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第七話

 結局俺たちは、一時間かけて歩いた道のりを十分弱で逆走したわけだが、途中でヘロヘロになったルーをロットが背負って走ったおかげで、六人ともどうにか無事に脱出できた。

 鼻先に肉を吊り下げられたライオンのように俺たちを追ってきた濁流は、最終的に遺跡の入口まで流れ込んできて、入口付近は水浸し。壁に寄りかかって昼寝に興じていたアンディさんを大いに驚かせた。

 その後も水はしばらく流れ続け、引いていくまで二時間ちょっとかかった。その間にウェリィたちは彼女らの責任者に報告に行き、俺とアンディさんは、俺たちが何でまたこんな死にそうな目に遭ったのか(遭わされたのか)、ロットとルーから報告を受けた。

 ――そして、

「ふーむ。つまり、ロットがワイトちゃんに剣撃をお見舞いしようとしたところ、うまくかわされ、壁をぶっ叩いてしまった。するとその壁がへっこみ、隣の壁に扉が出現。そこから水が溢れてきた……と。そういうわけか?」

 腕を組みながら、ロットに確認するアンディさん。それを受けて、

「はい、そうです」

 神妙に頷くロット。

 ……やっぱり元凶はこいつだったのか。そんなことだろうとは思っていたが。

 ジロリと聞こえてきそうなくらい強く睨んでやったが、ロットは俺の怨念のこもった視線に気付く様子もなく、ひょうひょうとした顔でアンディさんに向かい合っている。

「その扉の向こうは奥に繋がっているような雰囲気でしたが、いかんせん非常事態だったので確認できませんでした。水が完全に引いてからもう一度調べる必要がありますな」

「そうだな。そんな隠し通路があるなんてことは、機関からは聞いてないからな。うん。恐らくこれは新しい発見だ」

「新発見だってっ! やったーっ!」

 飛び跳ねて喜ぶルー。

 ……ついさっき死にかけたってのに、気にしてる様子は全然ない。まあ、ルーらしいっちゃあルーらしいが。

 事情を完全に把握し、納得が言った様子のアンディさんは、腕をほどきながら、

「おし、ご苦労さん」

と言いつつ、表情を和らげて――


「――うん、お前らの仕事はこれで終わりだ」


「え?」

 アンディさんの発言に、きょとんとするロットとルー。

 一拍置き、ロットが慌てて、

「な、何でですか? まだお宝を見つけたわけじゃないんですよ? 今日はもう遅いですが、明日また我々が深部まで調査しますよ」

「そ、そうだよ。あたし達もっと探すよ」

 不満顔で抗議する二人。

 しかしアンディさんは首を横に振りながら、

「いや、残念ながらお前らじゃ役不足だ」

 きっぱり言った。

「ここからはプロに任せる。遺跡調査を生業としてるような賞金稼ぎにな」

 ロットは口元を歪めながら、

「……私たちは役不足……ですか……」

 そう呟き、そして沈黙。それ以上言い返せなくなった。

 しかしルーはまだ受け入れられない様子で、わたわたと

「ど、どうして……隠し部屋を見つけたからって、そんな……いきなり……」

「正味な話、この遺跡は、この二週間でプロによる調査はあらかた済んでたんだ。機関によっちゃ遺跡のマッピングも済んでるところもあるって話だ。だからこれ以上厳密な調査をしても得るものは少ないと判断して、お前らみたいに安い金で動く賞金稼ぎを雇ったわけだ。しかし、さらに深部があるとなると話は変わってくる。また厳密な調査が必要になってくる、プロの調査が必要になってくる。だから、お前らはしばらくお休みだってことだ」

