第二話
道の真ん中で行水したその一時間後、俺はギルドの暖炉の前で暖を取っている。
木造の建物。
長テーブルが六個とカウンター、暖炉と明かり取りの窓、そしてカレンダーが壁に掛かっているだけの殺風景な店。カウンターでは茶色い髭を生やした中肉のマスターが、椅子にどかっと腰を降ろして新聞を広げている。一見いわゆる酒場みたいなこの建物は、俺みたいなミドルティーンがくつろぐには少々場違いな雰囲気だ。しかしここは酒場ではないので別に問題は無い。まあ、酒も頼もうと思えば頼めるけど。
この店は、正確に言うと「日当業務斡旋所」、通称は「ギルド」。ここに氏名、年齢、その他を登録すると、日雇いの仕事を斡旋してくれるのである。仕事の内容は迷い猫探しから犯罪者の確保まで様々。このギルドに登録する賞金稼ぎも、子供から戦士、暗殺者まで多種多様だ。俺みたいな子供だって、仕事をちゃんと選べば賞金稼ぎとして生計を立てられる。俺はこのギルドに登録して早二年。できるだけ危険度の低い仕事を選んで、日々の食費を得ている。
「っくしゅ!」
現在俺は、上半身裸で暖炉の火の前で丸まっている。腕には鳥肌がたって、勝手に体が震えている。俺の服は暖炉の上のハンガーにかかっているが、ぽつぽつと水が滴っている。まだ着るわけにはいかないな。ちなみにさっきこの服の上に羽織ってたジャケットは、背中にきれいな穴が開いたので既に破棄した。それなりに高かったんだぞ? あれ……。
カランカランッ
ギルドの入口のドアのベルが鳴った。振り向くと、さっきの赤髪野郎と青いセミロングの髪の女の子が談笑しながら入ってきたところだった。ロットとルーだ。
「あ、ダルク! いたいた!」
ルーがこっちに駆けてくる。ロットはその後ろをのそのそついて来ながら、
「どうした、ダルク? 何で上半身裸なんだ?」
「お前のせいだあ!」
カッとなって立ち上がった俺の背中に、直に隙間風が当たる。
「っくしゅ!」
俺は慌ててかがみ、また暖炉に手をかざした。
「お前が俺の背中燃やすからこんなことになってんだよ!」
「そうか。悪い悪い」
「謝罪を四文字で済ますな! 手えついて謝れ! 心を込めて!」
と、俺とロットの間にルーが割って入ってきた。
「まあまあ、そんなことよりさ」
……そ、そんなこと呼ばわりですか?
「仕事が順調にいったんだよ」
ルーがにっこりと微笑む。
「そうそう、私の魅力と巧みな話術でな」
ロットが腰に手を当て、偉そうに胸を反らす。
「ほう……。じゃあ、その首尾を聞こうか」
俺がそう言うと、ロットはあの後どのようにターゲットと親密になったのか、とくとくと俺に語り聞かせた。「宝石のように輝く私の瞳で」とか「シンフォニーを奏でるような滑らかな口調で」とか言ってる時点でだいぶ誇張が入っているのは明らかなので、確認できる事実のみをかいつまんで説明すると、あの後ターゲットを喫茶店に誘い、紅茶のカップを傾けながら、一時間、ナンパにも似た世間話をしていたのだそうだ。そしてルーは、近くの茂みからその様子を覗き、トランシーバーでその会話を傍聴。内容をメモした、と。
ロットが話し終わると、ルーがぱちぱちと拍手をする。
「どうだ、私の手腕は? 恐れ入ったか?」
「凄かったよ〜。レイラさん、最後の方はもう、目がハートになってたもんね。なんかもう、とろけそうな表情でロットのこと見てたよ」
「ふっふっふ。私にかかればこんなものだよ」
「あ、でもあんまりレイラさんを本気にさせちゃだめだよ? あくまで世間話ができるくらいに仲良くなるのが狙いなんだからね」
「はは、わかってるよ。ヤキモチを焼かないでくれ」
