ファウストの犬め)」

 赤い法衣と青い法衣を着た双子の兄弟。学院の強硬派ファウストのシンパだ。

「ファウスト先生の読みが当たったなロス」

「そのようだなオル」

 オル&ロスは左右対称に魔力増幅器のロッドを構えた。

 この場所でカーシャは待ち伏せされていたのだ。

 すぐにクラウスが追いついてきた。

「おまえたちロッドを置け、無用な戦いはしたくない!」

 クラウスの言葉にオル&ロスは顔を見合わせた。

「聞いたかロス?(クラウスまでいるのか)」

「いや聞こえなかった(厄介だな)」

「オレもだ(行くぞロス!)」

 示し合わせたようにオル&ロスが先に仕掛けてきた。

 2体2の戦いがはじまろうとしていた!

 が、そんな中に第三者が現れる。

「もぉー疲れたよぉ!」

 やっと頂上に辿り付いたビビだった。

 ビビは周りの戦いなどシカトで辺りを散策している。

「わぁ、すっごーいコレ見て見て♪」

 誰も見てくれなかった。

 赤い光や青い光が辺りに飛び交い、戦いの真っ最中でそれどころではないのだ。

 ビビが見たものは、塔の頂上にあった円形の池のようなものだった。池に満たされているのは水ではなく、夜空色をした液体だった。液体は黒く、時おりキラメキが星のように流れる。

 誰もかまってくれないので、ビビは辺りを歩き回り、階段発見!

「ねぇ、ここに階段あるよ?」

 やっとここでオル&ロスがビビの存在に気付いた。

「「しまった」」

 双子ならではのシンクロ発言。

 階段を下りようとするビビを阻止しようとオル&ロスが動く。

 しかし、その前に立ちはだかるカーシャ!

「逃がさんぞオル&ロス!」

 道を阻まれたオル&ロスの後ろにはクラウスも迫っていた。

「僕のことも忘れるな!」

 そして、もうひとり忘れちゃいけない人物がひとり。

「あーっ!! やっと頂上に着いたよ。ってみんななにやってんの?」

 全身びしょ濡れのルーファスだった。

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