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異世界噺

最強の俺が『伝説級の魔石が怖い』と嘘をついたら、勇者パーティが嫌がらせで部屋を宝の山にしてくれた件について~おかげでレベルカンストしましたが、今度は最高級エリクサーが怖いです~

作者: 双瞳猫

【新連載】古典落語×異世界ファンタジー!


「お前の一番怖いものは何だ?」


勇者パーティのお荷物扱いされている【暴食】スキルの持ち主、アレン。

ある日、彼は仲間たちから執拗に弱点を聞き出され、震える声でこう答えた。


「俺は……『賢者の魔石』が怖いんだ……」


それを聞いた勇者たちは、アレンを陥れるためにとんでもない計画を企てるが――?


誰もが知る名作落語『饅頭怖い』を、剣と魔法の世界で大胆アレンジ!

「なろう系」のお約束と、落語の「粋」な展開が融合した、一風変わった異世界コメディをお楽しみください。


※本作は古典落語をモチーフにしていますが、落語を知らなくても問題なく楽しめる内容になっています。

「うっぷ……もう食えねぇ……」


 Sランクダンジョン『深淵の古城』攻略後の祝勝会。

 王都一番の高級宿屋『黄金の獅子亭』の一室で、俺ことアレンは、ジョッキを片手にげんなりしていた。


 目の前では、この国の英雄である勇者パーティの面々が、勝利の美酒に酔いしれている。


「ガハハハ! 見たかよ今日の俺の剣技! あのドラゴン、尻尾巻いて逃げ出しやがったぜ!」

「ちょっとレオン、調子に乗らないでよ。私の極大魔法マキシマム・バーストが鱗を剥がしたから通っただけでしょ?」

「ケッ、どっちも燃費が悪すぎだ。ポーション代だけで金貨何枚飛んだと思ってやがる」


 豪快に笑う金髪碧眼の勇者レオン。

 呆れ顔でワインを揺らす、赤髪の天才魔法使いミリア。

 そして、電卓片手にしかめっ面をしている盗賊のジン。


 俺はこのパーティの「荷物持ち」だ。

 戦闘には参加せず、彼らが倒した魔物の素材を回収し、ポーションを運び、テントを設営する。それが表向きの役割。


 だが、実態は少し違う。

 俺は転生者だ。しかも、とんでもないチートスキルを持って生まれてしまった。


 【暴食グラトニー】。

 あらゆる物質、エネルギー、概念すらも捕食し、自らのステータスに変換するスキル。

 

 さっきレオンが「逃げ出した」と言ったドラゴンも、実は彼らが見ていない隙に俺が尻尾を少しかじり取って、戦意を喪失させたのだ。

 ドラゴンの肉は硬かったが、経験値は美味かった。


 ただ、このスキルには致命的な欠点がある。

 ――燃費が悪すぎるのだ。

 常に腹が減っている。普通の食事じゃ満たされない。高密度の魔力を含んだ物質でないと、この飢餓感は癒えない。

 しかし、そんな高価なものを一介の荷物持ちが買えるはずもなく、俺はいつもひもじい思いをしながら、彼らの食べ残し(ドロップアイテムのカスなど)をこっそりつまみ食いして生きていた。


「……おい、アレン。何しけた面してんだ?」


 レオンがジョッキをドンと置いて、俺を覗き込んできた。

 おっと、いけない。凡人ロールを忘れるところだった。


「い、いえ! 皆さんの活躍が凄すぎて、感動していただけですよ!」

「ハッ! まあな! 俺たちにかかりゃ、どんな化け物もイチコロよ!」


 レオンは上機嫌で胸を張る。

 単純で助かる。


「でもよぉ、そんな無敵の俺たちにも、一つくらい苦手なもんがあると思わねぇか?」


 酒が回ったのか、レオンが急に声を潜めた。


「苦手なもの、ですか?」

「おう。俺はな……実は『幽霊』がダメなんだ」

「えっ、勇者様が?」

「だってよ、斬れねぇだろ!? 物理無効とか反則だぜ。夜中にトイレ行く時とか、マジで背後が気になって仕方ねぇんだよ」


 意外なカミングアウトに、ミリアがくすりと笑う。


「あら、可愛いところあるじゃない。でも、私だって苦手なものはあるわよ」

「へぇ、ミリアがか? どうせ『可愛くない自分』とかだろ?」

「殺すわよ? ……私が嫌いなのは、『虫』よ。特に足がいっぱいあるやつ!」


 ミリアは身震いして、自分の二の腕をさすった。


「この前、ダンジョンで巨大ムカデが出た時、私、無詠唱で爆裂魔法撃っちゃったじゃない? あれ、パニックだったのよ。生理的に無理。視界に入った瞬間、この世から消滅させたくなるの」