「そ、そんなんじゃな――」
「あー。ちょっと質問なんだが」
俺は右手を上げて、二人の会話に割って入った。
「どうした? 女性を確実にお茶に誘うコツを知りたいのか? それはだな――」
「違う! そうじゃなくて、今回の仕事についてだ」
「仕事?」
二人はきょとんとする。
「そうだ。今回の仕事の目的ってのは覚えてるか?」
「もっちろん!」
ルーが胸をドンと叩いて、勝ち誇ったような表情をする。
「大通り沿いの服屋の店員の青年、カンタさん(28)が、そのターゲット――つまりレイラさん――に一目ぼれしっちゃったんだよね。それでレイラさんの好みの男性のタイプを聞いてくれっていう仕事がギルドに来て、私たちがそれを請負った、と」
ルーは俺ににっこりと微笑む。あどけない天使のような微笑に、俺はもう一つ質問する。
「で、そのカンタさんはレイラさんのタイプを知った後、どうするつもりだと思う?」
「どうするって、そりゃあ、レイラさんの好みのタイプ――頼りがいのある人って言ってたけど――になって、彼女を口説きたいんじゃない?」
ルーは何ともなさそうに答える。
「それが、何か問題があるのか?」
ロットが肩をすくめた。俺は息を大きく吸い込み、
「お前が先に口説いてどーするんだっ!」
その後、俺はロットとルーをギルドの床に正座させ、三十分間説教した。
下らない仕事を取ってきたこと。変な台本を書いたこと。〈火炎斬鉄〉を使ったこと。俺の服を燃やしたこと。ターゲットを口説いたこと。三十分じゃまだまだ足りなかったが、ルーが正座しながらうつらうつらしてきたので、逆に俺があきれてしまい、もう止めようとした。その時だった。
カランカランッ
ドアのベルが鳴り、
「ほほほほほほほほほっ。相変わらずのようですわね、あなたたち」
けたたましい声が聞こえてきて、俺たちは入口の方を振り返った。そこに立っていたのは、クルクルの黄色い巻き毛を揺らし、フリルがあしらわれているロングスカートをたなびかせ、あごを手の甲で押さえながら笑っている、いかにもお嬢様な女の子だった。そしてその後ろからおどおどした感じの男の子と、だぼだぼのパーカーを着た白髪ショートヘアーの女の子が現れる。
俺たちはこの三人のことを良く知っている。何かと俺たちに突っかかってくる三人組。このお嬢様はウエリィ、おどおどした男の子はウエリィの弟のギーン、そして白髪ショートヘアーの娘がワイトである。
「まったく、仕事の目的を見失うなんて。思慮が足りないんじゃなくて?」
ウエリィは勝ち誇ったような顔でルーを見据える。
「う、うるさいな! べ、別に見失ってなんかないよ! ロットだって本気で口説こうとしたわけじゃないんだから! ねえ、ロット?」
「え? あ……ああ。も、もちろん! もちろんだとも!」
ロットは目を泳がせながら答える。…………嘘だな。絶対本気だった。
「ふ〜ん」
ウエリィは眉毛をぴくぴくさせながら、なおもルーを見据えている。そしてふいにロットの方へと視線をずらし、
「それにしても残念ですわね。この低レベルチームの中でも、あなたのことだけは買ってますのに」
急にウエリィに視線を合わせられ、ロットはのけぞった。ウエリィはつかつかとロットの目の前に近づいていく。
「ねえ、私たちのチームにお入りにならない? 今からでも遅くなくってよ?」
「へ? いやあ……」
ウエリィに見据えられ、ロットは困惑の表情。
……ったく、俺なんかにはいつも偉そうにするくせに、女の子には総じて弱いんだよな、こいつ。いっぺん女装して、ボロ雑巾になるまでこき使ってやろうか! …………いや、冗談ですよ?
