フェルベースにて
「そっちに逃げたぞ! アンガス!」
「了解、勇者様!」
俺の討ち漏らしたゴブリンを大柄な戦士――アンガスが対応する。
その体躯に似合わず潜伏が得意らしく、ゴブリンに気付かれることなく奇襲を仕掛ける。
「一カ所に集めた! シオナ!」
「は、はい! ふぁ、ファイアーボール!」
魔法使いのシオナは吃音の所為で魔法の発動までに数秒かかるが、その威力は本物だ。
彼女の杖から出現した炎球が一カ所に纏まったゴブリンたちを一掃した。
「すまん、ケガした。アンユ、頼む」
「はい」
聖女のアンユは口数こそ少ないが、それは最小のコミュニケーションでやりとりできるため、生死を分ける聖女には長所となる。
ゴブリンから受けた傷が瞬く間に回復していった。
「俺たちは最高のパーティーだ!」
これにてパーティーに平穏が訪れた。
屋台の建ち並ぶ賑やかな街、フェルベース。
ここは現在、魔王軍四天王であるサイジャークに占拠されている。
だが、まるでそんなことを感じさせないような活気だ。
「なあ、本当にサイジャークが占拠しているのか……?」
アンガスも俺と同じように違和感を覚えたらしい。
他のメンバーを見ても、やはり同じらしい。
俺たちが占拠の知らせを受けたのは、ゴブリン討伐任務から帰った時だ。
ギルドの受付嬢からフェルベースの解放任務を受け、この場に参上した。
だから来たというのに、これでは肩透かしを食らった気分だ。
「取り敢えず、宿でも取るか……?」
「そうだな、勇者様」
「あ、あそこの宿とかどうだ?」
「……いや、あそこは止めておこう」
アンガスは俺の提案した大通りの宿ではなく、路地裏のこじんまりとした宿にしようと言ってきた。
彼曰く、「この街を本当にサイジャークが占拠しているなら、大通りは危険だ」とのことだ。
もっともらしい話なので、俺は彼の言う通り路地裏の宿を借りた。
その宿は小さいながらにいい宿であり、部屋数が少なく二ペアづつで纏められた以外はまったく文句のつけようがなかった。
夕食はフェルベースの特産であるチーズをふんだんに使ったラザニアにサラダ、バゲットとディップ用のハーブ入りチーズ。
部屋も綺麗であり、よく掃除の行き届いた清潔感のある内装。
ここでなら旅の疲れを癒すのに十分だろう。
「助かったよ、アンガス。おかげでこんないい宿に泊まることができた」
「ああ……。所で、財布はきちんと仕舞ったんだろうな。ここは婆さん一人で経営してるらしいし、防犯には気を付けろよ」
「それなら問題はないよ。扉に魔法を掛けた。外側から人間が触れると俺に痛みで知らされる」
「……なるほど」
「さて、もう寝よう。明日も早い」
「そうだな」
蝋燭の火を消す。
そうして、俺たちは眠りについた。
夢現。
それは夢だろうか、それとも現実だろうか。
俺はぼんやりとした脳で野原を歩いていた。
なぜここにいるんだったか……。
そんな考えが浮かぶが、すぐに霞へと消える。
ただ足を動かし、そしてどこかに向かうだけの状態。
いや、目的地だけは見つけることができた。
球体、だ。
鎖に繋がれた。
なにか、悍ましいオーラを放つその球体は、鎖に繋がれながら宙に浮いている。
それには、錠がついていた。
鍵は、いつの間にか俺が握っていた。
「いや、解放したらまずいだろ」
俺の思考は一気にクリアになる。
恐らく、封印かなにかだろう。
夢からしか干渉ができないタイプの。
「もしやサイジャークの影響か……?」
「ククク……、勇者よ。よくぞ見抜いた」
俺の背後から声が聞こえてくる。
咄嗟に振り向くと、そこには女がいた。
魔族の女だ。
「私はサイジャーク。お前の先祖が封印した私の力を返して貰うぞ!」
「くっ……」
サイジャークが鍵を奪いに飛んできた。
俺は鍵で手のひらを刺す。
痛みがまったくない。
「この世界でなにをしようと、目覚めることはない!!」
「外部からの干渉が必須か……。だが! 俺には信頼できる仲間がいる!」
「なにっ!?」
体に痛みが走る。
恐らく外でなにかしているのだろう。
アンガスだな。
「ふん! だが、次に寝た時が最後だと思え……」
「いや、多分このフェルベースに近付いたからこの空間に呼べたんだろ? 一旦この街を出て作戦を練るよ」
「……」
「じゃあな」
そうして俺の視界は白色に包まれた。
体に痛みが走る。
周囲を見渡すと誰もいない。
隣で寝ていたはずのアンガスもいない。
「痛っ……。なんだ?」
ドアが強くノックされている。
この痛みは魔法の影響か。
「おい! 開けろ! ここにいるのは分かっているんだぞ!」
「あ、あまり強く叩かれると困ります……」
すごく嫌な予感がする。
ドアを開けると、そこには黒い服を着た男が数人と、宿屋のお婆ちゃんがいた。
「あん? アンガスじゃねぇのか?」
「アンガスになんの用だ」
「あんたカタギか? まいったな……」
「……お前らは?」
「俺たちは……、まあ闇の人間ってとこだ」
「……」
「アンガスはよぉ、俺らから金を借りてんだ」
「ってことはお前らは借金取りか」
「そうなるな」
まったく。
次に見かけたら追放しよう。
「あんた、大丈夫なのか?」
「なにがさ」
「闇金借りてる奴と同部屋だったんだろ?」
「……あ」
嫌な予感とは当たるものだ。
カバンに入れておいた財布がない。
根こそぎ消えている。
それこそ、路銀すらも。
「アンガスぅ……!!」
「……どんまい」
「くっそおおおお!!!」
俺たちは、フェルベースの街に閉じ込められた。




