プロローグ
「ねえ、自由って……何だと思う?」
彼女は、そんなことを聞いてきた。
俺はスプーンをつまんだ右手を止める。
町外れの食堂の窓際の一角。日も沈みかけている夕暮れ。夕飯時なんだから当たり前と言えば当たり前だが、店内はなかなかに混雑していて、周りは少々騒がしい。店員があっちこっちへ慌ただしく駆けて行く。
そんな喧騒の中、互いの夕飯をはさんで、俺と彼女は向かい合っている。
『彼女』なんて呼んではいるが、別にこれは恋人を意味する使用方法なんかではなく、俺にとって彼女は友達ですらない知り合いなだけで、二人で夕飯を取っているのも偶然ここで会ったから相席しただけであり、ましてデートとかそんな類のものではない。そもそも、彼女と面と向かって話したことだって、今までそれほどなかったんだ。
俺が彼女の――つまり、ワイト=ホールの――質問に答えあぐねていると、
「言い方を……変えるわ。……自由って言うのは……何かを……持っていることだと……思う? ……それとも……何も持たないことだと……思う?」
彼女は静かに言葉を続けた。
「えらく意味深な質問だなあ……」
俺は嘆息しながら答える。
「そんな難しいこと、考えたこともないね。哲学者や政治家じゃあるまいし、考える必要もなかった。そもそも、そんなことを何で俺に聞くんだ? ロットにでも聞けば、それなりに格調高い答えが聞けるだろうに。……まああいつは、考えなしなことを考えなしだっていう自覚なしに言うからなあ。う〜ん……じゃあルーはどうだ? ポジティブな答えを期待してるんなら、あいつが適任だろう。あいつの発言には、根拠がないのが玉に瑕だがな。……そうだ、ウェリィは? あいつは確固たる信念みたいなのを持ってそうじゃないか。独りよがりっぽいけどね。ギーンは……真面目に考えてくれそうだけど、答えが出なくて、二人でどつぼにはまっていくのが目に見えてるな」
俺が知り合いを羅列していくと、彼女は静かに首を振った。
「あなたの考えを……聞きたいのよ」
波の立っていない水面のような瞳で、じっと俺を見据えている。
「だから、何で俺なんだ?」
「私とあなたは……似てるから」
俺とこいつが――――似てる?
口にこそ出さなかったが、「どこが?」と咄嗟に思ってしまった。
よく言えば物静か、悪く言えば暗鬱な彼女と似ていると言われるのは、こっちとしては正直おもしろくないことである。彼女に対して失礼な気もするので、面と向かっては言えないけどさ。
俺は、彼女の発言を肯定するでもなく否定するでもなく、
「う〜ん。自由……自由ねえ……」
腕を組んで、首を傾げながら、
「選ぶことだろ?」