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第3話「ドカーンと一発咲かせましょう(1)」

 教壇に立ったカーシャが咳払いを一つ。

「コホン、今日はクラスの新しい仲間を紹介する」

 カーシャの視線がドアに向けられ、クラスの目もそっちに向けられた。

 ばーん!

 と勢いよくドアが開けられ、小柄な影がクラスに飛び込んだ。

「イエーイ! ビビちゃんで〜す!」

 仔悪魔ビビ、クラスの召喚!!

 それを見たルーファス驚愕!!

「な、なななななーっ!(ビビがどうして!)」

 声をあげたルーファスは無視で、転校生恒例の自己紹介がはじまる。

「えっと、アタシの名前はシェリル・ベルバラド・アズラエル。愛称はビビよろしくね♪ これでも魔界ではちょ〜カワイイ仔悪魔でちょっとは名前が知られてます。好きな食べ物はチョコレートとラアマレ・ア・カピス。好きな音楽のジャンルはヘヴィメタルとか、あとね――」

 パコン!

 カーシャの平手打ちがビビの脳天に炸裂!

「いった〜い!」

「もういい、さっさと席に座れ」

 ほっぺを膨らませ、ビビはカーシャの言うとおり席に座った。

 もちろん席はルーファスの真横だ。

「ルーちゃんクピポー!」

「クピポーってなにそれ……じゃなくって、なんでビビがここにいるのさ?」

「クピポーって挨拶流行ってるらしいよん」

「そこは置いといて、なんでビビがここにいるのさ?」

「ああっと、それはねぇ」

 黒板方向からマジックチョークがルーファスに飛んできた。

 パチコーン!

 見事ルーファスの脳天に直撃。的が描いてあれば100点満点だ。

 マジックチョークを投げたのはカーシャだった。

「ルーファスうるさいぞ、赤点だ」

「はぁ!? ちょっと待ってよ、ビビだってしゃべってたじゃん!(てーゆか、回りもいつも以上にざわめいてるぞ?)」

 ルーファスが辺りを見回すと、周りの生徒たちの視線が痛いほどにルーファスとビビに向けられていた。

 からかうように指さす者や、ひそひそ話にピンクの花を咲かしている者もいる。みんな注目の美少女転校生と、ルーファスのカンケイが気になっているのだ。

 弁解しようとルーファスが席を立って、机を両手でバンと叩く。

「ちょっとみんな勘違い――イイイッ!?」

 パチコーン!

 カーシャのチョークがルーファスの脳天炸裂。

「うるさいぞルーファス(女のことで焦るなんて、ルーファスもまだまだだな……ふふっ)」

 おでこを赤くしたルーファスは静かに着席した。

 これ以上ここで話を進めるのは得策ではないと、やっと今さら気付いたのだ。

 そんなこんなで朝のホームルームが過ぎ去り、ルーファスがいろんな意味で頭を痛めていると、クラスの男子たちがルーファスとビビの回りに殺到。

「ルーファス、その子おまえのなんなんだよ?(まさかルーファスの彼女!)」

「ビビちゃんっていうんだ、家どこなの?」

「俺もヘヴィメタ好きなんだ、友達になろうよ!」

「ルーファス、おまえだけは俺たちの仲間だと思ってたのに、呪い殺してやる!!」

 いろんな声が飛び交う中、壮麗な服に眉目秀麗な顔が乗った男子生徒が一括する。

「君たち、ルーファスもビビも困ってるだろ!」

 この者の言葉で、周りは一気に落ち着きを取り戻し、みんな不貞腐れながら席に戻っていった。

 周りを一掃し、1人この場に残ったのはクラウスだった。

「してルーファス、ビビとの関係を洗いざらい吐いてもらおうか?」

「クラウスもぉぉぉっ!?」

 声を張り上げてルーファスは机に突っ伏した。

 周りを追い払ったのは、自分が直接聞きたかったかららしい。

「寄ってたかって質問されるのは大変だろうと思って、僕が代表として質問するべきだと考えたんだよ」

「クラウスさぁ、国王なんだからそんなマネしないでよぉ(ホント、自覚が薄いんだよねぇ)」

 ルーファスが釘を刺したとおり、クラウスは現アステア王国の国王なのだ。

 国王が周りを追い払って自分だけが――となると、偉さを鼻にかけて嫌なヤツを思われがちだが、クラウスはそんなを感じさせない物腰を持っている。

 美麗な顔立ちに柔和な優しさが浮かび、今みたいな行為をしてもユーモラスと女子生徒に言われるだけだ。そう、人間顔が命なのだ。

 ルーファスのセリフを受けて、クラウスは少しツンとした。

「国王っていうのはなしだよ。いつも言っているだろう、学院内や友達同士で集まってるときは、国王だということを忘れてくれって」

 クラウスの趣味は城下をお忍びで歩くことなどで、普段から高い位置からではなく、同じ目線で国民と向き合うことをモットーにしている。そのためか、国王扱いされることが嫌いらしいのだ。

