三度婚約破棄された令嬢のお話
私は昔から素晴らしい男性と巡り会えませんでした。いえ…もっと正確に言うのなら、頭のおかしな男性としか巡り会えないのです。
「スカラー公爵令嬢シャルティ・スカラー、君との婚約をここに破棄する。そして私は真に愛しているルル・ライノとの婚約をここに発表する!!」
あぁ、またですわ。わたくしの目の前で、ピンク色の髪をした女性を抱き寄せる、わたくしの婚約者。ルルと呼ばれていたピンク色の女性がわたくしの方を見て、ニンマリと微笑んでいるのがわかります。
「シャルティ・スカラーは我が婚約者である、ルルをいじめていた。それゆえに、私はシャルティ・スカラーとの婚約破棄を決断したのだ!!ここまでに異論はあるかっ!?」
普通の貴族令嬢であったら、ここで慌てたりするのでしょう。ですが…もう慣れてしまいましたわ。もとから期待してはおりませんでした。だってわたくしはすでに2回、婚約破棄をされているのですから。
「アルフィス殿下…本気で申しておりますの?ほんとにわたくしがそこのライノ嬢をいじめていたとお思いで?」
わたくしの婚約者…いえ、元婚約者と言ったほうが正しいでしょうか?彼は確信に満ちた表情で頷きました。
「ルルがそう言っていた。それ以上の証拠が存在するはずないだろう!!」
「わたしぃ、スカラー様にいじめられてたのぉ。嫌だった言ってるのにぃ、いじわるなことばっかりされてたのぉ。」
バカみたいな…んんっ、男性に媚びを売るような声音で告げるライノ嬢。元婚約者様はそんなライノ嬢の言葉をみじんも疑っていない様子でした。
「これはもうダメですわ。」
かつて存在していた二人の婚約者も、こんな感じの女性にうつつを抜かしていました。そしてこうなってしまったら、わたくしの言葉に耳を傾けません。
「これは、ある種の呪いなのかもしれませんね。」
誰にも聞こえない程度の声で、ボソリとわたくしはつぶやきました。さて…ここからどうしましょうか。あの御方たちが来るまで、どうやって時間を稼ぐかが問題ですね。
「シャルティ・スカラーッ!!罪を認める気にはなったか!?」
こんな感じで冤罪をかけられるのも三度目ですか。前回の婚約破棄は…一年ほど前でしたわね。一番最初は祖国の第一王子で、その次はその弟である第二王子。そして、つい先程までの婚約者は友好国である帝国の第三皇子。
国家の最上位に近い御方たちがここまで愚か者だと、さすがに国の将来が心配になりますわね。一番最初の婚約者もわたくしに正式な形で婚約破棄をしたならば、王太子になれていたかもしれないのですから。
それなのにこんな公の場で、冤罪を振りかけたとなったら、言い逃れはできませんわ。もう少しだけ、時と場合を考えれたのならよかったのですけど。
話が逸れましたね。今までも冤罪を被せられてきて、今回も冤罪を被せられました。さすがに三度目になれば、こういう時の対処の仕方にもすでに慣れていますわ。
「いいえ、わたくしはライノ嬢にそんなことをしておりません。主神アステマ様に誓って本当です。」
主神アステマ…世界的な宗教の主神です。わたくしの人生にろくなことをしない神様たちですが、こういう時には使えますわ。
わたくしがそこまでするとは思っていなかったのか、元婚約者様とライノ嬢は驚愕の表情を浮かべておりますわ。まぁわたくしの出番はここまでですわね。あとは御二方が終わらせてくれるでしょうし。
「なぜアルフィスが婚約者でもない令嬢とくっついている?そもそもこれは何の騒ぎだ?」
「アルフィス…スカラー嬢をエスコートしなかったそうですね。スカラー公爵家から苦情が来ておりましたよ。」
現れたのはこの国の支配者。つまるところ皇帝陛下とその妃ですわ。婚約破棄が起きそうな予兆があったので、お父様に頼んで密告しておいたのです。
わたくしの出番はこれで終わりですわね。人だかりの外にいる、わたくしの護衛に視線を飛ばして、わたくしはパーティー会場から出ていきました。
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「アルフィス殿下は皇族から除籍、ライノ嬢は投獄で処置は検討中らしいですよ…お嬢様。」
わたくしの護衛…ルカ・アズールが紅茶を淹れながら、わたくしにそんなことを言ってきます。ルカの淹れてくれた紅茶を一口飲むと、わたくしは大きくため息をつきました。
「まぁ妥当なところですわね。しかし…三度目の正直という言葉を信用できなくなりました。わたくしは結婚できないのかもしれません。」
「そんなに結婚したいのでしたら、私なんていかがでしょうか?八年前から、ずっとお嬢様のために剣を振り続けてますよ。」
ルカなりの励ましなのでしょう。わたくしは彼のほうを向いて…フッ、と笑ってあげました。
「バカなことを言っていないで、仕事をしてください。そもそも貴方には好きな人がいるのでしょう?」
「そうですね。ずっと昔から、一途に思い続けてます。まぁ相手は一向に気づいてくれませんが。」
遠い目をして、そんなことを言うルカ。ルカにもなかなか深い事情があるのかもしれませんね。今後はちょっと優しくしてあげましょう。
「わたくしがルカの恋路を手伝ってあげましょうか?ルカにはお世話になっているので、できる限りのことをやりますけど。」
「ハハッ、無理ですよ。お嬢様だけには絶対に無理です。まぁ強いて言うなら、もう少しだけ周囲を見たほうがいいと思いますよ?」
なかなか失礼なことを言ってくれますね。優しくしてあげると言いましたが、やっぱり今の話はなしにしておきましょう。
「あぁ…そういえば、御当主様が呼んでおられましたよ?」
思い出したようにそんなことを言うルカ。そのことはもっと早くに言ってほしかったですね。そんなことを考えながら、わたくしはお父様の待つ執務室まで向かいました。
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「――というわけでシャルティには申し訳ないのだが、この中から新たな婚約者を決めてほしい。婚約破棄されたばかりで辛いかもしれないが…ほんとにすまんな。」
そう言ってお父様はわたくしに頭を下げました。まぁ慣れていることなので、そこまで気にしてはいないのですが。
「そうですわね…この中だと。」
婚約者候補の顔が載っている写真を見て、わたくしの思考は止まりました。それだけではなく、こころなしか手も震えている気がします。
「ふふっ、そういうことでしたか。」
全てのピースが埋まったような感じがしました。なんだか身体がものすごい万能感に包まれている気もします。
「お父様…わたくし、青が好きなんです。だからわたくしは彼にしようと思います。」
婚約者候補の写真の中から、わたくしが選んだ次期婚約者の写真を取り出す。それを見て、お父様は若干驚いたような顔を浮かべましたが、すぐに笑顔に変えました。
「これからよろしくお願いしますね。」
窓から見える空は、文句なしの青だった。




