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顎が外れた陛下の口に指を突っ込んで治した私は不敬罪で死刑……ではないようなので

作者: 春待瑞花
掲載日:2026/04/02

 

「今を持ちまして、私アステリオ・クロイツは、セレスティア・アルカナとの婚約を破棄し、聖女エレナ・ブロイクを婚約者とする事を宣言します。

 よって、私が王位を継いだ際にはエレナが王妃となります。聖女が王妃となる喜ばしい事実に、祝福の意を授かりたく思います」


 隣国との平和協定樹立記念式典の開会の挨拶をしようと、壇上に立っていた陛下の横に、婚約者である王太子がエレナとともに登壇し、声高く宣言した。


 私は王太子の婚約者、隣国の第2王女セレスティアである。二年前に王妃教育のため隣国からやってきてこの国の城に滞在していた。いつもの夜会では王太子にエスコートを受けているが、今日は母国の使節団と一日過ごす事になっていたためエスコートは受けず、使節団とともに入場した。

 入場してみれば、アステリオの横にはお揃いの色のドレスを身に纏ったエレナがいた。

 彼らが密会している事は、隠せない隠し事となっており私の耳にも届いていたため、彼らを認めた瞬間こうなる予測はついたので、驚きはない。


 けれど…… 当国との平和協定樹立記念日に宣言するのは明らかに不相応である。私はその協定をより強固なものとするために選ばれた妃であり、使節団も多く来訪している。

 …… まあ、あの王子は頭がお花畑だったから…… バックボーンは関係なく、ただ早く婚約破棄したかったのだろう……

 陛下は賢帝なのに、なぜか王子はその要素を受け継がなかった。王子が幼い頃に病で王妃が亡くなってしまったため、厳しく躾る人がいなかったからなのか……陛下が忙しくて教育を教育係りに丸投げしたせいなのか……

 陛下は王妃以外の女性を娶らなかったため、この国の正統な血筋は彼一人。そのため、蝶よ花よと育てられ、我儘三昧、頭がお花畑のどうしよもない王太子が誕生してしまった。

 この国を傾けないためには、賢い王妃が必要、との陛下と重鎮達の判断で、隣国で執務に口を出して、数々の優れた政策を打ち出していた私に白羽の矢が立ったのだ。

 事情を聞き、他国が落ちぶれるのを見過ごすわけにはいかないよねぇ…… と、渋々婚約を受け入れた…… というのに。その実情を当の王太子は認識していなかったようだ。いや、周囲はそれとなく伝えていたと思う。だが、あのお花畑王子には全く理解されていなかったらしい。まあ、それも致し方ない。


 陛下が後妻なり、側室なりとって、他に子供がいればこんな事にはならなかったんだけどねぇ……

 陛下は王妃を殊更愛していたのか、他の女性に目を向ける事はなかった。

 いや、重鎮達よ、そこは無理矢理でも娶らせろよ、と何度思ったか……


 エレナが私のように賢ければ何の問題もない。エレナに国政を任せればいいのだから。だが、現実はそうではなかった。エレナも王子に負けず劣らずのお花畑脳だった。聖女の力である癒しの能力があるので、ただの男爵令嬢だが人気はあった。高位貴族達にね。

 聖女は何人かいるが、多くが平民で教会に属して治癒を行っている。だが貴族であるエレナは教会には属さず、高位貴族の屋敷を周り治癒を行っている。そのため国民への知名度は低く、男爵令嬢のため令嬢としての能力も著しく低い。政策を執行出来る能力は皆無であろう。



 そんなこんなで、横にいる使節団の面々は、王太子の宣言のあと、唖然呆然としている。陛下に至っては、驚きすぎてフリーズしていた。

 エレナとの噂は届いていたと思うけど、私を正室、エレナを側室にする、と思っていたんだろうなぁ…… お気の毒に……


 陛下が、金縛りから解けて叫ぶ。

「そ、それは許さんっ!かっ!かっ、かあぁぁぁ……」


 あ、陛下の顎が外れた。


 顎を抑えて前のめりとなる。近衛兵と重鎮達が駆け寄る。宰相が口を閉じようとするが、陛下は口を開けたまま呻き声をあげるため無理には触れないようだ。陛下の涎がたれてくる。ちょっと、いやかなり可哀想だ。