 なるほど、あの時のオーバーキルはそういう理由だったのか。洞窟が崩落しかけたのはいい迷惑だったが。


「くだらねぇ」


 ジンが鼻で笑った。


「幽霊だの虫だの、ガキかお前らは。俺が怖いのはな、『貧乏』だ」

「……ジンらしいな」

「笑い事じゃねぇぞ。財布が軽くなると、心臓が早鐘を打つんだ。借金取りの足音が幻聴で聞こえてくる……金が減るのが何よりの恐怖だ」


 三者三様の弱点。

 場が盛り上がる中、ふと三人の視線が俺に集中した。


「で、アレン。お前はどうなんだ?」

「え?」

「お前にもあるだろ? 怖いもの」


 レオンがニヤニヤしながら聞いてくる。

 これは……試されているな。

 ここで「特にありません」なんて言えば、場の空気が白ける。かといって、ガチの弱点(空腹)を晒すわけにもいかない。


 俺は少し考えるふりをして、脳内で高速検索をかけた。

 

 ――今、俺が一番欲しいものは何か?

 ――腹が減っている。高カロリーで、高魔力で、最高に美味いものが食いたい。

 ――例えば、ダンジョンの深層で稀にドロップする『賢者の魔石』。

 

 あれはヤバイ。市場価格で一粒、金貨100枚は下らない超レアアイテムだ。

 常人が触れれば魔力中毒で即死する危険物だが、俺にとっては最高級のフィレステーキみたいなものだ。

 今回の遠征でもいくつか手に入れたはずだが、全てジンのアイテム袋に厳重に保管されている。


 ……あれ、食いたいなぁ。

 一つでいいから、かじりつきたいなぁ。


 俺の脳裏に、古典落語のワンシーンがよぎる。

 前世の記憶。江戸っ子の知恵。


 ――いけるか?

 いや、やるしかない。この千載一遇のチャンス、逃す手はない。


 俺はわざとらしく顔色を悪くし、ガタガタと震える演技を始めた。


「じ、実は……」

「おっ、なんだなんだ?」

「……『賢者の魔石』が、ダメなんです」


 一瞬、場が静まり返った。


「はぁ? 魔石? あのアイテムのか?」

「はい……。あの白くて丸い輝きを見ると、魔力酔いで頭が割れそうになるんです……。想像しただけで、吐き気が……うぅ」


 俺は口元を押さえ、迫真の演技でえずいてみせた。


「嘘だろ? あんな高価なもんが怖いのかよ」

「体質なんです……。魔力の波長が合わないというか……近くにあるだけで、肌がピリピリして、息ができなくなる……」


 俺はさらに大げさに身を縮こまらせる。


「だ、ダメだ。思い出しただけで気分が……すいません、先に部屋に戻らせてもらいます……」


 俺はフラフラとした足取りで立ち上がり、逃げるようにその場を後にした。

 背後で、三人が顔を見合わせている気配を感じながら。


 部屋に戻った俺は、ベッドに潜り込み、布団の中でニヤリと笑った。


(さあ、どう出る? 勇者様たちよ)