「こらー! あたしの目の前でロットを勧誘するな! そんなの許すわけないでしょ! それにロットもちゃんと言い返しなさいよ!」
ルーがいきり立って、床をドンドン踏みつけている。
「いや、しかし、女性の好意を無下に――」
「好意じゃない! どうせこいつ、ロットを使えるだけ使って、最後には紙くずみたく丸めてぽいするつもりなんだから!」
「まあ、何て人聞きの悪い! 私はそんなこといたしません! ロットさんの持っている大剣、そしてロットさんが繰り出す剣撃は一級品ですわ。こんな弱小チームの中で埋もれさせるにはもったいなさ過ぎるものです。私ならその能力を限界まで引き出し、そして仕事の中で最大限活かして差し上げることができます。だからロットさん。私たちと一緒に――」
「だからやめろー! このスパゲッティ頭!」
「す……スパゲッティ? な、なんて事を! このセットには一時間もかかってるんですのよ! 言葉に注意しなさい! この青ガッパ!」
「あ、あああ、青ガッパ? この――」
ふいにウエリィの後ろで小さくなっていたウエリィの弟ギーンが、ウエリィの背中をくいくい引っ張った。
「ちょっと姉ちゃん。こんな所でやめなよ。ほら、マスターもこっち見てる。恥ずかし――」
「ギーンは黙ってなさい!」
ウエリィは一喝する。その覇気でギーンは後ろにポテンと倒れた。「あうっ」と背中をさすっている。
……相変わらず損な役回りだなあ、弟君。いつでもどこでも常識人は苦労するもんなんだ。少々同情してしまう。
俺とギーンとワイト、そしてロットまで置いてけぼりにして、ルーとウエリィの言い争いは益々白熱していく。そして終いには、
「なによ! やろうっていうの!」
「そちらがその気なら、別に構わなくってよ? 私に挑む度胸があなたにあればの話ですが」
「なにを偉そうに! 決着つけてやる!」
ついにルーは、腰のベルトから青く輝く銃を取り出した。それと同時に、ウエリィも黄色い石が頭頂に取り付いたロッドを振りかざした。慌てて俺は
「おい! お前ら何する気だ! こんな所で!」
「ダルクは黙ってて!」
「あなたは黙ってなさい!」
二人に凄まれた。
……ってか、こんな屋内で洒落にならないぞ? 早くこいつら止めないと!
と、
「…………」
突然、白いショートヘアーを少し揺らしながら、ワイトがウエリィの前にすっと出てきた。無表情のまま無言で、ウエリィを庇うように立っている。
「な、何よ、ワイト! 邪魔する気?」
ルーが叫んだ。しかしワイトは白い前髪を少し揺らし、静かにルーを見据える。そして聞き取れるか聞き取れないかの声で、
「ウエリィのことは……撃たせない」
その行動と発言に、一同は少しの間あっけにとられた。しかしルーはなおも銃を構えたまま、
「あんたが盾になろうっていうの? 言っとくけどあたしの銃は――」
「それでも……撃たせない」
ルーの言葉を遮り、ワイトは強い目線でルーを見据える。そしてダボダボのパーカーの袖口から、彼女の武器であるアイアンクローをちらつかせた。その爪の先端がキラリと鈍く輝く。
またもしばしの沈黙……。
ルーも、この成り行きにどうしたらいいのかわからなくなっているようだ。
そして数秒の後、
「まあ、室内で暴れるわけにもいきませんし、とりあえず今日の所は帰りましょう」
何とも言えない空気のせいでさっきの覇気は落ち着いたらしく、ウエリィが嘆息して言う。
「ふん。さっさと帰れ帰れー」
野次をとばすルー。
「そろそろ夕飯の時間ですしね。カッパの相手をして疲れました」
「な……ま、またカッパって言ったー!」
しかしウエリィは構うことなくスカートを翻し、ドアの方へ歩き出す。
「それでは、またそのうち」
捨て台詞のようにそう言って、彼女はギルドを出て行った。その後ろをギーンが
「姉ちゃん待ってよー」
と追いかけていき、ワイトも無言でそれに続く。カランカランッとドアが閉まるのを見計らい、
「はあ……」
俺とロットは同時に肩を落とし、ため息をこぼす。
「なんなのよあいつ! いっつもいつも、むかつくことばっか言って!」
ルーはまだいきり立っている。
「誰がカッパよ! あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスペガッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ、あのスパゲッティめ……」
謎の呪文を繰り返すルー。…………一ヶ所、口が回ってなかったぞ?
