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ガーディアンエンジェル  作者: 椎名
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運命と天使

 信じられない、俺セックスしちゃったよ。しかも天使と。あれから毎日のように二人して、触れ合って、一日中何度も、何度も……。昨日だって、桜の木の下で、俺たち何回やった? だってシェリルがあんな目で俺を見て、俺のこと触るから……。それに天使が両性具有っていうのも本当なんだ。突っ込んだり、突っ込まれたり。俺、奥手だったし、今までほとんど経験なかったのに、いいのかよ、こんなこと――。ああ、全く信じられないことばかりだ。

 しかし シェリル、すごいよなあ。積極的だし、絶倫だし、やたらエロいし。あり得ないだろ、天使が騎乗位でよがるなんて。

 シェリルだって経験ないはずだよな、俺が来るまでは独りだったっていうし、いったいいつあんなこと覚えたんだ? ラジ博士が天使の学習能力はやたら高いって言ってたけど、まさか端末見ながら独りで練習していたっていうのか。それとも天使の本能ってものか。

 シェリルはキスも上手い。昨日だってあんな濡れた瞳と唇で……。そうだ、唇も濡れてた。そして俺の顔を上目使いで見上げ、熱のこもった声で言うんだ。

「タキ、気持ちいい? ねえ、ここ舐めてあげようか?」

そして俺のを、その濡れた唇にくわえて……。

「わあ、わああ……」


「タキ君、どうしたんだ、大丈夫か」

「あっ、水嶋博士!」

そうだ、今日俺は水嶋博士に連れられて、検診を受けに第五診療所へきたんだっけ。廊下で待っている間に、俺はエロ妄想満開になっちゃって――、もう、なんてことだ!

「すみません、博士。なんでもないです、俺、ちょっと考え事していて――」

「長々と廊下で待たせてしまったからね。すまないね、タキ君。あとは地下でバイオスキャンを撮ったら終わりだ。案内しよう」

「バイオスキャンって……。博士、俺どっか悪いんですか?」

「いや、そんなことはないよ。ほら、ここは軍の施設だし、何事も厳重にチェックしているというか、形式的なものだよ。まあ、丁寧な健康診断だと思って、タキ君は気軽にしていてくれたまえ。今日はシェリルも治療日だから、終わったら家に戻っていいよ。ゆっくり休んでくれたまえ」

「博士、シェリルは……、どこか悪いんですか?」

「いや、正確には病気というわけではない。生まれつきでね」


「天使には免疫機構に問題があるのだ。だから定期的に治療を受けないとならなくてね」

 病院の廊下で、俺は水嶋博士の説明を聞いた。

「初めはね、我々はクローン技術を実践し始めたばかりで、なんと言う事はない実験的にいろいろなものを試みていた時代があった。物語の中にしか存在しないと思われる存在までね。龍とか人魚とかユニコーンとか――、極秘ではあったけれど神やジーザスまでもね。その中である秘密結社から手に入れた天使の羽根、そんなものまで試したんだよ。ほとんどは失敗に終わった。ところが驚いた事に、ねえ、タキ君、信じられるかい。その中から天使が孵化したんだよ。天使は存在したんだ。

 だが単純な道のりではなかった。初めの天使は生命反応さえあったが生物の形さえ残していなかったよ。この世に出たとたんに塵となって崩れ落ちてしまったんだ。拒絶反応だよ。天使にはこの世界で生きる為の免疫が宿らないのだ。なぜか細胞が石灰化してしまい、全身が石化して、砂となり、塵となって崩れ落ちてしまうのだ。

しかし、カーシュイン博士は諦めなかった。二世代目の天使は塵の山となったが、それでも生命反応を数ヶ月も保ち続け、我々と精神的な反応さえ持っていた。

三世代の頃になると技術も発達し、人間の未成熟欄に天使の核を注入する方法がとられた。奇跡は起こり始めていたさ。我々は人間の形態を持った天使を創造したのだ。それがトリのジョシュアだよ。ただ彼も生まれながらに免疫不全の問題を持っていた。次々と感染症にかかり彼の体も石化していった。それでも塵となって消えるまで10年の時を彼は生き続けた。

