第2話:消えた香水瓶と錬金の証拠
宮廷内の小さな噂は、カロリナにとっては大きな事件の芽だった。
「消えた香水瓶の件、聞きましたわ」
カロリナは、朝の光が差し込む自室で、机の上に並べた小さな錬金器具を眺めながらつぶやいた。
「誰かが魔法で隠した可能性もありますが、魔法痕跡は微妙に残ります。匂い、触れた人の皮脂、微量の埃……錬金で再現すれば手掛かりは必ず見つかりますわ」
机の前に座ると、ビーカーに微量の水と砂、そして事件現場で回収した床の埃を投入する。魔力を軽く流すと、粉末はほのかに光り、匂いが立ち上がる。
「ふむ……これはルナ嬢の手の匂いが混ざっていますね。だが混ざり方が不自然……誰かが意図的に手を加えた痕跡ですわ」
その時、扉がノックされ、レオンが静かに入室した。
「おはよう、カロリナ嬢。そろそろ現場に行かないか?」
「はい、レオン様。ちょうど錬金で手掛かりを再現したところです」
二人は廊下を歩きながら、宮廷内で最近起きた小事件の話をした。香水瓶が消えたのは、特定の令嬢が使用する香料を混ぜたかった誰かのイタズラだと推測できる。だが、これだけでは誰が犯人かはわからない。
現場に着くと、部屋は先日のまま整然としている。カロリナは床に落ちていた微細な埃を指で摘み、ビーカーに投入する。微量の香料成分が浮かび上がり、匂いがほんのりと広がる。
「ふむ……これはカイエル卿の香りですわね。でも、香りの混ざり方が人工的です。誰かが巧妙に隠そうとした形跡があります」
レオンは眉をひそめる。
「なるほど……君の錬金術なら、匂いだけでこんなことまでわかるのか」
「ええ、ただし手作業ですわ。魔法騎士団の方法では、ここまで微細な痕跡はわかりませんもの」
カロリナはビーカーの液体をかき混ぜ、匂いを分離する魔法を少し加える。すると、三つの異なる香りが浮かび上がった。
ルナ嬢の香り
カイエル卿の香り
微かな焦げた匂い――これは香水瓶を意図的に燃やした跡だ
「なるほど……香水瓶は盗まれたあと、焦げた匂いで偽装されていたのですわね」
レオンは唸った。
「君、本当に細かいな……」
カロリナは少し得意げに笑う。
「錬金術の基本ですもの。こうして痕跡を再現して、事件の全体像を見せるのです」
その後、二人は宮廷内を回り、香水瓶の残骸や微量の粉末を確認。すべてをビーカーに入れ、匂いと色で整理していく。
「なるほど……犯人は、ルナ嬢を疑わせておいて、実際にはカイエル卿が動いた……」
「ええ、焦げた香りを混ぜることで魔法痕跡を隠す作戦ですわね」
事件の全貌が見えたとき、カロリナは小さく頷いた。
「これで、香水瓶事件は解決ですわ」
レオンは笑みを浮かべる。
「君は、本当に悪役令嬢なのか?」
「もちろんですわ。でも、悪役令嬢でも、宮廷の平和は守りますもの」
その日の午後、カロリナは自室で錬金作業を再開する。小さなビーカーに残った微量の香料成分を分離し、さらに精密に分析する。
「こうして証拠を整理しておけば、次に何か起きてもすぐに対応できますわ」
レオンもまた、自室で報告書をまとめながら、カロリナの能力に感心していた。二人の間に、少しずつだが信頼が芽生え始めている。
夕暮れ時、カロリナは窓から王都の街並みを見下ろす。遠くに見える宮廷の塔は、光に照らされて金色に輝いていた。
「今日も、破滅フラグを回避しながら、宮廷の小さな事件を一つ解決……。明日もまた、錬金と証拠の世界で遊びましょうか」
ビーカーに残った光と匂いを確認しながら、カロリナは微笑む。
彼女の冒険は、まだ始まったばかりだ。