「しかもワイトまで邪魔するし! なんなのよ! もー」
「ぷりぷり」という擬音がちょうど当てはまるように、ルーはほっぺたを赤く膨らまして怒っている。
「まあ、ワイトのウエリィに対する忠誠心は今に始まったことじゃないだろ?」
ロットがなだめるように言った。
「そりゃそうだけどさー」
言いながら、ルーはどかっと椅子によりかかった。まだふくれっ面だ。俺はその顔を横目で見つつ、「ふう」と息を吐きながら、
「それにしても、何でワイトはあんなにウエリィを慕ってるんだ?」
話題を少しばかり逸らそうと、そんな質問を投げかけてみる。
「何だ、ダルク。お前知らないのか?」
肩をすくめ、驚いたように言うロット。
「え? 何か理由があるのか?」
「ワイトのあの左手は知ってるだろう?」
ロットも椅子に腰掛けながら言う。
「ああ、そりゃ知ってるけど」
俺はロットの向側に腰掛けた。
さっきはだぼだぼの服を着てたからよく見えなかったが、その袖の中に隠れてたワイトの左手。実は、そこに手は無いのだ。手首から下が存在していない。何故か代わりに白いアイアンクローが仕込まれている。さっき袖口から先端だけがのぞいていた、白く輝く三本の鋭い爪が生えているクローだ。
ワイトは戦闘の際、そのクローを使う。何度か彼女の戦闘を見たことがあるが、彼女はそのクローがさも彼女本来の手であるかのように扱っていた。息を呑むほど卓越した技術だったのを覚えている。が、しかし、
「それとウエリィと、何か関係があるのか?」
「ああ、あるある。おおありだ」
ロットはまたも肩をすくめる。
「ワイトの左手はずっと前からああだった。いつからなのかは知らんが。おかげで彼女の周りには大人も子供も、誰一人として寄りつかなかったって話だ。実際私が初めて彼女の左手を見たときも、一瞬凍りついてしまったしな。人体の一部が武器というのは、太平の世の中では畏怖するものだ」
「そうだねー。あたしも初めて見たときは、やっぱり固まっちゃったな〜」
テーブルに頬杖をつきながら、ルーは思い出すように相槌を打つ。
「おかげで彼女は、幼少の頃から一人で生きることを余儀なくされたそうだ。彼女がギルドで生計を立ててるのも、一般の職種が彼女を受け入れなかったからだろう」
「そうだよね。あの左手じゃ、普通のお仕事なんてできないだろうし」
「で、そんな彼女に初めて救いの手を差し伸べた存在が、実はウエリィなのだ。ウエリィは、一人で賞金稼ぎをしていたワイトを自分のチームに誘った。客観的に見れば、ただワイトの戦闘能力に目をつけてスカウトしたって所だろうが、それでもワイトにとってウエリィは、孤独から救い出してくれた救世主になるわけだ」
「へえ。あのウエリィがねえ」
あの高飛車女がそんな優しい一面を持っていたとは。人は見かけによらんもんだな。
「それでワイトは、命を賭してその救世主を守ってるってわけか」
「そういうことだ」
ロットは神妙に頷く。
命を懸けるほどの恩……ねえ。いつも無表情を決め込んでるワイトからは、そんな心理変化なんてとてもじゃないが見えない。頑ななまでのポーカーフェイス。しかしそれはそう見えないってだけで、その奥では案外デリケートな葛藤があったりもするってことか。幼少から一人ぼっち……。俺はワイトじゃないから的確にその心情を想像することなんてできないが、それでも寂しくて切ないことだけは、何となくわかる。あの無表情も、その幼少体験に起因するんだろう。そしてだからこそ余計に、ワイトの心の中でウエリィが輝く。
救いなのは、ウエリィがその忠誠心を悪用するような劣悪な人種ではなかったこと。何となくだが、ウエリィがワイトに手を差し伸べたのも、ただ戦闘能力を当てにしただけではないんだと思う。あいつは何だかんだ言ってちゃんと弟の面倒も見てるしな。ルーと顔を合わせるとああなのは、ただ単にロットがからんでるからなだけで、普段は分別をわきまえている。ルーや、もしかしたらロットなんかよりも人格はできているのかもしれない。
「ま、気を取り直して新しいお仕事探そっか」
ルーが立ち上がった。ようやく気持ちを切り替えたらしく、表情はいつものあどけないものに戻っている。
「ちょっと待ってて。仕事表もらってくる」
そう言ってカウンターのほうに駆けていく。
ルーはしばらくカウンターによりかかってうんうんうなっていたが、何かを見つけたようにぱっと笑顔になって、またこっちに駆けてきた。
「ねえ、これなんかどう?」
ルーが差し出してきた仕事表。ルーが指し示す先には、
『遺跡調査』
……どうしてこいつはいつも、こうキワモノな仕事にばっかり目をつけるんだ?
