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第3話:本格毒事件と錬金の手掛かり

宮廷の朝は、香りと光のせめぎ合いから始まる――だが今日の香りは、甘美ではなく、わずかに刺すような薬草の匂いが混ざっていた。


「……これは、ただの朝の香りではありませんわね」

カロリナは眉をひそめ、机の上に並べた錬金器具に目を落とした。

前日、宮廷で発生した小さな事件の余波を整理していたところ、新たな“毒事件の予兆”があることに気づいたのだ。


レオンが扉をノックし、静かに入室する。

「おはよう、カロリナ嬢。今日の朝食で、ちょっとした騒ぎがあったようだ」

「ふむ、やはり……毒の痕跡ですわね」

「……君、本当に朝から事件を嗅ぎ分けるんだな」

「嗅ぎ分けるのではなく、再現するのです。錬金術で痕跡を再構成すれば、誰が何をしたかも見えてきますもの」


カロリナは微量の果汁と薬草片をビーカーに入れ、魔力をそっと注ぐ。液体は淡い金色に光り、わずかに薬草の香りが立ち上がる。

「ふむ……これは微量の毒草ですわ。摂取量は致死ではありませんが、宮廷内で意図的に混入された形跡があります」


レオンは真剣な顔で見つめる。

「つまり、誰かが宮廷内で小規模な毒事件を起こした可能性がある、と」

「ええ、そして痕跡を見れば犯人の手口までわかりますわ」


二人は宮廷内の食堂へ向かった。

事件が起きたのは昨夜の晩餐で、貴族の令嬢が飲んだハーブティーに微量の毒が混入していたという。被害は一人だけで軽症だったが、もし見逃せば大問題になる。


現場に着くと、香りはすでに消えかかっていた。

「魔法で匂いを消されている可能性もありますわね」

カロリナは床の微量の茶葉と、テーブルの埃を採取してビーカーに入れる。魔力を注ぐと、消えかけた匂いが蘇る。


「……なるほど、犯人は焦って手を加えた痕跡が残っていますわ。茶葉の混ざり方、埃の付着パターン……計算ミスですわね」


レオンは感心したように頷く。

「君の分析だと、犯人は宮廷内の誰だと」

「まだ断定はできませんが、匂いと残留物から、ルナ嬢の手ではないことは確かです。むしろ、ティーカップを扱った執事の一人か……」


カロリナは錬金で微量の毒草を分離し、香りと色の違いを比べる。すると、微かに別の匂いが混ざっていることに気づく。

「これは……カイエル卿の匂いですわね。意図的に混ぜられた形跡があります」


レオンは眉をひそめる。

「なるほど……犯人は、ルナ嬢を疑わせておきつつ、実際にはカイエル卿が行動した、と」

「ええ、巧妙なトリックですわ。しかも微量なので、普通の魔法騎士団では気づかないでしょうね」


カロリナはビーカーに注いだ魔力の光を揺らし、微細な残留物を再構成する。

「これで証拠の再現は完了ですわ」


二人は再現された証拠を確認し、次の行動を決めた。

「犯人を突き止めるには、次の晩餐で再現した痕跡を観察するしかありませんわ」

「了解。君の錬金術があれば、次も手掛かりは必ず得られるな」


午後、カロリナは自室で微量の毒草を再分析し、香りや色、残留成分をノートに記録する。

「これで次に誰かが動いても、すぐに対応できますわ」

小さなビーカーに残った光と匂いを見つめながら、カロリナは心の中で微笑む。

「破滅ルートも回避、事件も解決……錬金術、やはり最高ですわ」


レオンが静かに言う。

「君と一緒にいると、宮廷での事件も怖くない気がする」

カロリナは小さく頷く。

「ええ、レオン様がいれば、私も心強いですわ」


夕暮れ、宮廷の塔から見下ろす王都は、昼間とは違う静けさを漂わせていた。

「明日もまた、小さな事件と錬金作業……楽しみですわ」


その夜、カロリナは窓辺で月を見上げる。

光の中で微かに揺れる硝子ビーカーの光が、彼女に囁いた──

「宮廷の闇も、破滅ルートも、すべてこの手で紐解いてみせる」と。

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