 宰相がエレナをみて叫ぶ。

「エレナ嬢!早く治癒をっ!」

「は、はい!」

 エレナが陛下の側に駆け寄り治癒魔法をかけた。痛みはなくなったようだが、顎は外れたまま。口を閉じる事が出来ない。治癒魔法は、関節のズレは治せないらしい。陛下は口を開けたまま困った顔をずっとしている。

 う〜ん……不憫だ……


 なので、早歩きで陛下に近づいた。

 エレナの隣まで音もなく忍び寄り、

「陛下、失礼します」

 と言って、誰かが止める間もなく、両手で陛下の頬を挟み、両親指を口に突っ込んだ。すばやく陛下の奥歯に両方の親指を乗せ、下顎を押し下げて顎の整復を行った。


「「「あ」」」

 無事に口が閉じた陛下をみて、再び全員が固まる。


「緊急とはいえ、陛下のお口に手を入れてしまいました。不敬を働き誠に申し訳ございません。罪は甘んじてお受けいたします」

 音もなく陛下の周囲の輪から抜けて、最大の礼をとる。


「あ、いや、ふ、不敬は問わない。むしろ、助かった。礼を言う」

「あ、ああ、そ、そうですな。聖女でも治せなかったのを治したのですから。むしろ、賞賛に値するのでは?」

「そ、そうだな。セレスティア嬢、何か褒美をとらせよう」


「いえ、私はただ外れた顎を戻しただけですので。不敬を問われないことが、これ以上ない褒美となります。陛下、ありがとうございます」


「そ、そうか…… 」

「父上!彼女はもう私の婚約者ではありません!不敬罪に問われる身です!」

「黙れ!お前は謹慎だっ!」


「あ、恐れながら陛下。大声を出すとまた顎が外れてしまいます。一度外れると再発しますので。どうか、口をあまり大きく開けないようご配慮いただければ、と存じます」


「わ、わかった…… セレスティア嬢、我が国の王太子が大変失礼した。だが、婚約をこのまま継続してもらう事は難しいだろうか……」


「先程の褒美をとらせるとのお言葉がまだ有効でしたら、婚約破棄の承諾を望みます。アステリオ様とエレナ様は想い合っておられるようですので。

 お二人のご婚約をお祝いしたく存じます」


「……承知した。セレスティア嬢には、本当に申し訳ない事をした。君の婚約者については、改めて考えよう。君の意向も取り入れたいと思う。

 後ほど、時間を設ける。今日は助かった。そして、すまなかった。後で呼ぶので、それまては部屋で休むように」


「かしこまりました。面前失礼いたします」

 カーテシーをとって、侍女とともに会場を出た。



 部屋に戻り一息ついた。

「セレスティア様、思い切りましたね。まさか、あそこで陛下の元へ行くなんて。不敬罪になったら、どうするおつもりだったのですか? 

 ものっすごく嫌な汗をかきましたよっ」

「驚かせてごめんなさい。でも、陛下が可哀想で見ていられなかったのだもの。

 不敬罪を問われたら、仕方ないと思ってたわ。だって、王妃教育を受けている私は、王族以外とは婚姻出来ないでしょ。この国の中枢の事まで知ってしまってるのだもの。この国から出られないし、公爵家以上でないと婚姻出来ないわ。けれど、現公爵家には適齢期の令息がいないし、第2夫人は絶対嫌だし。そうなるくらいなら、死刑でもいいかなって。毒杯煽って苦しまずに死ねるならそれもアリかなと」