百パーセント気乗りしないが、こいつらが頭ごなしに却下しても聞きやしない性格なのは十分すぎるほどわかっている。前例も腐るほどある。しょうがない、諭す感じでいこう。
テーブルの向こうで
「いつもながら目の付け所がいいな、ルーは。さすが私が見込んだだけのことはある」
とか
「えへへ。ありがと。やっぱこういうお仕事の方が楽しいもんねっ」
とか盛り上がっている二人に対して
「なあ、ロット、ルー。お前らに聞きたいことがある」
神妙な顔を作りつつ、俺は切り出した。
「ん? なに、ダルク?」
きょとんとするルー。俺はなおも静かな口調で
「お前らにとって、『仕事』っていうのは何だ?」
テーブルに両腕を置きながら、俺はそう続けた。
「え? 仕事? なーに? 急に変な顔して?」
へ、変な顔? …………いや、落ち着け、落ち着け。
俺は「コホン」と咳払いをしつつ、
「義務でやってるやつもいるだろうし、仕事は生き甲斐だと答えるやつもいるだろう。暇つぶしだと答えるやつもいるかもしれない。人それぞれの考え方、価値観があるものだ。じゃあ、お前らにとってはどうだ? お前らにとって、このギルドでの仕事っていのは、人生における何なんだ?」
俺の問いかけに、ルーは口元に人差し指を当てて「う〜ん」としばらく考えてから、
「楽しむもの!」
誕生パーティーでケーキのろうそくを吹き消した直後のような満面の笑みを浮かべながら、そう言った。次にロットの方を見ると、
「『仕事』……か。一般的な定義からすれば生計を立てるためのもの。世俗的な表現を借りれば金稼ぎに他ならないが……。しかし私の場合、そんなつまらない理由で日々を生きたりはしないのだ。『仕事』……。それは私にとって、いわば自分の真価を見極めるためのものだ。果たして自分の器はいかほどのものなのか? 自分はどこまで成長できるのか? 自分が本当に望むものは何なのか? それらの答えを探し求める道。決して終わりなどない道。それが、それこそが――」
「もういい、わかった」
いい加減、俺はロットの言葉を切った。元々こいつらの返答に期待などしていなかったが、それでも期待外れと感じるほどの外れっぷりだ。
「つまりルーにとって、『仕事』ってのは楽しむこと。ロットにとっては……その……自分探し?……だと。じゃあ、もう一つ聞く。もしその、ものすごく楽しくて、自分のことも百人分くらい探せそうな依頼が報酬なしで来た場合、それは仕事と呼べるか?」
「え〜? お金もらえないの? それじゃあ仕事にならないよ」
「うむ。必要経費というのもあるし、報酬なしでは受けられんな」
口をへの字にする二人。俺は自分の思惑通りの返答にようやく安心しながら、
「だろ? やっぱり仕事には報酬が必要だ。欠かせない。じゃあ、今ルーがとってきた仕事を見てくれ。その『遺跡調査』だ。報酬の欄。書いてあるだろ? 『何かしらの発見があった場合にのみ報酬が発生します』って。つまり、何かが見つからなきゃ報酬はないんだ。仕事にならない。遺跡の探索はしんどいし発見なんかそうそうないって、この間ギーンがグチってたろ? つまり、この仕事を請負っても報酬をもらえる可能性なんてほとんどないんだ。仕事にならないんだよ」
俺がここまで説明すると、
「うん……わかった」
グランドクロス並みに珍しく、ルーが沈痛な顔をして頷く。
「ああ、お前の言わんとしていることはよくわかる」
ロットも瞳を閉じ、静かに頷いた。
「そうか、ようやくわかってくれたか」
言いながら俺が安堵のため息をつくと、
「つまり、この仕事を『仕事』と成り立たせるためにはそれなりの覚悟が必要。だから気を引き締めていこうと、そういうわけだな」
へ?
「ふっ。普段は淡白なお前がそこまで力説するとは。久々に私の胸にも熱いものがこみあげてくる。まさに自分の真価を見極めるに適した仕事だな」
いや、ちが……。
「うふふ。あたしもなんだかドキドキワクワクしてきちゃった。じゃあ、この仕事を請負うってことで決まりね。楽しみ〜」
ちが〜う!