2時限目 生物
ダダダダっ、と、やかましく走る音がして、扉が荒々しく開かれた。
「おい!おい!!お前、・・・"ON"するって、本当か?」
「あぁ。」
俺は努めて冷静に答えた。ニヤリと笑ってさえしてやる。
「本当だが?何をそんなに慌てている。」
「何でそんなに冷静なんだよお前は!」
「フンッ、別に、――――――順番が来た。ただ、それだけのことだろう?」
「・・・・・・っ。」
俺が素っ気なくそう言うと、唯一とも言える友人は黙り込んだ。
ここは、"HorM"中枢部である。"HorM"とは、簡単に言うと、暗殺者の集団だ。
"Hit or Miss(殺るか殺られるか)" という意味である。
俺たちは、生まれたときからここにいた。そして、戦いの知識だけを詰め込まれ、いつか死ぬためだけに、今を生きている。
俺たちの目標はただひとつ。必要な知識と技術を身に付け、"受容体"と呼ばれる場所から、標的の元へ行き、任務を遂行すること。この任務に出ることを、『ONする』という。1日に大体・・・・・・どれくらいだろうか。とにかく、たくさんの同胞たちが、上からの命令で"ON"している。
任務の内容は知らされていない。"行けば解る"、と、そういうことらしい。
ただ、一つ確かなことがある。それは、――――――『"受容体"に行ったものの中で、帰ってきたものはいない。』ということ。
つまりこれは、死の任務。本当の意味で、"必死"の任務なのだ。
「――――――さて、そろそろ時間だ。」
「本当に・・・・・・行っちまうのか。」
「当然だろう。上からの命令なんだ。逆らえようも無いさ。それに、」
俺は、やけに子供っぽい不安げな顔をした親友を真正面から見た。
「行かなきゃ、バランスが崩れちまう。崩れきったら、俺たちは全滅だ。」
「・・・・・・そう、だけど。」
「安心しろよ!どうせお前も、すぐに俺の後を追うことになる。」
わざと明るくそう言うと、ようやく友は笑顔を見せた。
「あぁ、そうだな!――――――向こうで、また会えるといいな。」
「会えるさ。きっと。」
「そうだよな、会えるよな。」
俺は親友をよく見た。
たぶん・・・・・・行ってしまったら、もう二度と、会うことは無いだろう。だからせめて、最期の時が来るその瞬間まで、唯一無二の親友の顔を覚えておきたかった。
サイレンが遠くで鳴っている。時間だ。
俺は親友に近寄って、片手を上げた。
「――――――またな、親友。」
そいつも、片手を上げた。
「おう、またな、親友!」
泣きそうな、しかし無理矢理笑ったその変な顔を、俺は脳裏に焼き付けた。
ハイタッチを交わし、部屋を出る。
俺はもう振り返らない。
未練はない。
俺はまっすぐ、廊下を歩き、俺を"受容体"――――――死の場所へ連れていってくれる、真っ赤な激流に、迷わず身を踊らせた。
薄れゆく意識の中で、親友の顔が笑っていた。
――――――変な顔。
そう思ったところで、意識は完全に途切れた。
どっ
先公のだじゃれにクラスが沸いた。盛り上がりを見せる教室の中で、私は一人、悲しかった。
「くぅっ。」
私は思わず、目元を押さえた。
自分自身の妄想とは言え、悲しすぎる!
なんてつらい・・・・・・過酷な、運命を、背負っているのだろうか。
しばし、私は彼らに黙祷を捧げ――――――――――シャーペンを持ち直した。
先公が授業を進めていく。
「中枢神経の中の間脳には、視床下部があって、そこから、前葉、後葉に、ホルモンの分泌を調節するホルモンが出されます。」
机の上に広げたノートの中で、ホルモンは血流に乗り、全身へと行き渡っていた。
「ホルモンは受容体から標的細胞に入り――――――」
"HorM""ON"
かなり無理矢理ですけど、"ホルモン"と読んでください(笑)
ちなみに、彼は「成長ホルモン」。親友の方は「甲状腺刺激ホルモン」。互いに別の場所へ行くので、再び会うことは無いでしょう。