「そんな…… 潔すぎですよ……

 セレスティア様が死刑にならなくて本当に良かったです……

 ですが、第2夫人となる以外の道はないように思えますが…… いかがされるおつもりですか?」

「陛下の後妻となるわ。だって、陛下が好みなんだもの。意向を聞いてくれるなら、その望みを叶える方向に持っていく」

「そうきましたか……

  まあ、明らかに王太子殿下はセレスティア様の好みから外れているとは思っていましたが、陛下が好みとは……

 まあ、セレスティア様なら望みを叶えれるでしょうし。この後、陛下を籠絡する様子を拝見させていただく事といたします」

「ふふっ、さすがわかってるわね。では、私が動きやすいドレスを選んでくれる?陛下を籠絡するためにはそれが必要よ」

「仰せのままに」

 幼少期からずっと側にいる侍女は私の事をよくわかっているので仕事が早い。

 動きやすい少し伸縮性のあるドレスを着て、陛下からの呼び出しを待った。



「セレスティア嬢、婚約破棄の件、誠に申し訳なかった。あいつと婚約を継続出来ないとの気持ちも理解した。

 今後の事だが…… 君は国に戻りたいと思うだろうが、申し訳ないがそれは出来ない。王妃教育でこの国について知りすぎてしまった君を国外に出す事は出来ない。

 君の婚姻に関しては、公爵家と縁を結ぶ他ないだろう。だが、今の公爵家には適齢期の子息がいない。そこで、適齢期の子息を公爵に養子に迎えてもらい、その者と婚約してもらうこととする。選ぶ子息に関しては君の意見を尊重する。ゆっくり検討してくれていい」


「陛下…… お気遣い痛み入ります。

 ですが……そのお話の前にひとつ。

 先程陛下は顎が外れました。一度外れた顎は再度外れやすいです。陛下のお歳で顎が外れてしまう原因として、ストレスや緊張による筋肉の強張り、長時間座位をとることで起こりやすい猫背や頬杖などの悪い姿勢があげられます。

 お心当たりはありませんか?

 再び顎が外れないようにするには、筋肉の緊張の緩和が必要です。

 陛下、今お時間がおありでしたら私のマッサージを受けてみませんか?実は私にはその知識があるので、陛下の筋肉を和らげることが出来ます。

 試しに今、少し受けてみませんか?先程のように口の中に指を入れるなどの手荒な事は決していたしませんので、ご安心ください」


「え?ああ。いや、先程は本当に助かったし、手を入れたのも一瞬だったから手荒という程でもない。そうだな…… 私はどうすればいいのだ?」


「はい!それではそちらのソファに横になっていただけますか?」


「え?ああ。わかった……」

 陛下は素直に横になる。この素直なところも実に可愛らしい。好感しかない。


「では、陛下。お顔を少し触ります。目を閉じていてください。近衛の方も侍女もいますので、変な事は出来ませんのでご安心ください。出来れば呼吸をゆっくり大きくしてお楽になさっていだければ」

 言いながら、陛下の顔をマッサージする。最初緊張して強張っていた顔の筋肉が少しずつ緩んできた。そのまま頭や首のマッサージも丁寧に施した。15分程行い終了する。


「終わりました。ゆっくり起き上がってみてください。いかがですか?」


「これは…… すごいな。頭痛と目の疲れがすっかりとれた。肩も軽い。こんな事は初めてだ。聖女の癒しの力ではないのか?」 


「いえ、ただのマッサージです。筋肉の緊張を和らげ血の巡りをよくしただけですわ。

 ですが、陛下は毎日の執務で常に筋肉が緊張した状態にあると思います。定期的に解さないと身体に不調が生じ、血行不良が大きな病をもたらす可能性も否定出来ません。陛下にお元気でいてもらうには、定期的なマッサージがとても有効だと思います。私は知識がありますので、陛下にとって、とても有効なマッサージの提供ができます。

 どうでしょう、陛下。私を後妻に迎えて私のマッサージを定期的に受けませんか?私を娶れば、毎日寝所でマッサージを受ける事ができますわ。

 王太子殿下とエレナ様には、まだまだ執政をお任せ出来ませんよね?任せる事が出来るようになるまでは陛下はお元気でいなくてはなりません。そのためには毎日万全である必要があります。私のマッサージを受ければそれが可能です!

