音符の人生
白と黒の世界。
視界は狭く、モノクロに見えた。
楽しそうなカップルも、仲良さそうな友達同士も、自分には何者にも感じられず、ふーんで終わってしまう。
本当は輝かしいオーラを皆、放っているのに、自分だけ読み取れず、耳や鼻を自然に塞いでいた。
ー馬鹿じゃないの。
全てが敵に見えた。
自分だけぼろぼろになっていく世界。
だから正しい白の世界と、間違いの黒の世界しかなかった。
攻撃されれば攻撃し返すし、なめられたら音楽でやり返した。
音楽だけが唯一の救い、楽しみだった。
「あー」
何でもいいから声を発すると、気持ちが良かった。
その時だけ無防備で、自分が自分でいられた。
「ねえ、歌ってみない?」
誘われて、俺は「何で俺?」と思った。
俺、歌が上手くないし、ただ誰も近づかないように、警戒の声で歌っていたのに。
そいつを馬鹿にするわけではないが、頭、大丈夫かと思った。
「悪いけど断る」
歌だけは誰にも取られたくないし、唯一、自分のものだった。
もちろん視界は白黒のままだが、歌っている時だけは、音符が色づいて見えた。
だから安心して1人でいられた。
勉強なんかいらない。
つまらないし、もっと黒の世界が広がるから。
ただ大人が黙って子どもに教えるだけで、何の役に立つのか分からない。
何でしーんとした空間で、我慢できるのか、不思議だった。
何故、皆、我慢する?
何故、皆、死んだ目をしている?
俺には歌の世界だけが生きていて、音符の色づいた世界を見ることができるのだった。
しかし断ったはずなのに、相手は負けていない。
「やろう、バンド」
「だーかーらー、嫌だって言っているだろう」
強めに言うと、相手はしゅんとした。
いい気味と思う自分と、少し言い過ぎたかという自分がいる。
しかも音符が浮かんで見えてくるのだ。
何故だ、何故だ、何故だ?
こいつと関われというのか。
天が唯一、与えてくれた音楽をやれというのか。
くそ、くそ、くそ。
悔しい、悔しい、悔しい。、
しかし集まったメンバーを見て、急にふと力が抜けた。
メンバーは自分を攻撃しているのではなく、暖かく出迎えてくれた。
もちろん自然のフィルムを通してなので、きつい眼差しは変わらないが、俺を受け入れてくれる場所を作ってくれたようだった。
自分の居場所は、歌のあるところ。
将来が決定したのは、その時だった。
テキストもノートも捨てて、歌1本にすることにした。
まずはギターを使えないといけないし、作詞や作曲をしないといけない。
新しい世界。
俺の視界は倍くらい広がるようになり、色んなことを吸収していく。
面白い、面白い、面白い。
学校の勉強よりも、歌の練習のほうが、はるかに楽しかった。
どんどんのめり込んでいって、すぐにギターを弾けるようになった。
すると、音楽の幅も広がり、色んな音楽を耳にするようになった。
ジャズ、ゴスペルなどなど…。
音楽の世界の広さに、びっくりする。
俺の思っていることなんて、ちっぽけだと思えるようになった。
死んでいた目が、流星群が現れたように、眩しく光を放つ。
自分で自分を追い込むタイプなので、ご飯を食べなくても平気で、代わりに音楽を食べていく。
全身、音楽だらけの自分。
もちろん作詞もこの頃から始まり、ノートに自分の気持ちを書いていく。
その楽しさといったら、何とも言えなかった。
皆に見せると、
「すごい!! すごいよ!!」
と言われ、褒められる。
俺は嬉しかったが、まだまだだと黒の自分が言う。
嘘をつかれているかもしれないぞ、気をつけろ、そう警告してくる。
しかし白の自分は仲間を信じなさいと応援してくれる。
白と黒の自分。
結局、自分のことは自分で決めるしかなく、どんどんとリズムに乗って書いていく。
まるで船に乗って心地よく揺られているような感覚。
自分ではよく分からないのだが、泣いてくれる人がいたりしてびっくりする。
ー俺、歌の世界で生きていく。こんなに楽しいことはない。
俺が終わるとしたら、歌が消える時、音符が消える時だった。
それまでは一生懸命、ギターを弾き続ける。
腹の中から声を出し続ける。
すると評価がついてきて、音楽と向き合いたい自分とぶつかる。
どちらを選ぶべきか。
悩みに悩んで、1人で空を見上げる。
星のたくさん光る空が、俺は好きだった。
静かに眺めていると、1人、また1人とメンバーが集まってくる。
「何だ、お前ら、どうした?」
驚いて聞くが、誰も無言で一緒に寝転がる。
すると1人で鑑賞していた時とは違い、星が音符に見えてきた。
「あ」
と気づいた時には歌ができていて、ギターを引き寄せる。
「ラララ」
できた歌を即興で伝えると、メンバーが興奮し始める。
俺も手応えを感じ、星空を見上げる。
淋しくなったら、ここに来よう。
辛くなったら、ギターを持とう。
そう決め、俺は海原へ出ていくのだった。