 テトラであるシェリルは新しい奇跡だった。それは彼女の卵子を提供した女性の奇跡だったのだ。それが遺伝子の問題なのか、突然変異だったのか未だ我々にも解明できていないのだが、万に一つの奇跡であった事には変わりがないだろう。その提供者の女性の卵子で育った核には免疫が宿ったのだ。シェリルがこれほど長い間生き延びていられるのもそのおかげだ。しかし、シェリルの免疫は定着するものではなかった。消えてしまうのだよ。汚れを消し去るように、真っ白に。

 数年を過ぎると、シェリルにも拒絶反応が現れた。免疫の不全だ。君はあれを見たかね? あの銀色の鱗を……。あれはシェリルの石化の現れだよ。初めは小さな瘡蓋程度だった。今では背中一面に広がっている。彼女の石化は進んでいる。本当なら彼女は既に塵となってきえているはずだ。

 だが、ガーシュイン博士がレメディを見つけたのだ。これは偶然と博士の執念のなせる技だ。それを定期的に摂取していれば、一時的にも免疫は保たれ、彼女の石化は止まる」

 話を続ける博士に、俺は尋ねた。

「レメディ?」

「そうだ。まあ、特効薬のようなものだと思ってくれたまえ。そのおかげで彼女は生き長らえている。それがなければ、とうに彼女は塵と化していたはずだろう」

 博士は彼のプラチナ縁の眼鏡を、その細い指でくいっと持ち上げて、至極冷静に話を続けた。

「しかし、それも根本的な治療にはなりえない、進行を遅らせるのみだ。彼女の石化を止める事は出来ない。いつかは塵と化し、消えていくことになる――」

「でも博士、それじゃ、シェリルは……」

 俺はあからさまに動揺し、博士に喰ってかかった。

「タキ君、落ち着きたまえ。なにも今すぐそれが起こるという訳ではない。人間にだって寿命はあるのだ。このまま治療を受けていれば、もしかするとシェリルは我々より長生きをするかもしれないよ。天使の寿命はまだ解っていないのだし、それもあり得る事だ。それに日々研究は進歩しているのだ。ガーシュイン博士も天使のレメディを発見した。天使がこの世界で生きていく為の方法を、我々が見いだす日が来るかもしれない」

 俺は必死になって博士に訴えた。

「博士、お願いします。どうかシェリルを助けてください。もしなにか出来る事があったら、俺、何でもしますから――」

「解っているよ、タキ君」

博士はそう言って、おれに優しい笑顔を見せた……。



 夜も更けた時分に、人気の無くなった診療所の一室に数人の人間が集まっていた。部屋の中では、医師が水嶋博士と敷島大佐へ報告を行っている情景が見られた――。

「血液値にはすべてにおいて変化が見られています。通常の人間の値からは外れています。子宮の形成のようなものは見られませんね。しかし、骨格の変化が見られます。」

 医師の報告に対して水嶋博士が質問した。

「それは、どのような……」

「全身にという訳ではないのですが、この肩甲骨の下辺りに……」

 モニターに映される映像を見ながら、敷島大佐が叫んだ。

「これは……羽根か!」

 水嶋博士が頷いた。

「素晴らしい。我々の期待どおりだ」

 その言葉を聞いた敷島大佐は、水嶋博士に尋ねた。

「では、水嶋博士、そう言う意味だととらえて良いのだな」

「そうです大佐。ペンタの天使です」

 水嶋博士は眼鏡を指で持ち上げて、少し興奮気味に答えた。そして大佐に向かい声を高らかに言った。

「そして私は更なる奇跡を起こします。純粋な天使の卵をご覧に入れてみせますよ。――ですから大佐、来年度の予算の件ですが……」

敷島大佐は椅子に座ったその大きな体を、正しながら答えた。

「わかっている。新兵器開発費として、新しい予算案を提出しよう」


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