「で、でもでも、いきなりそんな、納得できないよ! ここまでやったんだよ? あたし達が続けて調査したって、別にいいじゃない!」

 強い口調でまくし立てるルー。いつもは成り行き任せのルーが、今回は珍しく食い下がる。何でルーが引き下がらないのか? ……まあ、考えるまでもない、か。

 その焦燥感のこもった顔に何か感じたのか、アンディさんはふっと息を吐き、厳しい表情でルーを静かに見据えた。そして静かな口調で、

「じゃあお前に、この遺跡がいつ建てられたのか、調べられるか?」

「…………」

 反論できなくなるルー。

「石の調達先は? 粘土の成分は? 作成方法は? 住んでた人間の文化は? 食生活は? 信仰は? 言葉は? そういうもんをお前らに調べられるのか? 出来るのか? 出来ないだろ? だからそういう知識のある人間にバトンタッチするって言ってるんだ。おまけに、だ。お前ら、さっき死にかけたんだぞ? 掛け値なしに。不注意でトラップを作動させて、な。お前らにはトラップを事前に発見し、回避するスキルもない。賞金稼ぎを始めて三年足らずのお前らじゃ経験不足なんだ。お前らのことを考えても、交代するのが妥当なんだよ」

 いつもの笑顔は失せて、真剣な顔で話すアンディさん。

 その視線を受け、ルーはしばらく黙っていた――――が、ふと視線を地面に落とし、

「……わかりました」

 消え入りそうな声で言った。

 アンディさんはその返答に鼻を鳴らして、

「ま、隠し扉を見つけただけでもめっけもんだ。お前らにもちゃんと金は入るだろう。プロの調査が済めばまたお前らに声がかかるだろうし、とりあえず今は静観しとけ。な?」

「…………はい」

 呟くように言って、そのままルーは回れ右。山を下る道をとぼとぼ歩き出した。

「あ、おい! ルー! 待て!」

 慌てて追いかけるロット。二人とも、どんどん離れていってしまう。

 俺は下り坂を遠ざかっていく後姿を横目で見つつ、アンディさんに向き直って

「じゃあ……俺たちはこれで失礼します。今日はありがとうございました」

「いや、なに、今回お前らが危険な目に遭ったのは、俺が楽観視してたせいもあるからな。あんまり強くは責められんが。……しかしこれからは気をつけろよ? ま、お前なら大丈夫か。うん、また何かあった時はよろしくな」

「はい」

 俺は軽く会釈をして、二人の後を追った。



 昼間に取っておいた宿屋の一室。日はすでにとっぷり落ちていて、満月が窓から覗いてる。

 俺たち三人はテーブルに向かい、昼に食い損ねた弁当を口に運んでいる。

 装飾が微塵もなく、ベッドが二つとちっこいテーブルがあるだけの部屋。たいして稼ぎの多くない俺達には一端のホテルを取るほどの甲斐性はなく、必然的にこういう安さだけが売りの宿泊場に押し込められることになる。

 この部屋にベッドが二つなのは、ここで寝泊りするのが俺とロットだからであり、ルーの部屋は左隣の一人部屋だ。しかしだからって食事の際、三人だけのチームで一人仲間外れにする意味などあるわけもないので、三人集まって夕食をつついているのである。

 ちなみにアンディさんの部屋は右隣だが(アンディさんは金は十分持ってるはずだが、部屋の良し悪しなど気にしないタチのようで、「面倒くせえし」と言って俺達と同じ場所に宿をとった)、物音一つ聞こえない。今日の成果を雇い主に報告に行ったっきり、まだ帰ってきていないようだ。

 さっきから引続きしょんぼりした顔をしているルーは黙り込んだまま箸を動かすだけで、加えて俺にも別段ロットと話したい内容はなく、この部屋まで偶発的に静かになっている。モクモクという音しか聞こえない。

