episode:1
『本日未明。駅で男性が轢かれるという事故がありました。誤ってホームから落ちたものと思われー』
ニュースキャスターは抑揚の無い声で淡々と告げた。
内容はあまり頭に入ってこなかった。
淡々と内容を告げるニュースキャスター。それをまるで別世界で起きた事の様に興味も同情もなく眺める僕。
世間って冷たいなと思った。
もし実際自分の身に不幸があったのならきっと泣き喚いて、こういった人たちの事を恨むのだろう。
…あぁでも、もし僕が今日死ぬとして、別に何も思わないのかもしれない。
意外とこんなもんかもしれないな。
テレビを消し、お気に入りの真っ白なヘッドフォンを耳にあて、自分の世界に入り込む。
(あ…そろそろ学校に行かないと。)
身支度をし、家を出る。今日も教室は賑やかだ。
友だちとの会話を楽しむ人、悪ふざけをする人、陰口を叩く人。
僕はそれらのどこにも入らない。
誰も僕を見なければ、僕もそれらに加わろうとは思わなかった。
もし僕が突然学校に来なくなったとして、きっと誰も気がつかないんだろうな。
このクラスに僕は必要無いだろう。
ただ一人。気付いて欲しいと思う人がいた。
彼女はどこか、寂しそうな表情をしていた。
気だるい授業を受け、今日も何事も無く下校の時刻になった。
まだ賑わっている校舎を僕は早足に後にした。
つまらない毎日だ。そんな事分かりきっている。
でもそんな事思った所で何かが起こる訳ではない。
昔は毎日が楽しいと思っていた…ような気がする。
「君は…」
不意に抑揚の無い声が聞こえた。
いつの間にか目の前に少年が一人、佇んでいた。
「僕と似ている…?いや、違う。」
彼は真っ直ぐ僕を見て言った。
「真逆なんだ。」
気がつけば少年はいなくなっていた。
(何のこと…?)
僕は少年の言葉を理解する事が出来なかった。
ー
『ー。』
いつも朝食の時にはテレビをつけている。
でも今日は何故かテレビの音がうるさく感じ、テレビを消す。
お気に入りの真っ白なヘッドフォンで耳を塞ぐ。
(昨日は何をしていたんだっけ?)
最近は昨日の事さえも思い出す事が出来ない。
きっと明日まで残っているほど特別な事もなく、平淡で中身のの無い昨日を過ごしてきた結果だろう。
そんな自分を情けなく思ったこともあったような気もするけど、そんな気持ちさえもどこかに置いてきてしまった。
…何だか今日は疲れているようだ。
気を紛らわす様に立ち上がり、身仕度を始め、そそくさと家を出る。
相変わらず教室は賑やかだ。
友だちと楽しく話をする人、先生に対する悪態を吐く人、噂話に花を咲かせる人。
僕はそれらのどこにも入らない。
人と話すのが嫌だから。
このクラスに僕は必要無い。
誰も僕を見ない。
もし僕が突然いなくなったとして、誰も気がつかないだろうな。
それでもきっと、あの人だけは気付いてくれるだろう。
…その根拠は何だっけ?
何かあったような気がするけど、まぁ、いいや。
彼女はどこか、悲しそうな表情をしていた。
授業が終わり、一直線に家へと向かう。
今日はいつもより駅がすいていた。
(また明日、か。)
こんな日々を終わらせたい。そう思ってしまうのは僕が疲れているからだろうか?
そんな疑問は、悲しいくらいに綺麗な夕焼け空に吸い込まれていった。
ー
いつの間にか僕は眠っていたようだ。
起きた所で、とても疲労感を感じた。
体が重くて動きたくない。
それでも重い体を起こしてテレビをつけ、朝食をとる。
『ー。』
テレビはつけているものの、何も耳に入ってこなかった。
テレビを消し、お気に入りの真っ白なヘッドフォンを耳にあてた所で、僕は妙な既視感に襲われた。
毎日同じ様な生活をしているからだろうか。
(あ…そろそろ学校に行かないと。)
身仕度をし、家を出る。
教室は何だかいつもよりうるさい様な気がした。
友だちとの会話を楽しむ人、悪ふざけをする人、陰口を叩く人。
…本当にそうだろうか?
本当はクラスの人たちの話していることを聞きたくないから、そう決めつけているのかもしれない。
このクラスにもう僕は必要無いという事に、気付いてしまう事が怖かったのだろう。
僕はもう…。
(僕は何を言っているんだ?)
まるで僕が消えてしまったみたいじゃないか。
途端に僕は怖くなった。
誰も僕を見ない。僕はまるで、ここに存在しないかの様に。
もし僕が突然消えたとして、誰も気付かないの…?
浮かび上がった疑問の答えを知らないまま、気がつけば僕は駅のホームにいた。
家に帰るつもりだったのだろうか?
自分自身、していることが分からなくなっていた。
近くにあったベンチに座って思考を巡らせる。
(僕は今確かにここにいて、息をしている。存在しているんだ。)
考えれば当たり前のことだ。それなのに妙に不安になるのは何故…?
やっぱり僕は疲れているんだ。
突然、思い出したかの様に疲労が僕を襲う。
疲労に耐えきれず、僕はそのまま眠ってしまった。
しばらくして激しい痛みを覚え、僕は目を開けた。
視界に映るのは真っ赤なヘッドフォンと夕焼け空。
脳裏に浮かぶ光景。
「そっか。僕は…」
また、明日が来る。
耳に届いた赤く鋭い断末魔。それは誰の声…?
ー
『本日未明。駅で男性が轢かれるという事故がありました。誤ってホームから落ちたものと思われ、状況は詳しく調査中となっております。』
淡々と告げたニュースキャスター。
僕は朝食をとりながら、なんとなくそれを聞いていた。
それからテレビを消し、お気に入りの真っ赤なヘッドフォンで耳を塞いだ。