 親しみを込めた笑みでクラウスはビビに握手を求めた。

「僕はクラウス・アステア。ルーファスとは魔導幼稚園から友達なんだ」

 ニッコリ仔悪魔スマイルでビビはクラウスの手を握った。

「アタシはビビ、よろしくね♪(ちょーイケメンだ)」

 2人が握手を交わしているとき、ちょうど授業開始のベルが鳴った。

「またあとでじっくり話そう、じゃあねビビ」

 キラースマイルでクラウスは別れを告げ、自分の席に戻っていった。

 授業さえはじまってしまえば、ビビと自分から注目が薄れると、ルーファスはほっと胸を撫で下ろした。

「(まだ授業はじまってないのにドット疲れた)」

 ベルが鳴り終わると同時に、規則正しい時間で教室にパラケルススが入ってきた。いつも時間にきっちりしている先生だ。

 1時間目の授業はマジックポーションの授業。

 医学や錬金術などを得意とするパラケルススは、この授業の権威である。ちなみにルーファスは、難しい原子配列や公式を覚えるのが苦手だったりする。

 授業がはじまってすぐに、ビビからルーファスに手紙が回ってきた。

 女の子から手紙をもらうのは数年ぶりのルーファス。意味もなくドキドキしながら手紙を開いた。

『さっきのルーちゃんの質問なんだけど、パラケルスス先生が留学生扱いでこの学校に入れてくれたの、いいでしょー』

 すぐにルーファスは手紙の返事を返した。女の子との文通(?)はこれがはじめてだ。

『この学校入るの難しいんだよ、なんでそんな簡単に入れるの?』

『えぇ〜、ルーちゃんだって入れたんだからアタシだって入れるよ』

『もちろん筆記とか実技試験したんだよね?』

『するわけないじゃん』

『そんなのズルイよ。あとでパラケルスス先生に抗議する!』

 丸めた紙がビビから投げられ、ルーファスは中を開いた。

『ルーちゃんのばかぁ!』

「バカってなんだよ!」

 ついつい声に出してしまったルーファス。シーンとしたクラスで注目を集め、ルーファスは気まずくなって顔を真っ赤にした。

 そして、パラケルススが一つ咳払いをした。

 ルーファスは肩を落として俯いた。

「(なんで僕だけがまた怒られなきゃいけないの)」

 静かになった教室で再び授業が再開しようとしたとき、大声をあげてカーシャが教室に飛び込んできた。

「おいパラケルスス、緊急事態だ!」

「授業中じゃぞ。おまえも授業中のはずじゃが?(カーシャが慌てるとは珍しいのぉ)」

「悠長なことを言うな、ファウストが学院地下で……なんて説明はどうでもいい。とにかくファウストがクラスを引き連れて、超古代兵器を……とにかく来い、他の教師どももファウストを追って出た」

 カーシャの慌てように、パラケルススもただならぬ雰囲気を感じ取った。

「ふむ、またか(ファウストは魔導実験のことになると、たまに見境がなくなるからのぉ)。授業は自習じゃ、みな静かに各自自習をしておるように」

 ざわめき立つクラス。

 ビビはワクワクしていた。

「ねえルーちゃん、楽しそうじゃない?」

「……別に(なんかビビの目輝いてるよ)」

「行こ、絶対楽しいよ!」

「はぁ?」

「レッツ・ゴー!」

 ルーファスが止める間もなく、ビビは教室の外に飛び出していた。

 虚しく伸ばされたルーファスの手が、何者かにつかまれた。

「ルーファス、僕らも行こう!」

 クラウスだった。

「クラウスまで……パラケルスス先生が自習って言っただろう」

「そう硬いこというな、行くぞルーファス」

「……はぁ(いつもこうなんだから)」

 クラウスは決して模範的な優等生ではない。悪友に振り回されているのは、ルーファスのほうだった。


 教室を出て校舎を飛び出す。

 ビビの姿はもうない。

 他の人影も……1人だけあった。

 空色ドレスに乗った中性的な顔が無表情で挨拶をした。

「おはよう(ふあふあ)」

 羊雲みたいな声を発したのはローゼンクロイツだ。

 ローゼンクロイツは二人の顔を見つめた。

「キミたちも遅刻かい?(ふにふに)」

「君と同じにしないでくれよ」

 と、クラウスは苦笑いを浮かべた。

 無断欠席、大幅遅刻はローゼンクロイツの得意技だ。そんな人物と同じにされたくないのは当然だった。

 無表情のままローゼンクロイツは首をかしげた。

「じゃ、サボリだね(ふにふに)」

 ルーファスがすぐさま反論。

「違うから。なんかまたファウスト先生が事件を起こしたとかで自習になったんだよ。それで私たちは事件の見物に行く途中」

「それってサボリっていうんだよ(ふにふに)」

 無表情のままローゼンクロイツツッコミ!