 俺の横でお茶をすすっているロットに続き俺も弁当をたいらげ、お茶を手に取ろうとした際、ふいに

「あのさ、ロット、ダルク――」

 箸を止め、ルーが口を開いた。

「――あたし、今夜あの遺跡を調べに行こうと思うの」

 俯いたまま、いくぶん迷いの見える口調で言う。

 ロットはその発言の真意を推し量るようにしばらく黙り込んだ後、手に持っていたコップをテーブルに置き、腕をひざに乗せた。そして難しい表情で、

「しかし、もうあの遺跡の調査は交代だと言われただろう?」

「だから、仕事とは関係なくよ。別に宝を見つけに行くんじゃない。ただ遺跡を見に行くだけ。何があるのかを見に行くだけ」

「ルー、お前、何でそこまであの遺跡にこだわ――」

「『銀石』があるかもしれないから、か?」

 ロットの言葉を遮り、俺はルーに尋ねた。

 ルーは俺と視線を交差させ、コクリと無言で頷く。

 それを見て、ロットは「ふーむ」と腕を組んで背をもたれながら、

「しかし、たとえ『銀石』を見つけても持ち出せないだろ? いくら素人の我々が注意しても、プロにかかればすぐばれるだろうしな。それでは泥棒になってしまう」

「別に『銀石』を横取りに行くわけじゃないよ。探しに行くだけ。見に行くだけ」

「ならばなおさらだ。そのうち調査結果が公表されれば、遺跡に何があったのかわかるだろう。わざわざ我々が行く意味なんて――」

「早く……早く見たいの。早く知りたいの。せめて、あるかどうかだけでも。それに、情報が公開されないかもしれないじゃない。『銀石』って、すごく大事なものなんだから――――もちろん、『銀石』がどういう『石』なのか、直に見てみたいのもあるんだけど」

 ルーは俯きながら、いつもより低いトーン、意思がこもった口調で答えた。

 それを聞いてロットは、口をへの字にしてしばらく考え込むような顔をする――――と、ふいに肩をすくめ、

「……よし、わかった。私も行こう」

 不敵に笑った。

「タダ働きはタダ働きだが、遺跡に不法侵入というのも、それはそれでおもしろそうだからな。ふふふ」

 それを見て、ルーの表情が少し緩む。ロットはニヒル笑いのままコクリと頷いた。そして、自然と二人の視線が俺に向けられる。

 ……正直なところ、俺はまったく気乗りしていない。金にならないのに疲労をためて、さらに徹夜する羽目になるのはいい迷惑だ。それに残念ながら、俺は『銀石』に対してそれほど興味も関心もない。つまり、俺にとってこの行動には何のメリットもないのだ。

 しかし、今俺にこいつらを止められるのか?

 いつもの考えなしな行動なら縛り付けてでも止めるところだが、今回はそういうわけではない。ちゃんと〈意思〉がある。しかも、俺もルーの事情を知っているだけになおさらだ。

 この行動を知らん振りしても、チームを組んでいる以上、この二人が問題を起こした場合――この二人は問題を起こす可能性が高いのは言うまでもないことで――俺も連帯で責任を取らされることになるだろう。ここで二人と手を切るというのも、長期的に見ればデメリットの方が大きい。ロットの大剣もルーの銃も、それなりに重宝しているのだ。

 では、一緒に行動を取るように見せかけて、二人に悟られないように故意にアンディさんに気付かせる、という手はどうか?

 ……正直、俺にそんな微妙かつ繊細な演技が出来るとは思えない。この二人に気付かれてしまったら元も子もないし。

 二人に視線をぶつけられつつ、「俺にとって一番メリットが大きくなる行動はどれか」と考え、俺は結局一つの結論に到った。

 ――俺がこいつらの監視役、及び抑止力になるしかない。

 面倒だが、それが一番いい選択肢だ。考えればもっといい案も思い浮かぶかもしれないが、現時点で考え付く限りでは、それしかない。

 俺は嘆息しながら、

「わかった。俺も行くよ」

 と答えた。

 するとルーは邪気ない笑顔で俺とロットを交互に見、

「ありがとう! 二人とも!」

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