 私は陛下にいつまでもお元気でいて欲しいので。

 私に褒美をとらせるというお言葉が、婚約破棄承諾以外にもまだ有効であるならば、私を王妃としてくださいませ!お願いしますっ!」


「そ、それは…… 私にとっても、この国にとっても、大変喜ばしい事だが…… だが、君にとって私は親のような年齢だ。それでも君はいいのか?」


「もちろんです!私にとって、陛下はとても魅力的なお方です!陛下の妻となれる事は私にとっては最大の喜びです!」


「……そこまで言ってくれるのなら…… 君の望みを受け入れよう。私と婚姻して王妃となってくれ」


「はい!喜んでお受けいたします!」



 翌日、王太子の婚約者の変更と、王の婚約が発表された。元々の予定であった王太子の婚姻日が王の婚姻日となり、僅か2ヶ月後にセレスティアは王妃となった。アステリオはその直前に謹慎が解除されたが、エレナとの婚姻の時期は未定である。




 私は前世、26歳の理学療法士だった。成長して自我が芽生える頃から前世の夢をみるようになり、前世日本人として生きていた事を10歳の頃には自覚出来ていた。

 この世界は前世に比べるとだいぶ発展が遅れていた。交通規制を設けたり、書類の書き方を提案して指示系統を整えたり……と前世では特別な事ではない事を提案しているうちに、賢策を提案する才女として認識されてしまった。

 アステリオの婚約者に選ばれた時は16歳。アステリオは15歳。前世では26歳なので子供にしかみえず、しかも頭がお花畑の王子なので、嫌悪感が芽生える始末だった。婚姻してしまったらもう受け入れるしかないと落胆していたが、エレナとの噂を聞いて、奴との結婚を回避できるなら、もう死んでもいいかな、と今世の人生を諦めていた。

 だが、あの婚約破棄の場で、死刑になると思ったら、その逆の展開となった。

 アステリオと婚約した当時の陛下の年齢は34歳。前世の私にとっては恋愛対象ドンピシャである。しかも、シゴデキでイケメンで性格よし。非の打ち所がない。

 息子の婚約者、かつ国を任せる者として優しく大切に接してくれた陛下に恋心を抱くのは、前世26歳の私にとって至極当然のことだった。

 なので、死刑回避となったあの瞬間、今世の人生を諦めず、幸せになるべく陛下の籠絡を決めた。

 理学療法士としての知識が聖女の癒しの能力に勝利したのだから、知識を使えばいけるはず、と思いその通りとなった。うん。国家資格って素晴らしい。



 王妃となって一年半後、陛下との間に王子が誕生した。アステリオは相変わらず頭がお花畑なので、この子が国を継ぐだろう。

 陛下は早くに逝去した前国王に変わって若い時に玉座についた。私の時と同様、他国との平和協定強化のため他国の王女を召し上げてアステリオを授かったが、日々の執務が激務で王妃と閨を共にする機会が少なく、なかなか第2子が授からなかった。しかも、わずかアステリオが4歳の時に王妃が急逝してしまい、王妃の執務まで行わなくてはならなくなった。日々の激務の中に身を投じているうちにストレスで性的不能となってしまったようで、後妻を娶る意味がないと、独身を貫いていたようである。


 私の前世知識による極上マッサージを受けて身体の不調が緩和した上、私が持ち前の能力を発揮して執務を行ったことで陛下の執務が激減し、ストレスが緩和されらしく、不能が嘘のように寝所でも大変お元気だった。

 この国が次世代でも賢帝を迎えられるよう、しっかりと王子には教育を施そうと思うが、まだまだ私達の間には子供が増えそうである。


 理学療法士だった前世の私が死んだ理由は思い出せないが、そこそこ楽しい人生を送っていた。

 今世は、とても幸せな人生を送っている。



お読みいただきありがとうございます!


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何卒よろしくお願いいたします!(*´ω`*)

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