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放課後の答え合わせ

作者: けにぱんち
掲載日:2025/12/05

 十一月の放課後、俺は誰もいない教室にいた。

 白紙の進路希望調査票を見つめ続けて、もう三十分。窓の外では部活動の声が響いている。

 他の連中は部活や委員会に全力で取り組んでいるのに、俺はといえば、一文字も書けないまま用紙とにらめっこしていた。


「なにしてん?」


 振り返ると、幼馴染の陽子が立っていた。

 明るい茶髪に、スカートは膝上。いつも友達と笑っている。

 名前の通り、太陽のような女の子。


「……別になにも」

「またぁ。その顔、超悩んでんじゃん」


 陽子はすっと俺の隣に座り、何も書かれていない進路希望調査票を覗き込んだ。


「んんー? 進路?」

「……まだ決まってないんだ」

「ああー、ね。でもさ、ウチ気づいちゃったんだよね」

「何を」

「ケンジさ、最近毎日この時間、ここにいるじゃん」


 ドキッとした。見られていたのか。


「ずっと同じ紙、ジーッと見てて。で、結局何も書かないで帰んの」


 陽子は俺の目を見た。


「辛そうだなって思って」


 そんな彼女の言葉を聞いて、俺はぼそりとつぶやいた。


「……何がしたいのか、わからないんだ」


 悩んでいた進路について、初めて誰かに本音を吐いた気がする。

 親にも話したことのない心の内。


「親は大学行けって言うし、先生は早く決めろって言うし。でも、やりたいことなんて何もなくて。このまま適当に決めて、適当に生きていくのかなって思ったら……」


 声が震えた。


「怖いんだよな。答えがない問題を、無理やりやらされてる気がして」


 陽子はしばらく黙っていた。窓から風が吹いて、彼女の髪が揺れた。


「あのさ」


 彼女が口を開いた。


「ウチ、将来美容師になりたいの」

「……え?」

「親には反対されてんの。『ちゃんとした大学行きなさい』って。でもさ、ウチ気づいたんだよね」


 陽子は椅子から立ち上がって空を見上げた。


「みんな『正解』探してるけどさ、正解なんて最初からないじゃん。あるのは『自分の答え』だけ」

「自分の、答え……」

「うん。ウチの答えは美容師。ケンジの答えは、そうなぁ、まだわかんなくていいんじゃね?」

「でも、期限が……」

「じゃあさ」


 彼女は正面にきて、俺の目を見て笑いながら言った。


「今書ける答えを書きなよ。間違っててもいいじゃん。人生って、何回でも答え合わせできんだから」


 その言葉に、胸の奥で固まっていた何かが溶けた。


「そりゃウチだってさ、不安になることだってあるよ。でも、怖がったまま止まってるより、とりあえず歩いてみようって決めたんだ」


 陽子の笑顔は、夕日に照らされてキラキラしていた。

 そして彼女は俺に手を差し伸べた。


「一緒に歩いてこうよ。間違えても、また考えりゃいいじゃん」


 昔からの付き合いなんだしさ、――と、太陽のような笑顔で付け加えた。


 俺は一度深呼吸をして、進路希望調査票に向き直った。

 そして、ためらいながら"大学進学希望"と書き、彼女の手を取って立ち上がった。


 これが正解なのかはわからない。でも、これが今の俺の答えだ。


「陽子」

「ん?」

「……ありがとう」

「いえいえ。困った時はお互い様っしょ」


 彼女はウインクして、その紙出したら一緒に帰ろ、と俺の手を引いた。

 俺も、彼女の隣を歩いて教室を出た。

 答えのない問題に、自分なりの答えを持って。


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