第4話:王都の陰謀と錬金術の証拠
宮廷の大広間には、朝日が差し込み、豪華なシャンデリアの光が反射していた。しかし、その光の中には微かに不穏な影も混ざる。
「……今日も宮廷は平和……とは言えませんわね」
カロリナ・ユグレナは小さなビーカーを手に取り、昨夜の晩餐で残された香料と埃を観察していた。
「微量の薬草、焦げた香り、そして微かに残る油脂……なるほど、これは単なるいたずらではありませんわ」
レオンが静かに入室する。
「おはよう、カロリナ嬢。昨夜、また小さな事件があったようだ」
「ええ、今回は香水瓶では済みませんわ。王宮の書簡室で、重要書類が何者かによって改ざんされた形跡があります」
二人は書簡室へ向かう。廊下には、宮廷の使用人や貴族たちが慌ただしく行き交う。事件の影響で、緊張感が漂っていた。
書簡室に入ると、机の上に並べられた書類の一部に、わずかな薬草の痕跡が残っていた。カロリナは手袋をはめ、微量の粉末をビーカーに入れる。
「ふむ……この微量の薬草は、催眠作用がありますわ。書類を扱った人物の注意力を微妙に鈍らせるために使われた痕跡です」
「なるほど……魔法騎士団でも気づかない巧妙な手口だ」
「ええ、だから私の錬金術が必要ですわ」
カロリナは魔力を注ぎ、粉末から匂いを抽出する。すると、微かに甘い香りの中に、独特の油脂の匂いが混ざっていた。
「これは……カイエル卿の手の匂いではありませんわね。意図的に他人の匂いを混ぜた形跡があります」
「つまり、誰かがカイエル卿を犯人に見せかけようとしている、と」
「ええ、その通りですわ」
レオンはうなずき、机に置かれた証拠を見つめる。
「君の錬金術でここまで解析できるとは……まさに不可視の証拠を可視化する能力だな」
カロリナは少し得意げに微笑む。
「令嬢ですから、外見は華やかに。でも、内面は錬金と推理でできていますもの」
その後、二人は証拠をもとに犯行の再現を試みる。ビーカーの中で匂いと成分を分離すると、複雑に混ざり合った痕跡が段階的に明らかになる。
「なるほど、犯人は書類を取り扱うときに、催眠薬を微量散布し、その後、香りを混ぜて他人の手の匂いを残した……完璧ですわ」
「だが、犯人の目的は?」
「それは……王都の陰謀に関わる何者かが、権力者の動向を操作するためですわ。書簡室の書類は、王宮内の人事や財政に影響を与える可能性があります」
レオンはしばらく考え込む。
「君の推理だと、王都の内部にかなり大きな影があると」
「ええ……そしてその影は、表に出ると非常に危険ですわ」
午後、カロリナは自室で再度錬金作業を行い、微量の粉末と液体を分析する。
「これで、次に何か起きても、私の手で真実を再現できますわ」
レオンが静かに声をかける。
「君といると、事件も怖くない気がする」
カロリナは少し顔を赤らめ、ビーカーの液体をかき混ぜながら答える。
「ええ、レオン様がいれば、私も心強いですわ」
夕暮れ、宮廷の塔から見下ろす王都は、昼間とは違う静けさを漂わせていた。
「今日も、破滅フラグを回避しつつ、宮廷の陰謀に一歩近づきましたわ……」
窓辺で月を見上げるカロリナの目に、決意が宿る。
「宮廷の闇も、破滅ルートも、すべてこの手で紐解いてみせる──錬金術と推理で」
そして彼女は、微かに残る薬草の香りと、光に反射する硝子ビーカーを見つめながら、小さく呟いた。
「事件も恋も、証拠も……私の手で解決してみせますわ」