 ◇


 一方、残された勇者パーティの三人。


「……聞いたか? あいつ、魔石が怖いんだとよ」

 レオンが悪戯っ子の顔で笑う。


「生意気ね。ただの荷物持ちのくせに、魔力酔いなんて繊細なこと言っちゃって」

 ミリアも意地悪く口角を上げた。


「へっ、日頃俺たちの後ろで楽してる罰だ。ここらで一発、教育してやる必要があるんじゃねぇか?」

 ジンが目を細める。


「だよなぁ! ちょうど今回の報酬で、魔石の在庫が山ほどある」

「それに、王都の魔道具店にある在庫も、私がコネを使って全部買い占めてきたわ」

 ミリアが得意げに胸を張る。


「おいおい、マジかよ。あの『賢者の魔石』だぞ? 国宝級の値段だろ」

「構わないわよ。どうせ使い道がなくて持て余してたし、あいつが泣いて謝る顔が見られるなら安いものよ。……それに、後で経費で落とせばいいし」

「へっ、さすが公爵令嬢は太っ腹だねぇ。ま、俺も隠し持ってた最高純度のやつ、供出してやるよ。どうせなら徹底的にやらねぇとな」


 三人の意見は一致した。

 これはただの悪ふざけ。

 しかし、彼らの財力と悪ノリが合わさった結果、それは国家予算規模の「嫌がらせ」へと変貌していた。


 彼らは知らない。

 それが、飢えた猛獣の檻に、自ら最高級の餌を放り込む行為だということを。



 深夜。

 俺は部屋のベッドで、狸寝入りを決め込んでいた。

 廊下から、忍び足の気配がする。一人じゃない。三人分だ。


「……おい、寝てるか?」

「大丈夫よ、私の『睡眠のスリープ・ミスト』を流し込んだから、朝までぐっすりのはずよ」

「よし、今のうちに運び込むぞ」


 カチャリ、と鍵が開く音がして、ドアが少しだけ開いた。

 そこから、何かがゴロゴロと転がり込んでくる。


 カラン、コロン。

 硬質な音と共に、部屋の中に甘い魔力の香りが充満し始めた。


 一つ、また一つ。

 最初は遠慮がちだったが、次第にそのペースは早くなり、最後には袋ごとひっくり返すような音が響いた。


「うへへ、これだけありゃ、あいつ起きた瞬間に発狂するんじゃねぇか?」

「ちょっとやりすぎたかしら? この部屋、魔力濃度が高すぎて私でもクラクラするわ」

「構わねぇよ。日頃の鬱憤晴らしだ。……よし、これで全部だな」


 バタン、とドアが閉まり、外から鍵がかけられる音がした。

 さらに念入りなことに、結界魔法まで張られたようだ。逃げ場を塞ぐつもりらしい。


 足音が遠ざかっていくのを確認してから、俺はゆっくりと目を開けた。


「……ふっ」


 薄暗い部屋の中、俺の視界に飛び込んできたのは、床が見えなくなるほど敷き詰められた、白く輝く宝石の山だった。

 『賢者の魔石』。

 市場価値にして、国家予算並みの総額がここにある。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は叫んだ。

 もちろん、恐怖の悲鳴ではない。歓喜の雄叫びだ。

 だが、外にいる連中には区別がつかないだろう。


「な、なんだこれはぁぁぁ! やめてくれぇぇぇ!」


 俺は叫びながら、手近な魔石を掴み取った。

 ずっしりと重い。最高純度だ。

 口を大きく開け、その硬い結晶を放り込む。


 ガリッ! ボリボリボリ!


 【暴食】スキルが発動し、本来なら砕けるはずのない魔石が、飴玉のように噛み砕かれる。

 瞬間、口の中に広がる濃厚な魔力の奔流。


「んんっ……! うめぇぇぇぇぇ!」


 脳内でドーパミンが炸裂する。

 空腹で悲鳴を上げていた胃袋に、高純度のエネルギーが染み渡っていく。


 【システム通知:『賢者の魔石(Sランク)』を捕食しました】

 【経験値を獲得:1,500,000 EXP】

 【レベルが上昇しました:Lv.45 → Lv.48】

 【魔力ステータスが大幅に向上しました】


 ウィンドウが視界の端でポップアップするが、構っていられない。

 俺は両手で魔石を掬い上げ、次々と口に運んだ。


「ひぃぃ! 怖い! 怖すぎるぅぅ!」(モグモグモグ)

「誰か! 誰か助けてくれぇぇ!」(ガリガリッ、ゴックン)

「死ぬ! 魔力酔いで死んじまうぅぅ!」(おかわり!)


 叫び声と咀嚼音が入り混じるカオスな状況。

 だが、廊下の向こうで聞き耳を立てている勇者たちには、咀嚼音までは聞こえていないはずだ。


 【レベルが上昇しました:Lv.99】

 【レベル上限に到達しました】

 【スキル『魔力超回復』を獲得しました】

 【スキル『全属性耐性』を獲得しました】


 止まらない。

 食えば食うほど強くなる。

 食えば食うほど腹が満たされる。

 こんな至福の時間が、かつてあっただろうか。


「あぁ……怖い……なんて恐ろしいんだ……」


 俺は恍惚の表情で、最後の一個を口に放り込んだ。

 ゲップが出そうになるのを必死で堪える。

 