 自習をサボったことはたしかで、否定の『ひ』の字も返せない。

 なぜかローゼンクロイツはクルッと身体を回転させ、来た道を戻りはじめた。その背中越しに手をひらひら振っている。

「じゃ、ボクは帰るね(ふあふあ)」

 ローゼンクロイツの背中にルーファスが手を伸ばす。

「ちょちょちょちょっ、今学校に来たばかりなのになんで?(また出席日数危うくなるよ)」

「自習なら行かなくていいと思うけど?(ふにふに)」

「そーゆー問題じゃないでしょ?」

「そーゆー問題だよ(ふあふあ)」

 サラッと言っのけたローゼンクロイツの肩をクラウスが叩いた。

「それでは僕らと行くか?」

「……興味ない(ふあふあ)」

 無表情だった顔が一瞬だけ、凄く嫌そうな顔を作って、すぐに元の無表情に戻った。

「無理やり誘うのは良くないな」

 と、クラウスは諦めてルーファスに視線を向けた。

「では、僕ら二人で行くか」

「ちょっと待って、行くって言ってもどこに行くかわからないよ(カーシャもパラケルスス先生も先に行っちゃったみたいだし)」

 困って腕組みをするルーファスは、視線を感じて顔を上に向けると、ローゼンクロイツがエメラルドグリーンの瞳で、じーっとなにか言いたそうに見ていた。

「魔女ならあっちの方向に箒で飛んで行ったよ(ふあふあ)。ボクが思うに、駅かな?(ふあふあ)」

 その言葉を聞いてクラウスがすぐに走り出した。

「ありがとうローゼンクロイツ。行くぞルーファス!」

「うん、またねローゼンクロイツ」

「また(ふあふあ)」

 機械的に手を振るローゼンクロイツを尻目に二人は駅に向かった。

 正門から続く噴水広場を抜け、駅はすぐ近くにある。クラウス魔導学院が建設されたときに、同時に建設された『クラウス魔導学院前』駅だ。

 駅に着くとここで問題発生。

 どこまでの切符を買ったらいいかわからない。

 てゆーか、本当に駅で良かったのかどうかすらわからない。

 2人が路線図を睨めっこしていると、鼻を押さえた駅員がフラフラした足取りで歩いてきた。

 クラウスが駅員を呼び止める。

「少し聞きたいことがあるのだが?」

「なんですか?(あれこの顔どっかで見たことあるな?)」

 クラウスの顔の認知度は意外に低い。公式の行事が苦手なために、建国記念日くらいにしかクラウスは国民に顔を出さない。それに国王がこんなところにいるはずがないという先入観から、バレても勘違いにされるかソックリさんで通ってしまう。

「箒を持った長い黒髪の女性を見なかったか?」

「あーっ! おまえあの女の知り合いかッ!」

 突然、駅員はクラウスの胸倉に掴みかかり、眉間に青筋を浮かせて怒り出した。

 なんで起こられているのかわからないクラウスは、きょとんと目を丸くしてしまっている。

 2人の間にルーファスは割って入る。

「まあまあ、ちょっと冷静に(まさかカーシャがなんかやったのかな?)」

 ルーファスが2人を引き離すと、駅員は荒々しい鼻息を出しながら地団太を踏んだ。

「あの女に言っとけ、治療代出してちゃんと俺に謝れって(クソー鼻が痛ぇ)」

 真っ赤に腫れた鼻にルーファスとに視線が向けられた。

「たぶんそれうちの教師です。なにされたんですか?」

「殴られたんだよ。『退けーッ!』っていきなり走ってきて、俺を殴って改札口を通って行ったんだよ」

「はぁ、そうなんですか(まったくカーシャッたら)。それでその女性がどこに行ったか知りません?」

「知るかよ!」

 鼻を押さえて駅員は怒鳴った。かなりイライラしているらしい。イライラにはカルシウムがいい。この駅員には牛乳を飲むことを推奨する。

 駅員が客の行き先を全部把握しているはずがない。どうやら駅に来たのは正解だったが、ここで打つ手なしなってしまった。

 だが、クラウスは諦めなかった。

「では、長髪で魔導具をジャラジャラ腰から下げて歩いている黒尽くめの男性と、それに引き連れられた生徒の一団を見なかったか?」

「生徒かどうかはわからないが、そんな客がいたなぁ」

 魔導学院は制服がなく私服のために、ひと目で学院生だとはわからないが、そんなような一団に駅員は見覚えがあった。

 難しい顔をして考えた駅員は、パッと明るい顔になって閃いた。

「そうだ、湿地帯に行くとか……?(ミ……ミがつく場所だったような気がするな)」

 クラウスも閃いた。

「この辺りで湿地帯と言えば、ミズガルワーム湿地帯か?」

「そうそう、ミズガルワーム湿地帯だよ。そこに行くとか騒いでたそうな気がするな」

「よしっ、ミズガルワーム湿地帯に行こう!」

 クラウスの白い歯がキラリーン!

 拳まで作って行く気満々、ヤル気満々、そんなクラウスを止める術はなかった。

 重いため息がルーファスの口から漏れた。

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