3時限目 OC
「形式主語Itを使って、そこから先の文章に、真主語もしくは仮主語を入れて作るのが――――」
言われた言葉を片っ端からノートに書き写していると、不意に、華やかで怪しい仮面舞踏会の映像が脳裏に流れ出した。
「形式上の建前に守られた仮面の君の、
仮の姿を暴いて、
真の姿を露にしたいのです。」
彼はそう言って、その顔に付けた仮面に手を伸ばした。私――――ベターは、慌ててそれを押し留めた。
「いけません、仮面を外されては。」
月も凍えるバルコニー。ホールでは未だに、明るい音楽が流れ、人々が踊っている。
「何故ですか?私は貴女のことが知りたい。貴女の、本当の姿が、見たいのです。」
私はゆるゆると首を振った。
「迷惑をかけ逃げ出して、
諦めきって避けもせずに、
終わりまで楽しめないで、
練習だって、とうの昔に止めてしまった・・・。
そんな・・・そんな私を、見ないでください。どうか・・・・・・。」
私は、仮面を付けていることに感謝していた。表情を、見られたくない。
彼――――ハッド卿は、しばらくの間、何も言わずにいた。青白い月の光が、沈黙の上に降り積もっていく。
「お気になさらず、脱け出してください。
決して諦めず、避け続けてください。
そして、終わりまで楽しんでください。
練習なんか、止めたって構いませんよ。」
思いもよらぬ言葉に、私は顔を上げた。仮面の下から僅かに覗く口元が、柔らかい笑みをたたえている。
ハッド卿は、私に向かって手を差し出した。
「参りましょう、ベター様。私がきちんとリード致します。ですから――――ご安心ください。」
不思議だった。
上手く踊れない自分が、あんなにも嫌いだったのに。
諦めて練習から逃げ出して、不本意な見合いも避けずに、けれど結局 迷惑をかけただけに終わって、こんなにも、こんなにも、自分が大っ嫌いだったのに。
あぁ、何故でしょう。
何故、貴方にそう言われただけで。
貴方の手が目の前にあるだけで。
私は、私を許せるの?
月の光が金色に輝き、私たちを優しく包み込む。私はゆっくりと、その手を取った。
「姫、私たちの間に、邪魔者はおりません。私たちは、共にいるだけで、より良きものになれるのだと、私は思っております。」
「ハッド卿――――――私は、」
「藍川。」
・・・・・・目の前で、仮面のような笑顔を張り付けた先公が、私を見ていた。
「顔、洗っておいで。」
「――――はい。」
私は素直に頷いて、席を立った。
――――――チェッ、いいところだったのになぁ。
どうにも、ままならないものである。しかし冷たい水は、ぼんやりした頭に気持ち良かった。
hadとbetterは2つで1つ。間に邪魔者は入りません。
「迷惑かけて~止めてしまった。」「気にしないで~止めても構いませんよ。」
のくだりは、"MEGAFEPS"を上から順に。多少、意訳あり(笑)




