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第八話

 深夜一時半過ぎ。俺とロットとルーの三人は、遺跡の入口にたどり着いた。

 いくら夜中にこの遺跡に来る予定だったとは言え、なぜまたこんな遅い時間になっってしまったのかその理由というのは、単純にアンディさんの帰りが思いの外遅かったからである。

 男部屋に三人が集まり、真っ暗な部屋の中でじっと聞き耳を立てていたわけだが、右隣の部屋からドアの開く音が聞こえてきたのはすでに十二時を回った頃。その後しばらくはごそごそ言う音が聞こえていて、ようやく完全に静かになったのはさらに三十分後だった。そこから山を登り始めたので、結局この時間になったのである。

 いい加減眠いが、しかしぼんやりしている暇もない。

 俺達は来たときと同様、帰りもアンディさんにばれないように宿に戻らなければならないのである。アンディさんの睡眠時間が六時間程度だとすれば、俺達が遺跡を探索できる時間は正味三時間。隠し扉にたどり着くまでにさらに一時間以上かかることを考えると、決して十分な時間とは言えない。

 だが、たとえ『銀石』を見つけられなかったとしても、時間が来れば否応なく引き返さなければならないのは必定。歯止め役である俺が、その辺に注意する義務を負うことになるんだろう。

 そんなことを考えつつまぶたをこすっている俺とは対照的に、普段の就寝時間が三人の中で一番早いであろうルーは――焦燥感に駆られているせいか――眠そうな顔は全然見せていない。逆に切羽詰った表情で、

「さ、早く入ろ」

 とずんずん進んでいく。その後ろを、

「そう慌てるな」

 と『赤石』を取り出しながら、ロットがついていく。

 ……ま、ここまで来たら行くしかないだろう。

 半分諦めの混じった決意をしつつ、二人に続いて俺も遺跡入口の石畳に足を踏み出そうとした、その瞬間、


 いきなり、ロットがルーの襟首を掴み、後ろに引っ張った。


「ぐえっ」と言いながら、ルーが俺の横に転がったのと同時、遺跡の奥から影が飛び出してきた。

 次の刹那、カンッという甲高い音が回廊に鳴り響き、ロットの剣と影の刃が交錯しているのを目視、俺はそれが敵であることに思い至った。

 俺は慌てて遺跡の外に跳び出す。目の端でルーもわたわたと這い出してきて、ロットも後ろに跳んだ。それを追うように、その影も夜空の下に現れる。

 月明かりに照らされたのは、動きやすそうな布装束を纏い、顔全体を黒いマスクで覆った、剣が入りそうな大きさの道具入れを背中に携えている、大人の体躯をした人物。そいつが俺達に相対し、ナイフを構えている。

 そのナイフ、良くは確認できないが、光の反射が普通のものと違う気がする。さっきの打ち合いの音も金属音とは思えなかった。特殊なナイフらしい。十中八九、『石』が使われているものなんだろうが。

 ヒュンッ、と風を切る音が聞こえ、影が前へ駆け出してくる。その先はロット。

 敵はナイフを、ロットの胸部に突き出した。ロットは体をよじり、これを避ける。敵は残像が見えるほどの速さでナイフを引き、また同様、ナイフを突き出す。ロットは体勢を崩しながらも、横に飛んでこれをかわした。しかしその着地点、敵はさらにナイフを突き出す。ロットは慌ててしゃがんだ。髪が数本持っていかれている。

 低い姿勢のまま、ロットは右ひじを引き、そのまま『グレン』で突く。しかし敵は上体を傾けるだけでこれを回避。逆にその体勢まま、四度目の攻撃を繰り出してくる。

「くっ」

 と言いながら、ロットは攻撃をかわしつつ大きく後ろに跳び、敵と距離をとった。

 やはり、暗闇というのが災いしている。攻撃がはっきり見えないため、ロットはほとんど敵の攻撃を受けることができていない。余裕を持ってかわすことしかできていない。そして、この余裕に費やす浪費が、決定的な差になっている。

 どうやら敵は、こういう状況に慣れているようだ。さっきのロットの攻撃も、数センチの間隔だけで避けていた。この暗闇でも、攻撃が完全に見えているのだ。

 圧倒的にこっちが不利だ。三人で同時に攻撃を仕掛けるしかない、と思っている俺の横、カチャッと言う音が聞こえた。見ると、ルーが『サイキ』を構えている。

 俺がルーに視線を向けたのと同時、敵がこっちに駆け出してきた。その視線は、完全にルーに向いている。

「わっわっ」

 いきなりの標的変更に、ルーは困惑。構えている銃口がぶれている。

 敵がルーに向かい踏み込んだそのタイミングで、俺はルーを横に突き飛ばした。

「わわっ!」

 ルーの首があった空間で、空を切る敵のナイフ。そして俺は敵の懐に入りながら、右手に握った『ムゲン』で、


 躊躇なく、思慮なく、考慮なく、遠慮なく、


 敵の心臓部めがけて、刃を突き出した。


 しかし、手ごたえはなかった。ブンッ、という音だけ。眼前では、敵の残像だけがぶれている。

 視線を下に向け、そこで体勢を低くしていた敵と目があった瞬間、


 俺の鳩尾に激痛が走る。


 足に力が入らない。ひざに力が入らない。腰に力が入らない。手に力が入らない。腕に力が入らない。肩に力が入らない。首に力が入らない。

 段々地面が近づいてきて、


 ――そして、俺の意識は落ちていった。

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