 部屋の中は、すっかり綺麗になっていた。

 あれだけの量の魔石が、俺の胃袋の中に消えたのだ。


「……ふぅ」


 満腹だ。

 さすがに食いすぎた。

 口の中が甘ったるいし、急激な魔力摂取で喉がカラカラに乾いている。


 俺は膨れた腹をさすりながら、満足感と共に眠りに落ちた。


 ◇


 翌朝。

 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな朝。


 ガチャリとドアの鍵が開けられた。

 勇者レオン、魔法使いミリア、盗賊ジンが、ニヤニヤしながら部屋に入ってくる。


「おーい、アレン。生きてるかぁ?」

「昨日は随分と賑やかだったじゃない。ちゃんと眠れ……た……?」


 三人の動きが止まった。

 彼らの視線は、部屋の床に釘付けになっている。


 そこにあるはずのものが、ない。

 足の踏み場もないほどばら撒いたはずの『賢者の魔石』が、一粒残らず消え失せているのだ。


 そして、ベッドの上には、肌がツヤツヤになり、どこか神々しいオーラすらまとった俺が、あぐらをかいて座っていた。


「……よぉ、みんな。おはよう」


 俺は爽やかに手を振った。


「あ、アレン……? お前、無事なのか?」

「ま、魔石は!? 私のコレクションも含めて、全部ここにぶちまけたはずよ!?」

「おい! まさか窓から捨てたんじゃねぇだろうな! あれ幾らすると思ってんだ!」


 ジンが血相を変えて窓に駆け寄るが、窓には結界が張られたままだ。捨てられるはずがない。


「いやぁ……」


 俺は頭をかきながら、申し訳なさそうな顔を作った。


「昨日の夜、目が覚めたら部屋中が魔石だらけでしょ? もう怖くて怖くて、パニックになっちゃって……」

「だ、だから、どうしたんだよ!」


 俺はニヤリと笑うのを堪え、真顔で告げた。


「あまりに怖かったんで、無我夢中で……全部、『消滅』させてやりました」


「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」


 三人の絶叫が重なる。

 

「消滅!? お前、魔法も使えないくせにどうやって!?」

「さあ? 必死だったんで覚えてません。気づいたら無くなってて……いやぁ、スッキリしましたよ」


 俺はポンと腹を叩いた。

 その音に、ジンが顔面蒼白で崩れ落ちる。


「嘘だろ……俺の財産が……老後の資金が……」

「私の研究用サンプルが……!」

「俺の……俺の……なんだっけ、とにかくすげぇ損害だぞ!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 ざまぁみろ、とはこのことだ。

 人の弱みに付け込んで嫌がらせをしようなんて考えるから、こういう目に遭うんだ。


 ジンが震える手で俺の胸ぐらを掴んだ。

 目は血走り、殺気すら帯びている。


「貴様……! 俺たちの魔石を食いやがったな!? いや、消したのか!? どっちでもいい! ふざけるな!」


 彼は俺を揺さぶりながら、悲痛な叫びを上げた。


「正直に言え! お前が『本当に』怖いものは何なんだ! 魔石じゃないんだろう!?」


 その問いに、俺はニヤリと笑った。

 口の中に残る魔石の粉を舌で舐めとりながら、俺は答えた。


「あー、魔石を消したら、なんだか喉がカラカラだ」


 俺は、呆然とする三人に振り返り、ニカっと笑ってこう言った。

「今なら……そうだな。『世界樹の雫』か『エリクサー』が、怖くてたまらない」

(了)


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


古典落語『饅頭怖い』の異世界アレンジ、いかがでしたでしょうか?

本来は饅頭を怖がる男の話ですが、「異世界なら何を怖がるだろう?」と考えた結果、やはり冒険者にとっての宝である「魔石」だろうと思い至りました。

主人公のアレンが、怖がりながら(?)魔石を平らげていくシーンは、書いてて楽しかったです。


もし「面白かった!」「ニヤリとした!」と思っていただけましたら、

【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、大変励みになります!

(「★」を入れていただけると、作者が『賢者の魔石』をもらったアレンのように喜びます!)


また、感想や「次はこんな落語を異世界で見てみたい!」というリクエストもお待ちしております。

『芝浜』『死神』『時そば』など、まだまだネタは尽きませんので、今後の展開にもご期待ください。


それでは、次回の高座(更新)でお会いしましょう!

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