第十二話
盗賊が殺されたことを知らされて三日目。状況が動き出した。
その日は雨だった。
朝からしんしんと鳴り続く雨音。とっくに日の出の時間は過ぎてるはずのに、街は不気味に薄暗い。十六年住み着いている街とは思えないほどの印象の変化だ。このおどろおどろしい情景のせいなのか、それとも気圧が低いせいなのか知らないが、寝起きからどうにも肩が重い。やたらと気だるい。
傘を差してトボトボと一人で通い慣れた道を歩み、このアンニュイな気分にもしやと思いながらギルドにたどり着くと、案の定、ロットが俺よりも先に来ていた。ルーよりも先にこいつの顔を見る朝は、一体何ヶ月ぶりだろうか。
しかしそれよりも驚いたのが、ギルド内にやたら人が多かったことだ。
傘を丸めながら見回してみたが、少なくとも十人以上の人間がこの建物内に集まっている。このギルドに登録している賞金稼ぎ全員が集まっているというわけではないだろうが、それでも今まで見たことがないくらいの人数だ。一人一人顔を確認して見ると、アンディさんやポーラさんまでいる。
アンディさんが俺の視線に気付き、笑顔と共に軽く手を振ってくれた。なのでこっちも会釈で返す。
人ごみの中をぬってロットとルーの方へ行き、
「どういうことだ、これは?」
と朝の挨拶よりも先にロットに尋ねると、
「このギルドの賞金稼ぎ、集まれるものはみな集合ということらしい」
「……何でまた?」
「やつらの隠れ家の一つが発見されたそうだ」
「やつら?」
「『カザミドリ』だ」
シニカルな笑みを浮かべながら、ロットが答えた。
俺は首をひねりつつ、
「『カザミドリ』の隠れ家が見つかったからって、何でこんなに賞金稼ぎを集めるんだよ?」
「その説明はそろそろ始まるだろう」
言いながら、ロットはカウンターの方を顎で示した。
そっちへ視線を動かすと、黒服、黒ぶち眼鏡に黒いロングヘアーという、この前見たときと同じ格好のままのリンクさんが、カウンターのそばに独り佇んでいた。
俺が注視している中、リンクさんはちらっと壁に掛かっている時計を見上げて立ち上がり、背筋を伸ばして口を開いた。
「では、皆さんに今日集まってもらった件について、説明させてもらいます」
その発言に反応し、ギルド内の人間全員がリンクさんの方に向き直る。皆が押し黙り、建物内はいきなり静寂に包まれた。
しかしリンクさんは、急に変化したギルドの雰囲気を気にすることなく、静かに息を吸い込み、そして語気を強めて、
「これから、あなた方全員で共同戦線を張って頂きます」